アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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実はスマホを機種変更してついにラブライバーになった作者。

アイマスの小説で報告することじゃない?
ははっ(愛想笑い)


Lesson73 妨害、全力、そして決別 5

 

 

 

 まさか歌っただけで死にそうになるとは思いもよらなかった周藤良太郎です。

 

 歌い終わった後で激しい頭痛に襲われ、意識がプッツリと切れたかと思ったら気が付いたら病室だった。リアルで『知らない天井だ』状態になるとは思いもよらなんだ。

 

「なー兄貴ー退院いつー?」

 

「明日。今日は一日検査入院だ」

 

「えー?」

 

 まぁ何となく予想していたが。意識無くして倒れるとか結構ヤバいことだし。脳障害を疑われてもおかしくない。

 

 しかし自身では健康体のつもりなので一日ベッドで寝ていることほど退屈なものは無いのだ。

 

「はいリョウ君、リンゴ剥けたよー!」

 

「あぁ、うん。ありがと」

 

 俺のベッドの傍らで皮を剥いていた母さんからリンゴを受け取る。しっかりと兎さんカットがしてあるところが何とも我が母親らしかった。

 

 ちなみに今でこそいつものようにニコニコと笑っている母さんだが、俺の意識が戻った直後はそれもうワンワンと号泣されてしまった。兄貴が事故に逢って入院した時はまだ怪我だけだったのでここまで泣かなかったが、どうやら以前に急に意識を失ってそのままお亡くなりになった親戚がいたらしく、その時のことを思い出して余計に不安になっていたのだろう。本当にご心配をおかけしました。

 

(それにしても)

 

 まさか意識を失うことになるとは流石に思いもしなかった。ちょっかいをかけてきた黒井社長を「ちょっとビックリさせてやれ」ぐらいのノリでパッと思い付いた歌詞に何となく思い付いた曲や振付と一緒に披露してみたところ、どうやらその処理に脳が追い付かなくなったのだろう。と、俺は考えている。

 

 今思い返してみると曲や振付は今までのものに似たものがあったので、多分自分が知っているものの中から歌詞や雰囲気に合っているものを無意識的に組み合わせたのだろう。

 

 果たして、これも『アイドルとしての才能』の一つなのだろうか。

 

「とりあえず、りんちゃんや麗華ちゃんには真っ先にお礼を言っておけよ。りんちゃんはいち早くお前の異変に気付いて駆け寄ってくれたらしいし、麗華ちゃんはその場で冷静な判断を取ってくれたらしいんだから」

 

「え? ……あ、あぁ、分かった」

 

 麗華が冷静な判断を、というのは若干意識が残っていたから覚えているのだが、りんが俺の異変に気付いていたというのは初耳だった。

 

 無表情を貫いていたはずだが何故りんにはバレてたんだ? むむむ、謎である。

 

 

 

「それで? あの曲はどうするんだ?」

 

「……何が?」

 

「おい、本当に頭大丈夫なんだよな?」

 

 心配してくれるのは嬉しいのだが、物言いは大変失礼である。

 

「昨日の最後に歌った新曲のことだよ。結構色んな人から問い合わせが来てるぞ。発表はするんだろ?」

 

「あー、うん。そうだな」

 

 シャリシャリとリンゴを食べながら考える。どうでもいいが兎さんカットは半分以上皮が残ったままなのだが果たしてこれを「皮を剥いた」と表現してもいいものなのだろうか。

 

「……いや、発表はしない」

 

「はぁ?」

 

「発表無し。兄貴、適当な理由付けといて」

 

「いや待て待て待て」

 

 もう一つと兎さんリンゴに手を伸ばすが、兄貴によって皿ごと遠ざけられてしまった。

 

「お前、あれだけのことをしておいて発表しないとかそんな馬鹿な話があるか」

 

「コウ君、リョウ君のリンゴ取っちゃダメだよー? 食べたいならお母さんが剥いてあげるからー」

 

「母さん、割と真面目な話するからちょっと待って」

 

 相変わらず何処かズレている我が家のリトルマミーは一先ず置いておくことにして。

 

 まぁ、兄貴の言うこともご尤もである。自分で言うのもアレだがこれだけ注目を浴びているアイドルがあれだけ派手に新曲を歌っておいてそれを発表しないなどという話は無いだろう。

 

