アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

48 / 557
アイマス劇場版のDVDの予約がアマゾンで始まっていましたね。
なんと約三割引きで購入できるそうなので、これは是非予約せねば(ステマ)


Lesson43 恋と演技と苦手なもの

 

 

 

「――ふーん、真と雪歩と千早が悩んでたのは、そういう経緯があったのね」

 

「たぶんね」

 

 先日のアルバイトから数日。たまたまテレビ局で出くわしたりっちゃんと何となく連れ立って歩いていると、三人がとあることで悩んでいたという話題になった。恐らく、というかその三人が悩んでいたという点で考えると原因はともみの『意地悪』だろう。

 

 

 

 ――貴方たちの顔は何処にあるの?

 

 

 

「ったく、ともみもまた余計なことしてくれたわね。そんなの個人の解釈の違いの問題だっていうのに」

 

「まぁ、真ちゃん達にとっては大先輩からの言葉だから、深く捉えちゃうのは当然だって」

 

 そこに考えが至らなければ何の問題もない問題。しかし気付き考えてしまえば思考の渦に巻き込まれる面倒な問題。それに気付かせるためのともみの質問。

 

 まぁ、だからこそ『意地悪』だったのだが。

 

 しかし、りっちゃんは『悩んでいた』とそれを過去形で表現した。加えてそのメンバーの中に春香ちゃんの名前を出さなかった。つまり春香ちゃんはその日の内に、他の三人も少ししてから何かしらの回答を見つけ出したということだろう。

 

 だからこそ、りっちゃんがこの話題を出したのは事後報告をするためであり、自分の事務所のアイドルが一皮剥けた自慢話兼俺に対する嫌味だったということだ。「全くこいつは……」という態度から垣間見えるやや誇らしげなりっちゃんの表情が何とも微笑ましかった。

 

 最近はレギュラーの生放送が始まったり、美希ちゃん響ちゃん貴音ちゃんの三人組ユニットのCMが大好評だったり、765プロにとっていい話題ばかりだったから、りっちゃんも思わず誰かに自慢したくてしょうがなかったのだろう。

 

「ちなみに私はアンタからも促されたって聞いたけど?」

 

「お、りっちゃんアレアレ、千早ちゃんのポスター」

 

「廊下の壁しか見えないわよ」

 

 さりげない話題逸らしに失敗し、肝臓を持ち上げるような抉りこむボディーを脇腹に喰らい悶絶。俺の呼吸が戻ったあたりで閑話休題。

 

「……そうだ、一応アンタからの意見も聞いてみようかしら」

 

「ん?」

 

「あんたの目には『我那覇響』ってどんなイメージで映ってる?」

 

「響ちゃん?」

 

 んー、そうだな……やっぱりおっ――。

 

「あ、身体的特徴は求めてないから」

 

 ちっ、先にネタ潰しをされてしまった。

 

「そうだなぁ……やっぱり明るくて元気で活発で……」

 

 脳内に浮かぶ響ちゃんは、元気に手を振り上げて「はいさーい!」と挨拶をしていたり、満面の笑みを浮かべながら「なんくるないさー!」と言っていたり、やはりそういうイメージである。

 

「やっぱり、そう見えるわよね……」

 

「あとツッコミ体質で若干の被虐()寄り――」

 

「誰もそんなこと聞いとらんわ」

 

 はぁ、とため息を吐くりっちゃん。結局その質問の意図は教えてもらえなかったのだが。

 

 その翌日にあっさりと知ることになる。

 

 

 

「あとさっきの千早のポスター発言は本人に報告しておくから」

 

 あとついでに激おこ千早(ちー)ちゃんが確定することになる。

 

 

 

 

 

 

 テレビ局でりっちゃんと話した翌日。午前中の仕事が終わり、次の仕事まで時間があったのでたまには歩くかと徒歩で移動中。トップアイドルとしては不用心のような気がしないでもないが、どうせバレることもないので問題ない。なんか発言がフラグっぽいけど問題ない。

 

 近道ということで途中公園の中を抜ける。休日だったが珍しく公園内は人が少なく、これだったら変装を解いても身バレしなかったかもしれない。

 

 そんなことを考えながら歩いていると、芝生の広場辺りから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 

 

 ――頑張れ雪歩!

 

 ――ほ、本当に大丈夫……?

 

 ――大丈夫、いぬ美は大人しいぞ!

