まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

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第165話 危急存亡

「さて……どうしたものか」

加賀の艦橋から外を見つめながら、冷泉が呟く。

 

すでに数時間が経過している。

眼前に浮かぶメガフロート基地。舞鶴鎮守府管内にもいくつか存在し、資源採掘を行っている。遠征で護衛任務もあるため、存在自体は知っていた。もちろん、役目を終えた基地は再利用できるものは再利用し、そうでないものについては、解体され再利用されることがほとんどだと聞いていた。中にはあまりに陸地から離れているために輸送リスク(コストだけではなく、深海棲艦との交戦の危険性も考慮する必要があるため)との兼ね合いから打ち棄てられることも知っている。

どこにどんな基地もしくは跡地があるかは、当然ながらすべてデータ化されていたはずなのであるが、今、冷泉の前に存在する基地についてのデータは存在しなかった。

 

何者かの手によって存在が隠匿されていた……というわけか。すでにその頃から、計画は進んでいたということなのだろう。

果たして、緒沢提督という男は、一体、何を思い、そして何を為そうとしていたのだろう? 

そんな疑問が生じてしまう。

 

違和感を感じた冷泉は、艦に搭載されたあらゆる機器を使用し、メガフロート基地の外的探査を行わせている。そして、機密回線を通じて、このメガフロート基地についての情報を収集させている。

当然ながら、どこに潜んでいるか分からない敵艦隊の存在を意識し、全方位警戒態勢も取らせているわけであるが。

 

間違いなく不知火はこの基地のどこかにいる。そして、永末が指揮する艦娘達もこの基地にいるのは間違いない。恐らくはここは敵の本陣。いかなる仕掛けがなされているか分からない。

 

しかし、艦娘達に動きは外からは検知できない。全く動きがない。

 

「……提督? 」

と、加賀に話しかけられ、思考の世界から現実に引き戻される。

 

「ん? 」

 

「いえ、ずっと黙ったままでしたので、どうかしたのかと」

心配そうな表情で彼女は冷泉を見ている。

 

「少し考え事をしていたんだよ。俺たちがここに来てから結構時間が経っている。なのに動きが無い。……どう動くつもりなんだろうなって」

 

「迷っているの? 」

唐突に問われ、一瞬、言葉を失う冷泉。

 

「いや、迷ってなんていないよ」

そうは言うものの、嘘だということは彼女にはばれてしまっているだろう。

もし、扶桑達が出てきたらどうするのか? 説得すると言ったものの、説得が通じるのなら最初から鎮守府を離脱することなんて無いはずだ。そして、まだ心が冷泉側にあるのであるなら、不知火のように位置を感じることができるはずなのだ。今までそうだったように。

けれど、彼女達の反応はまるで感じ取れない。……それは、冷泉の指揮下から完全に離脱しているということの証左であることは、間違いない。

 

ならば、扶桑達は冷泉にとっての敵である。上からの命令通り、排除しなければならない。……そうであるならば、今こそ攻撃をするチャンスである。不知火の反応が感じられるということは、敵は眼前のメガフロートのどこかに停泊しているということである。どういうわけか、敵に動きは無い。今、一斉に攻撃をかけたなら、敵は反撃する間もなく撃破するチャンスである。敵が戦闘態勢を整えてからでは、機を逸してしまう。

加賀は、そのことを指摘しているのだろう。

 

しかし、メガフロート基地には誰もいないかもしれないという疑念もある。

更には、本当に不知火がそこにいるのか? という自分の能力に関する疑念。そもそも敵艦隊が存在しているのか?

