※前話一部変更しております。
「突然だけど、五人は夏休みの課題終わった?」
「勿論なの!」
「当然でしょ!」
「七月中にみんなで終わらせました」
「国語だけちょっと時間がかかっちゃったけど……」
「フェイトちゃん、国語は相変わらず苦手やもんね」
「うんうん、良きかな良きかな」
偶然翠屋で遭遇したなのはちゃん・アリサちゃん・すずかちゃん・フェイトちゃん・はやてちゃんの女子中学生仲良し五人組に夏休みの課題事情を尋ねたところ、なかなか心強い返事が返ってきた。流石である。
いやそもそも夏休み終了間際のこのタイミングで、揃って優雅にお茶してる子たちが課題を残しているなんてありえないんだけどね。
「そうだよねぇ、普通はとっくに終わってるもんだよね」
「ふん、どうせアンタは貯めてた口でしょ?」
小馬鹿にした口調のアリサちゃん。周りからそう思われてるんだろうなという自覚は勿論あるのだが、残念だったね。
「アリサちゃん、実は良太郎さんって真面目に終わらせるタイプだから……」
「嘘ぉ!?」
「よくウチで、お姉ちゃんや恭也さんと一緒に課題をやってましたもんね」
「その節はお世話になったね、すずかちゃん」
高校の頃は、数学が苦手だった俺と化学が苦手だった恭也が、理数系に強い月村から度々勉強を教わっていた。夏休みだけでなく、試験前もよく恭也と一緒に月村邸で勉強会をしたものである。
……俺としては二人の邪魔かなとも考えたが、当時の恭也は徹底的な朴念仁だったため、月村が「別にそんなこと気にしなくて大丈夫よ」と死んだ目で笑っていたのも今ではいい思い出である。将来二人の結婚式ではその辺りのエピソードを面白おかしく語ってやろう。
「ちなみに私の英語は良太郎さんとフィアッセさんから教わっていたりするのです」
「嘘ぉ!?」
ちょっぴり自慢げななのはちゃんの発言に、アリサちゃん本日二度目となる嘘認定。アリサちゃんだけでなくフェイトちゃんとはやてちゃんも一緒になって驚いていたが、これはどちらかというと『
「『アイドルだからこそ、学生としての本分はしっかりとする』……昔から良太郎さんのことを見ていたから、そう思うようになったんです」
「なのはちゃん……!」
やだ本当にこの子いい子……! お兄さん泣いちゃいそう……!
「いやアイドルじゃなくても課題は普通するでしょ」
「アリサちゃんたちみたいな優等生ばかりだったら良かったんだけどねぇ」
そんなことにはならなかったため、今回一計を案じたわけである。
「「「「「事務所合同の勉強会?」」」」」
「そ」
勉強会なんてカッコいい言い方してるけど、要するに残っている夏休みの課題をやっつける会である。
どうやら様々な事務所で課題を終わらせてなくて悩んでいる学生アイドルをまとめて面倒を見ようっていう集まりだ。
「つまり課題殲滅戦線」
「なにがつまりなのよ……」
「これは、学生たちの明日を掴むための物語……!」
「随分と薄そうな物語ね」
アリサちゃん辛辣~。
「……あれ、このお知らせ、合同ライブに参加する全ての事務所に通達してるんですよね?」
「そうだよ」
「……フェイトちゃん、はやてちゃん、何か聞いてる?」
「ううん」
「なんにも」
首を傾げたなのはちゃんがフェイトちゃんとはやてちゃんに問いかけるが、二人は揃って首を横に振った。
「310プロにもメール送ってあるから、事務所の判断で必要ないって判断したんじゃない? なのはちゃんもフェイトちゃんもはやてちゃんも優秀だから」
素直にそう褒めてあげると、なのはちゃんとフェイトちゃんは恥ずかしそうに笑い、はやてちゃんはドヤフンスと胸を張った。
「けど課題が終わっている人は来ちゃダメってわけじゃないよ。名目上は勉強会だから予習しに来てもいいし」
勉強以外にも『他事務所間での交流』という目的もあったりする。年末のライブに向けて徐々に顔を合わせることは増えていくだろうし、少し早く他事務所のアイドルと仲良くなってもいいんじゃないかな、という狙いもあった。
「なんだったら合同ライブに参加しないはずの学生アイドルや、そのプロデューサーさんから『是非参加させてください』って逆にお願いされるぐらい」
「そうなんだ……」
「……えっと、どうしよっか?」
「ええやん、面白そうだし」
「私は、二人が行くなら……」
どうやら優等生三人組アイドルユニットであるトライエースも参加らしい。
「良太郎さん、いいですか?」
「勿論いいよ。ウチの事務所の会議室使うからそれなりの人数が集まっても大丈夫だし」
「……良太郎さんの事務所、アイドルが九人しかいないのに凄く広いですもんね」
「最近また広くなったんでしたっけ?」
「丁度一つ上のフロアが空いてさ。どうせなら俺たちで抑えちゃおうかってなって」
「ど、どうせならでやることがえらく豪快やな……」
