アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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またの名を昔話編。


Lesson347 覇王世代の宴

 

 

 

「りっちゃん、明日の晩、空いてる?」

 

 

 

「律子さんと良太郎君のone night loveピヨ!?」

 

「小鳥さん私より先に変なリアクションしないでもらえますか!?」

 

 

 

 久しぶりに765プロの事務所へ遊びに来たんだけど、結婚して本名が赤羽根小鳥になっても小鳥さんは相変わらずだなぁ。

 

「というかアンタもアンタでいきなり何おかしな言い出すのよ!?」

 

「いきなりであることは間違いないけど、別におかしなことは何も言ってないと思うんだけど」

 

「は?」

 

「ホラちゃんと上の俺のセリフ読んでよ。明日の晩の予定が空いているかどうかしか聞いてないよ?」

 

「……確かに」

 

 小鳥さんの脳内がお花畑だから勝手なセリフを読み取ってしまったようだが、俺は純粋にりっちゃんの明日の予定を聞いただけである。

 

「……小鳥さ~ん」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 ジロリとりっちゃんに睨まれた小鳥さんが身を縮こませる。

 

「小鳥さんの妄想癖も含めて、どれだけ有名になってもこの事務所は変わらないなぁ」

 

 寧ろ変わらなさ過ぎである。今や日本で123プロと1054プロに次ぐ知名度のアイドル事務所のはずなのに、なんで未だに雑居ビルのテナントなのか。

 

 とまぁそんなことはさておき、流されてしまった本題へと話を戻す。

 

「改めて聞くけどりっちゃん、明日の晩は空いてる? それとも用事ある?」

 

「……特に用事はないわ。打ち合わせも夕方までだし、そうね……七時ぐらいからなら空いてるわね」

 

「それじゃあちょっと俺に付き合ってよ」

 

「ピ、ピヨ……!?」

 

「小鳥さんステイ。イチイチ言葉狩りみたいに反応しないでください」

 

 ピヨピヨしだした小鳥さんをりっちゃんが牽制する。

 

「それで? 私に何処へ付き合えっての?」

 

 

 

「ちょっとホテルへ」

 

 

 

 

「やっぱりone night loveピヨ!?」

 

「良太郎アンタわざと言葉省いてるでしょ!?」

 

 

 

 

 

 

「というわけで、りっちゃんも参加出来るってさ」

 

『オッケー。それじゃあ全員で六人ね』

 

 りっちゃんからの参加表明を、今回の()()()である麗華に伝える。

 

「それにしても、美琴が辞めてからもう七年も経つんだな」

 

 当時は例の公園から注目度が跳ね上がっていたものの、まだギリギリ新人アイドルという括りだった。麗華たちが『幸福エンジェル』から『魔王エンジェル』に名前を変えたのも大体これぐらいの時期だったと思う。

 

「いきなりいなくなって連絡も出来なくなっちまったんだよな」

 

『美琴の奴、携帯電話を持ってなかったものね……』

 

 ちなみに最近になって携帯電話を持つようになったらしい。……このスマホ全盛期に今更になってガラケーというのが実に美琴らしい。

 

 突然いなくなった同期のアイドルに、それなりに仲良くなっていた俺と魔王エンジェルとりっちゃんの五人は結構心配した。しかし当時はまだまだ『日高舞の引退』の影響が強く残るアイドル冬の時代、自分自身のことで手一杯になっていて同期の心配をする余裕はなかったのだ。

 

 そんな美琴の現在までの経緯を改めてゆっくり聞かせてもらおう、というのが今回の集まりの目的だった。

 

 要するに『同期会』である。

 

「しかしホテルのレストランを貸切るなんて随分と気合入ってるな」

 

『別にいいじゃないこれぐらい。……私だって、ちょっとテンション上がってるのよ』

 

 電話の向こうの麗華の声に若干の照れが混ざったのを感じた。

 

「俺もだ。旧友との再会を楽しみにしないやつなんていねぇよ」

 

 常に最前線で走り続けてきたため、新人アイドル時代なんていうものはあっという間に過ぎ去ってしまい、俺と麗華とりんとともみは今やアイドル業界における最重要人物とも呼べるような存在になってしまった。

 

「たまにはさ、俺たちだってゆっくり過去を振り返ることがあってもいいと思うんだよ」

 

『……そのセリフを言うには四十年ぐらい早いと思わない?』

 

「ははっ、確かに」

 

 ともあれ、それが今回の目的だ。

 

 まだまだアイドルデビューして十年にも満たない、二十そこそこの若造の集まりに過ぎないのかもしれないけれど。親交を深めるのに、年齢なんて関係ないのだから。

 

 

 

『……で? 今の話のオチは?』

 

「お前ら揃いも揃って俺にオチを期待するのヤメロ」

 

 俺だって胸の話題をせずに話を終わらせたいときぐらいあるんですー!