仮にいたならば、彼女もろとも攻撃をすることができるのか? という迷い。もしかすると、不知火だけかもしれないのだ。邪魔になった不知火を永末達は捨て置いていったかもしれないのだ。攻撃するということは、不知火を殺す事になるかもしれないのだ。

 

そういった様々な疑問や迷いが、冷泉の行動を鈍らせているのは間違いない。できれば、このまま何事もなく、すべてが終わってくれれば……。そんな淡い期待を抱いているのは事実だ。

 

「提督……私は、いえ私達はあなたの決断に従います。だから、何も迷うことはありません。ただ、提督が信じる事を行って下さい」

暫く黙っていた加賀が、思い詰めたような表情で訴えてくる。あまりに真剣な表情なので、少し驚いてしまったが、彼女なりにいろいろ思い詰めている冷泉を励まそうとしてくれているようだ。その気持ちに少し嬉しくなる。

 

「ああ、そうだな。いろいろ悩んでも仕方ないよな。俺は……」

 

「提督、前方の空間に異変が! 」

冷泉の言葉を遮るように加賀が叫ぶ。慌てて視線を前方へ向けると、基地のある空間にゆがみが発生したかと思うと、まるでガラスが割れるように景色の一部が砕け散った。同時に、何かが飛び出してきた。

 

それは一隻の駆逐艦。

通常海域というのに煙突から黒煙を巻き上げながら疾走する。

 

光学迷彩、遮蔽装置といったものか?

それを用いて基地全体を覆っていたというのだろうか。

 

「不知火! 」

加賀が叫ぶ。

飛び出してきた駆逐艦は不知火だった。彼女は一気に加速していき、冷泉の艦隊の前を横切るようにして移動していく。敵であるはずの冷泉達には目もくれない……。

 

「加賀、他に出撃した艦は? 」

 

「追随する艦船はありません。メガフロートにも相変わらず反応はありません。再び空間が閉塞していきます」

見ると壊れたように見えた空間が、再びモザイクが取れていくようにもとの風景へと変化していくのが分かる。まだ基地にはそういった機能が残されたままになっているということだ。

 

「不知火は、何処に向かって……」

冷泉は言葉を止めてしまう。彼女の向かう進路には、領域があったのだ。

「あいつ、まさか領域に? 」

何の迷いもなく、彼女は一直線に領域と通常海域を遮る赤黒い雲へと向かっている。

「……くそ、全艦、不知火を追うぞ。あいつ、領域へ突っ込むつもりだ。動力の切替を急げ。完了した艦から領域へ突撃する。急げ! 」

声がうわずっているのを感じながらも、冷泉は指揮を発する。

駆逐艦一隻で領域に行って何をするつもりだ。……深海棲艦に探知されれば、確実に攻撃を受けることになる。そうなったら、彼女の未来は決まったようなものだ。

 

「お待ち下さい、提督。何の準備も作戦も無いのに、領域に突っ込むのは無謀ではありませんか? それに、領域内部に入るということは、提督のお体にも差し障りがあると思うのですが」

唐突に無線が入ってくる。榛名のようだ。

「私も榛名さん賛成です。これは敵の罠かもしれません。落ち着いて慎重に行動したほうが……。それに、基地にはまだ艦娘が潜んでいる可能性があります。まずはそちらを探索した方が」

高雄も指摘をしてくる。

 

「……そんなこと分かっている。危険は承知の上だ。でも、今、不知火を止めないと、あいつを止めないと」

非難は当然のことだと、冷泉も理解している。不知火が何を考えて単身領域に向かうのかは分からない。命令であることは間違いないが、その作戦の意図はわからない。みんなの言うように、罠であることも十分考えられる。いや、恐らく間違いなく罠だろう。けれど、今なら、彼女を救う事ができるかもしれない。そして、自分が今動かなければ、彼女を救う機会は二度と来ないような気がしたのだ。それは確信に近い物ががあった。ならば、自分の手が届くのなら、その手を伸ばさなければならない。自分の体の事など大した問題ではない。

「今、俺にできることは全てやらないといけないんだ。もう二度と後悔なんてしたくないんだ」

冷泉の言葉に、二人は黙り込んでしまう。

 

「提督、動力切替完了しました。空母加賀、発進します」

淡々とした声で秘書艦が告げる。その表情から読み取ることはできないけれど、彼女もいろいろ言いたいことがあるのだろう。あえて全てを飲み込み、冷泉の指揮に従ってくれている。

「他の子達も、私に続いて下さい」

 

動き始めた旗艦に遅れぬよう、他の艦も続いて移動を始める。

その前方で、まさに不知火が領域の雲の中に突っ込んで行くところだった。

 