 

 

 

「この声は……」

 

 聞こえてきた方に視線をやると、そこには想像通りの三人が。

 

「ううぅ……!」

 

「もうちょっとだぞ!」

 

「ほらファイト!」

 

 一匹の大きなセントバーナードにフルフルと震えながら手を伸ばす雪歩ちゃんと、そんな雪歩ちゃんを後ろから応援している響ちゃんと真ちゃんだった。怖々としながらも少しづつセントバーナードに手を伸ばし、あと少しで触れそうになるところでビクッとなってしまい目を瞑って手を引く姿が何とも保護欲を掻き立てられるのだが……本当に何やってるんだろうか。

 

「……え、えい!」

 

 そしてついに決心したのか、掛け声と共に雪歩ちゃんは手を伸ばしてついにセントバーナードの頭に触れた。もっとも掛け声の勢いとは裏腹にそっと手を乗せるだけだったが。触れられているセントバーナードは随分と慣れたもので、雪歩ちゃんに触れられても一切動じることなくゆっくりと左右に振られる尻尾以外はピクリとも動いていなかった。人慣れしている……というよりは、元々の気性の話だろうか。

 

「触れた、触れたよ雪歩!」

 

「やったな雪歩!」

 

「やった……やったよ真ちゃん! 響ちゃん!」

 

 ……一体この状況は何なのだろうか。なんか三人とも凄い感動的な雰囲気を醸し出してるんだけど、事情を知らずに途中から見ている身としてはこの状況がさっぱり読めない。

 

 たぶん感動的な場面なのだろうと当たりを付け、とりあえず拍手をしておくことにした。

 

 この拍手に気付き、振り向いた三人が「良太郎さん!?」と俺に気付くのはこの後すぐのことである。

 

 

 

「へー、雪歩ちゃん、犬が苦手だったんだ」

 

「はい……」

 

「それで、響が飼ってるいぬ美に協力してもらって克服するための特訓をしようって話になったんです」

 

「いぬ美は賢くて大人しいからな!」

 

 賢い・大人しい・イヌミーチカ(KOI)と申すか。

 

 確かにいぬ美は大人しく、全く見ず知らずのはずの俺が撫でても全く動じることがなかった。元々大型犬は優しい性格をしているっていうが、この子は人一倍(犬一倍?)大人しい気がする。

 

 三人の輪に加わり、四人で芝生の上に腰を下ろす。

 

「そういえば、この間はともみと一緒に変なこと言っちゃって悪かったね。ごめん」

 

 真ちゃんと雪歩ちゃんに対して頭を下げる。

 

「い、いえ、そんな……」

 

「僕たちも色々と考えるきっかけになりましたし」

 

 何よりもう済んだ話だと二人は笑って許してくれた。そんな真ちゃんと雪歩ちゃんはそれぞれ帽子と伊達眼鏡を付けて軽い変装をしている。どんな経緯があったかは知らないが、二人とも変装をして身バレを防ぐことに対して忌避はないみたいだ。これで変なトラウマやらなんやらを抱えてしまっていたら土下座では済まない事態になっていたところだ。

 

 ……しかし、ともみが言い出したことなのに何故俺がここまでアフターフォローせにゃならんのだろうか。確かに助長らしきことはしたが……。

 

「? 何の話だ?」

 

「いや、こっちの話だよ」

 

 疑問符を頭上に浮かべながら首を傾げる響ちゃん。そんな彼女はいつものポニーテールではなく、長い髪を左肩から前に流してリボンで纏めている。快活な彼女のイメージが薄れてお淑やかな雰囲気を醸し出しており、顔を隠してはいないものの十分に身バレ対策にはなっているようだった。

 

「そういえば、良太郎さんは何か苦手なものってあるんですか?」

 

「ん? 俺?」

 

「はい。僕たちからしてみたら良太郎さんは、なんというか完璧超人みたいな雰囲気で、そういうのってあるのかなーって……」

 

 完璧超人って。

 

「そうだなぁ……しいて言うなら『ここらで一杯お茶が怖い』かな」

 

「えぇ!? りょ、良太郎さんお茶が苦手だったんですか!?」

 

「あ、いやそうじゃなくて」

 

「雪歩、古典的なネタだぞ」

 

