アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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やっとリハーサル。ようやくリハーサル。


Lesson388 先行き不安なリハーサル 2

 

 

 

『さて、それじゃあ早速リハーサルを始めていきたいんだけど』

 

 全員でステージの上に集合し、ようやくリハーサルが開始……となったのだが。

 

『これ一曲目から俺と麗華が二人同時に出演するやつだな』

 

『本当にのっけから躓くわね……』

 

 リョーさんと麗華さんは手元のファイルに視線を落としながら小さく嘆息した。

 

 先ほど俺も確認した今回のライブのセットリスト。男女に分かれての歌合戦という形式のライブでそれぞれ白組と紅組が交互に曲を披露するのだが、最初の曲はそんな紅白歌合戦をそれぞれの組から十三人ずつが選抜されて歌唱することになっていた。

 

 その曲は俺、天道輝も歌うのだが……それぞれ白組と紅組の大将であるリョーさんと麗華さんも当然歌う。つまり演出側も兼任する二人が揃ってステージに立たなくてはいけないのである。

 

『お互いが出演するときはお互いに確認しようって言った矢先にこれよ』

 

『ホント、その辺りもちゃんと考えて提案しろよな』

 

『こんな至近距離でブーメラン投げないで貰える?』

 

 二人とも仲が良いのは分かったから、わざわざその漫才までマイクに乗せなくてもいいと思うんだ。

 

『お前がやれって言ったんだろ?』

 

『隣にいるからってブーメランで殴り掛かれとも言ってないのよ』

 

 あと二人のやり取りが続くたびに隣のりんさんの笑顔が怖くなるんだけどナニコレ。

 

『とりあえずPA側にいる方は誰か代役立てて、こっちから声当てるか』

 

『まぁそれが無難ね。勝った方がステージ』

 

『りょ』

 

 短く同意した麗華さんとリョーさんがじゃんけんをする。ステージからは観客席の真ん中に作られたPA席の二人の手の形はよく見えないが、どうやら麗華さんが勝ったらしい。

 

『それじゃあ……冬馬、俺の代役頼む。俺の動き分かるか?』

 

「あぁ、すぐに覚える」

 

 一曲目に参加しない冬馬がリョーさんからの依頼を快諾する。流石に代役にまで『周藤良太郎』のクオリティを要求されるとは思わないが……それでも彼の代役が務まる男性アイドルは、きっと冬馬以外にいないだろう。それに自分以外の動きをすぐに覚えると断言出来る辺り流石だ。

 

『それじゃあ早速始めていくぞ。一曲目の演者、スタンバイよろしく』

 

 マイクを置いた麗華さんがこちらに合流し、リョーさんの指示に一先ず全員がステージ裏に戻る。そこから一曲目に参加する二十六人がスタンバイに入る。下手側から紅組である女性陣が登場するので、白組である俺たちは上手側でスタンバイ。

 

「冬馬っち流石っす! あの『周藤良太郎』代役を頼まれるなんて!」

 

「でもあの良太郎さんだから、すっごい無茶ぶりとかされそうじゃないですか?」

 

「あーやりそー」

 

 各々のマイクやイヤホンを確認している最中、純粋に目を輝かせながら冬馬に話しかける四季と苦笑する隼人、それに同意する悠介。確かにリョーさんはそういうことしそうなイメージ。

 

「まぁ普段のアイツの姿見てるとそう思うよな。実際にプライベートだったらやるだろうし」

 

 後輩三人からのリョーさんへの評価に苦笑しつつ、しかし冬馬は「でも」と肩を竦めた。

 

「ことライブに関することで、アイツはふざけねぇよ」

 

「「「えっ」」」

 

「意外だよねぇ、分かる分かる。僕もりょーたろーくんと一緒に仕事するまではおんなじこと考えてた」

 

「良太郎君は真面目だから、アイドルのお仕事に関することでふざけることはないよ」

 

 冬馬の言葉に驚く三人に翔太も笑いながらそれに同意する。しかし北斗の言葉に俺は若干首を傾げてしまった。

 

「いや……ふざけるというか、割とネタ発言と言うかそんな感じのことはよく言ってるイメージはあるぞ?」

 

 胸の大きなスタッフが近くを通ると「……揺れましたね!」とこちらに話を振ってきたことがあったし、小声ではあるものの「ところで蘭子お姉ちゃんですが」なんて爆弾発言をして桜庭に水を噴き出させたこともあった。ちなみにそのときは丸めた台本で普通に引っ叩かれていた。

 

「でも、お仕事が始まったら?」

 

「………………」

 

 あれ、思い返してみると……仕事の話になったときや本番になったとき、歌ってるときは、意外と大人しい……? いや大人しいなんてことは『周藤良太郎』に限ってあり得ないんだけど、先ほどのような発言は殆どないような気がする。

 

「意外と真面目なんすね、リョーさんっちは!」

 

「勉強のときもそうだったけど、意外に真面目ですね」

 

 どこまで行っても『意外』っていう言葉が外れないほど普段の行動のアレさ加減が分かってしまう辺り、流石リョーさんである。

 

「よし、良太郎、覚えたぞ」

 

「え、もう?」

 

 受け答えをしながらもパラパラと『周藤良太郎』の動きを確認していた冬馬がマイクに向かって声をかけた。こんな短時間で覚えられるのか……。

 

『よし、それじゃあ始めるぞ。3、2』

 

 無言で1と0をカウントし、麗華さんの第一声から曲は始まった。

 

 

 

『……まぁこんなもんかな。全員きっちり仕上げてきてるな』

 