「すまない、加賀」

冷泉は小さく頭を下げる。彼女は聞こえなかったように前方を見据えたままだ。

「前方領域。間もなく本艦は領域に突入します」

正規空母加賀を先頭に、冷泉の艦隊も領域へと突入していった。

 

いつも通りの嫌な感覚を覚えながら、領域内に進入する。電子機器のほとんど使用不可能となった世界。

開けた視界の前方には不知火がいて、まだ前へ前へと進んでいる状態だ。

「追跡しつつ隊列を整える。周辺の警戒を怠るな。ここは領域だ。いつ深海棲艦が現れるかもしれないからな」

声を合図に、艦隊の隊列を整えようとする。視界の届く範囲には、深海棲艦の艦影は見あたらない。

「加賀、通信回線を開いてくれ。不知火を止める」

 

「もう準備はできているわ」

すぐに答えが返ってくる。冷泉は頷くと、不知火に語りかける。

 

「不知火、俺だ、冷泉だ。応答してくれ。今すぐ停船するんだ。……ここは領域だ。ここにいること事態が危険すぎる。今すぐにここから離脱するんだ! 」

しかし、彼女からの返答は無かった。

「不知火、聞こえているんだろう? 今すぐ返信しろ! 」

いつしか声が大きくなっている。

「何で応えないんだ……」

苛立ちが込み上がってくる。

 

冷泉の困惑と苛立ちを断ち切るように、次の刹那、強烈な衝撃が艦全体を襲うと共に、すぐ間近側で巨大な水柱が立った。

冷泉は衝撃で椅子から転がり落ちそうになるが、素早く加賀が支えてくれた。

 

「左舷に被弾、魚雷攻撃よ」

直撃を受けたというのに、特に焦る様子も無く加賀が事実のみを告げる。周りに艦影は無いままだ。どこから攻撃されたのか分からない。

 

「まさか潜水艦か? くっ。全艦、潜水艦だ。警戒を怠るな! ……加賀、被害状況はどうなっている」

続けざまに指示を行う。

 

「……わりと深刻ね。浸水の影響で、動力に問題が発生しているわ。速力は40%くらいは落ちるわね。その影響で、動きが鈍くなっているから、相手がどこの誰だか分からないけれど、……このままだといい標的になるわね」

淡々とした口調で状況を告げる。

 

「分かった。まだ動くことはできるんだよな」

その問いかけに頷く加賀。

「速吸、対潜水艦戦闘を準備。お前の攻撃力を見せてくれ」

 

「了解です。流星、発艦させますね」

すでに準備を整えていたのか、艦載機を発艦させていく。彼女には対潜水艦戦闘能力があるのだ。もちろん、駆逐艦と比べると劣るのではあるが。

 

ここに来て……、いや、最初から分かっていた事だけれど、叢雲を連れてこなかったことが悔やまれる。敵に潜水艦がいることなど、当初から想像できたはずだ。なのに、あえて彼女を外して編成を行った。そのためにみんなを危険にさらしてしまっている。指揮官としては失格だ。けれど、彼女を戦場に連れ出すことはしたくなかったのだ。

済んでしまった事を嘆いても何も始まらない。今、どうするかを考えるべきだ。必死に自分の頭を切り換えようとする。

 

敵の攻撃を分析する。これは、完全に待ち伏せによる不意打ちだ。

 

明らかに、敵の潜水艦は領域の中で冷泉達がやってくるのを待っていたとしか思えない。不知火の行動も冷泉達を領域に引き込み、待ち受けている潜水艦に雷撃される布石だったのだ。

 

しかし、机上で論ずるのは簡単だけれど、領域にたった一隻で待機させるなど、常識ではありえないことだ。確かに潜水艦ゆえに隠密性は他の艦より高いとはいえ、深海棲艦に見つかってしまったら対処などできるはずもない。駆逐艦に追い回されるのがオチなはずだ。少なくともそんなリスクを覚悟で、艦娘が仮ににでも沈むことを想定しながらそんな場所に配置する提督など存在しないはずだ……そう思いこんでいた。

 

