アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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ようやく真面目な話に戻りそう。

※諸事情により一つ章を増やしました。目次よりご確認ください。


Lesson307 周藤良太郎は救いたい

 

 

 

「りょ、りょーくん……もう、ダメ……」

 

「ほら、もうちょっとだよ、りん」

 

「で、でも……!」

 

 嫌がる素振りを見せるりんに優しく言葉をかけるが、彼女にしては珍しく拒絶の反応を見せた。そんな珍しい姿が新鮮で、俺の心の奥の嗜虐心がほんの少しだけ鎌首をもたげる。

 

「大丈夫、ちゃんと()()()()やるからさ」

 

「そ、そんな、これ以上は、アタシ……!」

 

 目にうっすらと涙を浮かべるりんの両手首を抑える。りんは抵抗しようとするが、まるで何処か期待しているかのようにその力は弱々しかった。

 

 

 

「……そうして広と金田を連れて、鵺野先生はマンホールの下に降りていった。……そこは暗い暗い下水道。なんとなく付いていったことを軽く後悔するぐらい、そこは現実とはかけ離れた暗闇だった」

 

「い、いや……」

 

「懐中電灯の明かりだけで進んでいくと、やがて下水の中に何かが動いたんだ」

 

「ひっ……!?」

 

「鵺野先生がそれの正体を確かめるために少し離れる。そんなときでも広と金田は言い争いを止めなかった……やれどっちがビビってるだの、やれ俺は平気だの、小学生男子の意地の張り合いだ。俺はそれを止めようとして……見ちまったんだよ」

 

「えっ」

 

「二人の後ろ。思わず『あっ』と呟いてしまった俺の視線に気付いて振り返った二人の視線のその先に、見ちゃったんだよ……」

 

「……な、何を……?」

 

 

 

「……ドロドロに朽ち果てて尚恨みを晴らさんとする少女の腐敗死体を!」

 

「きゃあああぁぁぁ!?」

 

 

 

 

 

 

「いやぁリアクションがいいと話し甲斐があるなぁ」

 

「いじめっこ! りょーくんのいじめっこ!」

 

 涙目のりんがぷんすかと頬を膨らませながらクッションでボスボスと殴り掛かってきた。奏もそうだったが、美人が怖がる様子を見ているとゾクゾクする。

 

「でも聞いてて面白かっただろ? ぬ~べ~クラスの思い出話」

 

「……悔しいことにすっごい興味をそそられる話ばっかりだった……」

 

 今思い返してみても到底一年間の出来事とは思えないような密度だった。多分漫画にすれば単行本で三十一冊ぐらいにはなるんじゃないだろうか。

 

「それにしても立野広って名前を聞いたときはまさかって思ったけど、本当にあのJリーガーの立野広選手と同級生だったんだね」

 

「小学生の頃の悪ガキ時代を知ってるから、今の活躍を見るとちょっと面白いけどな」

 

「多分それ、向こうも同じこと考えてると思うよ」

 

 さて、晩御飯休憩などを挟んで長々と俺の怪談(おもいで)話を続けてきたが、そろそろ夜も更けてきた。ある意味ではこの話を続けるには最適な時間になって来たが、お互いに明日は朝早くから仕事がある身なのでそろそろお開きにしよう。

 

「続きはまた今度だな」

 

「まだ続くの……?」

 

 まだまだこれからが本番だぞ。鵺野先生と奥さんの馴れ初めの話とか、鵺野先生が勝手にライバル視してたイケメン霊能医師の話とか、面白い話はいっぱいある。

 

「……あれ?」

 

「ん? どうかしたか?」

 

 寝る前に水を飲もうとキッチンへ向かおうとすると、不意にりんが首を傾げ始めた。

 

「アタシ、何かを忘れているような……?」

 

「何かって何さ」

 

「う~ん……」

 

 腕を組んで首を捻るりん。典型的な悩むポーズはりんの大乳が強調されるので、個人的には忘れている何かを思い出すのはもうちょっと後でもいいと思います。

 

