アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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色々と男性キャラが多い二話目。


Lesson320 祭りの狼煙を上げろ! 2

 

 

 

 覇王世代に『周藤良太郎』以外の男性アイドルはいない。

 

 

 

 覇王世代とは文字通り『覇王』こと『周藤良太郎』と同期のアイドルを指す言葉である。『魔王エンジェル』の三人を筆頭に『水蓮寺ルカ』や『沖野ヨーコ』などがこれに該当する。

 

 そう、女性アイドルばかりで男性アイドルが存在しないのだ。

 

 勿論、最初から誰もデビューしなかったわけではない。俺よりも少し先にデビューした先輩アイドルはいたし、少し後にデビューした後輩アイドルもいた。『日高舞』が去った後のアイドル冬の時代の直後ということもありとても少なかったが、間違いなくいたのだ。

 

 だが今はいない。()()()()()()()()()

 

 一つ下の世代になると『Jupiter』の三人を筆頭にちらほらと存在しないこともないが、ほとんど地下に潜っているような活動しかしていないため名前を聞くことはない。

 

 近年の世代になり、急激にその数を減らしてしまったその理由は……。

 

「……俺、なんだろうな」

 

 間違いなく『周藤良太郎』という存在である。

 

 

 

「でも周藤君が直接なにかしたわけじゃないんでしょ?」

 

「流石に何もしてないとは言えないさ……」

 

 軽く愚痴を聞いてもらいたくなり、俺は第二の実家である喫茶『翠屋』へやって来た。最近はめっきりアイドルとして忙しくなったなのはちゃんはホールに出ておらず、今日のホールは月村だった。カウンターの中では恭也がコーヒーを淹れているため、今の翠屋は実質高町家の暫定息子夫婦による営業中である。

 

「『周藤良太郎の影響による男性アイドルの減少』か……アレ? なんだろう、何処かで聞いたことあるような……」

 

「多分それ、まゆちゃんがネットに公開してる『佐久間流周藤良太郎学』じゃないかな」

 

 今や『熱烈な周藤良太郎ファン』アイドルとして()()()()()()になりつつあるまゆちゃん。最近ではアイドルをやめる気は一切ないと前置きしつつも、もし引退したら『周藤良太郎専門家』として活動していくと公言しているらしい。そろそろ何らかの形で彼女の人生を大きく変えすぎてしまった責任を取るべきじゃないかと考えている。

 

 少し話が逸れてしまったが、そもそも何故俺が今更になってこのようなことを愚痴にしながら、翠屋のカウンターでコーヒーカップを傾けているのかというと。

 

 

 

「全然集まらんな……『周藤良太郎と一緒にステージに立てる』男性アイドル……」

 

 麗華たちと企画している大規模合同ライブのオファーを受けてくれる()()()()()()が見つからないのだ。

 

 

 

 今は詳しい経緯の説明を省くが、今回の企画は『アイドル紅白歌合戦』。女性アイドルによる紅組と男性アイドルによる白組に分かれて()()()()()で行うライブだ。俺とジュピターの三人の参加は確定しているのだが、それ以上の男性アイドルのオファーがなかなか成功しないのだ。

 

「あの『周藤良太郎』と同じステージに立てるのであれば、アイドルならば諸手を挙げて承諾しそうなものだと思うのは……やはり素人考えか?」

 

「『観客席側』からの目線で言えばきっとそうなんだろうけど、『ステージ側』から見ればちょっとばかり事情が違うんだよ」

 

 自分で説明するのもアレだが『周藤良太郎』と()()()()()()()()()のは簡単なことではない。立つだけならば誰でも出来るが『周藤良太郎』と()()()()()ことの重圧に耐えられるように骨のある奴なんてそうそういない……というのは冬馬の言葉。

 

「ついでに『そんなことも気付けずただの下心だけで参加を希望するような木っ端は相手する必要ない』とも言ってた」

 

「言いたいことは分かるわ」

 

「要するに他事務所の男性アイドルに求める条件が高いということか」

 

「いっそのこと俺が出演しないことにすれば人も集まるんだろーけど」

 

「本末転倒にもほどがあるわよ」

 

 だよなー。

 

「はー、どっかにそれなりに新人でガッツのあるよさげな男性アイドルいねーかなー!」

 

「お前なら歩いてれば出会うんじゃないか」

 

「アイドルエンカウント率高いんでしょ?」

 

