アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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デレマス二期まであと一ヶ月切りましたね。

……これでまゆちゃんメインの話とかあったらどうしよう。


Lesson82 少しだけ変化した日常 3

 

 

 

「良太郎さん、恵美ちゃんが『友達も一緒に乗ってもいいか』と」

 

「ん? 友達?」

 

「何でも346プロのアイドルで、同じ現場でお仕事らしく……」

 

「あぁ、別にそれぐらいならいいよ。オッケーって返信しておいて」

 

「分かりましたぁ」

 

 マジかよJKが三人も乗るのかよパネェなとどうでもいいことを考えながら快調に車を走らせる。

 

 

 

「最近学校の調子はどう?」

 

 話題を振ってから思ったが、完全に内容が娘との距離感を測りかねているお父さんのそれだった。まゆちゃんみたいな可愛い子が娘ならば万々歳だが。

 

「どう……というと?」

 

「ほら、CDデビューはまだだけどまゆちゃんはもう事務所所属のアイドルでしょ? クラスメイトの対応が変わったりとかしなかった?」

 

 まゆちゃんが事務所に入って一ヶ月少々経つからもうそろそろ収まってくる頃だとは思うけど、こんなに可愛い子がクラスメイトなら男子が黙って……あ、女子校だった。

 

「そうですねぇ……アイドルの事務所に入ったと言った時はそれほどでもありませんでしたが、その事務所が123プロだということが知られた時は結構騒がれましたねぇ」

 

「だろうねぇ」

 

 大勢のクラスメイトに群がられて困惑した笑みを浮かべるまゆちゃんの姿が容易に想像することが出来た。

 

「入学して間もない頃だったので知り合いが増えたといえば聞こえはいいですが、いつの間にか初対面の親友が何人も増えたのは……」

 

「あるある」

 

 自分にも身に覚えのある話だった。他のアイドルや芸能人のサインを貰ってきてもらおうという魂胆が目に見えているのだ。

 

「良太郎さんがデビューしたての頃はどうでしたかぁ?」

 

「ん? 俺?」

 

「はい。あの夜のことは大きくニュースに取り上げられましたから、周りの反応も大きく変わったと思うのですがぁ」

 

「そうだねぇ……」

 

 周りの反応が変わったというか……。

 

「周りの『対応』が変わったというべきかな」

 

「? どういうことですかぁ?」

 

「聞いた話になっちゃうんだけど――」

 

 

 

 

 

 

「周藤良太郎の自宅があるっていうのは、確かこの辺だな……探し当てればいい金になるぞ!」

 

「近所の人に聞いてみるか。あ、すみません、この辺に周藤良太郎の自宅があるって話を聞いたんですけど……」

 

「あぁ、周藤良太郎の家ね! 向こうだよ!」

 

「おぉ! ありがとうございます!」

 

 

 

「……だいぶ歩くけどそれらしい家は無いな」

 

「また別の人に聞くか。すみません、この辺に周藤良太郎の家があるって話を……」

 

「あぁ、周藤良太郎の家ね! 向こうだよ!」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「まだあっちか……」

 

 

 

「……どれだけ歩くんだよ……?」

 

「……す、すみません、この辺に周藤良太郎の……」

 

「あぁ、周藤良太郎の家ね! 向こうだよ!」

 

「「………………」」

 

 

 

 

 

 

「……えっと、ず、随分とご近所の方の対応が……その……」

 

 まゆちゃんが曖昧な笑みを浮かべながら反応に困っていた。うん、分かるよ。俺もこれ聞いた時はそんな感じの反応だったから。

 

「何でも俺の家を探ろうとする輩への対応を自治会で統一してくれたらしいんだ」

 

 しかし方法はどうであれ、何ともありがたいことである。おかげで自宅前をパパラッチが張り込むようなこともないし。多分パパラッチに知られていたら最近家に住むようになった早苗姉ちゃんの写真を撮られてえらい騒動になってたんだろうなぁ。

 

 ちなみに自治会の皆さんには地域の行事にギャラ無しで参加させてもらってプチライブをするという形で恩返しさせてもらっている。

 

「それ以外だと、そうだなぁ。学校の早退や遅刻も増えた。酷い時は丸一週間休んで単位が足りなくなりそうになった時もあった。……それでも――」

 

 

 

 ――良太郎お兄さん、いらっしゃい!