「というか、事務員入れても十一人しかいない事務所なのに二フロアも使うんですか……?」
「俺たちアイドルの個室」
「アイドル事務所らしからぬ豪華さ!?」
一応これでも副社長ポジションの俺には元々個室あったんだけどね。
「……いやそれでも絶対空き部屋ありますよね? そもそもあのビル一つのフロアが滅茶苦茶広いじゃないですか」
「そうなんだよねぇ」
初めは合同ライブの運営事務所をウチに作ろうとも考えたんだけど、1054に作っておいた方が色々と便利だったから。
「正直課題が終わっている子が来てくれるのはありがたいんだよね。主に教師役として」
「あ、そっちですか」
「わ、私に出来るかな……」
「そんな難しく考えんでええって」
俺を含めてある程度の数の教師役は揃えているつもりだけど、当日何人来るか分からないから多いことに越したことはない。
「……って、え!? 良太郎さんも来るんですか!?」
「勿論教師役としてね」
「生徒役として来られても困りますけど……」
「アンタ、そんな暇あんの?」
「最近とても忙しいとお聞きしましたけど……」
アリサちゃんとすずかちゃんが訝し気に尋ねてくる。
……尋ねられた。
「そうなんだよ聞いてくれよぉ~!」
「うわ急になによ」
「ど、どうしたんですか?」
最近、珍しく体調不良でスケジュールに穴を開けてしまった『周藤良太郎』。後日、そのとき空けてしまった穴を塞ぐために滅茶苦茶なスケジュールを組みまくって、俺にしては珍しく
「
「「「「「うわぁ……」」」」」
女子中学生五人もドン引きである。
「なぁにが『いやぁ流石周藤良太郎ですね! まさか三日分の仕事を一日でこなしちゃうなんて!』だチクショウ……」
「え、えぇ……?」
「それが出来ちゃうアンタにも十分ドン引きなんだけど……」
「こ、個性的なスタッフさんが多いんですね!」
「フェイトちゃん、それはフォローにはならないの……」
「みんな良太郎さんに訓練された結果やないんですか……?」
はやてちゃんの言う通り、正直自業自得というか自分で蒔いた種というか、そういうことだってことは自覚してるよウン。
「とまぁそんなわけで『周藤良太郎』にしては珍しく降って湧いたように明日から二日間夏休みなのだよ」
「こういうときってどういう風に声をかけたらいいんだろう……」
「大丈夫やフェイトちゃん、私も分からん」
笑ってくれ。盛大に。
「りあむちゃんは課題って終わってるんですか?」
「……あかりちゃん? よく見て? こんなやつが今も学校通ってると思う?」
「中卒でしたっけ」
「違いますぅぅぅ! 専門学校を中退だから学歴的には高卒ですぅぅぅ!」
今時高卒でも普通かもしれないが、それでも自信満々に無駄にデカい胸を張らないでほしい。
「そんなことを聞くなんて、もしかして……あかりちゃん、終わってないの?」
「ドキッ」
「……なにその露骨な擬音」
「……トキメいちゃった音です!」
「そっかー赤くて甘いんだよねー……ってそんなわけあるかぁぁぁ!」
可愛らしく誤魔化そうとしたあかりチャンだったが、どうやらりあむサンだけじゃなくて自分も聞き逃せないことがあった。
「え、あかりチャン、もしかして……」
「夏休みの課題終わってないの!? 今日八月三十日だよ!?」
「………………」
「可愛らしくテヘペロしてもぼくは誤魔化されないぞ! ……もう一回やってもらっていい?」
「誤魔化されてマスよ」
勿論自分は終わらせているが、なかなかマズい状況な気がする。
「ウチの事務所、常々『学生は学業を疎かにしないこと』って耳にタコが出来るほど言われてますもんね」
「なんか『周藤良太郎』がそういう方針だから真似したっていう噂だね」
「りあむサン、今はそういうよく分からない冗談いりません」
「別に冗談で言ったわけじゃないんだけどぉ!?」
このままでは合同ライブどころか、自分たち三人のユニット活動にも支障が……!
「お困りのようだね……」
「なにっ!?」
「誰!?」
「あ、アナタは……!?」
突如として現れた四人目の声に、自分たちはそちらに視線を向ける。
するとそこには……!
――なんかやたらとデカいチューリップの化け物が!
「「「ホントに誰っ!?」」」
・課題殲滅戦線
ぶっちゃけ課題貯めたことないから分かんない。
・周藤良太郎のお仕事チャレンジ
これで自由に動けるよ!() 物語的には大助かりだ!()
・トキメいちゃった音
・赤くて甘い
多分日本で一番大勢の人間で『山形リンゴ』って叫んだ瞬間だったと思う(SOL二日目)
・なんかやたらとデカいチューリップの化け物
全部あの〇野〇美って声優のせいなんだ!!!
まだ未登場かと思ったら既登場だったフェイトちゃんを含めてリリなの五人組との会話回でした。アリサのツッコミが光る。
次回、他事務所交流開幕。