アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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記念すべき30作目の恋仲はついにこの子!
お待たせしました!


番外編82 もし○○と恋仲だったら 30

 

 

 

 それは、あり得るかもしれない可能性の話。

 

 

 

「りょーたろーくん、そこに正座なの!」

 

 

 

 最近初手特殊タグが多いなぁと思いつつ素直に正座する。怒ってても美希は可愛いなぁ。

 

「……りょーたろーくん、ミキは怒ってるの」

 

 コホンと一息ついてから、美希も俺の正面に正座した。こうして同じ目線になってくれるところも可愛らしいポイントにプラスである。

 

 それにしても俺は一体何をしたのだろうか。おはようのキスもしっかりとしたし、いってきますのハグも忘れずにした。正直パッと思いつくような心当たりはない。

 

 しかし目の前でチョコンと正座する美希は、モーションでもなんでもなく本当に怒っているようである。はて?

 

 美希は定番の「どうして怒ってるのか分かる?」という回りくどい言い方をせずに、何に対して憤慨しているのかをすぐに教えてくれた。

 

「りょーたろーくんの本棚の裏側」

 

「……あっ」

 

 やべ、どうやら隠してあった『ふーかちゃんといっしょ~南国リゾート編~』の存在がバレたらしい。

 

「言い訳させてほしいんだけど、別にエッチな本じゃないぞ」

 

 タイトルがとても怪しいが、しっかりと765プロダクションが監修した正規品である。勿論、購入するための年齢制限はかかっていない。必要なのは一万円札とレジへと持っていく勇気だけだ。少しだけお高いが、是非小中学生の男子も大人への一歩を踏み出してもらいたい一品である。

 

 しかしそんな言い訳も美希には通用しなかった。

 

「風花のおっぱいがえっちじゃないわけないの!」

 

 ぐうの音も出ない。

 

「もう! りょーたろーくんがおっぱい星人なのは知ってるの! でもミキだっておっぱい大きいんだから、こんなものを視るぐらいなら……!」

 

「ん? ちょっと待って美希、何が大きいって?」

 

「え? だから、ミキのおっぱい……」

 

「美希のなんだって?」

 

「お、おっぱい……」

 

「もう一回」

 

「……お……お、おっぱい……」

 

 うっひゃあああ顔を赤くして恥ずかしがってる美希が可愛いいいイッテェェェ!? こめかみに膝が勢いよく突き刺さったかのような痛みがあああぁぁぁ!?

 

「さっきからアンタは何やってんのよ!? ぶん殴るわよ!?」

 

 殴るんじゃなくて蹴ってるじゃん……そもそも既に行動を起こした後じゃん……。

 

「流石にこめかみに膝は命の生命が危険で危ないぜ、りっちゃん……」

 

「そうなの律子! さん! ミキのハニーになにするの!?」

 

「あ゛ぁ゛ん゛!?」

 

「「ひぇっ……」」

 

 比喩表現でもなんでもなく鬼の形相になったりっちゃんに、思わず美希と抱き合って震えてしまう。りっちゃんも淑女らしくもうちょっと控えめに……。

 

「というか! そもそも! そういうのは! 家でやれ!」

 

 そういえばここ、765プロ劇場の控室だった。道理で周りに美希以外の765プロの子たちがいると思った。

 

「確かにちょっとだけ声が大きかったな、すまん」

 

「私が怒ってるのは声量じゃなくて内容よ!」

 

「そ、そうですよ、良太郎さん! それに美希ちゃんも!」

 

 怒ってるりっちゃんの影からひょこっと風花ちゃんが顔を覗かせた。どうやら彼女も怒っているらしいのだが、美希以上にとても怒っているようには見えない迫力のなさである。いやおっぱいの迫力は凄いけど。

 

「わ、私の……おっぱい……は! え、えっちなんかじゃありません!」

 

「「………………」」

 

「せめて何かリアクションしてくれませんか!?」

 

 いや……可愛いなぁって思って。

 

「ち、違いますよね!? ね!? 律子さん!?」

 