 

 ――良太郎君、新しいコーヒー豆を仕入れたんだけど、飲んでみるかい?

 

 

 

 ――よっす周藤! 久しぶり!

 

 ――周藤君、テレビ見たよー!

 

 

 

「――うん、言うほど変わらなかったかな。寧ろ事務所所属になった今の方が変わったぐらいだよ」

 

「……ふふ、そうですか」

 

 ホント、周りの人間にも恵まれてたんだなぁ、俺は。

 

 

 

「ところで、その自宅を割り出そうとした人と言うのは最終的に何処へ……?」

 

「とあるお寺に誘導されて、そこで住職さんの説法を受けて改心するらしい」

 

「……えっと……」

 

「まゆちゃん、別に無理にコメントしなくていいよ」

 

 

 

 

 

 

「あ、こっちの色カワイー!」

 

「こっちもいいんじゃない?」

 

 美嘉と二人で雑誌を見ながら時間を潰していると、アタシたちの前に一台の軽自動車が停まった。

 

「恵美ちゃん、お迎えに来ましたよぉ」

 

「まゆ!」

 

 助手席にはヒラヒラと手を振るまゆが乗っていた。ということはこれが迎えの車で――。

 

(――あれ? 軽?)

 

 社長の車はセダンだし、和久井さんの車はミニバン。三船さんはそもそも免許を持っていない。レンタカーということもなさそうだから、迎えはこの三人ではない。

 

 じゃあ誰が、と疑問に思いつつも美嘉と一緒に車の後部座席に乗り込んだ。

 

「迎えありがとうございまー……す……」

 

 運転席に座る人物の顔を見た途端、思わず言葉を無くしてしまった。

 

 その姿は、事務所に所属した直後ではアタシも気付けなかった変装した姿。

 

「あークーラー効いてて涼しー! あ、どうも! 恵美の友達で346所属の城ヶ崎美嘉です!」

 

 呆気に取られるアタシと違い、その人物が誰なのか気付いていない美嘉はいつもの様子だった。

 

「ん、お疲れ、恵美ちゃん。そっちの君がお友達だね。初めまして――」

 

 いやまぁ――。

 

 

 

「――周藤良太郎です」

 

「……え? ……えっ!?」

 

 

 

 ――天下のトップアイドルが迎えの車を運転してるとは誰も思わないって。

 

 

 

 

 

 

「もー、ビックリしましたよー。どうして良太郎さんが送迎なんてしてるんですか?」

 

「いやぁ、123プロダクションの一員として社長の命令には逆らえなかったというか、弟は兄に従うしかなかったというか」

 

 などと言うものの別に強制されたものでは無く、俺が後輩の女の子のお世話をしたかったというのもある。何せ同じ事務所に所属する、本当の意味で初めての後輩なのだ。他の子たちは所属が違うためある程度の線引きが必要であるのに対し、恵美ちゃんとまゆちゃんは気兼ねなく可愛がることが出来る。

 

 しかし、ただ可愛がると言っても『周藤良太郎』が仕事関連で優遇することは流石に拙いので、こういった直接仕事と関係しないところで可愛がるしかない。

 

 それでも優遇だの贔屓だの言われてしまいそうであるが、それはそれ、これはこれだ。

 

「それで、えっと……」

 

 バックミラーでチラリと後部座席を確認する。

 

「………………」

 

 そこには恵美ちゃんの友達がガチガチに固まった状態で座っていた。背筋がピンと伸び、両手は握り拳でピッタリと閉じられた膝の上。俯いたままなのでその表情は見えないが、ピンク色の髪の隙間から真っ赤な耳が見えている。

 

 ……今更だけど、この世界の髪の色って結構カラフルだよなぁ。この子はピンクだし、月村の藤色も珍しいし、銀髪の人も割と見る。赤髪や緑髪っていうのもたまにいるし。それに対して他の人たちの反応が特にないところを見ると、これがこの世界の普通なのだろう。最初こそ前世の記憶がある俺は違和感を覚えていたが、流石に二十年近く暮らしていたら慣れたよ。

 

 話を戻そう。そんなガチガチに固まってしまっている……えっと。

 