 だが俺も考え無しに言っているわけではない。

 

 確かに歌っている時こそ間違いなく色々と考えていたが、アレは未完成すぎる代物だ。『あの時』『あの場所』でだからこそ歌えた曲であり、もう一度歌ってくれと頼まれても全く同じ歌を歌える自信は無い。アレを『周藤良太郎』の歌とするには未完成で不完全だと俺は考えているのだ。

 

「という訳で新曲として発表するのは無し。するとしても、もう少し落ち着いて『然るべきタイミング』と『然るべき場所』で発表するよ」

 

「だからってお前……」

 

「せやかて工藤」

 

「バーロー服部」

 

「人違いです」

 

「こちらこそ工藤ではないです」

 

 何か言いたそうな兄貴だったが、やがてため息を吐いてから首を横に振った。

 

「……分かったよ。他でもない『周藤良太郎』の考えだ。上手い言い訳を考えといてやるよ」

 

「悪いね」

 

「悪いと思うんならこの休暇中にちゃんと勉強して受験頑張ってくれ」

 

 ちなみにここまで二人して母さんが剥いた兎さんカットのリンゴをシャリシャリしながら会話していたので第三者から見たら大変シュールな光景だっただろう。

 

 

 

 

 

 

 コンコン。

 

 母さんがお手洗いのために席を外して数分もしない内に病室の扉がノックされた。

 

「はーい、どうぞー」

 

「邪魔するぜ」

 

「やっほー!」

 

「お邪魔します」

 

「失礼します、良太郎君、先輩」

 

 入室を促すと、入って来たのはジュピターの三人と留美さんという珍しい組み合わせだった。当然のことながらステージ衣装ではなく、三人とも私服姿。そしてまさかの留美さんまでもが私服だった。どうやら961プロの社長秘書という立場ではなくプライベートということなのだろう。留美さんの手にはお見舞いの品と思われるフルーツ籠が携えられていた。

 

「おっすおっす、昨日ぶり」

 

「……随分と元気そうだな」

 

「いきなり倒れたって聞いてビックリしたんだよ?」

 

「でも元気そうで何より」

 

「私も話を聞いて凄い心配しましたよ」

 

 まぁ病気とかそう言うのじゃなくてあくまで頭痛の延長線みたいなものだった訳だし。

 

「そういえば、961を辞めるんだってな」

 

「……あぁ」

 

 それは兄貴から聞いたことだった。まだ正式に公表したわけではなく、これから関係各所にFAXを送った後で記者会見を開く予定とのこと。

 

「本当は、記者会見で黒井のおっさんが今までどんなことをしてきたのか公表してやるつもりだったんだが……」

 

「止めといた方がいいだろうなぁ」

 

 賢明な判断である。例えそれらが事実だったとしても、名誉棄損と訴えられれば敗けるのは何の後ろ盾も存在しないジュピターだ。ちょっと声をかければ黒井社長に対抗できそうな『大物』の協力を得ることが出来るだろうが、それでも冬馬たちが不利なのは圧倒的に明らかである。

 

 まぁ、ジュピターという牙が抜けた以上961プロダクションは当分大人しくならざるを得ない。元々黒井社長を懲らしめるということが目的ではなかったので、今はこれで十分だろう。

 

「それに、961から抜けたのは俺たちだけじゃないしな」

 

「え?」

 

 それは一体どういう意味なのだろうか。

 

「それはですね」

 

 その意味を測りかねて首を傾げていると、留美さんがいつものクールな表情に僅かばかりの楽しそうな笑みを浮かべて一歩前に出てきた。

 

 

 

「私も961プロダクションに辞表を出してきたからです」

 

 

 

「「……はぁ!?」」

 

 どうやらこれは初耳だったらしい兄貴と共に壮大に驚愕してしまった。

 

「いやいやいや、そんなに簡単に辞めれるんですか?」

 

 よく知らないけど社長秘書ってそんなにあっさりと辞めてこれるようなものじゃないような気がするのですが。

 

「あらかじめ人事部に話を通しておいて……まぁ、色々とやったんですよ」

 

 内緒ですよ、と人差し指を立てる留美さん。その色々が怖すぎて聞けないです。

 

「それに『あの話』を先輩と良太郎君から聞いていた時から辞めるつもりでしたから」

 

「……そうでしたか」

 