「……あっ、思い出した!」

 

 思い出してしまったらしい。

 

「りょーくん、千鶴に頼み事してたでしょ」

 

「……え、うん、してたけど」

 

 りんの思い出した内容が正直予想外だったので面食らってしまった。

 

 千鶴への頼み事、それは『最近色々な意味で気になっているニコちゃんと静香ちゃんの様子を見て来て欲しい』という個人的なものだった。申し訳ないが俺よりも自由に動くことが出来て、尚且つその二人と親しい人物として真っ先に候補に挙がったのが千鶴だったのだ。

 

 それ自体は別に意図的に隠していたわけではないので、りんが知っていることに対してマズいとかそういう感想はない。しかし『何故千鶴は第三者であるりんにその話をしたのか』という点が疑問だった。

 

「……あのね、りょーくん――」

 

 

 

 

 

 

「実はわたくし、良太郎から頼まれごとをしておりましたの」

 

「頼まれごと?」

 

 りょーくんの過去話の概要を一通り聞き、そろそろお義母さんのおつかいを済ませて帰ろうとしたアタシを千鶴はそう言って引き留めた。

 

「えぇ。貴女も知っているでしょうが、良太郎は昔から色々なものを背負う性格をしていますわ」

 

「……そうだね。あぁ見えてりょーくん、()()()()()()()()()()()()タイプだもんね」

 

 悔しいが、本当に悔しいが、悔しくてたまらないが、りょーくんを昔から知っている千鶴の言葉にはアタシも身に覚えがないわけでもない。

 

 特に、以前話して聞かせてもらった『北沢志保との一件』はまさしくそれだ。自分のことだからと周りには何も話すことなく、たまたまその場に佐久間まゆと所恵美が同席していなかったら、きっとりょーくんは北沢志保からの憎悪を全て一身に背負おっていたことだろう。

 

 

 

 ――俺はアイドルの王様だから。

 

 

 

 りょーくんが度々口にするその言葉は、彼の誇りであると同時に呪いでもあった。

 

「今回、わたくしが頼まれたのも、まさしくそれですわ。『周藤良太郎』が王様として背負おうとしていることの調査を頼まれましたの」

 

「へぇ……なんで貴女に?」

 

「ただわたくしとの共通の知り合いだったってだけですわ目のハイライトを戻しなさい」

 

 おっと思わずりょーくんに頼られなかったことに嫉妬してつい。

 

「それでこの数日で良太郎が気にしている二人の人物の様子を見ていたのですが……少々、良太郎一人に背負わせるには重すぎると判断しましたの」

 

「ふーん。……自分で一緒に背負おうとか、そーゆーことは考えなかったの?」

 

 別に意地悪や嫌みを言うつもりではなかったのだが、聞きようによってはそうとも捉えられるような尋ね方になってしまった。

 

 しかし千鶴は全く気にした様子もなく、静かに首を横に振った。

 

「わたくしでは無理ですわ。これを良太郎と共に背負えるのは『周藤良太郎が心を許し、共に全てを分かち合うと誓った存在』だけだと判断しましたの」

 

「……なるほど、それでアタシに話を持ちかけたってことね」

 

「そうですわ」

 

「りょーくんと将来を誓い合った妻(予定)であるアタシに、話を持ちかけたってことね!」

 

「……そうですわ」

 

 しかし、りょーくん一人では背負いきれないなんて、一体どんな闇が深い案件なのだろうか。まさか()()()()()()()()()()()だったり、()()()()()()()()()()()()()()()の話なんかではあるまいし。

 

「いいわ、全部話しなさい。アタシがりょーくんと一緒に背負ってあげる」

 

 例えその闇がどれだけ深くても。

 

 

 

 アタシとりょーくんが二人で乗り越えた闇より深いものなんてない。

 

 

 

 

 

 

「――とまぁ、そんな理由」

 

「そうだったのか……」

 

 とりあえず千鶴がりんに事情を説明した理由を説明してもらった。

 

 ……千鶴が俺のことを心配してくれたことに関しては、純粋に嬉しい。ただそれと同時にそこまで心配されなくても……と思ってしまう自分もいる。俺ってば、そんなに頼りにならないかなぁ?