「城ヶ崎美嘉ちゃん、だよね?」

 

「あ、は、はい! み、346プロダクション所属、城ヶ崎美嘉、十六歳です! 身長161cm! スリーサイズは上からはちじゅ――!」

 

「ちょっ!? み、美嘉ストップストーップ!?」

 

 グルグルおめめでとんでもないことを口走ろうとした美嘉ちゃんの口を恵美ちゃんが抑える。

 

 ……なるほど、八十はあるのか……っと、いかんいかん。

 

「いやぁ、初々しい反応だなぁ」

 

 初めて765プロに行った時もみんなこんな感じの反応をしてくれたんだよなぁ、懐かしい。……いやまぁ、流石にここまでではなかったけど。美希ちゃんが一番近かったかな。

 

「美嘉がリョータローさんのファンだってのは知ってたけど、まさかここまでテンパるとは流石に思わなかった」

 

「うぅ……だ、だって良太郎さんだよ!? あの周藤良太郎さんだよ!? 普通テンパるでしょ!? 恵美だってこうなったでしょ!?」

 

 真っ赤な顔のまま恵美ちゃんの肩を揺さぶる美嘉ちゃんだが、当の恵美ちゃんは頬を掻きながら苦笑い。

 

「いやーアタシの場合はどちらかというと現実味が湧かなかったから」

 

 初めて周藤良太郎と名乗った時、恵美ちゃんはポカンとしてたっけ。

 

 ちなみに初対面のまゆちゃんはすんげぇ蕩けた顔をしていた。ブロマイドとして売り出せば世の中高生に大ヒット間違いなしの凄いいい笑顔だったのを覚えている。

 

 っと、また話が逸れた。

 

「美嘉ちゃん、もしかして妹さんいる? 背が低めで金髪の」

 

「え? あ、はい、小六の妹がいます」

 

 やっぱり。

 

「何処かで見覚えがあると思ったけど……やっぱりあの時の娘だったんだ」

 

「えっ!? あ、アタシ、何処かで良太郎さんとお会いして……!?」

 

「あぁ、ごめん。こっちが一方的に君たちを知ってるだけだよ。それもただ街中で見かけたことがあるっていうだけ。可愛い姉妹だったから印象に残ってたんだ」

 

「かわっ……!?」

 

 確か恭也とクリスマスプレゼントを探してた時だったから、クリスマス前か。もう半年以上前になるのかぁ。あの時は『アイドルとして磨けば光りそう』って思ったけど、やっぱり俺の目は間違っていなかったってことだな。

 

「………………」

 

「あれ? 美嘉ちゃん?」

 

 また真っ赤になって俯いてしまったが。

 

「リョータローさん、もうちょい自分の言動が相手に与える影響力というものを考えて。ただでさえ美嘉はこんな見た目で結構純情なんだから」

 

「サラッとそういうことが言える良太郎さん流石ですぅ」

 

 もしかして今の可愛い発言? ハハッ、まさかそんな、ラブコメの主人公じゃないんだから。

 

 

 

 ……ところで恵美ちゃん、まゆちゃん? 今お兄さん運転中だから、その両頬を引っ張ってる手を離していただけないかな?

 

 

 




・住職さんの説法
特にネタがあるわけじゃないけど、もしかしたらTさんのご親戚かもしれない。
喝っ!!

・カラフルな髪の色
今更ながら触れてみる。
余談だが、作品によっては設定とメディアの髪の色が違うことも。例えば禁書目録の黒子はピンクに近いが設定では茶髪。ちーちゃんも青に見えるが実際には黒髪らしい。
この作品では基本的にメディアでの色を基準にしております。

・乙女な美嘉ちゃん
見た目は完全に遊んでるが、実際は乙女。(劇場19話など)

・ラブコメの主人公じゃないんだから。
そうですね、ネタ小説の主人公ですから(白目)



 自宅バレからの尾行が無いことに対するフォロー。(フォローになっているとは言っていない)

 ちなみに恵美とまゆにフラグが立っているわけではないです。

 二人がどういう感情を持っているのかはまた別のお話。



『どうでもいい小話』

 「勧誘チケットでもURは出る」っていうの、都市伝説じゃなかったんですね……。

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