アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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フラグ建築中。


Lesson385 始まりの朝(夜中) 3

 

 

 

「なんか美優さんたち、留美さんのお迎えが無くなっちゃったらしいよ~」

 

「「は?」」

 

 運転中、後部座席でスマホを弄っていた志希がそんなこと言い出したので、運転席と助手席の俺とりんの声が重なった。

 

 どうやら123プロのグループに、恵美ちゃんからの『留美さんの車、スタッドレスタイヤじゃなかった~』というメッセージが届いたらしい。

 

「あ~……最近留美さん忙しかったからなぁ」

 

 しかも今日の雪は完全に想定外だったため、替え忘れてしまったのだろう。

 

「どうする? ついでに迎えに行く?」

 

「それでもいいんだが……」

 

 ここから美優さんのマンションってちょっと遠いんだよなぁ。

 

「えーっと、誰かついでに四人を拾ってきてくれそうな人っていたか……?」

 

 とはいえ全員の出発地点の住所を完璧に把握しているわけではないのでそう簡単にパッと思いつかない。いっそのこと誰か拾ってくれないかと無差別に全体メッセージを送るか。

 

「あ、社長がタクシー手配するって」

 

「……まぁそれが一番現実的か」

 

 とはいえ、なんというかこう……物語的には何かあると思うじゃん? ハプニングがあって欲しいわけじゃないんだけど……なんかこう、イベントぐらいあってもよくない?

 

「まぁ人生なんてそうそう劇的なハプニングなんて起こらないか」

 

「ダメだよりょーくん、そーゆーこと言うと『フラグになる』んでしょ?」

 

「それで雪が積もっちゃったばっかりじゃん」

 

 そもそも開演が十八時なのに対して現在時刻は四時。いくら遅刻したところで本番までに間に合わないという展開はあり得ないのである。

 

「まさかそんな()()()()()()辿()()()()()()なんて展開にはならないだろ」

 

「ほらぁ! 今りょーくんの台詞に傍点付いちゃったよ!?」

 

「絶対何かしらのトラブルが発生するやつぅ」

 

 大丈夫大丈夫、神様(さくしゃ)そこまで考えてないから。

 

 

 

 

 

 

「「「ここが俺たちの……決戦の地だー!」」」

 

「「煩い」」

 

 腕を振り上げながら叫ぶシキとハルナと輝さんに対して、ジュンと薫さんからご尤もな指摘という名のツッコミが入る。

 

「ふむ、予定時刻に到着出来てなによりだ」

 

「まさかの雪でしたもんねぇ」

 

「ベリーコールド!」

 

 SEMの先生方に続き、他のメンバーもぞろぞろとレンタルバスから降りてくる。今回、315プロのアイドルは全員事務所が用意したバスで会場入りとなった。

 

「……こっちからドームに入るのは初めてだな」

 

 そう言いながら恭二さんがきょろきょろと周りを見回す。というのも、ここはドームの裏側。所謂搬入口と呼ばれるところである。

 

「オレたちもこっちから入るのは久しぶりだよな」

 

「去年の試合以来だね」

 

「おぉ……流石サッカー選手……」

 

 そんなことを話しながらゾロゾロと会場入り。まずは各事務所ごとに用意された控室で簡単にリハーサルの準備をしてから、会議室で全体ミーティングという予定になっている。

 

「あー緊張するなー……」

 

「みのり、今から緊張? ドキドキしてる?」

 

「してるよぉ~だって今から全体ミーティングでしょ~? ついに()()()()()()()んだからさぁ~」

 

 言葉のふわふわ感とは裏腹にみのりさんの目がギンギンになっていてヤバいが……確かに言われてみればそうだった。

 

 今回のライブに参加するアイドルは五十人を超える。その人数のアイドル全員が集まることが出来たタイミングは当然のように存在せず、ゲネプロですら各事務所ごとに行われたほどだ。そして本番当日である今日、初めて全員が集合するのだ。

 

「きっとこんなに大勢の、しかも他事務所のアイドルが垣根を超えて集まるなんて機会滅多にないよ。これはもうしっかりと脳内に焼き付けておかないと……」

 

