アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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りんちゃんの活躍が始まる!


Lesson303 朝比奈りんは知りたい

 

 

 

 アタシ、朝比奈りんはずっと考えていた。どうすればりょーくんの過去……具体的には小学五年生の頃の話を知ることが出来るのか、と。

 

 りょーくんは自分のことならば何でもアタシに話してくれた。『神様から特典という名目で能力を貰って生まれ変わった転生者であること』みたいな些細なことから、『初恋が自分の母親であること』みたいな結構重要そうなことまで話してくれた。

 

 アタシはりょーくんが嘘を吐かないと信じているから、他の人ならば荒唐無稽だと鼻で笑いそうなことも全部本当のことだと信じている。

 

 信じているからこそ、アタシは『IE決勝前夜』に聞いてしまったりょーくんの言葉に本気で腹が立って……と、ダメだダメだ、今りょーくんと結ばれた馴れ初め話を始めると色々と尺が足りない。話を戻そう。

 

 それほどまでに何でも話してくれるりょーくんなのだが、頑なに、本当に頑なに自分の小学五年生の頃の話だけはしてくれないのだ。一応、直接「話したくない」と拒絶されたわけではない。しかしさりげなく聞き出そうとするとさりげなく話題を逸らされるし、直接「小学五年生の頃の話が聞きたい」と聞こうものならば「そんなことより」と露骨に話題を逸らされる。

 

 そこでさらに強引に問い詰めようものならば、お返しとばかりに強引に()()()()()しまうのだ。くそぅ……りょーくんめ……恋人になった途端にあんな……だいしゅき……。

 

 ……とにかく! アタシはりょーくんの過去を知りたい! あー見えてりょーくん結構負けず嫌いだけど、アタシだって負けず嫌いなんだからね! 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、忍! 恭也君! りょーくんの昔のこと、なんでもいいから教えて!」

 

「珍しく一人で来たかと思ったら……」

 

「必死ね~」

 

 りょーくんの第二の実家でもある喫茶『翠屋』。ここの長男でりょーくんの幼馴染でもある恭也君や、彼の恋人で高校の頃はよく一緒にいた忍ならば、話を聞いたことがあるんじゃないかと考えた。

 

「私たちを頼りにきたってことはそういうことなんだろうけど、一応聞くわね? 周藤君のお母さんとかお兄さんからは話聞けなかったの?」

 

「……お義母さんもお義兄さんも『良太郎が話さないなら話さない』って……」

 

 りょーくんとお義兄さんの共通の幼馴染である早苗さんにも一応聞いてみたけど、こちらは何も知らなさそうだった。ちなみにもう一人の周藤家の住人と化している志希は流石に知っているわけないと判断して聞いていない。

 

「しかし申し訳ないが、アイツとの付き合いは六年生の頃からでな。それまではクラスも一緒になったことがないから何も分からないんだ」

 

「えぇ!?」

 

 一番頼りにしてた恭也君からの返事はあまり芳しくないものだった。

 

「んー、高校の昼休みとかで小学校の頃の話題が出たこともあったけど……周藤君は『昔はこれでも結構陰キャだったんだぞ』みたいなことを言ってたような気が……」

 

「それはアタシも聞いたことあるけど、その具体的な内容を知りたいの!」

 

「陰キャであることの具体的な内容……?」

 

「りん、ちょっと落ち着きなさい」

 

 りょーくんってば、お兄さんに劣等感を抱いたり恭也君に劣等感を抱いたり、そんでもって転生特典に落胆して落ち込んだり、話を聞く限りなんだかんだで昔はマイナス方面にいることが多いんだよね。

 

 でも話を聞くとそのマイナス方面に対するスタンスが何か違う気がする。

 

「なんというかこう、before小五は『後ろ向きなネガティブ』だったのがafter小五は『前向きなネガティブ』になった? みたいな?」

 

「それ略すとB5とA5になるわね」

 

「用紙サイズ的には小さくなってるな」

 

「ちょっと二人とも真面目に聞いてよ!?」

 

 プライベートのりょーくんと一緒にいることが多かったからか知らないけど、二人ともノリがりょーくんだよ!? なんかズルい!

