アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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『導く者』として。


Lesson351 Episode of S.E.M

 

 

 

「どないせえっちゅーねん!」

 

 

 

「いきなりなんだ!?」

 

「すまん兄貴、とりあえず前回のお葬式みたいな空気を払拭しようかなと思って……」

 

 あの後、同期会がどうなったのかという記憶がハッキリとしていない。しかし美琴は楽しそうにしていたという証言をりっちゃんから聞いているので、少なくとも『美琴との交友を深める』という当初の目的は達成出来ただろう。

 

 しかし、その美琴のことがどうしても気がかりだった。

 

(まさかアノヤロウとも知り合いだったとは……)

 

 正直予想外過ぎる繋がりだった。いくら()()()()()()()()()()()という前情報を知っていたとしても、そこから美琴との関係に結び付けるのは不可能だ。だってアイツが渡米した頃にはまだ美琴はフリーだったし……。

 

 だがこれでハッキリとしてしまった。あの美琴の執着心にも似た異常な向上心は、全て『周藤良太郎』と『玲音』という二人の『輝きの向こう側(オーバーランク)』のトップアイドルを間近で見てしまったことによるものだった。

 

 

 

 つまり美琴は……『輝きの向こう側』以外を見ることが出来なくなってしまっているのだ。

 

 

 

 それを否定することはしない。けれどそれはまるで『茨の道を脇目も振らずに走り抜ける』ような行為だ。自分の傷に気付かず、流れる血にも気付けず、そのまま……。

 

(………………)

 

 他人(ひと)の人生に、生き方に、口出す権利なんてない。そもそも今の美琴に「そんなことはやめておけ」と言ったところで、きっと美琴は笑顔で「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」と返すことだろう。アイツはそういう奴だ。

 

 それにそのやり方も間違っているわけではない。寧ろ俺や玲音の方(かがやきのむこうがわ)に来ようとするならば、きっとそれぐらいのことをしなければ辿り着けないだろう。

 

(けど、だからって……)

 

「……おい、本当に大丈夫か? いきなり叫んだかと思ったら、今度は急に黙り込んで」

 

「……俺は大丈夫なんだけど、大丈夫じゃない奴がいるというか、全体的に言えば全く大丈夫じゃないというか……」

 

「は?」

 

「……いや、やっぱり何でもない」

 

 パンッと軽く両頬を叩いて意識を切り替える。

 

「あんまりシリアスになりすぎると、またりんのおっぱいビンタが飛んでくるからな」

 

「は?」

 

 

 

「で? なんの話だったっけ?」

 

「だから、予備校主催の『受験生応援ライブ』だ。お前がやりたいって引き受けてきた企画だろ?」

 

「あー、そうだった」

 

 改めて、事務所の社長室にて兄貴から資料をパサリと渡される。

 

「しかし、相変わらずお前は仕事を選ばんな。今更こういう仕事をするとは」

 

「選んでるからこそ、こういう仕事を引き受けたんだよ」

 

 とはいえ兄貴に言いたいこともよく分かる。今回のこのお仕事は、とある予備校を運営するグループが企画した『受験生のためのライブ』だ。観客は受験生に限定されるため少なく、ステージだってとある学校の体育館で行われるためかなりの小規模。ハッキリと言ってしまえば『周藤良太郎』が立つステージとしては小さすぎる。

 

 それでも俺は、緊張した面持ちでビクビクしながら企画担当者が持って来たこの話を、二つ返事でオッケーした。

 

「担当者さん、凄いポカンとした表情してたぞ」

 

「そりゃするだろう。向こうも『断られて元々』ぐらいのスタンスで持って来ただろうし」

 

 その勇気に免じて……というわけではない。ギャラだってそれ相応には出してもらうつもりなので、決して善意というわけでもない。敢えて理由を挙げるとするならば……。

 

「凛ちゃんが今年受験生だから……かな?」

 

「それはそれで去年受験生だった子から凄い怒られそうな理由だけどな」

 

 そう言いながら、兄貴は「お前らしい」と笑った。

 

 

 

「当然のように俺はトリだな」

 

 改めて兄貴から渡された今回の企画書に目を通す。

 

 ある程度大きなステージ、それこそ魔王の三人やジュピターの三人も出演するならばそちらに任せるというセトリもありだっただろうが、今回の出演アイドルの名前を見る限りではそれは少し難しいだろう。

 

「……おや」

 

 トップバッターに知っている名前を見付けた。

 

「なるほど。俺なんかより余程このステージにふさわしいアイドルにもちゃんと声かけてたみたいだ」

 

 この企画担当者に対する評価がまた一つ上がった。

 

 

 

「315プロダクション『S.E.M』。元高校教師っていう経歴がこのステージにピッタリだな」

 

 

 

 

 

 

 翌日。美琴のことは相変わらず気がかりだが、自分の新曲の振り付けにも気になるところがあったため近くのスタジオを借りた。振り付け確認程度であれば普段は事務所内のスタジオを使用するのだが、現場と現場の僅かな時間を活用するために極力移動時間を減らした結果である。

 

「今、お水持ってきます!」

 

「おや」

 

 そんなスタジオの廊下を歩いていると、スタジオの一室から315プロのプロデューサーさんが飛び出していくところを目撃した。何やら慌てた様子のプロデューサーさんは、背後から近付く俺に気が付かなかった!

 

「って、何事だ?」

 

 声をかける暇なく駆けていくプロデューサーさんの背中を見送ってから、俺は彼が飛び出してきたスタジオの中を覗き込む。

 

 ……するとそこには、床に倒れ伏したSEMの三人の姿があった!

 

「……なに、事件現場?」

 

 工藤先生呼ぶ?

