アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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第八章最終話編。


Lesson379 最高のアイドルたち

 

 

 

「む~り~……」

 

「あぁ、未来ちゃんが!?」

 

「頑張って未来ちゃん!」

 

 倒れ伏した未来を心配して歌織さんと琴葉さんが駆け寄るが、既にこのやり取りも五回目である。確かに一回目二回目は私もちゃんと心配したが、なんというかもう流石にため息が出る。

 

「未来、甘えないの。ほら立って」

 

「だって~静香ちゃ~ん……」

 

 くぅ、既に五回目だというのに元気が無くてしなしなになっている未来が可愛い……! 普段とのギャップに思わずキュンキュンしてしまいそうになるが、今はそんな場合じゃないのでバシリと自分の頬を叩いて気を引き締める。

 

「……まぁ、私も未来さんの気持ちは分かります」

 

 ちょっと強めに叩き過ぎてヒリヒリする頬を押さえていると、タオルで汗を拭っていた紬さんがポツリと呟いた。

 

「あの123プロや1054プロとの合同ライブということで覚悟はしていましたが……振り付けの難易度が過去最高レベルです……」

 

「だよねー!?」

 

「そうねぇ……」

 

「それは……まぁ……」

 

 紬さんの言葉に、未来や歌織さんと共に同意する。

 

 

 

 現在、私たち765プロから出演するアイドルたちは合同ライブで披露する予定の『八事務所合同の全体曲』のレッスン中……なのだが、紬さんの言う通りに難易度が段違いなのだ。別に複雑なダンスがあるわけでも、アクロバティックな動きを要求されるわけでもない。

 

 そして()()も私たちに何も言わなかった。『同じレベルになれ』だとか『足を引っ張らない程度になれ』だなんてことは勿論、『君たちに出来るレベルで大丈夫』だとか『無理しないで』だなんてことも言わなかった。

 

 だけど。()()()()嫌だった。『折角出演させてもらえるんだから』だとか『こんな機会二度とないかもしれない』だとか、そういうことじゃない。言葉に出来ない何かが、私たちの胸の中に渦巻いている。

 

 きっとコレは私たち765プロのアイドルだけじゃない。346も、315も、876も、310も、283も……そして123と1054だって同じ想いだから。

 

 

 

「頑張るわよ、未来。今回のステージは()()()()()()()じゃない。私たちが()()()()()ステージなんだから」

 

「……うん! そうだよね、静香ちゃん! アニメの私たちも頑張ってるんだから!」

 

「なにが?」

 

 とりあえず未来は復活したようだ。……このやり取りも何回目だか。

 

「すみませんでした、度々中断してしまって」

 

「ううん、全然大丈夫だよ!」

 

 未来の代わりに頭を下げると、765プロ組のリーダーである春香さんは笑顔で手を横に振った。765プロオールスターのセンターでもある彼女からは、あれだけのダンスをした後だというのに余裕すら感じ取れた。

 

 ……正直なところ、現状足を引っ張っているのは私と未来と……あと少しだけ紬さん。歌織さんと琴葉さんはそれなりに付いていくことが出来ている。

 

 そしてそれ以外のメンバーは……。

 

「あぁ……美希先輩の横で踊れる幸せ……」

 

「ちょっと離れてなの」

 

「相変わらずバサバサはミキミキのこと大好きだね~」

 

「ハルカ! ここ、こんな風にするのはどうかナ!?」

 

「わぁ! 良いと思う……んだけど、え、エレナちゃん以外にはちょっと難しいかな……?」

 

 翼、美希さん、真美さん、エレナさん、春香さんは当然のように余裕そうな表情である。

 

「……私たちも負けてられないわよ! 未来!」

 

 先輩である春香さんや美希さんや真美さん、そもそもダンスが得意なエレナさんはともかく、翼は私たちとほぼ同期なんだから! 

 

「うん! アニメの私たちに負けてられないよね!」

 

「だからなにが?」

 

 きっと他の事務所でも、私たちと同じように善意局に向けて精を出していることだろう。

 

 

 

 

 

 

「無理んご」

 

「なるほど……『無理』と『んご』を組み合わせることによって『りんご』という発言を作り出す高等山形テクニック……」

 

「#御見それしました #りんご師匠」

 

「反応してほしいところはそこじゃなぁぁぁい!」

 

 レッスン室の床に仰向けに倒れたあかりちゃんがジタバタと手足を動かして、まるで駄々っ子のように抗議する。

 

「もぉぉぉ! この振り付け難しすぎるよぉぉぉ! あきらちゃんとりあむさんもそう思うでしょ!?」

 

「思うけど……見たい? ぼくが今のあかりちゃんみたいに駄々こねてる姿」

 

「「見苦しいと思う」」

 

 ぼくのユニットメンバーは息がピッタリだなぁ!

 

 

 

 さて、今回ぼくたちがこうして事務所のレッスン室を借りている理由は、合同ライブに向けての練習である。八事務所全体曲の難易度が激ムズで、いくらアイドル三年目とはいえ今のぼくたちの手に負えるような代物ではなかったため、こうして時間を見付けては三人で自主練をしているのだが……。

 

「流石、あの『周藤良太郎』と『東豪寺麗華』の二人が手掛けたというだけあって、とんでもない代物(きょく)デスね……」

 

 はっきりと言おう! ぼくらの手に負えるもんじゃねぇ!