 

「まぁ確かに、その小学校五年生の頃の周藤君に何かがあったのは間違いなさそうね」

 

「……そういえば、五年生の頃の良太郎のクラスの噂を少しだけ聞いたことがある」

 

 えっ!? 何それ!?

 

「確か……他のクラスの生徒からは『地獄のクラス』と呼ばれていたらしい」

 

「……らしい? なんでそこ曖昧なの? 友だちから聞いたとかじゃなくて?」

 

「りん、そこに突っ込まないであげて」

 

「え?」

 

 何故か忍が恭也君の肩に手を置いて、その手を恭也君が結構な力で抓り上げていた。よく分からない。

 

「アイタタタ……。そ、それにしても小五の周藤君だけじゃなくて、そもそも周藤君のクラスそのものが訳アリだったみたいね」

 

「一体何があったら『地獄のクラス』なんて呼ばれ方するんだろ……」

 

 りょーくんの過去の謎を解き明かすつもりだったのに、まさか謎が増えるとは思わなかった……。

 

 でも恭也君と忍の話を聞いて分かったことは、小五りょーくんのクラスが『地獄のクラス』なんて呼ばれる謎の存在だということ、そしてりょーくんは恭也君ほど親しい間柄でも話していないということだ。

 

 ということは、アタシが探さないといけないのは『りょーくんから昔の話を聞いている人』ではなく『りょーくんの昔のことを知っている人』だ!

 

「ありがとう二人とも! またなにかあったら相談に乗ってね!」

 

 次の現場の時間も近付いていたので、紅茶代を支払ってアタシは翠屋を後にした。

 

 またりょーくんの過去に一歩近づいた気がした!

 

 

 

 

 

 

「……そういえばなんだが」

 

「ん?」

 

「良太郎には俺よりも古い幼馴染がいるのだが、朝比奈はそれを知っているのだろうか」

 

「もしかして渋谷凛ちゃん?」

 

「いや、違う。確か渋谷生花店と同じ商店街に周藤家が懇意にしてる精肉店があって、そこの娘さんと仲が良かったという話を聞いたことがある。歳は一つ上……だったかな」

 

「恭也はあったことないんだ?」

 

「ウチとその商店街は結構離れているからな。もしかしたら客として来てくれていたかもしれないが、少なくとも良太郎から紹介されたことはない」

 

「ふーん……まぁ周藤君なら話してるんじゃないかな?」

 

 

 

 

 

 

「うわおっぱいでっか!」

 

 ……まさかりょーくん以外に初対面の開口一番でこんなことを言う人間がいるとは思わなかった。

 

「ちょ、ちょっと友紀ちゃん……! 流石にそれは失礼ですよ……!?」

 

「でもすごくない!? 背ぇこんなに低いのにおっぱいこんなにデカいんだよ!?」

 

「せめて声のボリュームを落としてください……!」

 

 そんな会話をアタシの目の前で堂々と繰り広げているのは、今回のグラビア撮影で一緒に仕事をすることになった346プロの姫川友紀と鷹富士茄子だった。アタシの楽屋に挨拶に来たかと思ったら姫川友紀がいきなりそんなことを言い出して、それを鷹富士茄子が申し訳なさそうにペコペコとこちらに頭を下げながら止めようとしていた。

 

 確かこの二人、りょーくんと恭也君と忍の同級生だったっけ。

 

「姫川友紀、いくらアンタがりょーくんの同級生だからって、アタシにまで同級生のノリはどーなの?」

 

「えー? でも良太郎の彼女なんでしょ? なら同級生みたいなもんじゃない?」

 

「いくらなんでもその理論は滅茶苦茶……チョットマッタ」

 

 え、今なんて言った?

 

「良太郎の彼女、朝比奈さんなんでしょ?」

 

 ギョッとして聞き返すと、姫川友紀はヘラヘラ笑いながらもキッパリと断言した。

 

「……まさかりょーくんから聞いてる、とか?」

 

「いや茄子に当ててもらった」

 

「どーいうこと!?」

 

 再びギョッとして姫川友紀が名前を挙げた鷹富士茄子に視線を向けると、彼女は思いっきり引き攣った笑みを浮かべた。

 

「え、えぇっとですね、これにはやんごとなき事情がありまして……」

 

 

 

