まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

144 / 255
第144話 新世界への扉

深夜―――。

 

停泊している港の中にある建物の中に、舞鶴鎮守府第二艦隊の艦娘と永末が集合していた。彼等は、現状報告と今後の行動計画についての話し合いを行っていた。

 

しかし、不知火だけは腑抜けたような表情で黙り込んだままだ。みんなの会話にも入らず椅子に座ったままで身じろぎもしない。その虚ろな瞳は何を見ているのか。何かに追い詰められたような小動物のようにしか見えず、もうこの子は駄目なんじゃないか? と扶桑ですら思ってしまう。このままでは永末さんにも見放されてしまいはしないかと不安になる。―――それだけは防がなければ、と自分に言い聞かせながら、艦娘達の会話に集中する。

 

扶桑は、この集まりの司会を務める永末の隣に立っている。舞鶴鎮守府の情報分析や、すでに明かされた失踪した艦娘の事について艦娘達が思い出した事を互いに報告し合い、それについて議論が為されている。そしてごくごく自然な形で永末がリーダーシップをとって意見収集を行い、とりまとめを行っている。時々、永末が口ごもったり手間取ったりした際には、すかさず扶桑がフォローをいれている。まるで長らくコンビを組んでいたかのようにさえ見える二人の関係にも、艦娘達はすでに見慣れた光景になっているように自然な感じで対応している。

永末が舞鶴鎮守府艦隊司令官で、その秘書艦が扶桑のように見えてしまう。その事を他の艦娘が茶化すように指摘すると、「そ、そんなことありませんよ」顔を真っ赤にして永末が照れてしまい、またそれに対して笑いが起こってしまう。

 

ものすごく和やかで自然な感じ……。これが昔からそうであったようにさえ思えてしまうけれど、現実は異なるという事に思い当たるとそれから目を逸らしたくなる。けれど、現実からは逃れられない。そうであるならば、その現実をひっくり返し、望むべき姿に変えてしまえばいいのではないか? 扶桑は、ぼんやりとみんなが会話している姿を見つめながら、そう心から願っていた。

 

永末から貰った薬品により取り戻した記憶についてみんなが真剣に討論している。会話をする事に、誰かの思い出した記憶を聞く度に、連鎖的に誰かが何かを思い出していく。まるでパズルが解けていくように、さまざまな真実が明らかになっていく。

 

「今更なんですが……」

と、誰かが口にする。見ると祥鳳だ。

「緒沢提督は、扶桑さんの事をすごく信頼していたと思うんですけど」

 

「そりゃそうでしょう? だって秘書艦なんだもの。私達には言えない事でも、提督は扶桑さんには話してたよね」

と、少し含みのあるような発言も聞こえてくる。こんな言い方をするのは、大井だ。

 

「うんうん、確かに。あれは何時だっけ……? そうそう、北上さんが轟沈した時、大井さんが泣いちゃって、大変だった時だ」

村雨までが呼応するように、余計な事を喋り出す。

 

「やめて……ああ、今思い出しても恐怖と絶望で目の前が真っ暗になる。お願い、それ以上言わないで。思い出してしまうから」

と大井が呆然としたような眼をして呟く。

 

「大丈夫だよ。北上さんは生きているんだもんね。みんなが思い出したその事実は、決して揺るがないから。今は、どんな辛いことでも思い出さないといけないんだもん。みんなと再会するためにも! 」

 

「そ……そうね。確かにそうだわ。うん、分かった。がんばる」

頭を撫でられ、頷く大井。

 

「みんな、思い出してみて。確か、半狂乱になった大井さんを扶桑さんはずっと慰めていたわよね。まともな説明をしてくれなかった提督の事を、相当酷い言葉で罵る大井さんを必死になって宥めていたから。傍目にも大変そうだったわ。でも、しばらくすると、扶桑さんが提督の部屋に行ったわよね。それも、凄い思い詰めた表情で……。みんな覚えているかしら? 」

 

「確かに。あの時の大井さんの悲しみように対する提督の態度は酷かったよね。私だってカチンときたもん。ホント、ものすごい冷たい対応だった。だから、みんな凄く怒っていたし、扶桑さんもそれまで轟沈した艦娘の事でいろいろ思うことがあったみたいで、秘書艦として確認したいことがありますってかなり真剣な口調で提督を責めていたもんね。それにしても、あんな怖い扶桑さん、初めてみたよ」