 

 

 

「……はい、どうですか?」

 

「あ゛ぁぁぁ……生き返るぅ……」

 

 いつも持ち歩いている簡易救急セットの中から湿布を取り出して次郎さんの腰に貼ってあげた。

 

「ありがとね、すどうさん」

 

「すみません周藤さん、本来こういったものは僕が用意しておくべきでした……」

 

「いえいえ」

 

 さて、プロデューサーさんが買ってきた水を飲みながらSEMの三人は一息ついているが、どうやら彼らは新曲の練習をしていたらしい。

 

「『受験生応援ライブ』ですよね。俺も出演させてもらいますので、今回はよろしくお願いします」

 

「いやいや、それはこっちのセリフだって……」

 

「俺たちトップバッターだから、よろしくね! ミスターりょー!」

 

「アイドルとしては若輩者の身ではあるが、全力を持って挑ませていただく」

 

「おじさんたちのせいで観客席が冷え切っちゃわなけりゃいいけど」

 

「大丈夫です、オオトリは俺ですから」

 

 例え俺より前に出演するアイドルがどれだけ地獄のような空気を作り出したとしても、最後の俺のステージで盛り上げきってみせる。俺がオオトリを務める以上、白けたライブになんてさせやしない。

 

「だから安心して全力を出し切ってくださいね」

 

「うへぇ、頼もしいねぇ……流石は『周藤良太郎』」

 

「No problem! 俺たち頑張るよ!」

 

「あぁ、完璧なステージにしてみせる」

 

(……完璧かぁ……)

 

 

 

 ――良太郎たちみたいな完璧なパフォーマンスが出来るようになってから……。

 

 

 

「………………」

 

「? ミスターりょー? What's happened?」

 

「Nothing」

 

 フルフルと頭を振って思考を切り替える。

 

「それにしても、三人揃って随分とバテてましたね。そんなにレッスンがキツかったんですか?」

 

「それがですねぇ……」

 

 次郎さんがちょいちょいと床に置かれていノートパソコンを指差しながらプロデューサーさんにアイコンタクトを送ると、それが通じたらしいプロデューサーさんはコクリと頷くとノートパソコンを持ちあげて俺に画面を向けた。

 

「実はこういう振り付けの曲になっていまして……」

 

「どれどれ……」

 

 スッと眼鏡を取り出して振り付けの動画を拝見する。いつもの『俺は部外者なのに~』といったやり取りはこれまでも散々してきたので今回はカット。

 

「……ふむ、一見すると単純な振り付けですけど、運動量が多いですね」

 

 なるほど、三人がここまでバテていた理由がよく分かった。

 

「初めは振り付けを少しだけ簡単なものにしようという案も出たのですが……」

 

「それはあまりしたくなかった」

 

 道夫さんが首を横に振った。

 

「私たちの事務所の学生諸君にも振り付けを見てもらったのだが、そちらの方が反応が良かった。この振り付けは私たち『S.E.M』が目指すアイドル像に適切だと考えたのだ」

 

「SEMが目指すアイドル像、ですか」

 

 確かこの三人は『生徒たちを導くため』というなかなか稀有な理由でアイドルになった人たちだった。

 

「生徒たちの関心を引くために鼻眼鏡で授業したり、人形劇で授業したりもしたよね、はざまさん」

 

 なにそれちょっと気になる。ウチの高校は生徒たちに負けず劣らず教師陣も濃い人たちばかりだったけど、流石にそんな授業をする人はいなかったな。

 

「しかしそれでは生徒たちに私たちの言葉を届けることは出来なかった。そんなとき、文化祭に来てくれたアイドルのステージを見て思ったのだ。アイドルとしてならば、生徒たちにより強く私たちの言葉を届けることが出来るのではないか、と」

 

「ちなみにそのとき来てくれたのは、346productionの『Asterisk』っていうアイドルユニットだったよ!」

 

「あぁ、あの二人か……」

 

 聞けば一昨年の秋の文化祭のことだったらしい。丁度その頃の346プロと言えば、確か秋フェスが終わって凛ちゃんと卯月ちゃんが……ウッ、頬が……じゃなくて頭が……!

 

「そこで一人の女子生徒が、アイドルについて熱く語ってくれたのだ。如何に人を惹きつけるか、如何に人へ想いを届けることが出来るか。彼女はとても熱心に語ってくれた」

 

「……この前もその話チラッと聞きましたけど、その女子生徒って、今765プロでアイドルやってるツインテールの子だったりしません?」

 

「なにっ、周藤君は知っていたのか」

 

「えっと、まぁ……」

 

 一応候補としてはピンク色の頭の可能性もあったのだが、アイツは確か普通の公立高校は通ってなかったって聞いたから除外した。

 

 しかしまさかこの三人のアイドルとしての原点が亜利沙ちゃんとは……このこと、彼女は知っているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

「……は、ハーックション!」

 

「亜利沙さーん? お写真を撮るときはどうすればいいのか、私、言いましたよね~?」

 

「あぁ、バレ……!? い、いえそんなこと……なんかデジャヴ!?」

 

 

 




・玲音が元961プロ所属
アイ転世界では離脱済み。

・『受験生応援ライブ』
・ステージとしては小さすぎる
未だにフットワークが軽いタイプのアイドル。

・背後から近付く俺に気が付かなかった!
年数を重ねるごとにネタキャラ化していくジンニキ。あの人ちょっとばかり考え方に柔軟性が足りないんだよなぁ……。



 前回のあの引きから通常回を進める勇気!

 ……投げっぱなしというわけではなく、ちょいちょい消化していく今章における大問ということで一つお願いします。

 そんなわけで本家とは微妙に時系列がズレていますが、今回からSEM編です。



『どうでもいい小話』

 今更ですが『推しの子』原作全話接種しました。

 心がぐちゃぐちゃになりました。たすけて

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