 要所要所でリョーさんからの指示が入りつつ一曲目が終わる。リョーさんの代役である冬馬やそもそも今回演出側の麗華さんを除いても、全員大きな指摘を受けることなく終了した。

 

『それじゃあ麗華こっち戻ってこーい』

 

「分かってるわようっさいわね」

 

 麗華さんもPA席に戻っていき、ようやく演出二人体制でのリハーサル本番である。

 

「……いや本当に凄いなリョーさん。ちゃんと演出してた」

 

「そりゃ演出なんすから演出するんじゃないっすか?」

 

「そうじゃなくてぇ……」

 

 首を傾げる四季だが、俺にはなんとなく隼人の言いたいことが分かった。

 

 リョーさん……周藤良太郎さんの出す指示は間違いなく的確だった。それこそ、本物の演出家の先生からの指示を受けているように。

 

()()っていうのは演出も出来ちゃうんだなぁ……」

 

 一瞬『果たして自分もその領域に辿り着けるのだろうか』なんてことを考えてしまったが、そんなことが出来るのはごく一部の人間だけだと首を振る。今の俺は……俺たちはまだ『トップアイドル』とすら呼ばれていない存在なのだから、そんな状況で一番上と自分たちを比べるのはナンセンスだ。

 

 一番星は目指す。けれどそこに近道なんてものは存在しない。今は一歩ずつ確実に、自分たちに出来ることをするだけだ。

 

『よし、ここからしばらく俺も麗華も出演が無いから流しでやってこう』

 

『指示をするときは一旦止めるけど、基本的に本番通りやるつもりでいきなさい』

 

 舞台裏に戻った俺たちの耳にもリョーさんたちの指示の声が届く。

 

(演出家の先生が来れなくなったって聞いたときは、どうなるのかと思ったもんだが……)

 

 『周藤良太郎』と『東豪寺麗華』、二人のトップアイドルによる演出で、きっと一味違うステージになるに違いない。そう確信した。

 

 リハーサルは順調に進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 ……順調だったんだけどなぁ……。

 

 

 

「……は? 麗華お前なんつった?」

 

「えーえー何度だって言ってやるわよ?」

 

 

 

 何度目になるか分からない良太郎と東豪寺の睨み合いが始まり、思わず俺は目を覆ってため息を吐いた。

 

『いい? 所恵美の活かすべき点は『色気』よ。ならばすべきアピールはカメラのレンズを下から両手で撫で上げるように振った方がいいに決まってるのよ』

 

『いーや、恵美ちゃんのアピールポイントは『同級生』感だ。レンズに向かって指でツンツンする仕草の方がこの場では合ってる』

 

 ……この二人、我が強すぎる。言っていることはどちらも合っているし間違っていない。しかしそれ故に度々『正解がない言い争い』に発展する。殆ど水掛け論だ。本当に相性が良いんだか悪いんだか。

 

『アンタ散々所恵美のスタイルについて言及してるじゃない! ならそこを活かすような演出にしなさいよ!』

 

『だから俺のは性癖じゃなくて趣味嗜好だっつってんだろ! お前こそ余計な情報を混ぜて考えるのやめろ! 今回恵美ちゃんが生かすべきは可愛さ!』

 

『アンタ同じ事務所にいるくせに何見てんのよ! そんな凡百なシチュエーションで所恵美を埋もれさせるなんて私が許さないわよ! 所恵美の色気を考えなさい!』

 

 ヒートアップする二人の傍に佇む俺に対して『なんとかしてくれ』という視線が集まるが、正直俺にこれを止める自信はない。『周藤良太郎と東豪寺麗華の間に割って入れるのは天ヶ瀬冬馬しかいない』なんて言われてこっちに来たけど、俺にだって止めれねぇよこんなもん。

 

 とはいえこのままではリハーサルが進行しない。この不毛な言い争いも既に七回目だ。既に時間も一時間近く押していて、こんなことを繰り返していてはいつまで経ってもリハーサルが終わらない。

 

「二人とも、マジでその辺にしとけ」

 

「お、なんだ冬馬、お前も()るか?」

 

「いい度胸ね、かかってきなさい」

 

 二人揃って目的忘れてんじゃねぇだろうな?

 

「時間をかけてでもステージをより良いものにしたいっていうお前たちの考えはよく分かる。でも見ろ」

 

 スッとステージを指差す。

 

 

 

「………………」

 

 

 

「所がそろそろ限界だ」

 

 良太郎と東豪寺は二人揃って所恵美を最も『魅せる』ことが出来る演出を提案していたようだが、結果としてそれらの言葉が全て()()()()()()()()()()ことになった。

 

 その結果、ただでさえ所は照れやすいというのに『周藤良太郎』と『東豪寺麗華』からのストレートな誉め言葉にやられてしまい、ステージ上の所は真っ赤になった顔を手で覆いながら蹲ってしまっていた。

 

「「………………」」

 

 今回のユニットメンバーである島原と田中に寄り添われる所を一瞥した良太郎と東豪寺は、再び視線を交差させる。

 

「……ほら見ろ麗華、恵美ちゃんは可愛いだろ」

 

「だからこそ、敢えて外すという選択肢を私は選ぶわ」

 

「いい加減にしろっつってんだろ!」

 

 

 




・今回のセットリスト
頑なに本番まで隠すスタイル。……まだ決まってないとかジャナイヨ。

・良太郎は真面目
そろそろみんな信じてくれるよね?

・恵美ヒートアップ
ころめぐは誉めまくると段々耐えられなくなって恥ずか死する(断言)



 今更良太郎と麗華が仲良しこよしで協力プレイ出来るわけないんだよなぁ……というお話。はたして誰がこの二人を止めるのか。

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