アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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良太郎、ついに気付かれる!?


Lesson316 765劇場大勝利!静香と未来へレディ・ゴー! 2

 

 

 

 久しぶりのりんとのデートの最中、未来ちゃんと静香ちゃんの美しい友情の現場を目撃して感涙していたら、突然未来ちゃんから事務所へのお誘いを受けてしまった。

 

「へぇ、屋上でバーベキュー」

 

「はい! ウチの定番なんです!」

 

「えっと……いいの? そんな身内だけでやってそうなやつに部外者のアタシたち呼んで」

 

「ダイジョーブです! ちゃんとプロデューサーさんに確認しましたから!」

 

 俺の疑問を代わりに聞いてくれたりんに、未来ちゃんはグッと親指を立てた。

 

「プロデューサー、初めは少し渋ってたのに『リョーさんの彼女が一緒』だって知って……」

 

 静香ちゃんが右の手のひらをクルッとひっくり返した。あんにゃろう……。

 

 とはいえ、劇場のメンバーで『リョーさん=周藤良太郎』だということを知っている人たちはみんな信用に値する人たちばかりだ。りんのことを知られるのも時間の問題だろうし、これもいい機会かもしれない。

 

 そう思ってりんに(二人きりのデートじゃなくなってゴメン)と目配せすると、りんからは(りょーくんがいいならアタシは何も言わないよ。でも次のデートこそ二人きりでゆっくり出来るプランを考えてくれると、アタシは嬉しいなー)というアイコンタクトが返って来た。アイコンタクトというには具体的かつ長文だが、そんな風に受け取れてしまったのだから仕方がない。

 

(愛の力だよ)

 

(今は目ぇすら合わせていないんだけど)

 

 愛って凄い。(小並感)

 

 そんなわけで俺とりんは未来ちゃんと静香ちゃんの二人と共に、バーベキュー会場になる765プロ劇場へと向かっていた。

 

「しかし飛び入りで余所者がお邪魔させてもらうことには変わりないわけだから、手土産の一つでも持っていくべきだろうな」

 

「バーベキューってゆーぐらいだから、お肉とか?」

 

 恋人になってから二人で歩くときはずっと腕を組むようになったりんが、より一層胸を腕に押し付けながら俺の顔を覗き込んできた。個人的には少しあざといぐらいが好みだから胸の感触含めてこういう仕草はどんどんやってもらいたいものである。

 

「肉に関しては二階堂精肉店の長女がいるから、俺が用意するまでもなくいいものが用意されてるだろうし」

 

 そうなると無難に飲み物かな? 俺たちやプロデューサーさんも含めて成人しているメンバーがそれなりにいるからアルコールもいいかもしれない。元々用意されているものも合わせるとかなりの量になってしまう可能性もあるが、俺とこのみさん(おおざけのみ)がいるから大丈夫だろう。

 

 そうと決まれば何処か途中のスーパーで飲み物を買って……。

 

「ん?」

 

 ふと知り合いが前方から歩いて来るのが見えた。ヒラヒラと手を振ってみると向こうもこちらに気付いたらしいが、露骨に嫌そうな顔になった。口の動きから多分「ゲッ」って言った。

 

 そしてそのままクルッと進行方向を百八十度後ろへと向けて逃走の姿勢を見せたので、逃がしてなるものかと大声で彼女に呼びかけた。

 

「おーい! 多分五年後ぐらいには上の妹ちゃんに身長が抜かれてそうなニコちゃーん!」

 

「誰がギリギリ小学生に身長が抜かれるぐらいの豆粒ドチビかー!?」

 

 このネタも二回目だけどしっかりと反応してくれたニコワード・エルリックちゃんが、怒り心頭といった様子でズンズンとこちらにやって来てくれた。

 

「この手に限る」

 

「寧ろその手しか知らないのでは……?」

 

 静香ちゃんからジト目で見られるが気にしない。

 

「やぁニコちゃん、ご機嫌いかが?」

 

「アンタのせいで最悪よ!」

 