 これで黒井社長は『事務所の看板アイドル』という牙だけでなく『優秀な秘書』という牙までも失ったということか。これならば当分黒井社長が動くことは無いだろう。

 

 ……そうだ、丁度いい。

 

「兄貴、今ここでこいつらに『あの話』するけど」

 

 兄貴に了承を取ると、兄貴は無言のまま頷いた。

 

「三人に聞いて欲しい話があるんだ」

 

「……何だよ」

 

 留美さんとの会話でもあった『あの話』が何なのか興味があったのだろう三人は素直に俺の言葉に耳を傾けてきた。

 

 

 

「実はな、俺と兄貴で新しい事務所を設立するんだ」

 

 

 

「……は?」

 

「あ、新しい事務所?」

 

「しかも設立するって……もう確定事項ってことかい?」

 

 お、北斗さん鋭い。

 

「もう関係各所とある程度の話もつけてある。後は俺が復帰する春を待って記者会見をするだけの状態だ」

 

 まだオフレコで頼むぞ、と人差し指を立てる。

 

 ちなみに融資してくれる金融機関も見付けてある。いくら貯金が貯まっているからとはいえそれだけで新事務所の設立は出来ないのだ。

 

「まぁ、こいつが受験勉強をしている間に俺にはまだやることがあるんだけどな」

 

 名目上は俺の受験勉強のための活動休止。勿論それも間違いないではないのだが、それと同時に新事務所設立のための準備期間でもあったということだ。

 

「もしかして和久井さんが辞表を出したのって……」

 

「えぇ、先輩の新事務所で雇ってもらおうと思ったからよ。……雇っていただけますよね、先輩?」

 

「も、もちろんだよ、留美」

 

 雇っていただけなければ私は路頭に迷ってしまいます、と語っている瞳で微笑む留美さんに、兄貴は笑みを引き攣らせながらもしっかりと頷いた。まぁ実際、留美さんほど優秀な人が来てくれるのは大変有難い。元々こちらからそれとなく声をかけて引き抜きたいと考えていたので丁度良かった。

 

「早速優秀な社員をゲットしたところで……ジュピターの三人にも話がある」

 

「……俺たちに、か」

 

「あぁ、お前たちに、だ」

 

 元々『Jupiter』の三人に持ちかけるつもりだった、大切な話。

 

 

 

「冬馬、翔太、北斗さん。君たち三人を俺たちの新事務所にスカウトしたい」

 

 

 

 そう、実はこれが以前961プロダクションによって行われる妨害行為をどうにかするための話し合いの場で俺が提案したこと。『新しい事務所を設立してジュピターの三人を引き抜く』ということだったのだ。

 

 オイオイやってること961とさほど変わんないんじゃねーかと言われそうではあるが、正直看板アイドルであるこいつらを引き抜くぐらいしか961を弱体化させる方法を思いつかなかったのだ。

 

 まぁ例え引き抜きに失敗したとしても新事務所という分かりやすい新しい標的を作ることによって961からのヘイトを全部こちらに向けようという意図もあった。

 

 結局、こちらからのアクションを起こす前に961から勝手に牙が抜けてしまったので意味無い話になってしまったが。

 

 それでも、この新事務所設立は俺だけの願いではないのだ。

 

「元々俺も、良太郎以外のアイドルをプロデュースしてみたいと考えていてな。勿論、自分の目で見定めた新人を一からプロデュースもする。でもジュピター、君たちも是非プロデュースしてみたいと考えている」

 

 そう、これは『周藤良太郎(おれ)』というトップアイドルをプロデュースして培った経験を活かして新たなアイドルをプロデュースするという兄貴の『夢』でもあるのだ。

 

「丁度いい、なんて言い方をすると三人に対して失礼な物言いになるかもしれない。それでも、俺たちは三人に来てもらいたいと考えている」

 

 左の手のひらを上に向け、冬馬に向かって差し出す。

 

 

 

「まだ見ぬ世界へ、一緒に来る気はないか?」

 

 

 

「………………」

 

 冬馬は差し出された俺の手をじっと見ていた。後ろの二人は冬馬の背中を見たまま何も言わない。二人とも、冬馬に全ての解答を任せるつもりなのだろう。

 

「……俺は……俺たちは」

 

 一瞬ピクリと動いた右手を握りしめ、冬馬はその右手を左の手のひらに打ち付けた。

 

