まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

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第120話 歓迎会前後

「しかし、……ずいぶんと酷い物言いだよなあ。わりと落ち込んでしまうぞ、そんな事言われたら」

 

「そうでしょうか? 最近は頻繁に意味不明な事を仰りますから、いちいちまともに取り合っていたら、こちらが疲れてしまいますので。……つい、本音を言ってしまいました。もしも落ち込ませてしまったのでしたら、ざまあ……いえ、失礼、ごめんなさい」

わりと憮然とした口調で言う加賀。なんだか普段と比べてもご機嫌斜めみたいだ。何があったんだろう? 全然気持ちがこもっていない謝罪をするだけで冷ややかな視線をこちらに向けている。

 

「ふう。ところで……お前達はもう用事は済んだのか? 」

原因が分からない状態でいろいろ言っても始まらない。そういうことで、話題を変えよう。

 

「ええ。これから懇親会の会場へと行くところです。提督もご一緒されますか? ……けれど、金剛が一緒にいますから、私達はお邪魔かもしれませんけれど」

その言葉で何となく加賀が怒っているのが分かった。

きっと冷泉が金剛と一緒にいたことが不満なのだ。偶然とはいえ、彼女に伝わっていなかった事が納得いかないのだろう。こんな体になってから彼女は常に冷泉の行動を把握しておきたがる。それは、彼女なりの冷泉への償いなのだろうと思っていた。冷泉が困ることがないように常に先回りして段取りをしてくれている。だから、それができない事を加賀はとても嫌がるのだ。まるで、自らの責任を果たせていない自分を責めるような言動をすることを何度か見ているから。そんな気配りなんて、いらないって何度も言ったんだけれど彼女は納得していないらしい。

加賀の優しさは分かってる。とはいえ、金剛と何を話していたかなんて言うことができないので、それについては、加賀がどう誤解しようとも沈黙するしかない。

 

「うん、そうだなみんないるし、そのほうがいいな。……ところで、榛名は」

そう言いながら、話し込んでいる二人の金剛型艦娘を見る。久々の再会に会話が弾んでるようで二人とも笑顔でなにやら話している。そして、榛名の服装が変わっていることに冷泉は気づく。こちらに来た時に着ていた巫女服は、少し薄汚れた色合いだったが、今着ているのはおろしたての真っ白のものに変わっていたし、スカートも金剛と黒のスカートになっていた。けれど物は同じだとしても、少し、いや、かなりスカートの丈が短くなって、白く長い足がかなりの部分剥き出しになっているけれど。

「あれ、なんか……」

思わず声を上げてしまう。

 

「ふ、……やっぱり気づきましたか。このスケ……ベ、いえ、部下の変化にも常に注意されているところにはいつも感銘させられます」

 

「う、榛名の服装が替わってるよな。あれって」

 

「はい、そうです。彼女の衣服は少し汚れていたので、みんなの前に出るのには少しどうかなと思いましたので。ちょうど金剛用の衣装の新品が余っていたので、そちらに着替えて貰いました。体型はほとんど同じみたいなので、割と似合っていると思いますよ。榛名用の衣装については、現在注文してますが、納品までは少し時間がかかるみたいです」

 

「そうか。確かに金剛と姉妹だから体型は似てる感じだけど、……なんか、胸元が窮屈そうだし、スカートも金剛より短いように見えるけれど」

胸元が気になるのか、榛名は時々気にするような素振りをしている。

 

「はい、そうですね。榛名のほうがだいぶ胸のボリュームがあるようです。まあ、これはしばらく我慢して貰うしかないですね。スカートについては、どこかの殿方が喜ぶように、膝上25センチに上げてみました。提督はどうお思いですか? 」

 

「ど、どうですかと言われても……ううん。なかなか似合う、かな」

 

「ふん」

と何か馬鹿にしたような感じ。いや、明らかに批判的な視線を冷泉は感じてしまった。

なんとなくいたたまれなくなって冷泉は車椅子を動かし、榛名達の下へと移動する。

すぐに冷泉がやってきた事に気づいた榛名はすぐに冷泉にお辞儀をして迎える。

 