「それを期待して歩き回ってたらそれはもうポケモンなんだよ」

 

「しかも特性プレッシャーだからレベルの低い奴らが集まってこないっていう」

 

「ちょっと上手いこと言わなくていいから」

 

 恭也と月村に愚痴っても解決策が浮かぶわけではないが、それでもこうしてグダグダと雑談をすることで少しだけ心が軽くなる。

 

「壮一郎とかどう? アイドルやってみない?」

 

「……え、私、ですか?」

 

 先ほどからずっと俺たちの話が聞こえていたであろう場所にいた、細目のパティシエへと話題を振る。

 

 

 

「……なんでだろうな、いつも顔を合わせてたはずなのに、凄い久しぶりに話しかけた気がする」

 

「奇遇ですね、私も何故だか良太郎君には七年ぶりぐらいに話しかけられたような気がしますよ……」

 

 

 

 おっかしーなー俺たち同い年で高校在学中ぐらいからの付き合いになるのになーどうしてこんなに初めて登場するキャラみたいな雰囲気なんだろうなー不思議だなー。

 

「それはさておき……実は私、先日街中でスカウトされたんですよ」

 

「……え、アイドルに!?」

 

「なにっ」

 

「そうなの!?」

 

 壮一郎からのまさかのカミングアウトに驚愕する俺たち。なにそれお父さん聞いてませんよ。

 

「えぇ。突然、そうですね……とても()()()()男性の方から『ウチの事務所でアイドルにならないか!』と」

 

「……()()()()?」

 

「えぇ、とても()()()()としか形容の出来ない男性でした」

 

 ……んー。

 

「どうしたの周藤君、急に黙って」

 

「やっぱり知り合いだったか?」

 

 やっぱりってなんだ。

 

「知ってるような、知らないような……」

 

 記憶の隅に引っかかる感じ。……えっと……あれは確か……まだ俺がデビューした直後で、舞さんや高木さんと知り合いになったばかりとか、それぐらいだったような……。

 

「名刺とか貰ってない?」

 

「貰いましたが、何処にしまったか……」

 

 苦笑と共に肩を竦める壮一郎。残念、どうやら神様は『カンニングせずに自力で答えを思い出せ』と言っているらしい。

 

「それで、専門学校を卒業してそのままここでパティシエを続けてるぐらいだから、当然断ったってことよね?」

 

「勿論ですよ、月村さん。私はまだまだ桃子さんの下で学ぶべきことがありますから」

 

 壮一郎の作るシュークリームも美味いんだけど、桃子さん作と比べると何かが半歩足りないからなぁ。寧ろ今更になって桃子さんの凄さというか色々な意味での恐ろしさを知る。

 

「……『暑苦しい』アイドルのスカウト、か……」

 

 

 

「ちなみに言葉の端々に混ざる『パッションヌッ!』が口癖のようです」

 

 唐突に壮一郎が全力を出してきたので恭也と月村が噴き出した。俺も危なかった。

 

 

 

 

 

 

「唐突だけどアイドルやらない?」

 

「本当に唐突すぎる提案やめてくれません……?」

 

 例え出演メンバーが決まらなくても地球(おしごと)は回る。今日のお仕事はトーク番組の収録で、その途中で別番組の招待された『プロゲーマー』の知り合いとばったり出会ったので恒例の廊下歩きトーク中。

 

「ゲーム雑誌の表紙を飾って下手なアイドルよりも女性人気が高い魚臣(うおみ)(けい)ならいけるって」

 

 無茶ぶりと知りながらも「はいスマーイル」と煽ると、やや戸惑いつつも人前に出るときと同じような爽やかな笑みを浮かべる魚臣。……うん、イケメンだ。イケメンなんだが……。

 

()()()()の顔立ちだよなぁ」

 

「それ絶対別の意味持たせましたよね? そうですよね?」

 

 根っこの部分がネット社会の住民なもんで、色々とそういう情報というか世界があることを知ってるんだよ……魔境とか。

 

「それよりアイドルですよね。今回は男性アイドルがご所望のようですけど、女性アイドルだったら天音(あまね)永遠(とわ)さんとかどうでしょうか?」

 

 魚臣の口から出てきたのは、意外にもJKのカリスマ城ヶ崎美嘉ちゃんとは別方向で女の子たちのカリスマ的存在のモデルの名前だった。

 

「へぇ、魚臣って永遠さんと知り合いだったんだ」

 

