「現在おっぱい大好きクラブ会員募集中なのですが」
「お断りします」
残念ながら恭二の勧誘に失敗してしまった。多分マイユニットではなく特定のユニットで説得することにより仲間になってくれるタイプのユニットだったに違いない。この場合みのりさん。もしくはピエールを先に勧誘することで成功するタイプ。次回走者のためにチャートにちゃーんと書いておきましょう。
「アイドルのクラブだったら、まずは俺じゃなくてみのりさんを誘った方がいいんじゃないですか?」
「しれっと俺のこと売るじゃん恭二……」
「みのりさんはおしり派だったらしくて断られた」
「みのりさん!?」
「そんなこと一言も言ってないからね!?」
確かにおしり派とは一言も言ってないけど、いつもの集会でりあむちゃんの大乳に視線が吸われる様子がなかったから少なくともおっぱい派ではないんだろうなとは思っていたことによる独自判断。
「さっきから三人ともなんの話してるのー?」
「「「気にしなくていいよ」」」
ピエールだけは汚してはいけないという三人の共通認識により、俺たちは示し合わせることもせずとも息ピッタリに誤魔化すのであった。
「全く……こんなタイミングになってもリョー君は相変わらずリョー君なんだね」
「ブレないことに定評があるので」
「ちょっとぐらいブレてもいいんじゃない……?」
「いや俺がブレるときっていうのはつまりブレざるを得ないぐらいシリアスな展開っていうことだから、そうそう起こらない方がいいよ。俺がふざけ倒しているぐらいが一番平和」
「嫌な指標だなぁ……」
ちなみに現状起こる可能性があるトラブルというと、例えばピエールの祖国が……。
「……いやこれ以上考えるとマジでフラグになりかねないからやめておこう」
「何を考えてたのか知らないけど、多分賢明な判断だったんじゃないかと思う」
しばらく世界情勢のニュース的なのは目にしないようにしよう。
「そもそも
「そんなことってあります!?」
「どうするんだ! 例えば俺がここで『そういえば最近寒くなって来たなぁ。今晩から雪が降るかもよ』とか言い出したら!」
「絶対明日雪が積もって交通が麻痺する奴じゃん!?」
だから迂闊なことを口走れず、フラグを立てないように気を使っているのだ。
「大事な時期だからこそ口を滑らせないように気を付けないと」
「そのセリフだけならアイドルとして普通のことなんだろうけどなぁ……」
「なんか方向性が違うんですよねぇ……」
「やふー! それじゃあ、逆にストレートにそれっぽいことを言えば、そうならないんじゃないかな!?」
はいはい! と元気に手を挙げたピエール。ふむ、それも一理ある……あるかな? 逆フラグ的な?
「それではピエール君。何か気を付けないといけないことを言ってください。私はそれに対して『確かに、ライブまで残り僅かだからねぇ』と返しますので、さらに一言お願いします」
「なんか笑点みたいになってきた」
「オオギリってやつだね! 頑張るぞー!」
フンフンと気合十分のピエール。果たしてどのような回答が出てくるのか楽しみである。
「えっとー。『だいぶ寒くなって来たから、体調には気を付けたいよね』!」
「『確かに、ライブまで残り僅かだからねぇ』」
「『もしそうなったら……違約金、きっと凄いんだろうね』」
「「「どうしたピエール!?」」」
なんか予想よりもガチっぽいのが出てきたんだけど!? いつもの片言どうした!?
「逆フラグだから、こう言っておけば、お金、払うようなことにはならないでしょー?」
「いやそうだけど、そうなんだけど……!」
「今俺たちが困惑してるのはそういうことじゃなくて……!」
「誰だピエールにこんなことを吹き込んだ奴は……!?」
「「………………」」
「俺じゃないぞ!?」
真っ先に疑われるぐらいの信頼感があって嬉しいなぁ!