 も、もしかしてこの間お出ししたお茶も迷惑だったんじゃ……!? と顔を青ざめる雪歩ちゃんに響ちゃんがフォローを入れる。むむ、純粋な子に対してネタ発言は本気にとられてしまってボケ殺しされるなぁ。

 

「真面目に話をすると……ホテルが苦手かなぁ」

 

「ホテル、ですか?」

 

「うん。昔からああいった宿泊施設を利用する機会が全く無くてさ、チェックインとアウトの時間とかカードキーの使い方とかが難しくて」

 

「あー、何となく分かります」

 

「慣れてないと分かりづらいですもんね」

 

「自分も本州に来るまで電車の乗り方知らなかったぞ」

 

 ちなみにこの宿泊施設を利用する機会というのは前世を含めての話である。……なんかすっごく久しぶりに自分が転生者だって話をしたような気がする。

 

「ライブツアーとかでホテルを利用するようになったけど、その時も大変だったよ」

 

 高校の修学旅行でホテル利用経験があった兄貴がいたおかげで何とかなったが。

 

「家族旅行で利用したりしなかったんですか?」

 

「うーん、家族旅行自体は昔よく行ったけど、だいたい日帰り旅行だったからなぁ」

 

「え? どうしてですか?」

 

 

 

「ちょっと糠漬けがね」

 

「「「ぬ、糠漬け?」」」

 

「うん、糠漬け」

 

 

 

 糠漬けは文字通り糠に野菜を漬けて作る漬物である。しかしこの糠というものが厄介で、腐敗やカビの増殖を防ぐために毎日かき混ぜなくてはならない。一応、長期間手入れができない場合は塩を振って冷蔵庫に入れておくといった手段があるらしいのだが……。

 

「うちにある糠床っていうのが、母さんが大好きだったお婆ちゃんの大切な形見らしくてさ。毎日ちゃんと自分の手で手入れをしないと気が済まないらしいんだ」

 

 ゆえに母さんが長時間家を空けるのを嫌がり、母さんが嫌がることを絶対にするはずがない父さんが一泊以上の家族旅行をしなかった、というわけである。

 

 ちなみに、母さんが父さんの海外への長期出張に付いていかなかった理由でもある。本来ならば既にアイドルとそのマネージャーという仕事がある俺たち兄弟を置いて夫婦二人で仲好く海外生活をするつもりだったらしいのだが、検疫で引っかかる恐れがあったため断念したそうだ。仕事の関係で家を離れることがある俺たちに糠床を預けるということも出来ず、何よりやっぱり自分の手で手入れをしたいとは母さんの言葉。

 

 結果、父さんは一人寂しく単身赴任することになったという我が家の裏話である。

 

「そんなわけで、俺が苦手なのはホテルということで」

 

「は、はぁ……」

 

 昼過ぎだし、今頃我が家では母さんが鼻歌交じりに糠をかき混ぜている頃だろう。

 

 

 

 

 

 

「ふふふ~ん! いつも頑張ってるコウ君とリョウ君のために、美味しくなってねー! 糠漬けちゃん!」

 

 

 




・最近はレギュラーの生放送が始まったり
さらっと流しましたが既に生っすかサンデーが始まっている時系列です。そこら辺の話はもう少し後になります。

・「お、りっちゃんアレアレ、千早ちゃんのポスター」
千早「……(ビキビキ)」

・いぬ美
本編初登場の響の家族。ハム蔵? ……本当に出るのかなぁ?

・賢い・大人しい・イヌミーチカ(KOI)
一期と二期で若干言動に食い違いがあるポンコツチカ可愛いチカ。

・『ここらで一杯お茶が怖い』
割と有名な古典落語ネタ。知らない人は「饅頭怖い」で検索してみよう。

・「自分も本州に来るまで電車の乗り方知らなかったぞ」
響の設定にあった「電車に乗るのが苦手で基本的に移動は徒歩」という設定を若干アレンジ。
しかし、よくよく考えてみたら彼女が初登場したアイドルマスターSPの時点で既に沖縄にはモノレールがあったので、この発言は若干あれかもしれないけど気にしないことにする。

・糠漬け
父親が単身赴任をしているまさかの理由。ちなみに作者はそんなに好きじゃない。
検疫に関しても詳しく調べれなかったのでまぁそうだったということで一つ。



 糠漬けの話で終わってしまいましたがちゃんと次回に続きます。このまま終わったらサブタイトル詐欺もいいところなので。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。