「……まぁ、ちょっと仕事で。実は天音さん、めちゃくちゃ歌が上手いんですよ。そりゃあもう凄いのなんの」

 

「それは初耳」

 

 モデルとしても一流なのに歌も上手いとは、まるで楓さんみたいな人だったんだな。

 

「ちょっと試しに聞いてみよーっと」

 

「はい! 是非!」

 

 ここまで魚臣が全力で進めるのだから、きっと本当に凄いんだな

 

 ……魚臣の表情が、なんか『全力で冬馬を持ち上げた後に勢いよくハシゴを外す直前の翔太』の表情に似ているような気がしたけど、多分気のせいだろう。

 

 

 

 さて、そこまで期待していたわけではないが魚臣のアイドルスカウトを失敗。どうやら俺には武内さんたちのようなスカウト(ぢから)が足りていないことを再確認しつつ、再び思考は他事務所男性アイドルのことへと切り替わる。

 

「なんだろうな……誰かを忘れてるような気がするんだよな……」

 

 魚臣と会話するより前、翠屋で恭也たちと会話をするよりももっと前、ずっと喉の奥に刺さった魚の小骨のような感覚に首を捻る。

 

 一体なんだろう……昔からの知り合いで、冬馬たちほどではないがそれなりにベテランの域に入りつつあって、今回のライブで俺と肩を並べることになっても参加してくれそうな、そんなアイドルに心当たりがあるような、そんな気が……。

 

 

 

「わっ」

 

「おっと」

 

 

 

 考え事しながら歩いていたら、廊下の曲がり角で誰かとぶつかりそうになった。ギリギリで踏み留まれたからいいものの、もう少しで正面衝突するところだった。

 

「すみません、考え事してて……あ」

 

「いえこちらこそ……あ」

 

 俺の謝罪の言葉に対して返ってきた声はどうやら知り合いのもので、そしてその瞬間、喉に刺さっていた小骨の正体に気が付いた。

 

 

 

「そういえば涼、お前男だったな」

 

「いきなりなんですか!?」

 

 

 

 秋月涼。りっちゃんのいとこにして876プロダクションに所属する――。

 

 

 

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()『男性アイドル』である。

 

 

 

 

 

 

おまけ『とあるメッセージグループ』

 

 

 

鉛筆:おい

 

鉛筆:出てこい魚介類

 

鉛筆:やっていいことと悪いことがある

 

3:珍しいキレ方するじゃん

 

鰹:いやいや、純粋な真心だよ

 

鰹:あの周藤良太郎に話しかけられてラッキーでしょ?

 

鉛筆:だからってなんであんなこと言うかな!?

 

鉛筆:誤魔化すの大変だったんだからね!?

 

鰹:ウケる

 

3:ちょっと今からポップコーンとコーラ買ってくるからじっくり聞かせて

 

 

 




・カウンターの中では恭也がコーヒーを淹れて
この世界では忍嫁入りルート。

・『周藤良太郎専門家』
今でもたまにテレビ番組のテロップとかで『アイドル周藤良太郎に関する第一人者』とか紹介される。

・東雲壮一郎
なんと実に七年近くぶりの登場である。
正直なことを言うと、sideM編をやるつもりなかったから自然フェードアウトさせるつもりだった。
ただし再登場してもアイドルにはならない模様。

・暑苦しい男性
パッションヌッ!!!

・魚臣慧
・天音永遠
Twitter見てる人からは多分「どうせ出すんだろうな」と思われていただろう『シャングリラ・フロンティア』のメインキャラ二人。
世界的にVRはないけど多分普通のオンラインゲームで知り合った。

・「めちゃくちゃ歌が上手いんですよ」
作者さん曰く「見た目で歌唱力を誤魔化す」。つまり……。

・秋月涼
こちらもなんと約八年ぶりの再登場である。
登場しなかった理由はほとんど壮一郎と同じ。ディアリースターズ編は真面目に書こうとすると色々とシリアスがががが……。

・おまけ『とあるメッセージグループ』
とっても なかよしな さんにんぐみ!



 懐かしいキャラや新しいキャラなどが複数名いる二話目でした。

 壮一郎がアイドルにならないように、sideMのキャラは何人かはアイドルではない状態での登場になる予定です。また何人かはソロデビューとかその辺りになる可能性も……。

 そして涼も既に男性アイドルとして再デビュー済みで再登場。その辺りの経緯と現在の立ち位置の話は次回。

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