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、同期会ですか」

 

「うん、リョータローさん、チョー楽しそーだったよ!」

 

 別に興味はなかったのだが、事務所で自分の明日の予定を確認していたら恵美さんが良太郎さんの明日の予定を教えてくれた。

 

 ……良太郎さんの予定そのものには興味ないけど、『周藤良太郎の同期のアイドル』という存在にはいささか興味がある。

 

「まゆさん解説お願いします」

 

「……志保ちゃん、私のことを良太郎さんについての便利な解説役だと思ってませんかぁ?」

 

「違うんですか?」

 

「あってまぁす!」

 

 今のやり取りは一体何だったのかという疑問を挟む間もなく、ニコニコ笑顔のまゆさんがどこからともなくホワイトボードを引っ張って来た。

 

「はぁい! 久しぶりの『佐久間流周藤良太郎学』のお時間でぇす! よい子のみんなー! こーんばーんわー!」

 

「「こーんばーんわー」」

 

 恵美さんと共にパチパチと拍手をしつつ、いつも間にか伊達眼鏡をかけて指し棒を手にしたまゆさんのノリに乗っかる。

 

「今回は志保ちゃんの要望にお応えする形になりますがぁ……聞きたいのは『周藤良太郎の同期のアイドルについて』で良かったですかぁ?」

 

「はい。主に『秋月律子』さんと『緋田美琴』さんとの関係を中心に」

 

「……それ、良太郎さんの解説じゃないじゃないですかぁ」

 

 不服そうに唇を尖らせるまゆさん。確かにこういう聞き方はよくなかった。

 

「お二人が同期として『周藤良太郎』に与えた影響と、彼女たちがステージを降りた際の『周藤良太郎』を取り巻くアイドルの環境について教えてください」

 

「そういうことなら任せてくださぁい!」

 

 要するに言い方の問題である。

 

(志保もだいぶまゆの扱いに慣れてきたね……)

 

(同じようなやり取りを二年も続けていれば当然ですよ)

 

「それではまずは簡単に『覇王世代』の解説からしていきますが、これは今までにも何度か説明したことがありますよねぇ……はい、恵美ちゃん!」

 

「はい! 『覇王世代』とは『周藤良太郎』と同期のアイドル、具体的には『始まりの夜』事件の前後にデビューしたアイドルたちを指します!」

 

「はぁい正解でぇす!」

 

 さながら教師と生徒のようなやり取りをするまゆさんと恵美さんだが、この事務所では割と見かける光景なので今更ツッコんだりしない。

 

「現在、現役で活動している『覇王世代』のアイドルは、『周藤良太郎』を筆頭に『東豪寺麗華』『朝比奈りん』『三条ともみ』『水蓮寺ルカ』の五人だけです」

 

 キュキュッとホワイトボードに軽い年表を書いたまゆさんは、年表の一番左に五人の名前を書くとそこから右に向かってキューッと矢印を伸ばした。この五人は今までずっとアイドルをやっている、ということを言いたいらしい。

 

「あれ? 『沖野ヨーコ』さんは?」

 

「あの方は既にアイドルとしては引退されていらっしゃるのでぇ……」

 

 あくまでも現役アイドルとしてカウントする、ということらしい。まゆさんは沖野さんの名前を五人の下に書いてから同じように矢印を伸ばすが、その矢印は五人よりもかなり短い。アイドルとしては三年ぐらいしか活動してなかったのか……。

 

「さて、それじゃあ私たちもよ~くご存じの『秋月律子』さんについてですねぇ。律子さんは現在の765オールスターズに当たる春香さんたちよりも前に765プロで活動されていましたぁ。ちなみにこれが現役アイドル時代の律子さんですねぇ」

 

 まゆさんがスッとスマホを操作して見せてくれた画面には、おさげ髪でステージ衣装を着た律子さんの姿が映っていた。

 

「律子さんかわい~!」

 

「高校生……でしたっけ?」

 

「律子さんが引退する直前のお写真になりますのでぇ……十七歳ですねぇ」

 

 つまり今の私よりも早いタイミングでアイドルの道を諦めていたことになる。

 

 ……辛くはなかったのだろうか。

 

「その後、律子さんは自らが所属していた765プロにプロデューサーとして再就職。それからのことは恵美ちゃんや志保ちゃんもご存じの通り、竜宮小町のプロデューサーとして活躍して現在に至る……といった感じですねぇ」

 

 律子さんの名前から伸びる矢印は、沖野さんの矢印よりも更に短かった。大体二年ぐらいで、そこから二年後に竜宮小町のプロデューサーとして成功する。

 

「そしてここからが、おそらく志保ちゃんが一番知りたいと思っていたであろう本題ですねぇ」

 

 まゆは律子さんの名前の下に『緋田美琴』と書いた。

 

「あくまでもまゆの専攻は『周藤良太郎学』なので緋田さんの詳しい詳細の解説は出来ません……ごめんなさい。ただ分かっているのは、緋田さんは今から八年前に良太郎さんの同期として()()()()()()()()()()()()()()

 

 専攻って……ん?

 

「あれ? 活動していた……ってなんか変な言い方だね?」

 

 今のまゆさんの説明に違和感を覚えたのは恵美さんも同じだったらしい。

 

「はい。とある事情により、敢えて『活動していた』という表現をさせていただきましたぁ」

 

「「とある事情……?」」

 

「はい。……良太郎さんも同期のアイドルという認識をされているので外野がどうこう言う話ではないのですが――」

 

 

 

 ――『緋田美琴』は()()()()()()()()()()()

 

 

 

「「……えっ!?」

 

 

 




・赤羽根小鳥
こうして並べるとくっつくべくしてくっついた二人だな……。

・『美琴の奴、携帯電話を持ってなかったものね……』
みこっちゃんは今でも持ってないって言われても納得できる。

・「久しぶりの『佐久間流周藤良太郎学』のお時間でぇす!」
本当にまゆちゃん便利過ぎる。

・りっちゃんの過去話
アイ転ではこんな感じってことで。

・みこっちゃんの過去話
同上()



 というわけでようやく美琴メイン回です。

 ……いやホント色々な情報が更新二日前に公開されたせいで内容を大幅変更する羽目になりましたよええ。今回のお話もそのために若干まゆちゃんに時間稼ぎしてもらった感がありますハイ。

 一つだけここで明確にしておく事実としては。

 ……『彼女』はアイ転に登場させまぁす!!!

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