「さてと、腹ごしらえも終わったことだし、リハーサルの続きと行くか」
「あ、そーいえばリョーさんっちは涼ちんたちのインタビュー受けたっすか?」
「……は? インタビュー? 四季、なんの話だ?」
「なんか876プロの三人でカメラ片手に色んなアイドルに話聞いて回ってたっすよ」
「……こうしちゃいられねぇ!」
「確保ぉぉぉ!」
「え、ちょっ、まっ、まだなんも言ってねぇぞ!?」
「うわっ!? どこからともなく現れた大勢のスタッフにリョーさんっちが取り囲まれたっす!?」
「……良いお兄さんね、このバカがしそうなことを先回りして対策するなんて」
「うん、アタシも自慢のお義兄さんなの!」
「アンタの話は聞いてない」
「ん? なんか向こうが騒がしいね」
「食事スペースの方?」
「何かあったんですかね?」
正直気になるところではある。しかし先ほどのフェイトちゃんのような可愛らしいハプニングならいざ知らず、本当のハプニングだったとしたらカメラに映すわけにはいかないのでスルーしよう。
「それにしても、結構色々と撮影出来ました?」
「そうだね。なんだかんだ言って色んな人の話を聞けたね」
「私たち頑張りましたね!」
カメラを操作して、撮影した動画のサムネイルを表示させる。自分たちの自己紹介から始まり、ハイジョの五人、舞台裏からのリハーサルの様子、リップスの五人、まゆさんとありすちゃんのやり取り、翼さんと未来ちゃんのフードファイト、トライエースの三人。
その後も、何故かサッカーに興じていた蒼井兄弟と翔太くんとピエールくん、ギリギリまで振り付けの微調整をしていた美琴さんと志保ちゃん、念入りに柔軟体操をする先生方、何故か良太郎さんの名前を出すと挙動不審になるりあむちゃん、何かを話し込んでいた冬馬さんと春香さんといった、舞台裏ならではの姿を多く撮影することが出来た。
「山下先生、腰大丈夫だったのかな?」
「個人的には顔面から壁に突撃してたりあむちゃんの方が気になるかな……」
「冬馬さんと春香さんはとても仲良さそうでしたね!」
アイドルたちの色々な姿をカメラに収めることが出来たため、この時点でもおおよそ今回のミッションは成功したと言っても過言ではないだろう。
そうして次に僕たちがやってきたのは……。
「うーん、やっぱりこっちから見ても広いですねー!」
「流石ドーム」
「僕たちだけの力じゃまだまだ来れそうにないところだよねぇ……」
アイドルたちの舞台裏から少し離れた観客席側である。
普段は野球で使用される全天候ドームというだけあってやはり広い。しかしそれだけ空間に、僕たちを含めて数十人程度の人間しかいないというのが少しだけ不思議な光景でもあった。
「あ、またリハーサル始まったみたいだね」
「さっきまでお昼休憩?」
「まぁご飯食べてないのは良太郎さんたちも同じだったからね」
先ほどまで中断していたらしいリハーサルが再開していて、先ほどインタビューをしたハイジョの五人がステージへと上がっていた。彼らは今回のライブで唯一楽器を使うため、それらを手早く設置するためのスタッフのリハーサルにもなっているようだった。
「向こうから見えますかね!?」
「どうかなぁ」
物は試しにヒラヒラと手を振ってみるが、流石に誰も僕たちに反応する人はいなかった。
「こっちは暗いし、見えないみたいだね」
まだドームの全ての明かりがついているわけではなく、僕たちがいるところはほぼ真っ暗。いくらなんでも見えないだろう。
やがてチューニングが終わったらしいハイジョの五人によるリハーサルが始まった。しっかりと音響に乗せられたバンドの音がドーム中に響き渡る。カメラは先ほどから回したままなので、バッチリと彼らの演奏の音も入っていることだろう。
「やっぱりハイジョの皆さんの音楽は、聴いていると心がワクワクしますね」
「青春を思い出す?」
「それ僕たちの年齢で言ったら色々な人に怒られそうだよね……」
とはいえ今回のライブに出演するアイドルたちは、程度に違いはあれどそれなりに青春の時間をアイドルに費やしてきた人物たちばかりである。アイドルの仕事があったがために学校の行事に参加出来なかったという経験は、みんな一度ぐらいは経験したことがあるはずだ。
『まだまだ! 盛り上がっていくっすよー!』
ボーカルである四季くんの声が響く。
「なんか文化祭みたい?」
「あっ、わかります! 確かにそんな感じがします!」
「そうだね……」
暗い体育館。明るいステージ。何度も経験したわけじゃないけれど、文化祭のステージはこんな感じだったような気がする。
「……そっか! 私たちのライブ直前のこのワクワクは、文化祭直前のそれに似てるんだと思います!」
「なるほど」
「文化祭かぁ」
随分と規模の大きい文化祭である。何せ何万人という規模のお客さんが一つのステージの前に押し寄せ、更にその数十倍のお客さんがステージの様子を配信で見守るのだ。ついでにいやらしい話になるが、僕たちの想像もつかないほど大きなお金も動いている。
