「Hey! Everyone! 今晩もやってきました、S.E.Mのお悩み相談のコーナーだよ!」
「えっ」
「Todayの相談者はこの人! PN『遊び人のリョーさん』です!」
「PN『遊び人のリョーさん』です。先生方、今日はよろしくお願いします」
「待って待って、唐突に何か始まったんだけどこのテンションのまま続いていくの?」
「それで『遊び人のリョーさん』君、我々にしたい相談というのは何かね?」
「はざまさんまで乗っちゃうの!?」
既に全員それなりにアルコールが回っている状態なので、俺の相談タイムは随分と愉快な空気感で始まった。
「これこれ、こういう空気がいいんですよ。毎回毎回重苦しく話を進める必要なんてないんですよ」
「すど……じゃなくて、リョーさんは何を言ってるの……」
「そう考えると『おっぱいビンタ』という恐怖を植え付けてくれたことに関して、俺はもうちょっと感謝しないといけないんだなって……」
「本当にリョーさんは何を言ってるの!?」
さて本当にそろそろ本題に入ろう。
教師三人に先日の出来事を
「……なるほどねぇ。つまり『周藤良太郎』と『玲音』の強すぎるアイドル性に当てられて、他のことに目を向けられないぐらい盲目的になっちゃった子がいる、と」
「それが悪いことだとは言いません。麗華や冬馬には寧ろ発破をかけてるぐらいです」
次郎さんが注文した日本酒を俺も貰いながら「でも」と言葉を続ける。
「俺が言えた義理はないのかもしれませんが……それはあまりにも途方もない道なんです」
そこに辿り着ける才能があるのであれば、俺は諸手を振って応援しよう。例え才能が無かったとしても、そのために努力すること自体も否定しない。
しかし、美琴の場合は事情が違う。彼女は『輝きの向こう側』の光に
「んー……高校受験を無視して、いきなり名門大学受験を始める……みたいな感じかな」
「確かにそういった道を選ぶ生徒はたまにいるが……我々教師としては、積極的に進めたい道ではないな」
次郎さんだけでなく類さんと道夫さんまでも顔を顰めてしまった。
「美琴がほんの少しでも『もしそこに辿り着けなかったら』ということを考えてくれるのであればいいんですけど……」
あの目は、同期会で見た美琴のあの目は、それ以外を何も映すことがない
美琴はきっと、もう止まらない。
「……周藤君は、その子を止めたいのかい?」
道夫さんからの問いかけに、俺は首を縦にも横にも振れなかった。
「複雑なんです。『友人』としての俺は応援したい、でも『アイドル』としての俺は無茶だと止めたい……そして『アイドルの王様』としての俺はここまで来て欲しがっているんです」
自分の心の中で様々な感情と想いが入り乱れていて、とてもじゃないが一人では整理しきれなかった。単純な多数決で言えば止めるべきなのだろうが、そんな単純なことで決めることが出来るのであればわざわざこんな話をしていない。
「俺は、俺が今どうしたいのか、それすら分からないんです」
「……いや、別に難しく考えなくていいんじゃない?」
「……え」
そんな身も蓋もないことを言い出したのは、徳利から日本酒を手酌していた次郎さんだった。
「いやごめんね。君が『アイドルの王様』として覚悟を決めてることは聞いたし、それを否定するつもりはないよ。その子がどれだけ無茶なことをしてるのかっていうのも、とりあえず理解しているつもりだ」
それを踏まえて上で、それでも次郎さんは俺の悩みを「必要のないものではないか」と否定した。
「さっきるいも言ってたけど『高校受験をすっとばして大学受験をするみたいなもの』ってやつ、はざまさんも『積極的に進めたい道ではない』って言ってたけど……」
「あぁ、推奨は出来ない。だが一度覚悟を決めて足を踏み出している以上、それを全力でサポートするのが教師であり『導く者』としての役割ではないか?」
「ミスターりょーだって頭ごなしに否定してるわけじゃないってことは理解してるよ。その言葉はその道を進んだ先にいる者としてのものなんだろうけど、逆に言うとそこに導けるのは君以外いないんだよ」
それは元教師としてではなく……今も変わらぬ『導く者』としての三人の言葉。
「『アイドル』としては若輩者の我々だが、『導く者』としては数歩先を行く者の言葉として、周藤君には覚えておいて欲しい」
「studentsの目指す場所が間違っていない以上、teacherとしては応援してあげるべきじゃない?」
「先生だって、勝手に志望校決めるわけにゃいかないからね」