 ガルルと威嚇するかのように歯を見せるニコちゃん。しかしこちらが「こんにちは」と挨拶すると、語気粗めだがしっかりと「こんにちは!」と返してくれる辺りとてもいい子。

 

「わー! ニコさんだ! 久しぶりー!」

 

「え……か、春日未来!? ……ちゃん!?」

 

 お互いに遊園地での出会いを思い出したらしい未来ちゃんとニコちゃん。ニコニコと笑顔の未来ちゃんに対し、目を見開いたニコちゃんは驚き一歩後退った。

 

「呼び捨てでもいいですよー! 私の方が年下だし!」

 

「……そ、そう……ならお言葉に甘えさせてもらうわ」

 

 遊園地でも一度親しく話した間柄ということもあり、ニコちゃんは未来ちゃんからの提案をすんなりと受け入れた。

 

 そんな未来ちゃんとニコちゃんのやり取りに「どちら様……?」と首を傾げる静香ちゃん。りんは先日の一件で「あぁ、この子が」とニコちゃんを知っているので、この場でニコちゃんのことを知らないのは彼女だけだった。

 

「えっとね、静香ちゃん、この人はニコさんって言って……」

 

「……あっ、もしかして劇場に来ていただいたこと、ありますよね?」

 

「え、あ、うん……」

 

「やっぱり! 客席で見たことがあったと思ったんです!」

 

 静香ちゃんはスッキリした表情でパチンと手を叩き、「いつもありがとうございます」と丁寧に頭を下げた。

 

「あ、いや、そんな私なんか……!」

 

「知っていただけていると思いますが、私は最上静香です。ニコさん……でよろしかったですか?」

 

「……うん、そうです」

 

 キラキラとした真っ当な年下の女の子のアイドルムーブに、ニコちゃんはスッカリと毒気が抜かれてしまったようだ。

 

「それでニコちゃんはこんな休日に制服着てどうしたの?」

 

「聞くな」

 

 何も変なところもない真っ当な質問だったにも関わらずバッサリと切り捨てられた。……多分、この感じからすると補習かな。未来ちゃんと静香ちゃんの手前、これ以上は触れないでおいてあげよう。

 

「そんで? アンタは何? その人が例の恋人なんでしょうけど、その上、女子中学生アイドルまで侍らせていい身分ね?」

 

 休日に補習で気分が悪いのか、それとも先ほどの低身長発言が尾を引いているのか、ニコちゃんの言葉の端々から棘を感じる。俺だけを対象にした指向性のある棘……ナルガクルガかな? なんか猫っぽいし。

 

「いや、それが765プロ劇場のバーベキューにお誘いされちゃってね」

 

「……ふーん」

 

「……あれ、リアクションなし?」

 

 ここは「なんでそーなるのよ!?」とか「アンタ何様よ!?」みたいな反応が来ると思ってたんだけど、その予想に反してニコちゃんの反応はそっけないものだった。どうしよう、ツッコミ役として酷使し続けた結果、彼女の体内に二十七存在すると思われるツッコミ回路が焼き切れてしまったのかもしれない。

 

「……一部では有名な話だけど。クリスマスのサプライズイベントを進めたの、765プロだけじゃなくて裏では()()()()()()()が動いてたっていう噂、アンタの耳にも入ってるんじゃない?」

 

「っ」

 

 突然放り込まれたそんな話題に、思わずピクリと肩が動いてしまった。腕に抱き着いたままのりんも僅かに身を引いたのが分かった。

 

「あっ! それ私も聞いたよ! プロデューサーさんが……もがっ」

 

「未来、しーっ!」

 

 あらかじめプロデューサーさんから事情を聞いていた未来ちゃんがそれを肯定してしまった。慌てて静香ちゃんが口を塞いだが、時既に遅し。

 

 そんな俺たちの反応を見て、ニコちゃんは「やっぱり……」と何かしらの確信を得たようにフッと笑みを浮かべた。

 