「どうどう? ボク、座布団何枚?」
「「「………………」」」
三人揃って、無言で自分のお尻の下にあった座布団を差し出した。
「というわけで桜庭先生、明日体調不良になって違約金を払いたくないので、良い感じに体調を整えることが出来るお薬ありませんか?」
「……バカにつける薬はないぞ」
「それはもう飲みました!」
「つける薬を飲むんじゃない」
ハァと薫さんの口から漏れ出た溜息が白く染まる。日が落ちた十二月の屋上は当然のように寒い。
「ところでこんな寒空の下で何やってたんですか?」
「……事務所は君のように騒がしい人間が多いから、静かに考え事をしたかったんだよ」
「薫さん、さっきから俺への当たり強くないですか?」
「元々こんな感じだったさ」
「嘘だぁ」
もうちょっとだけ丁寧だった気がするけど、最近目に見えて雑になった。
……もしかして、一人離れたところで本を読んでいた薫さんを、座っていたキャスター付きの椅子ごとスイーッと動かして談笑していた輝さんたちの輪の中に放り込んだことを根に持っているのだろうか。良かれと思ったのに。
「いいから君はさっさと戻れ。しっかりと防寒対策をしてきた僕はともかく、君はその格好のままだと本当に体調を崩して……」
「おーい! リョーさんと桜庭、二人で何話してるんだー!?」
「良太郎さん、その格好のままだと寒いですよ。はい、コート持ってきました」
「………………」
「ありがとうございます、翼さん」
翼さんが持ってきてくれたコートに袖を通す。確かに寒かったからこれはありがたい。
「で? 何を話してたんだ?」
「実りのある話は何もしていなかったさ」
「しいて言うなら、明日を万全の体調で迎えましょうねっていう話をしてました」
「……明日。そっかー明日なんだよなー」
「早いですよねぇ……」
しみじみといった様子で輝さんと翼さんがホゥ……と白い息を吐きだす。
「……なぁ、リョーさん」
「なんですか?」
「ありがとう」
「……いきなり、本当になんですか?」
突然の感謝の言葉に、驚いて思わず素で返してしまった。これには横で聞いていた薫さんと翼さんも驚いた様子だった。
「俺たちを八事務所合同ライブに参加させてくれたことに、だよ」
ニカッと笑いながらトントンと拳で自分の胸を叩く輝さん。
「あんまり自慢するようなことじゃないとは思うんだけどさ、きっとリョーさんがこれに誘ってくれなかったら、俺たちこんなに忙しくならなかったと思うんだよな」
「そんなことないと思いますけど」
「そうだ。少なくとも僕は違うぞ」
「お前はどっちかというと、勝手に自分で仕事取ってきて怒られてたりしたんだろーなー」
「何を……」
「なんだよ……」
「ふ、二人とも、喧嘩腰は止めましょう……!?」
メンチを切る輝さんと薫さんの仲裁をする翼さん。この光景も見慣れたもので……いや、見慣れるようになったものだと思う。きっと俺が知り合った当初の彼らであったならば、メンチを切ることすらしなかった間柄だった。
「リョーさんはもう色々と知ってる思うけど……俺を含め、この事務所のみんなは
「……まぁ、全員ではないですけど、聞いてますよ」
この事務所に所属しているアイドルは、少しだけ複雑だった。
今こうしてアイドルをしていることを後悔している人は一人もいないことは分かっている。
けれどここにいる彼らは……『
「足並みを揃えているつもりでも、向かっている方向がバラバラだった。でもリョーさんがライブの話を持ってきてくれたおかげで、みんな一つの方向に向けたんだと思う」
「買い被りすぎですよ」
俺がいなくても輝さんたちならば、きっとトップアイドルになれた。寧ろ俺が変な話を持ち込んだせいでそれが先延ばしになってしまった可能性だってある。
「それでも」
輝さんは首を横に振った。
「貴方が手を伸ばしてくれた。大きな目標を、進むべき道を指し示してくれた」
「………………」
瞑目。
「……そういう言葉は、明日のライブ終了後にもう一度お願いします」
「オッケー! 同じこともう一回言うな!」
「俺が言うのもアレですけどメンタル強いですね!?」
ニカッと笑う輝さん。ニコニコと笑う翼さん。暗くてよく見えないけど確かに笑みを零した薫さん。
そして
「明日のライブ、『一緒に』楽しみましょう」
ステージに立つ『理由』なんて、それぐらいで十分なのだ。
十二月の静かな夜が、アイドルたちの想いを飲み込んでいく。
あるものは既に眠りにつき、あるものは一杯のグラスに想いを馳せ、あるものは何故か炎上を始めた自身のSNSと格闘し、あるものは明日の集合時間の確認を忘れてたと慌てて跳ね起き、あるものは最後の確認をとばかりにレッスンを始めようとしたところを社長に見つかり捕縛され、マジでみんな何やってんだよ。
……それでも、明日はすぐにやってくる。
八事務所合同ライブまで、残り一日。
アイドルの世界に転生したようです。
第八章『Reason!!』 了
・現在おっぱい大好きクラブ会員募集中
周藤良太郎は諦めない。
・多分マイユニットではなく特定のユニットで説得することにより仲間になってくれるタイプのユニット
クーガーとかヨシュアとか(聖魔の民
・チャートにちゃーんと
今年の冬のRTAinJAPANは12/26から!(ダイマ
・椅子ごとスイーッと
桜庭乱入!
名ばかりな感じになってしまい担当からは怒られそうですが、これにてSideM編の幕引きです! このあと地続きでライブ編に突入していくので、変わらず男性陣の出番はありますのでその点に関してはご安心を!
次章よりアイ転史上最大のイベントの開幕です! 頑張って書きます! 対戦よろしくお願いします!!!
そして私事になりますが、先週の11/29を持ちまして、本作『アイドルの世界に転生したようです。』は連載十年目を迎えさせていただくこととなりました。
思えばアイドルマスターのアニメに惹かれ、それに釣られて視聴し始めた様々なニコマスシリーズの影響を受けた結果、書き始めたのがこの作品です。
正直に言うと自分でもよく十年も週刊連載が続いたなと驚いています。シンデレラガールズに興味がなかったどころか、劇場版編すら書く気がなかったというのに……思わず書かざるを得なくなるぐらい魅力に溢れるのが、このアイドルマスターというコンテンツの力なんだと思います。
SNSの方では度々触れていましたが、自分はアイドルマスターというコンテンツが続く限り、自分の力が及ぶ限り、この作品を書き続けたいと思っています。
これから先、どう考えても駄文としか思えないような展開になってしまうことがあるかもしれません。けれど自分はこのような形でしか『好き』を表現できません。今後もお暇な時間にでもいいので、一プロデューサーの歪な愛情表現にお付き合いいただけたらと思っております。
長々と申し訳ありません……つまり今後も書き続けますのでよろしくお願いします! ということです!
……とりあえず年明けるまでは10周年記念の番外編を何本か投げまーす!