アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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真面目な話はほどほどに。


Lesson392 ここで舞台裏を覗いてみよう 2

 

 

 

「え、撮ってんだコレ。やっほー! 城ヶ崎美嘉でーす! 今回、八つも事務所が集まるすっごいライブに参加させてもらうことになって、主催の周藤良太郎さんと東豪寺麗華さんにはすっごい感謝してます! めーっちゃ緊張してるけど、逆に今のアタシならその分すっごいライブに出来ると思うから、みんな見ててね! ……って、これ観てる人はもうステージを観終わった後か。……後だよね? 観てくれたよね? それじゃあきっと観てくれている偉い子に~……お礼のチュッ……なんちゃって」

 

「「「………………」」」

 

「……え、なにアンタたち、その顔は何?」

 

「「「いえ、なんでもないです美嘉さん」」」

 

「絶対に何かある感じなんだけど!?」

 

(ごめんなさい……本当にごめんなさい美嘉さん……!)

 

 こんな、こんなカリスマギャルとしては満点の反応をしてくれたというのに……! 先ほどステージ上で情けなく悲鳴を上げる姿を撮影したばかりなんです……!

 

 どう考えてもコレは両方とも採用されるやつ……! そしてそのままの時系列で立て続けに収録されるやつ……! 今の完璧な投げキッスも『あぁさっき散々リテイクしてたからなんだろうなぁ』って思われちゃうやつ……! 良太郎さんと幸太郎さんならば絶対にやる……!

 

「強く……生きてください……!」

 

「本当に励ますつもりがあるならせめて説明してくんない!?」

 

 なお『お前たちがカメラに収めたせいだろう』というツッコミには耳を塞ぐ。僕たちは悪くない、うん悪くない。

 

 

 

 というわけで、先ほどまでステージ上でリハーサルをしていた五人へとカメラを向ける。

 

「346プロダクション所属『LiPPS』の五人です! よろしくお願いします!」

 

「よろしく」

 

「まぁあたしだけは123プロなんだけどね~」

 

 改めて五人が並んでいるところを見ると……なんというかやっぱり『強い』という言葉を思わず思い浮かべてしまう。

 

 『LiPPS』は二年前に結成し、僅か一年という短い活動期間にも関わらず多くの女子中高生の心を奪っていった伝説的アイドルユニットである。人気の瞬間最大風速で言えば、おそらくその年における人気ナンバーワンアイドルユニットと呼んでも差し支えないだろう。

 

 そんな彼女たちに対して『今回のライブで見てもらいたいところは』という当たり障りのない質問を投げかけると、リーダーである速水奏さんは「そんなの決まってるわ」と小さく笑った。

 

 

 

()()()()()()()()()私たちの輝きよ」

 

 

 

「……最期」

 

 ポツリと、奏さんの言葉を絵理ちゃんが繰り返す。

 

 それは、つまり……。

 

 

 

「え!? 誰かアイドル辞めちゃうんですか!?」

 

 

 

「辞めっ!?」

 

「愛ちゃん!?」

 

 早とちりした愛ちゃんが驚いて大声を出してしまった。当然そんなことを叫んでしまえば僕たちのやり取りを聞いていなかった人たちの耳にも入ってしまうわけで……。

 

 

 

 ――え!? リップスの誰か辞めるの!?

 

 ――これがラストライブ……ってこと!?

 

 ――そんな! オレたちと甲子園に行くんじゃないのかよミカ上!

 

 ――そうっすよ! 約束したじゃないっすかミカ上!

 

 

 

「違うわよ!? 誰も辞めないわよ!?」

 

「アンタらは分かってて言ってるでしょ黙ってなさいおバカ二人!」

 

「フレちゃん……向こうに着いたらお手紙出してね……!」

 

「フランスの空の下から、みんなの活躍を見守ってるよ……!」

 

「周子さんとフレデリカさんが寸劇始めちゃってる……」

 

 食事スペースからカレーを持ち出してモグモグしていた男子高校生二人はともかく、他の人たちに広がった衝撃を治めるのに少々時間を費やすこととなってしまった。

 

 

 

「……で、なんだっけ?」

 

「最期の輝きがというお話でした……」

 

 騒ぎが落ち着いたところで(どうせカットされないだろうし形式だけの)テイクツー。

 

「今回こういう縁があってもう一度志希がこっちに来てくれたわけだけど……やっぱりそう何度も再結成をするようなものじゃないと思うのよ」

 

「でも再結成すればファンは喜ぶと思いますよ?」

 

「……これは『私たち五人が出した結論』なのよ」

 

 そう言って奏さんは「はい真面目なお話終わり」と手を叩いた。

 

「またいつか話す機会はあると思うけど、それはここじゃないわ」

 

「折角話を聞きに来てくれたのに、ゴメンね三人とも」

 

 

 

「話して欲しかったらそれなりのもんを用意してもらわないとね~」

 

「おうおうねーちゃん誠意見せろや~」

 

「こっから先は有料コンテンツで~す」

 

「お金取られちゃうんですか!?」

 

 

 

「……もうちょっとだけ愛ちゃんに疑うことを教えてあげて?」

 

「そちらも、お三方の手綱の握り方をもう少し考えていただけると……」

 

 お互いにお互いの痛いところを突かれて、僕と絵理ちゃんと奏さんと美嘉さんは沈黙するのだった。

 

 

 

 

 

 

「……結局はぐらかされちゃった」

 

 五人の背中を見送りながら絵理ちゃんはポツリと呟いたが、それには僕も同意見だった。

 