「今の俺たちは『961プロダクションのJupiter』じゃねぇ! 今までの名声を捨てて、また一から始める! 一から始めるっつってんのに、お前の手なんか取ってたまるか!」

 

「あ、今の冬馬君の言葉を訳すと『とりあえず一から始めたいから、今は遠慮しとく』っていう意味だよ」

 

「だからせめて僕たちがテレビ出演出来るぐらいにまで戻ってきたら改めてお願いするよ」

 

「お前らあぁぁぁ!?」

 

 折角カッコよく決めたにも関わらずものの数秒で仲間の裏切りを受けた冬馬だった。

 

「……そうか。それじゃあ当分は無理か」

 

「はっ! 舐めんじゃねぇ! 半年以内に戻ってきてやるよ!」

 

「大丈夫ですよ、良太郎君。彼らの面倒は私が見ますから」

 

「……え?」

 

 そこで急に言葉を挟んできた留美さんに、冬馬が呆気に取られる。

 

「新事務所が設立する春までにしっかりと彼らをプロデュースして連れてきます。安心してください、先輩」

 

「あ、いや……うん、ありがと」

 

「え、えっと、わ、和久井さん? 俺たちは自分の力で……」

 

「さて、それでは帰りますよ天ヶ瀬君、御手洗君、伊集院君。早速打ち合わせをしましょう」

 

「「「……はい」」」

 

 それではお大事に、と言い残し、ジュピターの三人を引き連れた留美さんは病室を出て行った。やけにドナドナが似合いそうな退室シーンだった。

 

「……大丈夫なのかな」

 

「……ま、まぁ留美もアイドル事務所の社長秘書をやってたぐらいだし、大丈夫だろ……」

 

 心配はしてないのだが不安を抱く俺たち兄弟だった。

 

 

 

 その後、たった一日の検査入院だというのに765や1054、876など様々な人たちがお見舞いにやって来たのだが、それはまた別のお話ということで。

 

 

 

 この日、長らく続いた961プロダクションとの諍いが一先ず閉幕することとなった。

 

 

 




・むむむ、謎である。
鈍感系主人公のノルマ達成。

・「せやかて工藤」
まさかコナンが不定期連載になるとは思いもよらなかった。
どうか体に気を付けて、それでもどうか頑張って完結してもらいたいものです。

・当分黒井社長が動くことは無いだろう。
※ただし今後の本編中で絶対に動き出すとは言っていない。

・新しい事務所
名前は既に決定済み。公開は三章突入後。
一応検索かけて引っかからなかったので少なくともハーメルン内では被らないはず。流石に掲示板ssまでは把握できませんが。



 という訳でようやく961プロダクションとの争いが終わりました。本格的な黒井フルボッコを期待した方にはやや不服な終わり方でしょうが、優秀なアイドルと優秀な秘書が抜ければ十分な痛手ですので、そこで手を打っていただければ。

 そして新事務所設立のお知らせです。一体誰を所属させるか、誰だったら所属させても本編に影響しないかなどに頭を悩ませております。何人かは確定しているのですが。

 さて、いよいよ次回からアニマス二期ラスト、つまり第二章ラストのお話となる春香回が始まります。(都合によりクリスマス回はキンクリすることになりました)

 アニマス本編を大きく変えすぎない程度に良太郎を絡ませ、外伝のビギンズナイト、そしてその後の第三章へと繋げていきたいです。

 それでは。



『デレマス十一話を視聴して思った三つのこと』

・【悲報】蘭子のみソロ(ぼっち)

・ロックとは(哲学)

・猫耳は商売道具なんですね失望しましたみくにゃんのファンやめて前川さんのファンになります。



おまけ1
『劇場版プリキュアを観て思った三つのこと』

・とりあえず今年も安定のえりかで一安心。

・歴代プリキュアの紹介とOPED曲多めなので小さいお友達はやや退屈そうだったが、大きいお友達は懐かしくて楽しめた。

・だがモー娘。EDに実写で割り込んできたお前たちは絶対に許さない。



おまけ2
『劇場版仮面ライダーを観て思った三つのこと』

・こ、光太郎ぉぉぉ!!(;∀;´)

・た、たっくぅぅぅん!!(;∀;´)

・ご、剛ぉぉぉ!?Σ(゜д゜;)

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