「どうだ、舞鶴鎮守府の事は少しは理解できたか」

 

「はい、ありがとうございます。加賀さんにいろいろと教えて頂きました。一度に全部を覚えるほど頭は良くありませんので、提督やみんなにはご迷惑をかけることが多いかもしれませんが、一生懸命努力しますので、よろしくお願いします」

はきはきとした声で答え、ニッコリと笑う。そして、冷泉の視線が胸元とスカートへと向けられている事に気づき、顔を真っ赤にして隠そうとする。

「すみません、金剛姉様の服をお借りしているんですが、私が太っているせいで、サイズが合ってなくて。お見苦しい姿を見せてしまって、恥ずかしいです」

 

「うんうん、大丈夫だよ。なかなか似合ってると思うぞ。俺としては可愛いと思うけれど。うんうん、もっと良く見せておくれ」

何か榛名が本気で恥ずかしがるので、冷泉のスイッチが入ってしまった。ぐるぐると車椅子で榛名の周りを回りながら無遠慮な視線を向ける。車椅子だけに目線が低いため、榛名のスカート丈だと見えてしまいそうだ。

「提督、や、やめてください。恥ずかしいです」

 

うっすらと瞳を潤ませながら怯えたような瞳をして嫌がられると、冷泉はどうにも興奮してしまい、ますます萌えてしまい、行動がエスカレートしてしまう。だらしない顔をしていたはず。

次の刹那、急にブレーキを駆けられ、何か強い力で襟首を掴まれる。

「ぐえっ! 」

勢いで仰け反り、車椅子から落ちそうになる。

 

「いい加減にしてください。鎮守府司令官の名が泣きます」

 

「もう、テートク。スカートの中が見たいなら、言ってくれればいいのにい」

襟首を掴んだのは加賀で、車椅子を止めたのは金剛だったようだ。逆だったら冷泉の首がもげていたかもしれない。

 

「榛名さんが泣いていますよ。何をやっているんですか、本当に」

刺々しい口調の加賀に

「ごめんなさい」

と謝るしかなかった冷泉。

 

「謝るのは私ではないでしょう? 」

すぐ突っ込まれる。

 

「すまなかった榛名。ビックリしてしまったよな」

きちんと頭を下げる事ができない体ではあるが、できる精一杯の態度で謝罪する。

 

「榛名、私からも謝るデース。テートクは悪気は無かったンダヨ。ただエッチだっただけなんだヨ。だから、深く気にしちゃ駄目デース。基本テートクはエッチなんだから、こんなこといつもの事ダヨ、だからテキトーに流すンダヨ」

 

「金剛、それ、全然フォローになっていません。まあだいたいは合っていますけれど」

二人の艦娘がフォローにならない会話を続ける。

冷泉は榛名の方を見る。

まだ胸とスカートの裾を抑えたままこちらを恥ずかしそうに見ている。

「いいえ、全然大丈夫です。提督はお優しいから、私なんかにまで気を遣ってくださるんですね。私なんて全然魅力なんて無いのに……本当にありがとうございます」

そう言うと、耳を真っ赤にしたままで深々と頭を下げる。

 

「お! おう」

なんだか顔が熱くなるが、なんとか冷泉は答えることができた。

そんな冷泉を呆れたような顔で見る加賀と目が合うが、気まずくて目を逸らす冷泉。

 

「さて……。それでは榛名さんの歓迎会の会場へ行きましょうか。こんなところで時間を無駄にしているわけにもいきませんからね。遠征に出ていた神通たちも損傷とか無く帰ってきていますから、歓迎会にも参加です。久しぶりに全員が揃う会になりますよ」

 

「そうか、神通も帰ってきたか。……あいつら休み無く遠征を続けていたからな。そろそろ休ませてやらないといけないな」

 