「………………」
三人の言葉に耳が痛い。
「周藤君の話では、緋田美琴さんは強い光に目を焼かれてしまったのかもしれない。しかしそれでも尚、膝をつかずに進み続けている以上、彼女の覚悟は紛れもなく本物だ。雨に濡れようとも風に吹かれようとも消えることのない強い覚悟の火。それは間違いなく、彼女自身が望む未来へと繋がる大切なファクターだ」
確かに、美琴は折れなかった。『周藤良太郎』と『玲音』という圧倒的な存在を前に、立ち止まるのではなく更に前へと突き進む選択をした。
その時点で彼女は紛れもなく『本物』だった。
「導くということは、迷ったものに進むべき道を告げることではない。傷付かぬ安全な道を進ませて守ることでもない。自らの意志で一歩を踏み出す勇気を支えて、その勇気の一歩を後押しすることだ。……我々は、教師としてそれが出来なかった」
道夫さんはそう言って悲しそうに目を伏せた。
「だからこそ、我々はアイドルになったのだ。そしてアイドルとして既に世界を見た君ならばきっとそれが出来るはずだ、周藤君」
「ま、要するに『止まれないならもっと背中を押して勢いを付けちゃえ』ってことだよ」
「そのままびょ~んとHigh jumpしちゃおう!」
「………………」
……俺は、美琴の進もうとする道を否定しようとしていた。その先に進んでほしいと心の何処かで願いながら、しかし傷付く友人の姿を見たくないと否定しようとした。『アイドルの王様』だのなんだの言って、好き勝手やりながら『見たくない』なんて個人的な理由で彼女の道を閉ざす選択肢を選ぼうとしていた。
けど、それは結局
麗華や冬馬たちが俺の手なんか借りずとも突き進んできてくれていたから、俺は手を差し伸ばす
――りょーくんは『我儘な王様』になって。
あの日、りんから言われたその言葉の意味を、俺はまだまだ勘違いしていた。
『ここまで来ることが出来る』という道を示すだけっていうのは、もう終わったんだ。
俺が
「……ありがとうございます、次郎先生、道夫先生、類先生」
「おっと、どうした急に」
「ようやく、自分がすべき本当のことが分かった気がします」
「……そうか」
「ミスターりょーの手助けになれたようでよかったよ!」
「ところで先生方、今日のライブ後はちゃんとマッサージしましたか? トレーニング後だけじゃなくて、ステージを降りた後もしっかりと……」
「「「あっ」」」
「………………」
翌日、
……さて、少し麗華にも相談するか。
「……美琴、凄いよね」
「どうしたのよ急に」
事務所の一室で突然、ともみがそんなことを言い出した。相槌を打ったのは、最近ではめっきり事務所にいることが珍しくなってしまったりん。この子、本当にそのうち123に移籍するんじゃないかしら。
「だってさ、普通『周藤良太郎』と『玲音』の二人を同時に目標になんてしないじゃん? どちらか片方だけでも心折れてもおかしくないのに」
「確かに。……好きだったアイドルに嫌がらせされた程度で折れそうになったアタシたちとは大違いだね」
「……何よその目は」
「別に~」
何を言いたいのか分かってしまっただけにムカつく。
「……でもまぁ確かに、他のアイドルが眩しすぎて引退なんてありきたりな話ね」
寧ろすっぱりと引退する方がマシだ。そこで変にひん曲がってしまう方がタチが悪い。
そう、あの『一番星の生まれ変わり』と称されたアイドルの光に焼かれて、暗闇に堕ちていった『雪月花』のように。
……所詮、どうでもいい話だ。
「……ん? 電話? ……良太郎?」
「……なんでアタシじゃなくて麗華の方に電話がかかってくるのカナ?」
「本人に直接聞きなさい」
そんな恨めしい声出されても、どうせ仕事の話よ。
『麗華、俺、美琴の責任を取ろうと思うんだ』
は?
『俺は(美琴の夢を)認知する!』
ブチ切る。
さ、仕事仕事。
・『導く者』
良太郎が目指してきた一つの形。
・隣で導くべきなんだ。
しかしそれは『玉座』を離れることを意味する。
・『一番星の生まれ変わり』
後に『完璧で究極のアイドル』と
ぐだぐだ悩むぐらいなら責任取れ!!!という脳筋。本当に教師からの回答なのかこれが……?
憧れは止められない。しかし止まらない憧れほど強い想いは存在しない。自らの意志で折れない心というのは、固すぎて脆い諸刃の刃。
Q 結局どういうこと?
A お前がトップアイドルに育てるんだよ!!!
美琴関連のお話はこれで一区切りです。……SEM回とは、と聞いてはいけない……。
次回は番外編で気分をリフレッシュ。