「………………」

 

「目を逸らさないで!?」

 

 思いがけないフレンドリーファイアに涙目になっている風花ちゃんはさておき、話を戻そう。

 

「美希、清楚な風花ちゃんの健全な本を隠していたことは謝る。けれどそれはそれとして、趣味嗜好の一環としての所持を許してほしい」

 

「むぅ……しょうがないなぁ。ミキも鬼じゃないの。そうやってちゃんとお願いしてくれるなら、清楚な風花の健全な本を持っててもいいの」

 

「だから清楚な風花の健全な本の話は家でしろって言ってんの!」

 

「泣きますよ!? 私いい加減に泣きますよ!?」

 

 流石に風花ちゃんを泣かせるわけにはいかないので、そろそろやめておこう。

 

 ……しかしまぁ、なんというか。

 

 

 

「ん? どうしたの、()()()()()()()()?」

 

 『りょーたろーさん』が『りょーたろーくん』に。

 

 

 

「いや、なんでもないよ、()()

 

 『美希ちゃん』が『美希』に。

 

 

 

 一年というものは、とても短いものである。

 

 

 

 

 

 

「良太郎さんから告白された!?」

 

「しかもそれを断った!?」

 

 昨日の出来事を春香と千早さんに話すと、二人は目と口を大きく開けてまるで埴輪のような顔になった。

 

「こ、断ってないの! 保留にしてもらっただけなの!」

 

「いやいやいや、驚き過ぎて色々と何を言っていいのか分からないんだけど、え、おめでとうって言えばいいの!?」

 

「いや待って春香、告白を受けていない以上、おめでとうはおかしいと思うの。ここは『貴殿の今後のご検討をお祈りします』と……!?」

 

「ちょっと落ち着いて!? 二人がかりでボケられたらミキには捌ききれないからね!?」

 

 あったかいお茶を飲んでもらい、一息つく。

 

「えっと、一つずつ整理していこっか」

 

「まず、美希は良太郎さんに告白をされたのね」

 

「うん……」

 

 昨晩、生放送の歌番組の撮影が終わって、ミキはりょーたろーさんにおねだりして晩御飯へ連れて行ってもらった。

 

「○○ホテルのレストランだったんだけど……そこの個室で、食後に……」

 

 

 

 ――結婚を前提にして、俺と付き合ってください。

 

 

 

「……うっひゃ~……!」

 

「す、ストレートね……」

 

 春香と千早さんが顔を赤くしているのを見て、自分で話したくせに少しだけモヤッとしてしまった。

 

「そ、それで、どうして美希は断っちゃったの?」

 

「そうね、あれだけいつも良太郎さんのことが好きだって言ってるのに……」

 

「それは、その……い、いきなりだったから、びっくりしちゃって……」

 

 

 

 ――す、少しだけ……待って、ください。

 

 ――……分かった。

 

 

 

「………………」

 

 りょーたろーさん、悲しそうだった。表情は変わらなくても、ミキにはそう感じた。

 

 ……びっくりしたのは、本当だ。

 

 でもそれは、告白を保留してしまった理由ではない。

 

 

 

 だって、いつも好きって言ってるのはミキで、ミキはそれだけで満足してて。

 

 りょーたろーさんがミキを好きになってくれるなんてこと、考えたことなかったから。

 

 

 

「………………」

 

「それにしても、○○ホテルのレストランっていえば夜景が凄いキレイなことで有名なところでしょ? そんなところの個室で告白されるなんて、女の子としては憧れちゃうなぁ……」

 

「……あれ、○○ホテル……?」

 

 春香がうっとりとした表情をする一方、千早さんは何かが気になる様子で首を傾げた。

 

「千早ちゃん、どうかしたの?」

 

「……私も以前、仕事でそこのレストランで食事をさせてもらったことがあるのだけど……確か数日前からの予約が必要だったはずよ。美希、良太郎さんを食事に誘ったのは当日のことなのよね?」

 

「うん。でもりょーたろーさん、ちゃんと予約して……」

 

 ……あ、あれ? どうしてりょーたろーさん、予約してあったの?