 

 振り付けやステップだけでこれだけ苦労しているというのに、ここに歌唱やフォーメーションも加わるともう目も当てられないことになりそうである。

 

 だからこそ、他の事務所のアイドルたちの足を引っ張らないためにも頑張っているのだが……。

 

「えっと……ここってこうだっけ?」

 

「こうじゃない?」

 

「いやいやこうでしょ」

 

「「それは違うと思う」」

 

「えぇ!?」

 

 三人寄っても文殊の知恵にはならなかった。全員が全員『何かが違うということは分かるのに、何が違うのか具体的な指摘が出来ない』という共倒れ状態に陥ってしまった。

 

「……誰かに聞いた方が早そうデスね」

 

「電話して聞いてみる?」

 

 既に何度も合同練習をしているため、幸い他事務所の知り合いは増えた。

 

「でも実際に見ないとお互いに分かりづらいだろうし……」

 

「うーん……」

 

 あーあー! こういうとき、物語だったら絶妙なタイミングでダンスを見てくれる先輩がレッスン室に入ってきてくれるのになー!

 

 

 

「し、失礼します」

 

 

 

「「「……ありす先輩キター!」」」

 

「わっ!? なんですか!? とりあえず名前で呼ばないでください!」

 

 ありすパイセンキタ! 年下だけど芸歴で言えば一・二年ぐらいぼくたちの先輩キタ! しかもぼくたち同様に合同ライブに参加するアイドルキタ! ありすちゃんならば性格的にもきっと完璧なはず! これで勝つる!

 

 というわけで早速恥も外聞も投げ捨てて年下の女の子に教えを乞うことにする。

 

「……えっと、実は、その……」

 

 しかしありすちゃんは恥ずかしそうに目を逸らした。

 

「……わ、私も……そこの振り付けに納得が出来なくて……お話を聞こうかと……」

 

「頼って来てくれた子に頼ろうなんて恥を知ってくださいりあむサン!」

 

「謝るんご!」

 

「ごめんなさい!」

 

 条件反射で謝ったけど、これぼく悪くないよね!?

 

「ごめんなさい、自分たちではありすちゃんのお力にはなれそうになく……」

 

「ごめんね、ありすちゃん」

 

「ごめん、ありすちゃん」

 

「いえ、そんな、気にしないでください。あと名前で呼ばないでください」

 

 さてどうしたものかと一人増えて四人で悩んでいると、再びレッスン室に誰かが入って来た。はいはいどうせまた同じパターンでしょ。まだ二回目だから天丼天丼。どーせPサマとかいうオチでしょ?

 

 

 

「やっほー! 自主練してるって聞いたよー!」

 

 

 

「ぎゃあああぁぁぁ!?」

 

 か、カリスマギャルだあああぁぁぁ!?

 

「なになになになに!? なんで叫んだ!? なんでアタシ叫ばれたの!?」

 

「すみません、この人ある意味で病気なので……」

 

「感極まってるだけなので気にしないでください」

 

「だからってこんな反応されることある!?」

 

「美嘉ちゃん二日遅れだけど誕生日おめでとう!」

 

「私の誕生日十一月十二日なんだけど!? 今九月だよ!?」

 

 どうしよう今お財布の中に何円入ってたっけ……なんてことを考えていると、あたふたと慌てる美嘉ちゃんの後ろから更に三人の人影が。

 

 

 

「あら、なんだか楽しそうね」

 

「美嘉ちゃんってば、年下にすら弄られてるん?」

 

「フレちゃんもいるよ~」

 

 

 

「ほんぎゃあああぁぁぁ!?」

 

 志希ちゃん以外のリップスだあああぁぁぁ!?

 

「あーもー滅茶苦茶デスね」

 

「そうだ美嘉さん、振り付けで聞きたいことがあるんですけど」

 

「よろしくお願いします」

 

「ちょっと待ってまだアタシはこの状況を飲み込めてないんだけどこのまま進行するの!?」

 

 このあと滅茶苦茶一緒に自主練した。

 

 

 

 

 

 

 ……とまぁ、そんな感じに色々な事務所のアイドルが苦労しているという話を未来ちゃんや美嘉ちゃんから聞いているわけなのだが。

 

「三人とも、手ごたえはどう?」

 

「「バッチリです!」」

 

 俺からの問いかけに、息を切らしながらも笑顔で頷くなのはちゃんとフェイトちゃん。片や高町の血によって苦手な運動を克服してしまったなのはちゃん、片や最初からポテンシャルが高かったフェイトちゃん。リンディ社長からお願いされて様子を見に来たけど、この二人は問題なさそうである。

 

 問題……とまでは言わないものの。

 

「………………」

 

「死んでる」

 

「死んでへん……」

 

 床に倒れ伏すはやてちゃん。彼女の場合、幼少期の長い時間を車椅子で生活していたハンデがあるから仕方がないと言えば仕方がない。寧ろそれだけのハンデがあっても現在アイドルとして活動しているので凄いぐらいだ。

 

「ほら頑張ってはやてちゃん。君が頑張ったその先には栄光が待っているんだよ」

 

「そーゆーフワフワした激励やのーて、もうちょっと具体的なご褒美が……」

 

「俺がりんと一緒にプール行ったときの動画とか見る?」

 

「うおおおぉぉぉ……! 燃え上れ、私の中の何かぁぁぁ……!」

 

 うんうん、それでこそ俺や愛海と同じ大乳愛好家である。もうそろそろアイドルおっぱい大好きクラブとか立ち上げてもいいかもしれん。

 

 

 

 八事務所合同ライブまで、残り三ヶ月。

 

 

 




・「アニメの私たちも頑張ってるんだから!」
毎週日曜日!

・「美嘉ちゃん二日遅れだけど誕生日おめでとう!」
更新日の二日前が美嘉の誕生日でした。

・アイドルおっぱい大好きクラブ
会員はあと未来ちゃんと……誰だろう、隼人とか巻き込んでみるか。



 合同ライブに向けてのラストスパートです。

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