「そうですね。少し全員に疲労が溜まっているようです。ただ、神通が止めようとしないので他の子達も意見が言えないままだったはずです。……あの子は提督の言うことなら聞き分けがいいですから、きちんと彼女に言って下さいね」

 

「了解だ。今晩きちんとあいつにも話をしておくよ」

 

「神通は提督に対しては従順だから嫌がったりはしないですけど、たとえお酒の席とはいえ、お触りは厳禁ですからね」

と、なぜか加賀に釘を刺されてしまう。

そんな会話を続けながら、一同は歓迎会会場へと向かうこととなった。

 

 

―――そして、翌日の朝。

 

相も変わらず飲み会で一人はしゃいで飲み過ぎ、ほぼみんなの予想通りの二日酔いで、ぐったりしている冷泉。

スポーツドリンクをぐいぐい飲みながら、ため息をついている。

「ああ、気持ち悪い。また飲みすぎたなあ……」

ぽつりと呟き、反省の意を示す冷泉。

そんな彼の隣で、加賀が馬鹿にしたような微笑みを浮かべている。

「まったく、自分のお酒の許容量を考えもせず、馬鹿みたいにお飲みになるからです。全く、性懲りもなく何をやっているんでしょうか。はあ……どうしてなんでしょうね? ここまで同じ失敗を何度も何度も繰り返すなんて、流石に鎮守府司令官としては当然ですが、社会人としても失格。いえ、人間失格……ですね。もう車椅子のまま海に飛び込んだらいいのに」

 

「うえええ。反省してます」

情けない顔をする冷泉になぜかニッコリと微笑みかける加賀。

「まあ、いろんな子達と話していたら、当然お酒をつがれてしまいますし、提督はお優しいから、それを律儀に全部飲んでしまうんですから仕方ありませんけど。お酒が潤滑油になって艦娘たちも普段提督に言えない事や思ってる事を提督に伝える事ができて、いいガス抜きができたと思います。それだけを見ればあまり私としても提督を責めることはできないんですけれど……。お疲れ様でした」

普段は無愛想でどちらかといえば冷たいんだけど、たまに優しくしてくれるからドキッとしてしまうんだよな……そんな事を思い彼女を見つめる冷泉。

「何をニヤついているんですか? 気持ち悪いですよ」

加賀は、冷泉の視線を感じて照れたように目を逸らす。

 

「加賀は優しいなあって思っただけだよ」

 

「な! 何を朝から訳の分からない事を言っているんですか。少し自意識過剰でしょう。ふん。……そんな冗談はいいです。ちょっとお伺いしたいことがあるんですけれど、いいですか」

少し怒ったような素振りを見せた後、無理矢理話題を切り替えようとする。

 

「うん? いきなりなんだい」

 

「提督は昨晩、こちらにお泊まりになったんですか? 」

彼女が聞いている泊まった場所とは、司令部の中にある提督執務室の奥にあるちょっとした物置的な広さがある場所の事だ。一応簡単な料理もできるようなキッチンもあるので簡易ベッドを運び入れている。冷泉がこちらの世界に来てからずっと寝泊まりしている場所だ。

 

「うん。っていうかずっとあそこで俺は寝泊まりしているよ。看護師達に拉致られていろいろされる以外は俺の本拠はあそこだよ」

 

「……提督、あなた、自分の家には帰っていなの? 」

驚いたように加賀が声を上げる。

 

「はあ? 家ってなんだい? 」

 

「提督には専用の官舎があるでしょう? まさか一度も帰った事が無いなんて事はないですよね」

彼女の問いに、頷く冷泉。加賀は愕然とした表情を浮かべるとすぐに呆れた表情へと変化する。

「まさかとは思っていたのですが、本当にここに住んでいたなんて。秘書艦を持ち回りにしていた弊害ですね。ずっと忙しそうにしていらしたから、時々お泊まりになっているだけと思っていました。本当にすみません、私がもっと早く気づけば良かったのに」

 