祥鳳と村雨が交わす言葉を聞きながら、自分が少し苛ついていることに扶桑は気付く。普段なら特に何も思わないけれど、今はタイミングが悪い。これからどうするかを決めかねている状態で、こんな余計な話はしてほしくない。

 

「そんな事があったんですか、扶桑さん。いつも温厚なあなたがそんなに怒ることがあったとは……」

驚いたような表情で永末が扶桑を見ている。

 

「いえ、あの時は大井さんがあまりに不憫でしたから。それに、それまで沈んでいった艦娘達についての説明を、提督はみんなにまるでしてくれませんでした。どうして彼女達を見捨てなければならなかったかを私達に説明してほしかったんです。そうしなければ、みんなが納得できない状況にまで追い込まれていました。かくいう私も限界だった……と思います」

歯切れの悪い言葉を返すことしかできない。あまりこの件について話が進展すると、隠している事も話さなければならないと思ったからだ。もうこの話題には触れないで……そんな願うような瞳で艦娘達を見回す。

「結局、上手く提督には伝えられませんでしたけど」

と曖昧な事を言い、話題を変えようとする。

 

「そうだったかしら? その後、二人っきりで執務室で話し込んでいたみたいだけど、出てきた時の扶桑さんはとても晴れ晴れとしたというか、納得したような表情をしていたわよね」

と、大井が余計な事を言う。

 

「そ、そうかしら? 」

思わず動揺してしまう。

 

「そうそうそう。あの時の扶桑さんは、部屋に入るまでの剣幕とはまるで正反対になっていたし、私達の問いかけにも曖昧にごまかすだけだったよ。あんまりしつこく聞くから、最後には提督のご命令は絶対です! って怒りだしたもん。……そうだよ、そんなことがあったよ。今まで忘れていたけど、扶桑さん、結構、怖かった」

少し茶化すように、村雨が訴えてみんなに同意を求めようとする。

 

「私も思い出しました。扶桑さんは提督を信じていれば何も問題は無い、だからこの件についてはこれ以上詮索することは許しませんって言って、その場を収めようとしていました。。提督と話す前は、場合によっては鎮守府を出て行くとまで言ってたのに、あの変わり様は凄かったです」

 

「本当だ。そういや私、あの時すごく扶桑さんのこと嫌な女だって罵ったのに、完全に今まで忘れていたわ」

と大井が呆れたような表情で言う。

「……あ、今はそんなこと思ってません、ホントデス」

そんなやりとり扶桑だって覚えていない。

 

「一体、あの時、扶桑さんは提督に何を言われたんですか? あれだけ提督を糾弾ような勢いだったのに、180度変化してしまったのには、何か訳があったんじゃないんですか? 」

もういい加減にして。これ以上は話を広げないで……そう願いながら祥鳳を見るが、彼女にはまるで通じないようだ。

 

「もしかして、提督に轟沈した艦娘が生きているって真実をその時に教えて貰ったんではないですか? もしかして、それって本当の事じゃないですか? いいえ、それどころじゃない。もしかしたら、みんなの居場所まで教えて貰っていたんじゃ」

とまで言い出す始末。

呼応して艦娘達が好き勝手に話し続ける。困ったことに話す度に記憶が取り戻され、状況が詳細に鮮明に再現されていくようだ。状況を見るに、どう考えてもごまかせるような雰囲気では無くなってきている。何らかの答えを見せなければ、彼女達は納得しないだろうし、やがては真実にたどり着いてしまうかも知れない。それは時間の問題だろう。それ以上に永末さんが不審そうな表情になっていることが心配になる。

 

「扶桑さんなら、提督も教えていたかもしれないわ……」

そんな意見が大勢を占めていく事に不安になってしまう。

もしかすると、他の艦娘はうすうす感づいているのかもしれない。扶桑が緒沢提督より轟沈させた艦娘たちの居所を教えられているのではないか? と。ただ、彼女達の記憶が曖昧なため断定できないだけで、それ以上は言えないだけなのかもしれない。実際、扶桑が思い出した範囲でも、当時はそういった噂が流れていた事は記憶している。それはあくまで噂であって、ある意味願望だったと言ってもいい程度のものでしかなかったけれど。

 

ここで、それは単なるみんなの願望でしかなかったと否定するのはたやすい。本当の事は誰も教えられていないのだから。ただ一人、秘書艦である扶桑を除いては。故に、ここで誤魔化してしまう選択肢もある……。

