アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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夏は始まったばかりですが合宿は終わり!


Lesson362 Summer is here! 4

 

 

 

『………………』

 

 空気が重い。今この部屋には、鉛のような重圧がのしかかっている。。

 

 俺も一切気を抜くことはなく……『天ヶ瀬冬馬』として、全力を尽くすと決めた。

 

「……流れが悪いですね……」

 

「……だ、大丈夫かな……」

 

「心配ないって!」

 

「そうっすよ! ハルナっちならやってくれるっす!」

 

 心配する旬と夏来を他所に、隼人と四季は春名への信頼の言葉を口にした。集中している春名はそれに応えることはないが、不敵な笑みは言外に「任せろ」と語っていた。

 

「りょーちん頑張れ! 正直ルールはよく分かんないんだけど!」

 

「う、うん。正直僕も覚えたてだけど……このまま……!」

 

 背後から涼の両肩に手を置く咲。どうやらこういった場に不慣れであるらしいが……生憎俺も手を抜いてやる気はない。

 

「「「………………」」」

 

 翔太と蒼井兄弟も、固唾を飲んで見守っている。

 

 そして、この場で最も警戒すべき相手である正面の次郎さんが……たった今、切り出した。

 

 

 

「……リーチ」

 

 

 

「それだぜ、次郎さん(センセー)。ロン」

 

 

 

「おわあああぁぁぁ!?」

 

断么九(タンヤオ)対々和(トイトイ)ドラ3赤ドラ1……18000(オヤッパネ)だ」

 

「ば、バカな……!? 既に二枚切れてる二筒だぞ……!? 何故それで単騎待ちが出来る……!?」

 

「クククッ……その二筒はセンセー、アンタが三順前に切ってる……。アンタの()()()()()()()癖は既に見切ってるんだよ……!」

 

「ね、狙い打ったというのか……! 俺を引きずり落とすために……!」

 

「さぁ、アンタに預けておいた点棒……返してもらうぜ」

 

「グオオオォォォ!?」

 

 さぁ、まだ夜は長いぜ……!

 

 

 

 

 

 

 なんで向こうは殆ど学生組なのに、天才が闇に降り立ってそうな空気になっているのだろうか。

 

「……一応、元弁護士として止めるべきなのか……」

 

「元教師も混ざってるからいいんじゃないですかね」

 

「ウチの山下君がスマナイ……」

 

「寧ろその次郎先生から搾り取ってる様子のウチの冬馬の方がすみません」

 

 とはいえお金をかけているわけじゃないみたいだし、健全な遊びなので問題ないだろう。

 

 ……ただ勝敗には関係ないが点棒ごとにメダルのやり取りをするらしい。さらにこれも関係のないことだが、メダルの枚数が多い人が翌日駄菓子屋で多くお菓子を奢ってもらえるらしい。この二つの事柄にきっと因果関係はないだろう、うん。三店方式は悪い文明。

 

 そんな二階の部屋から聞こえてくる喧騒を肴にしながら、俺たち成人組は庭に面した縁側で晩酌を楽しんでいた。

 

「いや、夏の夜空を見上げながら縁側で晩酌とは、随分と風流ですなぁ」

 

 グイッとグラスのビールを飲み干す。普段はめったに飲まない瓶ビールってのがまた親戚の家でのお泊り感があってとてもいい。

 

「そうですねぇ。新鮮な海の幸も山の幸も、全部美味しいですし」

 

 俺の言葉に同意してくれた翼さんだが、彼はどちらかというとお酒よりもおつまみの方がメインになっている。……あの、全部食べないでね? 俺たちの肴も取っておいてね?