「なんとなくそんな気がしたのよね。……あのクリスマスの日、私をあのステージに上らせるために千鶴さんは私に声をかけた。だけど()()()()()()()()()()()()()()()()()()あのサプライズイベントを、どうして千鶴さんが知っていたのか。誰がそのイベントを千鶴さんに伝えたのか」

 

(……あー……中途半端に情報を伏せてたことが裏目になったか……)

 

 あのイベントの詳細を知っていたのは、当然裏で動いてくれたプロデューサーさんやりっちゃんを含め、高木さんや兄貴などの上層部、現場で実際に動いてくれた各地方のテレビ局スタッフ、実際にステージに立った未来ちゃん・静香ちゃん・翼ちゃん。それ以外は春香ちゃんを始めとしたごく一部の人間で……その中に()()が含まれていた。

 

 イベント後のインタビューで奈緒ちゃんや美奈子ちゃんたちが『自分も知らなかった』という旨の話をしてしまったが故に、その中で『二階堂千鶴が知っていた』ということと『二階堂千鶴がそのイベントの内容をニコちゃんに話した』という二つの出来事が、ニコちゃんの中で引っかかってしまったのだろう。

 

 準備期間が殆ど存在しない状態での電撃作戦だったため、流石にそこまでは気が回らなかった。

 

「千鶴さんと()()()()()()の接点を考えたとき……不思議と、自然にアンタのことが思い浮かんだのよ」

 

 そしてニコちゃんは、そこから自力で辿り着いてしまったらしい。

 

「薄々そんな気はしてた。アンタ、芸能界の事情にやたら詳しいし、色々なアイドルの話はするくせに()()()()()()()の話だけは露骨にしようとしないし」

 

「……あっ、確かに! リョーさん、()()()の話ほとんどしない!」

 

「……言われてみれば、私も()()()のことを聞いたことないわ」

 

 ニコちゃんが語る人物が誰なのか、未来ちゃんと静香ちゃんも察してしまったらしい。

 

「……まさか、こんなことでバレるとは思わなかったよ」

 

「りょーくん……」

 

 りんが心配そうに声をかけてくる。

 

 大丈夫だよ、りん。いつかはそんな日が来ると思っていた。

 

「私も初めは信じらんなかった。でも、まさかアンタが――」

 

 ニコちゃんはキッと睨みつけるような真剣な目で真っ直ぐと俺を見据えた。

 

 

 

「――『周藤良太郎』とプライベートなやり取りを出来るお偉いさんだとはね……!」

 

 

 

「「……え?」」

 

 気の抜けた声がりんとハモッてしまった。

 

「軽々しく口外出来なかった事情は分かるけど、なんか腹立つから一発殴らせなさい……!」

 

「あーやっぱりそうだったんだ! だからシャイニーフェスタのときに、周藤良太郎さんのプライベートっぽい写真を撮れたんだ!」

 

「えっ、何それ私も見たい!」

 

「テレビ局で見かけたこともありましたが、スタッフさんを引き連れてお忙しそうでしたもんね……」

 

「「………………」」

 

 少女三人がキャイキャイと盛り上がる中、俺とりんは思わず閉口。

 

 いや、うん、まぁ、そういう考えになるのが普通だよね、うん。

 

 

 

 ……バレなかったから、ヨシッ!(現場アイドル)

 

 

 




・「誰が豆粒ドチビかー!?」
・ニコワード・エルリックちゃん
二回目。実写版公開記念()

・ナルガクルガかな?
もうそろそろサンライズくるなぁ。

・二十七存在すると思われるツッコミ回路
アンリミテッドツッコミワークス

・ヨシッ!(現場アイドル)
某るつぼさんのツイッターに慣れすぎたせいで、商業化してる方の猫に違和感を感じる。



 良太郎、ついに気付かれる!?(それが正解だとは言っていない)

 ニコちゃん痛恨のミスは『こいつが周藤良太郎のわけがない』という強い先入観があったことです。これがなければ多分気付けた……気付けた? ホントに?(疑)

 まぁここでバレちゃったら、ラブライブ編で色々と大変なことになるしね。

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