「えっと、つまり何? 鷹富士茄子は賭け事で絶対に負けないってことを利用して『りょーくんの恋人が誰かを賭けさせた』ってこと?」

 

「普段の茄子だったら絶対そういうことやってくれないんだけど、346プロが誇る酒豪のお姉様方の力を借りて酔い潰して、正常な判断が出来ない状態にしてから賭けてもらったんだ!」

 

 子どものように無邪気な笑顔でトンデモナイこと言い出したわコイツ。

 

「鷹富士茄子、アンタ流石に友人関係見直した方がいいんじゃない?」

 

「……とても……楽しいお酒でした……!」

 

「アンタもアンタでなにしっかり楽しんでるのよ!?」

 

 恭也君と忍もそうだったけど、なに!? りょーくんのクラスメイトになると漏れなく全員こーいうノリになるの!?

 

「いやー良太郎からは親友兼ライバルって話をよく聞いてたから『滅茶苦茶凄いアイドル』っていう印象だったんだけど、良太郎の彼女だって聞いたら一気に親しみが湧いてきちゃって~! りんって呼んでいい?」

 

「もう好きにしなさいよ……」

 

「ありがとうございます、りんさん」

 

「アンタもいい性格してるわホント……」

 

 思わず深いため息が出てしまったが、コレはコレで好機かもしれない。

 

「アンタたち二人とも、この撮影終わったら時間ある?」

 

「え? この撮影後ですか?」

 

「茄子と二人で飲みに行く予定ぐらいだったけど」

 

「なら丁度いいわ。ちょっとアタシに付き合いなさい。りょーくんのことでちょっと聞きたいことがあるの」

 

 忍と恭也君以上の情報を知ってるとは思わないけど、それでもりょーくんの過去を知ってる人間に心当たりがあるかもしれない。

 

「……ほほう? 私たちにお酒の席で聞きたいことがあると……?」

 

「それはそれは……それなりの対価をいただかないといけませんねぇ……」

 

 突然二人して怪しい笑みを浮かべ始めた。

 

「え? なによ対価って……奢れって?」

 

 別に最初からアタシが出すつもりだけど、ちょっと図々しすぎない?

 

「そーじゃなくて、お酒っていったら飲み比べに決まってるでしょ!」

 

「決まってないわよ!?」

 

「テキーラのショット一杯につき一つの質問を許可してあげましょう!」

 

「テキーラのショット一杯!?」

 

 ヤバい、この二人面倒くさいタイプの酒飲みだった……もしかして早まったかもしれない……。

 

「おやおや~? 良太郎だったらこれぐらい喜んで付き合ってくれるのにな~?」

 

「……っ!?」

 

「これだけで恋人の話を聞くことが出来るって言うのに、りんさんの愛はそんなものなんですか~?」

 

「……っっっ!?」

 

 

 

 やってやろうじゃないのよコノヤロウッ!

 

 

 

 

 

 

 ……で?

 

「お前ら、俺の恋人酔い潰したことに対する釈明はあるか?」

 

「「すっごく楽しいお酒でした!」」

 

 友紀と茄子から連絡があったので指定の居酒屋に行くと、お座敷席の座布団の上で涎を垂らしながら幸せそうな笑みで寝ているりんの姿があった。

 

 とりあえず二人の頭を強めに引っ叩いておいた。

 

 

 




・朝比奈りんはずっと考えていた。
具体的にはLesson242から。

・『IE決勝前夜』
と書いて馴れ初め話と読む。

・『地獄のクラス』
そりゃあもう担任の先生が地獄ですよ。

・ウチとその商店街は結構離れているからな。
地理的には良太郎の家を挟んで反対側みたいな立地のイメージ。
初期の凛ちゃんが翠屋に行ったことがなかった理由。

・「うわおっぱいでっか!」
残念! 良太郎ではない!

・『りょーくんの恋人が誰かを賭けさせた』
主犯は泣きボクロがセクシーなダジャレお姉様。

・やってやろうじゃないのよコノヤロウッ!
杉谷



 問題はまだ何も解決していませんが、それでもちょっと空気の入れ替え回。

 滅茶苦茶引っ張って来た良太郎の過去に触れつつ、りんが千鶴の元に辿り着くまでの経緯のお話となります。

 しばらくはこんな感じで緩くいきます。

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