「そういうところが思いこみなんだろうな」

冷泉は呟く。指揮を執っているのは永末だったことに思い当たる。そうか、彼は司令官では無かったな。だから、できるのだろうか? そんな疑問がふと生じた。

しかし、今は隊列を立て直す事が肝心だ。

 

「後方に艦影2! 」

 

「何だって? 」

思わず声を上げてしまう。

艦隊の後方からということは、新たに領域に進入してきた艦があるということだ。

 

「球磨型軽巡洋艦、北上および大井です。こちらに高速接近、さらに左右に回頭します。提督、魚雷発射確認。……来ます」

彼女達は、潜水艦攻撃の混乱に乗じて一気に接近して来たのだ。周囲を警戒していたものの、潜水艦の方に意識を取られていた。そこを突かれてしまった。

 

「全艦、各自回避運動を取れ。加賀、取り舵いっぱい、最大戦速。魚雷を避けろ」

一斉に各艦が回避運動を始める。しかし、加賀だけは、先ほどの被弾の影響で動きが鈍い。ただでさえ巨大な船体だ。後方から接近する魚雷を回避できるか微妙か?

 

「左舷前方より魚雷接近! 」

流石に焦った声で加賀が叫ぶ。

 

まるで回避運動を予測したように潜水艦からの魚雷攻撃だ。敵は、明らかに加賀を狙っている。

 

「加賀、面舵いっぱい。回避するんだ」

無理と分かりつつ、回避を指示する。

 

「提督、何かに掴まって。直撃します! 」

叫ぶと同時に、加賀が冷泉に覆い被さってくる。

 

刹那、巨大な影が視界に入ったように感じた。

 

爆発音。

しかし、衝撃は来なかった。

 

「どうなった? 」

冷泉は爆発の起こった方角に視線を向ける。そして、驚きの声を上げてしまう。

 

いつのまに接近していたのか、巨大な艦影がそこにあった。角張った主砲塔、後部檣楼と煙突の間の隙間……その違いで金剛であることが分かった。

「金剛! 」

 

「安心して、提督はワタシが守るネー! 」

通信回線を通じて、彼女の声が聞こえてきた。

続けざまに砲撃が轟き、次々と着水する。そのいくつかは加賀を庇うように位置した金剛に直撃していく。船体のあちこちから黒煙が巻き起こる。

「提督、ワタシは大丈夫だからネ。指揮を執って」

 

「金剛の被害状況。艦船左舷に二発魚雷が直撃。第二第三砲塔損傷。戦闘継続は困難と判断します」

冷静な状況報告を加賀が伝えてくる。

 

「金剛、大丈夫か! 」

 

「大丈夫! 提督はワタシが守るから安心して」

大破に近い状況下でも健気に応える金剛に胸が苦しくなる。出撃前にあれほどやりあったというのに、そんな事などおくびにも出さない。自分の命よりも冷泉を重要視してくれている。こんな子をここで死なすわけにはいかない。しかし、彼女を待避させようにも、何処へ待避させればいいっていうんだ。

 

「速吸、敵潜水艦は発見できたか? 」

 

「提督、発見しました。今から攻撃を開始します」

現状、無傷な艦艇は榛名、高雄、速吸の三人だ。なんとかしのぎきれるか? 潜水艦さえ抑えれば軽巡洋艦二隻ならなんとかできる。

 

「頼むぞ、速吸」

 

「了解ですよ。流星、攻撃開始よ」

対潜水艦攻撃を始めるため、彼女から発艦した流星改が攻撃態勢に入ろうと旋回を始める。

 

「大変です、提督! 航空機編隊が接近してきます」

高雄からの報告が入ってきた。

 

「あー! 」

速吸の悲鳴が響き渡る。

 

敵の航空戦隊は猛スピードで接近し、潜水艦への攻撃態勢に入った速吸の艦載機に背後から襲いかかる。

戦闘機と攻撃機では話にならず、速吸の艦載機は次々と打ち落とされ、火に包まれながら海へと墜落していく。

「ああ、酷いですう! 」

 

「提督、続けて敵の攻撃機の編隊が接近してきます。迎撃体制を」

見上げれば数十機の機影が接近して来ている。祥鳳の艦載機ならば、九七式艦攻のはずだ。新鋭機を搭載前に鎮守府を離脱したから……。

しかし、数からして、空母は祥鳳だけではないということか。

「敵機は、彗星、流星および九七式艦攻の混合編隊よ」

 