 

「あ、みのりさん、どうぞ」

 

「っ!? あ、ドウモ! アリガトウゴザイマス!」

 

 視界の端で北斗さんからお酌をされているみのりさんの声が裏返っていた。基本的にオタク側の人間だから気持ちは分かるよ。俺も楓さんからお酌されたら未だに一瞬でテンション上限を超えるし。

 

 さてそんな風に各々が風流な晩酌タイムを楽しんでいる中、縁側ではなく室内で本を読んでいた薫さんの元へと向かう。

 

「薫さんは飲まないんですか?」

 

「僕はいい」

 

 端的な遠慮の言葉ではあるが、拒絶の言葉ではなかったのでそのまま薫さんの対面へと座る。チラっとこちらを一瞥した目が少々鬱陶しげではあったが、その程度でこの俺を退かせられるとは思わないことだ。自慢だが俺は自分に対する悪感情にだけは異常に耐性があるぞ。

 

 さて、早速だが薫さんと会ったら聞こうと思っていた話題を切り出す。

 

「最近、蘭子ちゃんとはどうですか?」

 

「っ!?」

 

 俺の言葉に目をひん剝いた薫さんは、バッと周りを見回した。

 

「……あまり人聞きの悪いことを口にしないでくれないか?」

 

「だから誰にも聞こえないような状況で聞いたんですよ」

 

 俺たちの会話が聞こえるような位置に人はいないし、いたとしても上から聞こえてくる「これがオレの……逆転の清一色(チンイツ)ドラ2だぁぁぁ!」「「8000オール(オヤバイ)だとおおおぉぉぉ!?」」という白熱した声にかき消されていたことだろう。……周りにこの民宿以外の建物がないとはいえ、そろそろ注意した方がいいかな。

 

「たまに現場で挨拶しているとは聞きますよ」

 

「……挨拶ぐらい誰にだってする」

 

 そりゃそうなんだけど、薫さんが積極的に挨拶する年下の女性アイドルなんて蘭子ちゃんぐらいなものでしょ。

 

「天道の奴、余計なことを……」

 

「あ、コレ聞いたの輝さんじゃないですよ。蘭子ちゃん本人から聞きました」

 

「………………」

 

 薫さんはセンブリ茶を飲んでももうちょっと涼しい顔をするぞってぐらいしかめっ面になった。

 

「理由や経緯はどうであれ、純粋に自分のアイドル以外の部分でファンになってくれたことが嬉しいんですよ、きっと」

 

「……別に僕はファンというわけではないぞ」

 

「サイン持ってるのに?」

 

「………………」

 

 薫さんは正露丸を噛み砕いてももうちょっと美味しそうな顔をするぞってぐらいしかめっ面になった。

 

 ちなみに聞かれなかったから答えないが、こちらは輝さんからもたらされた情報である。

 

「声優のお仕事を積極的にしているとも聞きますけど、どうですか? その後」

 

「……来年のアニメで、メインキャラを務めさせてもらうことになった」

 

 こちらから話題を逸らしてあげると心なしかホッとした様子で乗ってくれた。こうして事前に話しづらい話題を提示しておくことで、口を軽くするというトークテクニックである。

 

「へぇ、何のアニメか聞いても?」

 

「……一応守秘義務があるのだが」

 

 なんてことを言いつつも薫さんが教えてくれたそのアニメは、以前にもアニメ化した大人気サムライ漫画のリメイク作品だった。へぇ、アレってリメイクするんだ。

 

「って、マジでメインキャラじゃん」

 

 多分アニメ第一クールだとボスになるキャラじゃん。そこに抜擢されるとは、凄まじい声優適正である。

 

「そうですか……薫さんのお仕事が順調そうで何よりです」

 

「……周藤君、一つ聞いてもいいか」

 

「? なんですか?」

 

「何故、君はそこまでするんだ?」

 

「……?」

 

 薫さんからの質問の意図が掴めずに首を傾げる。

 

「君ほどのトップアイドルが、まだ駆け出しもいいところである我々を気にかけることだ。今回の合宿だって、かなりスケジュールを詰めたとプロデューサーから聞いているぞ」

 

「まぁ、そうですね」

 

 とはいえこの合宿自体は二泊三日の日程になっているのだが、流石に丸々三日スケジュールを開けることは出来なかったため、明日の午後に俺とジュピターはここを離れる予定になっている。それ故に初日から全力でみんなにレッスンを叩き込んだし、明日の午前中も徹底的にしごくつもりである。