けれどそれでいいのか? せっかくみんなが希望を持ち始めているのに、それを否定してしまうことに意味があるのだろうか。今、自分たちは団結しなければならない。そうしなければ、今集った仲間達は敵勢力に離ればなれにされてしまい、個別に記憶を弄られてすべてを忘却させられてしまうだろう。もたもたしていて機を逸すれば、すべてが無に帰す。緒沢提督の意志は完全に消し去られてしまうのだ。

 

駄目だ……。それだけは認められない。認めてはいけない。

 

「みんな、よく聞いてください……」

覚悟を決めて、扶桑は語り始める。

長く記憶の奥底に封印されていた真実の吐露を。沈んだはずの艦娘が隔離され、ある場所に隠匿されていることを。それは、今は亡き緒沢提督の意志によるものであり、国家の意思とは明確に反するものであること。緒沢提督の目指したものについて、扶桑の知る限りの事をすべて話した。知っている事は一切合切、包み隠さずに。こんな場合、中途半端に隠したりすると逆効果になるからだ。

 

すべてを語る扶桑を見つめる永末の視線が痛かった。彼は恐らく気付いているだろう。扶桑がすでに記憶を取り戻していた事を。そして、それを永末に黙っていた事を。

きっと彼は自分に失望したに違いない。強い信頼関係によって結ばれていると思っていたのに、隠し事なんて何もないと思っていた彼を裏切っていた自分が辛かった。けれど、もうどうにもならないことなんだと諦める。

 

「永末さん、すみませんでした。本当は少し前に思い出していたのに、あなたに伝えていませんでした。そのために、あなたに苦しい思いをさせてしまったことをお詫びします。けれど、少しだけ言い訳をさせてください。……私が思い出してしまった事、背負わされた物の重さはとても簡単に伝えられるものではありませんでした。それだけは分かってください」

恐らくは許されるものでは無いかもしれない。いや、きっと許されないだろう。永末を信頼しているようで、実は信頼していなかったからすべてを話せなかった。結局のところ、それが真実なのだから。まさに、これは罪だ。そうは思いながらも、許しを請うように縋るような瞳で言い訳がましく言葉を連ねるしかできなかった。

 

少なくとも、自分と永末との間にあったであろう信頼関係は。扶桑の裏切りにより失われたはずだ。それは自分の決断力の無さが原因。自業自得であるのだから、諦めるしかない。他の艦娘と同じ立ち位置で、彼の指示に従うしかできない。それは寂しくもあり悲しくもあるが、やむを得ないことなのだ。

 

俯いて眼を閉じる。覚悟を決めて、彼の言葉を待つ。非難されるだろう。批判されるだろう。罵られるだろう。けれど、それもやむを得ない事なんだ。儚い夢は終わりを告げるだけだ。

 

仕方ないわね……。やはり、不幸だわ。

 

急に頬に暖かい感触……。

「顔を上げてください、扶桑さん」

目を開けて顔を上げると、すぐ側に永末がいた。そこには優しく微笑む彼の姿があるだけで、扶桑の予想した永末はいなかった。

「よく話してくれましたね。ありがとうございます」

と、むしろ感謝をされてしまう。

 

「え? ……私を責めないのですか? 」

彼の両手のぬくもりを頬に感じながら、問いかける扶桑。

 

「疑問に対して、疑問で答えましょう。どうして、私があなたを責めなければならないのですか? あなたは私に本当の事を話してくれました。私は、それだけで嬉しいのです。あなたは私を信頼して、正直に話してくれたのですから。これほど嬉しい事はありません」

永末は隠した事怒ることもなく、扶桑を許してくれた。

 

「あなたは……いえ、ここにいる艦娘みんなが私の同士です。これから、更なる目的の為に行動しなければなりません。私達は団結しなければなりません。そして、かつて沈んだと記録されながらも、実は生きている仲間達と合流しなければならないのです。ですから、扶桑さん、私を信じて、いや私達を信じて、彼女達が何処にいるかを教えて貰えませんか? 私達のためにそして亡き緒沢提督の意志を継ぐために」

永末は自らの想いを伝えるとともに、彼女に懇願してきた。すべてを許し、共に戦おうと手を差し伸べて来てくれているのだ。自分には永末さんがいる。意志を同じくした艦娘達がいるのだ。

 

どうして、その申し出を拒否できようか。

 

扶桑は静かに頷いた。

 