 グダグダしてしまって話が流れてしまったようにも見えたが……少なくとも僕は()()()()()()この話を逸らしたように感じた。

 

「やっぱり色々と思うところはあるんだろうね」

 

「……ちょっとだけ気持ちは分かるような気もします」

 

「愛ちゃん?」

 

 少しだけ声のトーンが落ちたことに気が付いて視線を向けると、愛ちゃんは寂しそうな笑顔を浮かべていた。

 

「私たちも……一度解散することになったじゃないですか」

 

「それは……うん、そうだったね」

 

 

 

 ――アイドル『秋月涼』の性別バレ。

 

 

 

 一度は僕たち『Dearly Stars』も、そんな僕のせい(くだらないこと)で解散することになってしまった。

 

 共に繋いできた想い。共に築いてきた絆。それらは心の中には間違いなく消えずに残っていて……しかし、それらが一度断ち切れてしまったことも事実だった。

 

「あのとき、私すっごく悲しかったです。涼さんがアイドルを辞めちゃうかもしれないってこと以上に、私たちのこれまでが無くなってしまうってことが、凄く悲しかったです」

 

「あと涼さんが嘘をついてたことも?」

 

「……それもちょっとだけ悲しかったです」

 

「その件に関しましては何度謝罪してもしたりません……」

 

 しかしそれでも、愛ちゃんと絵理ちゃんは笑ってくれた。

 

「だから『解散してもすぐに再結成出来るから』っていうのは……何か違うような気がするんです」

 

 どうせまた治るから……そんな理由で何度も瘡蓋を剥がしているとやがて痕が残ってしまうように。きっと彼女たち五人にしか分からない何かがあるのだろう。

 

「……いずれ話すって言ってたから、そのときに聞いてみよう?」

 

「そうですね! こんなよく分からないカメラの前で語ってもらうのは失礼ですもんね!」

 

「「……うん、そうだね!」」

 

 和久井さん、引いては123プロや1054プロなどの運営からの直々の依頼であるにも関わらず、既にこんなカメラ扱いである。

 

 いやだってこの短時間で撮影した映像が殆どあんな感じになってしまっているのだからしょうがないじゃないか。

 

「これ良太郎さんの私物のカメラとかじゃないよね……?」

 

「呪い的な?」

 

 そういう補正がかかっている代物なのではないかと思わず疑ってしまう。

 

 ……え? 撮影している僕たちの責任? ハハッ、何のことやら。

 

 ちなみにリップスの五人が離れてからはしっかりと録画はオフにしてあったりする。

 

 

 

「さてそれじゃあ……そろそろ僕たちも朝ご飯を食べに行こうか」

 

「そうですね! お腹空きました!」

 

「愛ちゃんは朝ご飯食べてきたんじゃ……あぁ、大声出してカロリー消費?」

 

 大きな声を出すことによるカロリー消費……名付けて日高愛式ダイエット?

 

 

 

「ダイエットはそんな簡単なものじゃないんですよぉ!」

 

 

 

 うわビックリした。

 

「あっ! まゆさん!」

 

「はぁい、まゆですよぉ」

 

 何故か熱い迫真の言葉と共にカットインしてきたまゆさんだったが、愛ちゃんが名前を呼ぶと一瞬でいつもの優しい笑顔のまゆさんに戻った。い、今のは一体……?

 

「まゆさん、とてもスタイルがいいのに気にするタイプなんですか?」

 

 触れない方がいいのかと思っていたのに、絵理ちゃんが躊躇なく切り込んでしまった。

 

「絵理ちゃん……気にしない女の子の方が……奇特なのよぉ……!」

 

「はぁ……」

 

 僕は余計なことは言わずに黙っておこう……。

 

「それで、三人は今から朝ご飯? ()()()もそうなのよぉ」

 

「たち? ……あっ! 橘さんおはようございます!」

 

「っ、お、おはようございます……」

 

 どうやらまゆさんは、今回のライブでユニットを組む橘ありすちゃんと共に朝ご飯を食べに行くところだったらしい。

 

「私も朝ご飯は食べてきたんですけど……」

 

「346プロはお弁当用意してあったんだっけ」

 

「はい。……でも、その」

 

 ちょっとだけ恥ずかしそうに視線を逸らす橘さん。お腹が空いたということを言い出しづらい辺り、なんだか微笑ましかった。

 

「……あらぁ? そのカメラはどうしたの?」

 

「えっ」

 

 僕が手にしていたカメラに気付いたまゆさんが首を傾げる。

 

 ……えーっと。

 

「和久井さんにお願いされたので舞台裏の映像を()()()()()()()()()()()()だったんです」

 

「えっ」

 

「あらぁ、そうだったんですねぇ」

 

 え、絵理ちゃん? どうしてそんなまるで『今はカメラは回ってませんよ』みたいな言い方を? カメラはさっきから()()()()()()()んだけど……。

 

(……あ、もしかして今のまゆさんのダイエット発言を……!?)

 

 ダメだ、既に絵理ちゃんまでもが向こう側に行ってしまった……! 既にこのカメラの呪いで思考がどんどんと良太郎さんへと近付いていく……!

 

(涼さんも既にこっち側だよ?)

 

 あーあーきこえなーい。

 

 

 




・「城ヶ崎美嘉でーす!」
禁止ワード:死体蹴り

・最期になる私たちの輝き
真面目な話は本番までとっておきます。



 涼がだんだん第二の良太郎と化している気がする。作者が男視点を書くとどうしてもこうなってしまうのだ……。



『どうでもいい小話』

 シャニソンまったりプレイ中。本家より回しやすくて助かる……。

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