本気で狼狽し申し訳なさそうにする加賀に、逆に冷泉の方が困ってしまう。

確かに、鎮守府司令官のポストについている冷泉であるから、住居くらい確保されていてしかるべきだろう。しかし、冷泉は自分の立ち位置が分からない状況であり、誰が自分の本当の事を知っているか分からない状況にいきなり放り込まれた関係から、誰に聞いて良いか分からなかった。ゆえに自分の家がどこかなんて聞けるはずがなかった。そして、司令官の業務は異常なほど忙しく、仮に住む所を知っていたとしても毎日は帰らなかっただろうからあまり関係がなかったと思う。

「まあ、忙しかったからね。ここで寝泊まりしていた方が楽だからなあ。俺が便利だと思ったからそうしただけだ。そんなことでお前が謝ることはないよ。……それにその話はお前が聞いている件とは違うんだろう? まずはその話のほうから進めよう」

 

「わかりました。……けれど、提督には官舎できちんと寝泊まりしてもらいますからね。こんなところであんな状況で住んでいるなんて私が耐えられませんから」

 

「はいはい、分かってるって」

 

「……では、先ほどの話なんですが、昨日の深夜、提督の宿舎の周りを彷徨いていた人影があったのです。鎮守府のセキュリティは万全ですから外部の侵入者では無かったのですが……」

 

「じゃあ、内部の人間だったんだろ? 宿舎周りを人が移動するなんて珍しくも無いじゃない。深夜まで働いていた職員か、交代勤務の職員なんじゃないのかな」

 

「いいえ、彷徨いていたのは職員ではありませんでした。これをご覧下さい」

そう言って、モニタを操作する。

「その時の監視カメラの映像なんですが……」

画面に人影が映し出される。

 

「あれ? 」

と冷泉は声を上げてしまう。

そこに映った姿は、長い黒髪に巫女服。異常に短いスカートの艦娘だった。

「榛名じゃないか」

 

「そうです、どういうわけか榛名が提督の宿舎に深夜に訪れていたんです」

 

「うーん、着任したばかりだから、道を間違ったんじゃないかな。なんせ、あいつもお酒を飲んでいただろうし」

と感想を述べる。

 

「残念ながら、彼女は昨日私が宿舎まで送っていきました。お伝えしておきますが、彼女はお酒は飲んでいませんよ。それに、提督の官舎と彼女の宿舎は全く正反対の方角ですし、距離も何キロも離れているんですけど……」

 

「じゃあ、何してたんだろうな」

何気ない問いかけに加賀は顔を赤らめる。

 

「独身の男性の家に人気のない深夜に女の子が訪れるなんて、一つしか理由がないでしょう? 」

 

「エー! 」

冷泉は思わず叫んでしまった。

 

「彼女は舞鶴に来たばかりですから、提督が執務室で寝泊まりしているなんて情報を持っていませんから、知り得る情報を元に提督の宿舎に行くしかないでしょうから。そんな深夜に何の用事があったかは分かりませんが、それほど内密にしたい用事があったんでしょうね。どちらにその用事があったかは知りませんが」

 

「ちょ、それは誤解だぞ、加賀。俺は榛名を呼び出したりはしてないし、そんな約束もしていないぞ。俺は無実だ。それに、仮にそんな事を考えたとしても、今の俺じゃあ何もできないんだぞ」

暗にお前が榛名を呼んだんだろうという意味合いも含まれているように聞こえた冷泉は慌てて否定する。

 

「そんなこと分かっていますよ、提督。本当にそうしたいのならここに呼ぶでしょうし、それ以前に他の子にもちょっかい出しているはずでしょうし」

 

「じゃあ、一体彼女は何をしようとしていたんだ? 」

 

「簡単でしょう? 提督が誘った訳でないとしたら……」

加賀が言葉を続けようとした時、ドアがノックされた。

 

「ん? 誰だろう」

朝からは何のアポも入っていないはずだし、誰も読んでいない。

不思議に思いながらも

「入れ! 」

 

「失礼します」

ドアが開かれると、そこには扶桑が立っていた。


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