「加賀、艦載機の発艦は可能か? 」

 

「ごめんなさい。……艦の水平を保つことができません。停船すればできるかもしれないけれど、それではこの状況下では敵の良い的になるだけよ」

 

ははは、完全に詰んだな。

……弱気な考えが唐突に浮かび上がってしまう。

 

艦載機の使用は、不可能。たとえ最新鋭の艦載機を搭載していても、発艦できなければ、何の役にも立たない。

 

加賀、金剛は雷撃を受け航行にさえ支障が出ている状況だ。速吸も艦載機を撃墜され、もはや戦力としての計算は不可能となっている。榛名と高雄のみでどうにかしなければならない。

しかし、敵は潜水艦が未だ健在で虎視眈々と狙っている。巡洋艦二隻もいつでも雷撃可能な状態。そして、空には敵艦載機が接近中だ。巡洋艦はどうにかできたとしても、潜水艦と航空機相手では、勝ち目はほとんど無い。

 

「全艦、反転だ。各自回避運動を取りつつ、領域を離脱する。速吸は、とにかく全速力で離脱しろ。榛名と高雄、金剛の援護を頼むぞ」

冷泉は各艦に指示をしつつ、横に立つ加賀の顔を見る。目が合うと彼女はニコリと微笑んで頷いた。

「加賀、すまない」

 

「……いいのよ」

 

冷泉は頷くと指示を出す。

「全速前進」

 

「了解、全速前進します」

 

反転運動を行っていた金剛達が、加賀の動きに気づいてすぐに反応してくる。

「テートク、どこに行くの! 」

 

「提督、何をするつもりなのです? 」

みんなが疑問を声を上げるが、すでに冷泉の意図は分かっているはずだ。

 

「俺たちが囮になる。だから、お前達はなんとしても生き残るんだぞ」

 

「な、何を言っているんですか? 司令官を囮にするなんてそんな馬鹿な作戦、認められるわけないじゃないですか。絶対に駄目です」

珍しく怒った口調で高雄が叫んでくる。

 

「今の状況に陥ってしまったのは、完全に俺一人の責任なんだ。俺の勝手な考えでお前達を連れ回し、挙げ句の果てに危険な目に遭わせてしまっている。本来ならあらゆる手段を講じてでも全員で舞鶴に帰りたいけど、もはやこの状況ではそれは叶わぬ事だ。ならば、一番可能性の高い方法を取るのが当然だろう? 」

先ほどの攻撃から見ても、敵の目標は冷泉が乗艦する加賀であることは明白。ならば、最初に沈めようとするのは加賀だ。だったら、囮になって出来る限り時間を稼ぐのが一番の方策。少しでも生存率を上げるためなら、最良である。

 

「ば、馬鹿ああー! そんな事できるわけ無いネー! 」

金剛が叫ぶ。

「提督は、どんなことがあっても生きろってワタシ達に言ったよね。だったら、みんな無事で絶対に帰らないと駄目! 誰かを犠牲にしてなんて絶対に駄目」

 

「そうです、提督を見捨ててなんて行けるわけありません。提督がいなくなったら、私達はどうすればいいのですか。そんなことになるくらいなら、私だって提督にお供します」

と、高雄。

皆が口々に反論してくる。

 

「これは、命令だ。もう時間がない。これ以上言わせないでくれ。でないと、強制命令を使わないといけなくなる。そんなことはしたくない。後の事は、葛生提督に任せておけば大丈夫だ。……頼むから、俺の命令を聞いてくれ」

揉めている間にも敵機が接近してくる。北上大井も戦闘態勢を整えつつある。

 

「て、提督」

ずっと黙っていた加賀が口を開く。

「領域より新たな艦が……」

 

「な? 」

呻く冷泉。

 

「艦影から……戦艦扶桑と思われます。我が艦隊は、退路を断たれました」

淡々とした口調ではあるものの、普段とは異なり、焦りを含んだ声色に聞こえた。

 

 

 


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