「必死になるあまり、今日のステージのダンスとか歌詞とか忘れてないですよね?」

 

「………………」

 

「みのりさん!?」

 

 みのりさんの表情が「あ、やべ」みたいな感じになって焦る恭二さん。

 

「大丈夫大丈夫、それを思い出すためのリハーサルなんだから」

 

「全く……って違いますよ!? リハーサルはそういうもんじゃないですよね!?」

 

 ほ、本当に大丈夫なんだろうか……ちょっと俺も心配になってきた。

 

 そんな一抹の不安を抱えながら、俺たち315プロ一行は会議室へと辿り着く。人数が人数のため会議室というには少々大規模なそこに、既に多くのアイドルが揃っていた。

 

 男性アイドルはほぼ俺たちだけのため、当然のようにそこは女性アイドルばかり。俺たちが入室したことによりその多くの視線がコチラに向いて少々怯みそうになるが、そっと小さく深呼吸。

 

「おはよっ。今日はよろしくねー」

 

 そんな中、一人の女性がニコッと笑いながらこちらに向かってヒラヒラと手を振った。

 

 

 

「ハルナっち! カリスマっす! カリスマギャルがいるっす! 初めまして!」

 

「ホントだ! こんなクソ寒い中でも肩出しのカリスマギャルがいる! 初めまして!」

 

「アンタらはもう初めましてじゃないでしょうが!?」

 

 

 

 ……美嘉さん、ウチのシキとハルナが本当にすみません……。

 

「ちょっと男子~、ウチの美嘉ちゃんを弄っていいのは私たちだけなんですけど~?」

 

「そうだそうだ~! そっちはそっちで隼人君を弄ってろ~!」

 

「アンタたちにも弄られる道理はなぁぁぁい!」

 

 結局いつものリップスによる美嘉さん弄りに発展してしまったようだ。……もっとしっかりと挨拶をしたかったんだけど、この状況の美嘉さんに話しかける勇気は持ち合わせていないので後回し。なんか恨みがましい目で見られているような気もするけど、きっと気のせいである。

 

「……あっ! 享介! しほいた! おーいしほー!」

 

「大声出すなって……しほさん、おはよう」

 

「おはようございます、悠介さん、享介さん」

 

 美嘉さんの視線から目を逸らした先で、ダブルの二人が123プロの北沢志保さんに話しかけていた。

 

「……本当にアイドルになったんですね」

 

「「今まで信じてなかったの!?」」

 

「この目で実際に見るまでは……割と」

 

「「嘘だろ!?」」

 

「冗談ですよ」

 

 志保さんはまるで二人を揶揄うようにクスクスと笑っていた。

 

「今日はりくくんも観に来るんだよね?」

 

「はい、勿論です。二人も出演すると知ってからずっと楽しみにしていましたよ」

 

「おっ、それじゃあ今日はりくクンのいるところに向けて、ファンサービスのシュートを決めないとな!」

 

 ……なんか仲良さそうだなぁ。会話内容からして仕事で知り合ったというよりは、なんかプライベートで知り合ったように聞こえる。サッカー関係?

 

「……ああ……夢のような光景だ……」

 

「みのりさん、怖いから静かに泣くのやめましょうよ……」

 

 さて今度は何事かと思ったらいつものみのりさんだった。確かに手を合わせて安らかな表情で涙を流している姿は普通に怖い。俺たちはある程度見慣れてるからいいんだけど、他事務所のアイドルの前なんだからもうちょっとアクセルを戻してほしい。

 

 

 

「あっ、コトハ! あの人、なんかアリサみたいだよ!」

 

 

 

「……夢見さんみたいな人が、他の事務所にもいるんですね……」

 

 

 

 かと思いきや、黄緑色のハーフっぽい女の子と黒髪に青いリボンを付けた女の子は、みのりさんを見てもそんなに驚いていなかった。え、何、各事務所に一人ずつこんな感じの人がいるの? こういう系統の人が一人ずつ分配されるシステムになってるの?