 

「合同ライブを成功させたいから、という理由も聞いている。だが……」

 

「……それだけでは弱いと、薫さんは思ったんですね」

 

 飲み干したビールのグラスをテーブルに置く。瓶を一本一緒に持ってこればよかったと少しだけ後悔する。

 

「薫さん向けの説明をするとなると……あれです、指導医みたいな感じですよ。若手を育てることも先達の仕事ですから」

 

 

 

「でも、()()()()()()()?」

 

 

 

「………………」

 

 流石、なかなか鋭いところを突いてくる。……ビール飲みたいなぁ。

 

「薫さん」

 

「………………」

 

 

 

 

 

 

 ――俺、余命十年もないんですよ。

 

 

 

 

 

 

「……って言ったら、どうします?」

 

「……嘘を言うのであれば、もう少しまともな嘘を言うことだ」

 

「もうちょっとリアクション欲しかったなぁ……」

 

 当然嘘であるが……それでもだ。

 

「アイドルは、いつでも簡単に死ぬんですよ」

 

 死ぬというのは人生という意味だけではない。例えば事故や事件に巻き込まれ、突然ステージに立つことが出来なくなることだってある。

 

 十年前、アイドル冬の時代を終わらせる可能性を秘めつつ、とある事件に巻き込まれてアイドルとしての命を絶たれてしまった女性の話を、俺は何度も聞いている。かつて『一番星の生まれ変わり』と称され、()()()()()()()()()()()()()として期待されたアイドルは、今はもういないのだ。

 

「俺は俺が全力の『周藤良太郎』であるうちに、一人でも多くのアイドルを輝かせたいんです。それが俺の願いなんです」

 

「……願いか」

 

「はい、願いです」

 

 美琴のことも、315プロのみんなのことも、俺は導きたい。たとえそれが傲慢な願いだったとしても……。

 

「俺は我儘な王様ですから」

 

「……我儘なのはうすうす気づいていたさ」

 

 さてと、そろそろグラスが渇いてきたことだし、ビールを継ぎに行こうかなっと。

 

「……なぁ、周藤君」

 

「なんですか?」

 

「……僕の分も持ってきてもらえるか?」

 

「……勿論」

 

 その後、薫さんの分を持ってこようとしたところをいつの間にか出来上がっていた輝さんに見つかり、彼も一緒に付いてきてしまったことで薫さんの顔が凄く嫌そうになったり、それでもしっかりと俺との乾杯をしてくれたりと色々あったが。

 

 なかなか楽しい夏の夜を過ごすことが出来たのであった。

 

 

 

「ところでみのりさん、俺のスマホにりあむから『たすてけ』ってメッセージが届いてたんですけど」

 

「久しぶりだねぇ、りあむちゃんからのヘルプメッセージ」

 

「はい。夏だなぁって感じですよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……けほっ」

 

 

 




・唐突な闘牌シーン
なんとなく懐かしくなってニコ動でゆっくり天鳳見てた。

・頭を切って回す癖
次郎センセ―浦部説。

・三店方式
「よく分かりませんが、皆さんあちらの方にいかれますよ?」

・大人気サムライ漫画のリメイク
リメイク版るろうに剣心は絶賛放映中!
蒼紫様がユウマタソだぞ!

・余命十年
 う そ で す
d(* ´∀`)b

・『一番星の生まれ変わり』
正式にコラボしたからには大手を振って登場させられるね!



 だいぶぐだぐだした感じですが、そもそもアイ転ってこんな感じでは?(開き直り)

 今回は珍しく次回予告入れてみます。






 晴天の霹靂。

 それは突然の出来事であった。

 彼はいつもそこにいた。玉座は彼のものだった。

 仮にそこが空席となったとして、果たして次に座るものは現れるのか。

 ……彼は既に、そこにいない。

 そこは既に、空白の玉座である。



 次回『アイドルの世界に転生したようです。』

 Lesson363 りょーくん、風邪引いたってよ。



 夏風邪には注意されたし。

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