 

「ということで、今からりょーくんが千鶴にお願いしていた『矢澤にこ』と『最上静香』の二人のことを報告するけど……その際に、りょーくんに一つ注意事項があります」

 

「注意事項?」

 

 突然そんなことを言い出したりんに思わず首を傾げる。なんだろうか、あまり重く考えすぎるなとか、そういうことだろうか。

 

 

 

「しばらくの間、シリアス禁止です」

 

「シリアス禁止!?」

 

 

 

 予想の斜め上の釘の差され方だった。なんかこの釘すっごくひん曲がってる。

 

「ほら、りょーくんって普段は明るいけど、シリアスになった途端重苦しい感じになるじゃん。IEのときもそうだったし」

 

 IEのときは緊張感とかその辺りのこともあったから仕方がないと思うんだけど……。

 

「だから一人で背負いすぎないように、シリアスな空気になるのを禁止します。真剣に考えてもいいけどシリアスにはならないように気を付けましょう」

 

「そんな注意のされ方、前世でも今世でもされたことないぞ……」

 

 シリアスにならないように気を付けるって、一体何をどう気を付ければいいんだ……?

 

「もしシリアスになった場合は……」

 

 なった場合は……?

 

 

 

「アタシの胸でビンタします」

 

「胸でビンタ!?」

 

 

 

 本能は『寧ろご褒美だぜやっほい!』と騒いでいるが、頭の冷静な部分では『こいつぁやべぇ……!』と戦々恐々としていた。

 

 おっぱい星人ならば一度は憧れる胸でのビンタだが、よく考えて欲しい。例えば水を一杯に入れたビニール袋の口を縛って、大きく振りかぶって殴り掛かったとしよう。痛くないわけないだろう? それと同じように、いくら胸が柔らかろうが数キロもある物体に殴られれば痛いに決まっているのだ。

 

 流石にこれは実体験ではないが、それでも経験者である兄貴(下手人は早苗ねーちゃん)が口では語らずとも無言で首に湿布を貼っている光景を見れば嫌でも分かる。

 

 大乳とは神がこの世に遣わした祝福であると同時に、愚かな人間を屠る武器でもあったということだ……。

 

「分かりましたか、りょーくん?」

 

「……分かりました」

 

 なんとも言えない注意事項を破った場合、何とも言えない罰則を受けることを同意するなんとも言えない状況になってしまった。

 

 ……別に重苦しい雰囲気が好きなわけでもないし、進んでシリアスがしたいわけでもないんだけど……なんだろう、この何とも言えない感情は。

 

「それじゃありょーくん、今から話すけど心して聞いてね」

 

「心して聞かなきゃいけないことなのにシリアス禁止なのか……!?」

 

 

 

 この胸の高鳴り(ドキドキ)の正体を、俺は知らない……。

 

 

 




・少女の腐乱死体
(ある意味)金田勝が初のメイン回となったやみ子さんの一件。
ちなみに良太郎は割と平気だったらしい。

・単行本で三十一冊
NEOとか含めるともっと。

・イケメン霊能医師
そういえば最近殺生石が割れたらしいですね(唐突)

・シリアス禁止
無理矢理シリアスを回避()

・おっぱいビンタ
ブラックジャックって武器知ってる?



 シリアスは(無理矢理)置いてきた。これ以上の戦いは(作者自身が)(ついでに読者の一部も)耐えられそうにない。

 てなわけで二人の解決策をりんと二人で探っていくお話になっていきます。シリアス禁止と言いつつも、ふざけすぎない程度には真面目なお話にしていきます。

 それと前書きでも触れましたが、ちょいと第六章の話数が増えすぎたので整理してきました。特に大きな問題はないのですが、気分の問題です。



『どうでもいい小話』

 シンデレラガールズ、ツアーファイナル両日当たりました!

 俺は!!! 楓さんが来る奇跡を!!! 信じている!!!

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