 

「あー! みのりさんじゃん! 久しぶり~!」

 

 見慣れている俺たちでも少々引いてしまう今のみのりさんに対して一切躊躇することなく声をかけたのは、夏休みの終わりの勉強会でも一緒になった夢見りあむさんだった。そういえば彼女もみのりさんと知り合いで、同じぐらいのアイドルオタクだって言ってたっけ。

 

 ……相変わらず胸が凄いなぁ。

 

「あぁ、りあむちゃん、久しぶり……」

 

「……なに? りあむちゃんの顔をじっと見て。ははーん、どうやらみのりさんも、このりあむちゃんのアイドルオーラに当てられちゃったみたいだね……」

 

「……あぁ、この感じ、実にりあむちゃんって感じで落ち着くなぁ」

 

「どういうことさ!?」

 

 この二人もプライベートな知り合いらしく、アイドルが絡まなければ大人の落ち着きを見せることが多いみのりさんが年下の子を揶揄っているところを見るのは少しだけ新鮮だった。

 

「あの、渡辺さん、夢見さん」

 

 そんな二人に765プロの最上静香さんが声をかけた。

 

「お二人に亜利沙さんからのメッセージを預かっているんです」

 

「亜利沙ちゃんから?」

 

「え、なになに?」

 

 どうやら765プロにも二人の共通の知り合いがいるらしい。

 

「『今回のライブ、残念ながらありさは不参加です。ありさの分までステージを楽しんできてください。いつの日か、集会のメンバー全員で同じステージに立てる日が来ることを祈っています』……とのことです」

 

 最上さんが手元のメモを読み上げると、みのりさんと夢見さんは顔を見合わせてニヤッと笑った。

 

「こう言われちゃ仕方がないね」

 

「亜利沙ちゃんは勿論、リョーさんと結華ちゃんがこっちに来るまで頑張らないとね。まぁリョーさんは無理だろうけど! 一番無理だろうけど!」

 

「いやリョーさんは一番は一番でも……あぁうんそうだね」

 

 どや顔で胸を張った夢見さんに対してみのりさんは何かを言おうとしていたが、なんか面倒くさそうになって止めた。

 

 夢見さんの言うリョーさんがみのりさんのオタク仲間のリョーさんなら、それってつまり良太郎さんのことだよな。あれ、もしかして夢見さん、あの『遊び人のリョーさん』状態の良太郎さんの正体を知らない……ってこと? なにそれ面白そう。

 

「あと追伸です」

 

「「ん?」」

 

「………………」

 

 最上さんはそれまで読み上げていたメモをこちらに向けた。角度的に俺にも見えるようになり、そこには……。

 

 

 

『この件に関して煽ったら……分かってますよね』

 

 

 

 ……ち、血じゃないよね? 流石に血じゃないよね? 血文字風に書いただけだよねそうだよね!?

 

「うわぁ、亜利沙ちゃん本気だ……ま、流石に可哀想だしね」

 

「………………」

 

「……りあむちゃん?」

 

 分かりやすく顔を青褪める夢見さんが何をしてしまったのか、傍から聞いているだけの俺にも手に取るように分かった。

 

「……あ、恭二、ピエール、今日のステージのことなんだけど」

 

「露骨に見捨てないんでぇ!?」

 

 

 

「………………」

 

「どうしたんすかハヤトっち」

 

「あ、いや……その……」

 

「分かるぜハヤト……りあむちゃんの胸、やべぇもんな」

 

「違うからね!? そうじゃないからね!?」

 

 

 




・「社長がタクシー手配」
無難な択で(物語的に)申し訳ない。

・「誰かが会場に辿り着けないなんて展開」
ここテストに出ます。

・「カリスマギャルがいるっす!」
ハイジョからの扱いもこんな感じ。

・相変わらず胸が凄いなぁ。
ようこそ隼人、こちら側へ。



 『タクシー呼ぶなら前話の展開はなんだったんだよ』と言われそうですが、はいご尤もですと……。

 まぁハプニングなんて無い方がいいんですからHAHAHA!

 大丈夫です、アイドルは全員集合しますから。アイドルは。

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