この人と共に戦う事。それが今の自分がもっとも望む事なのだと確信した時だった。これがずっと自分が求めていた事なんだと思うことができた。今まで流され続けてきた自分が、やっと為すべき事を見つけた……そんな喜びさえ感じていた。

 

そして、扶桑はついに、隠されていた秘密を語る事になる。知りうるすべての事を、包み隠さず永末に話したのだった。かつて、緒沢提督より託された秘密……轟沈を偽装した艦娘達が潜む場所の事を。

 

それが本来の指令官である冷泉提督に対するだけでなく、日本国、さらには艦娘が属する組織に対する裏切りとなる事であることを知りながらも。

もはや、自分たちには留まることはできない。

 

「みんなはどうなのですか? ここは重大な局面となっています」

そう言うと、永末は集った艦娘達を見回す。

「我々はこれより舞鶴鎮守府を離脱することになります。あなた方は、冷泉提督の指揮下を離れ、否、日本国というものからも離脱することになります。それは、彼等から見れば反逆と認識されるでしょう。それに対する覚悟はありますか? 今なら離脱することも可能です。私はそれを止めるつもりはありません。そして、そうでない方は私と共に、緒沢提督の意志を継ごうではありませんか。選択をしてください」

拳を握りしめ、熱い口調で叫ぶ。

 

「私は北上さんがいれば何もいらない。当然、永末さんと一緒に行くわ。何の逡巡もないし」

大井が即座に反応する。彼女の反応はごくごく予想された事だろう。

 

「私もみんなと一緒に行くよ。冷泉提督もいい人だったけど、本当の提督じゃないからこれ以上一緒にいる必要無し。本当の提督、緒沢提督の願いを叶えるのが艦娘の願いだもんね」

村雨も悩むことは無いようだ。すっきりした笑顔で答える。

 

「私は、ずっとずっと冷泉提督を信じていました」

ぽつりと祥鳳が呟く。

「あの人とともに敵と戦い、勝利することが何よりも幸せだと思っていました。そして、突然現れた艦娘に嫉妬したりうらやましがったりしていました。けれど、それは完全なまやかし、虚構でしかなかったんですね。……私はずっとずと騙されていたんですね」

よく見ると大きな瞳が涙で潤んでいる。

 

「大丈夫大丈夫」

駆け寄った村雨が彼女の頭を撫でる。

 

「私、ずっと信じていたのに」

そのまま泣き崩れてしまう。

「もう、もう私は迷いません。本当の提督の御遺志を継ぐために、戦います。後悔はありません」

涙声ながらもきっぱりと断定する。

 

真実を知ってしまい、少し過剰に反応する艦娘達を一歩引いた位置で扶桑は見ていた。

結果としては舞鶴鎮守府を離れるという結論に間違いは無い。けれど、少し冷静に判断したほうがいいのではないか? と心配になってしまう。永末から与えられた薬品の影響が出ているのだろうか? 

もっとも、みんなが緒沢提督の意志を継ごうと決断してくれることは嬉しかったのであるが。

 

さて―――。

ここで一人、考慮しなければいけない艦娘がいることを思い出した。

そう。不知火だ。

彼女は無理矢理その意志をねじ曲げられ、こちら側に連れてこられている。本来なら法令や規則をもっとも重視するタイプの性格の彼女だ。法を犯すどころか、そもそも体制に反旗を翻すような行動など絶対に許さないはずだ。そんな彼女を同士として置いておくのは無理なのではないか? と思ったのだ。

それは、「理知」的な思考での結論。

もう一つの感情的な思考では、不知火の本心を見抜いていた。

彼女は冷泉提督の事を好きなのだ。それは男性としての感情だ。本人は明確には気付いていないけれど、態度に表れてしまっている。そんな彼女が冷泉提督と戦う側になどつけるはずがない。ただ、薬物漬けにされたことで、彼の元に戻れば彼に迷惑をかけてしまう。その思いだけで動けずにいるだけだ。だから、少し背中を押してあげれば、彼の所に帰る決意をするのではないか……そう思ったのだ。あんな酷い目に遭わせてしまったことを、扶桑はずっと後悔していた。なんとか彼女を冷泉提督のところに帰してあげたい。それがもう一つの「感情」からの思考だ。

 