 

「美希、もしかしてなんだけど、良太郎さん……」

 

 

 

「み、ミキ以外の誰かを誘うつもりだった……!?」

 

 

 

「「なんでそうなるのよっ!」」

 

 二人がかりでスッパーンと頭を叩かれた。

 

「どう考えても『最初から美希を誘うつもりだった』に決まってるでしょ!」

 

「昨日の歌番組は私も見てたけど、良太郎さんの歌、ほんの少しだけいつもより声が高かったわ。きっと『そのときからずっと美希に告白するつもりで緊張してた』のよ」

 

「りょーたろーさんが……!?」

 

 だ、だって、ミキ、いつも一方的にりょーたろーさんに……。

 

 

 

 ――ありがとう、美希ちゃん。

 

 

 

 き、きっと迷惑に思ってて……。

 

 

 

 ――美希ちゃんみたいな可愛い子に好かれるのは嬉しいなぁ。

 

 

 

 み、ミキじゃなくたって……。

 

 

 

 ――いや違うな。

 

 

 

 ――美希ちゃんに好かれるのが、嬉しいよ。

 

 

 

「………………」

 

 いかなくちゃ。

 

「……春香! 千早さん! 一生のお願い! 今から――」

 

「「いってらっしゃい」」

 

「――え」

 

 お願いの内容を口にする前に、二人は笑顔でそう言った。

 

「良太郎さんのところ、行くんでしょ?」

 

「プロデューサーには私たちから言っておくわ」

 

「っ……! ありがとうっ!」

 

 二人にお礼を言って、ミキは事務所を飛び出すためにドアを――。

 

 

 

「あ、美希ちゃん」

 

 

 

 ――開けようとしたドアが勝手に開いて、良太郎さんが入って来た。

 

 

 

「「えっ!? 良太郎さん!?」」

 

「や、お邪魔します。いやちょっとだけ美希ちゃんに用事があってさ」

 

「………………」

 

「……美希ちゃん、昨日のことなんだけど、もし迷っているようだったらいくらでも考えてくれていいから」

 

「………………」

 

「俺は君の気持ちが落ち着くまで、いくらでも……」

 

「気持ちなんて!!! 落ち着くわけないの!!!」

 

「え……むぐっ!?」

 

 いつもはただ飛びつくだけだったけど。

 

 そのまま彼の首に腕を回し。

 

 

 

 唇を重ねた。

 

 

 

 

 

 

 どれだけ言葉を重ねても、届かないと思っていた。

 

 私は、貴方の特別になれないその他大勢の一人だと思っていた。

 

 それでも涙が一粒も出ないのは……既に私もマリオネットになって(こころがこわれて)しまっているのだと思っていた。

 

 

 

「うえ~ん! りょーたろーさぁぁぁん! すきぃぃぃ~!」

 

「まさかの泣きながらの告白返し……あぁ、俺も好きだよ、美希ちゃん」

 

 

 

 でもきっと、私が泣くのはこれが最後。

 

 涙なんて流れないように……一緒に幸せになりたい。

 

 

 

 ね? ハニー!

 

 

 




・恋人美希
作中で一番積極的に見えて、作中で一番後ろに下がっていた子。
バカップルじゃなくて良妻になるタイプだと思っている。

・『ふーかちゃんといっしょ~南国リゾート編~』
他には遊園地デート編やおうちデート編などがあり、これら二つと比べると本当に健全だともっぱらな噂。

・マリオネットになって
例え消えてしまったとしても。



 気が付けばナンバリングが30になっていた恋仲○○。記念すべき今回はついに美希でした。

 以前は「メインヒロインになる可能性のある子は」うんたらかんたら言っていましたが、今後はそういうの全て解禁したいと思います。

 ……こういう未来も……あったのかもしれねぇなぁ……。



『どうでもいい小話』

 そういえば触れ損ねていましたが、先日楓さんのSSRでしたねハイ(天井民)

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