しかしアイドルという文化の一大イベントと言う意味では、これも文化祭なのかもしれない。
「そういえば文化祭って、準備しているときが一番楽しいって言わない?」
「そう言う人もいるよね」
絵理ちゃんの言う通り『準備しているときが一番楽しい』と言う人もいる。例えば旅行のときも、計画しつつアレコレ話しているときが楽しかったりする。
「私はちょっと違います。準備しているときが一番楽しいのはそうですけど、本番も一番楽しいです!」
「「うん。……うん?」」
ごめん愛ちゃん、二人揃って聞き返しちゃった。
「えっと、それは同じぐらい楽しいっていう意味かな?」
「違いますよー。一番が二つあるっていう意味です」
「愛ちゃん、現代文の成績本当に大丈夫?」
「絵理さん!?」
愛ちゃんはウンウンと頭を悩ませながら必死に言葉を探している様子だった。
「なんというかこう……ずーっと一番楽しいんです。これ以上ないってぐらい、私の言葉では言い表せられないような楽しいがずっと続いてるんです」
「……それなら、まぁ」
「なんとなく分かるかな?」
「分かってもらえてよかったです!」
ちなみに今の会話も当然録音されているため、これを見ている人たちにも愛ちゃんの発言の意味を考えてもらうことにしよう。
「……そろそろ、また僕たちの出番が来そうだね」
リハーサルも終盤。出演アイドル全員がステージに上るタイミングがあるため、僕たちもそろそろ舞台裏で待機しなければならない。
「このあと二回目のリハーサルもあるから、舞台裏撮影はここで一旦終了かな?」
「次は別の人にカメラを回してもらうのも面白いかもしれないね」
「そのときは私たちもインタビューを受けてみたいですね!」
「そうだね。こうやって……両側から涼さんを挟む感じで?」
「こ、こんな感じですかね!」
「僕が燃えちゃうよ!?」
こんな絵理ちゃんと愛ちゃんに両腕を組まれている状態が映像として残されたら、ネットどころかリアルで僕に火が付くような事案になってしまう。
「それにこの流れだったら愛ちゃんと絵理ちゃんと一緒に映るのは、今回ユニットを組む美優さんでしょ!?」
「……え、涼さん、美優さんの方がいいの?」
「そ、そうなんですか!?」
「絶対にそんなこと言ってないって分かって言ってるよね!?」
ダメだ、前回からラブコメ感が抜け切れていない。一体どうした
「ふふっ、冗談だよ?」
「冗談じゃなかったら困るよ……」
カメラに向かってシメの言葉は……まぁ、まだ言わなくてもいいかな。僕たちのリハーサルが終わったらまたカメラを持つ機会があるかもしれないし。
ただまぁ、最後に一言だけ。
「多分これを見ているみんなも、実際に今回のライブを楽しみにしていてくれたみんなも、すっごいワクワクしながらライブを見てくれたと思う」
「そのワクワク、実は私たちも一緒なんだよ?」
「みんなの『今日はライブ本番だ!』っていうワクワクと、『アイドルのステージが楽しい!』っていうワクワクは、私たちアイドルも感じていることなんです!」
ステージの上と下、その違いはとても大きいようで、それでも実のところよく似ている存在だったりする。
僕たちだけじゃない。今回撮影してきたアイドルたちもみんな『ステージが楽しみでしょうがない』といった感情が隠しきれていなかった。
ライブと言うものは……やっぱり、楽しいのだ。
「だから今日のライブ……僕たちも、皆さんと同じぐらい楽しんできます!」
「当然、応援してくれるよね?」
「ステージの上でお会いしましょう!」
「……そういえば、何か忘れているような気が?」
「あ、絵理ちゃんも? 僕もそんな気がするんだよね」
「私もです! お揃いですね!」
三人並んで歩きながら、そんなことを口にする。
何か大事なことを誰かに言わなきゃいけないような気がしていたんだけど……なんだったんだろうか?
「……ふっふっふっ、出迎えご苦労様。JANGO君が会場に来れなくなったって聞いたときはちょっとだけヒヤッとしたけど、内通者を何人か作っておいてよかったわ。ね、二人とも」
「……ほ、本当に良かったのかなぁ……?」
「いいのよ。こんな楽しそうなことにアタシたちを混ぜてくれない方が酷いんだから」
「よし、それじゃ……こっそりと、私たちも準備するわよ~……うふふっ」
・良太郎@確保済み
おらっ、今のお前は演出側なんだよっ、大人しくしてろ!
・今回撮影されたアレコレ
残念ながらオールカットです()
・「ふっふっふっ」
隠す意味ある?
舞台裏撮影という括りでのお話はコレで終わりです。本番が始まるとは言っていない。
次回は番外編を挟んだ後、非出演者サイドのお話。
『どうでもいい小話』
楓さんのコラボSSRとか聞いてないんですけど!?(貯めててよかった無課金石)