「不知火……。あなたはどうするの? 」

と、扶桑は問いかける。

不知火は意識のはっきりしない、ぼんやりとした表情のままでこちらを見返すだけだ。

「今ここで決めなければなりません。冷泉提督の下に帰るか、そのまま私達と行動を共にするのかを」

ここで冷泉提督の下に帰ると言えば、もしかすると帰ることができるかもしれない。永末達に対する裏切りと思える行動とはいえ、薬物に汚染されて艦娘として機能できるかどうか怪しい艦娘をおいていても役に立たないと判断してくれるかもしれない。そして、冷泉提督の下に送り返せば、それはそれで冷泉提督の立場を危うくする材料として役立つと計算してくれるかもしれない。どちらにしても、ここが最後のチャンスだ。「帰る」と言ってちょうだい……。扶桑は祈りを込めて彼女を見つめる。

 

「……私は」

少しの間。幽かに瞳に光が戻ってくるのを感じる。なんとか扶桑の言っていることを理解してくれたのだろうか?

そして、不知火は決意したように答える。

「私は、……永末さんとともに日本国と戦います」

 

まさかの回答に思わず動揺してしまう。

「でも、あなたは冷泉提督を」

 

「永末さん」

扶桑の問いかけに答えること無く、不知火は永末を見る。見るというより睨むといった表現が相応しい。

「……私をこんな体にしたあなたを絶対に許さない。できることなら今すぐにでも、お前を殺してやりたい。ズタズタに引き裂いてやりたい。お前を殺さずに、このどうしようもない感情を抑えこむことなんてできない。……けれど、艦娘は人間に直接手を下すことなんてできないように創られている。どうして、お前なんかの為に、こんな酷い目に遭わないといけないの。苦しい思いを、悔しい思いをしないといけないの! この命を自分で絶つことさえ許されないんだから。悔しい悔しい悔しい! 」

強い口調で不知火は叫んだ。

いきなり強烈な台詞を言う艦娘に、扶桑のほうが動揺してしまう。彼女の言葉をなんとかフォローしようとあたふたするが、何も出てこない。まるで人を居殺しそうなほどの目つきで永末を睨む、不知火の迫力に圧倒されてしまう。

「私だって……できることなら舞鶴に戻りたい。でも、こんな体ではみんなに迷惑を掛けてしまう。提督にはもっともっと迷惑をかけてしまう。こんな薬物中毒の艦娘なんかが側にいることが他に知られてしまったら、提督の進退にすら影響を及ぼしてしまう。……だから、私はあなたの側に付くことにしました。つくことしかできない。永末さん、私を駒として使うがいいわ。捨て駒としてでも構わない。敵対勢力として舞鶴艦隊と戦い、冷泉提督の手によって沈められる事。……それが私の最後の願い。だから、私はあえて永末さんの物になる。あなたについて行くわ。こんな運命にケリをつけるために。死ぬために。他に何も無い……それだけよ」

皆が圧倒されるほどの迫力で不知火は宣言すると、プイと背を向け、壁際まで歩いて行った。

 

「そ、そうですか。それほどの覚悟があるのなら、……ふふふ、あえてあなたも連れて行きましょう」

動揺を隠せない永末ではあるものの、なんとか立ち直ったようだ。自分の立場を思い出したかのように、冷静な口調に戻る。

「その心意気、素晴らしいとお褒めいたしましょう。是非とも私の為にあなたの力を生かして貰いたい。行きましょうか。そうそう、それから皆さんの覚悟を聞いたわけですから、私も一つ秘密を教えましょう。……まだまだ兵力が少なくて不安かもしれません。轟沈した艦娘を入れてもすべての鎮守府を戦うには戦力が少ない。そうお考えがえかもしれないですが、ご安心ください。私をバックアップしてくださる仲間も軍には居ると言うことを。彼等が私を後方より支援してくれます。それだけは伝えておきましょう」

自信ありげな表情を浮かべ、永末が笑う。

「今後の行動を彼等と協議する必要があります。……安心してください。今までは彼等が私に指示する側でした。けれども、あなた方と轟沈したとされている艦娘たちが私を支持してくれているのです。もう彼等は、私を蔑ろにはできない。今まで私を利用してきたはずの彼等との立場は逆転ですね。むしろ、私達の行動に有利なように、彼等を使うことができるのです。それだけの力を、交渉力を得ることができたのですから。おまかせください」

 

その自信が艦娘達にさらなる安堵感を与えた。

 

目指すは、新しい世界だ。

 

「行きましょう、新しい世界に向けて」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。