アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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……例え雨が上がっても。


Lesson290 雨上がりの虹 4

 

 

 

「……どうだ?」

 

「「「………………」」」

 

 プロデューサーが持ってきてくれたデモCDを聞き終えた私たち三人は顔を見合わせた。

 

「……早く歌いたい!」

 

「私コレ好き!」

 

「イメージ通りのとてもいい曲でした」

 

 私たちの感想は勿論好意的なものだった。

 

 デモCDの中の曲は、ついに完成した私たち三人のユニット曲。……そう、私たち三人の初めての曲だ。

 

「気に入ってもらえたようで何よりだ」

 

 私たちが「気に入らない」なんて微塵も考えていないくせに、プロデューサーはそう言いながらニコニコと笑っていた。

 

「ユニットのお披露目は予定通り十二月の定期ライブ。勿論この新曲もそこで歌ってもらう。時間は十分あるからしっかりと仕上げていこう!」

 

「十二月というと、今年最後の定期ライブですね」

 

 初ステージとしては申し分ないほど素晴らしい機会だ。一年の最後のステージということで少しだけ背筋が伸びる気持ちだった。

 

「でへへ~! すごい楽しみだなぁ~! ……はっ!? はいプロデューサー!」

 

「ん? はい何ですか春日さん」

 

 いつものニヘラっとした笑みを浮かべていた未来が、突然ハッとした表情になって真っ直ぐ手を挙げた。まるで小学生が授業中に質問するかのような行動に、プロデューサーもまるで先生のように対応した。

 

「この新曲のことも()()()()()ですか!?」

 

「……うん、ちゃんと聞いてくれて偉いぞ未来」

 

「でへへ~それほどでも~」

 

 言葉では褒められてるけど、それは褒められてないわよ未来。

 

「全体のミーティングで決めることにはなるが、俺はお前たち三人を十二月の定期ライブの目玉にしたいと考えている」

 

「目玉……!」

 

「だから勿論……コレだ」

 

 プロデューサーが「しーっ」と人差し指を口元に立てる。

 

「分かりました!  絶対に秘密にします!」

 

「うん偉いぞ」

 

 ……未来が張り切っていると不安になるのはなんでかしらね……。

 

 

 

 

 

 

『十二月の定期ライブ、来てくれたらきっとビックリすると思います! 無理しなくてもいいけど、これたら絶対来てくださいね!』

 

 未来ちゃんから届いたそんなメッセージ。

 

「多分プロデューサーさんか静香ちゃんあたりから秘密にするように念を押されたんだろうなぁ」

 

 未来ちゃんにしては曖昧な内容ではあるが、多分サプライズ的なことがあるんだろなぁということは分かった。そして未来ちゃんのテンションの高さから察するに、多分未来ちゃんと静香ちゃんと翼ちゃんの三人の新曲を披露するってところだろうな。

 

 さて『これたら絶対来てくださいね』と言われたものの。

 

「……まぁ、無理だよなぁ」

 

 まだ十一月が始まったばかりだというのに、俺の予定表には既に来年の二月の頭まで予定がびっしりと埋め尽くされていた。年末年始のアイドルなんてこんなものである。

 

 それが嫌だとか苦痛だとかは言うつもりはない。『アイドル』側としてファンの前の立てること以上の幸せは存在しないが、それでも『ファン』側としては数々のアイドルのイベントに参加出来ないことは残念で他ならなかった。

 

「十二月の定期ライブもそうだけど、楓さんのクリスマスライブとか参加したかったなぁ……」

 

「多分ほとんどのアイドルもりょーたろーくんと同じようなこと考えてると思うよ」

 

「やっぱりみんな楓さんのライブ行きたいよなぁ!?」

 

「そっちじゃなくて、りょーたろーくんのライブだよ」

 

「それじゃあみんなは俺のライブに来てくれていいから、俺は楓さんのライブに参加するわ。これがwin-winってやつだな!」

 

「そのみんなは一体何を見るんだ……?」

 

「いいからお前らは手ぇ動かせ」

 

「お喋りもいいけど、作業だけはしっかりね」

 

 冬馬と北斗さんから注意を受け、俺と翔太は「「はーい」」と素直に作業へと戻る。

 

 今日の俺たちのお仕事はとっても簡単! なんとサインを書くだけ! その数たった千枚!

 

 だんっ!(台パン)

 

「ちょっ、バカ揺らすな! ズレるだろ!」

 

 冬馬スマン。だが流石にコレは文句の一つも言いたくなる。

 

「流石に多いんだよ……! 千枚ってなんだよ千枚って……!?」

 

「良太郎君だったら今までそれぐらいの量は書いてきてないかい?」

 

「通算すりゃそうかもしれませんが、一度に書く量じゃねぇんすよ……!」

 

 今回のコレは123プロの新年ライブにて会場限定で販売するCDに封入される予定になっていて、俺たち九人の直筆サインがランダムで入っている。みんなは是非お目当てのアイドルのサインが入っていることを祈って欲しい。

 

「つべこべ言ってるといつまで経っても終わらねぇぞ。オメェもプロのトップアイドルならサインの千枚や二千枚、文句言わずに書けっての」

 

「冬馬は辛くねぇのかよ」

 

「たりめーだ」

 

「本音は?」

 

「悪い、やっぱ辛ぇわ」

 

 言えたじゃねぇか。

 

 しかも俺たちに至っては日程的なことを考えて今日中に終わらせなければいけない案件だったりする。間違いなく徹夜コース。ちょっとぐらい雑談をしながらじゃないと集中力とやる気が持たないのだ。

 

「そういえば」

 

 さっき冬馬が言った「プロのトップアイドル」という言葉で思い出した。

 

「十二月と言えば、ニコちゃんのスクールアイドルデビューもそれぐらいって言ってたっけなぁ」

 

 正確には『言っていたのを聞いた』のである。結局ニコちゃんは素直にデビューの日程を教えてくれなかったので、あの後で本当に二階堂精肉店に吶喊したらしい未来ちゃんからのタレコミである。どうやら彼女の通う音ノ木坂学院の中で披露するらしいので、結局見に行くことは出来ないんだけど。

 

「なになに? りょーたろーくんもそっちに進出するつもりなの?」

 

 俺の呟きに翔太が興味を示して身を乗り出してきたが、邪魔だったらしく冬馬にベチンと叩かれていた。

 

「良太郎君が面倒を見るスクールアイドルか。それはそれは、あの『A-RISE』の良いライバルになるんじゃないかな?」

 

「俺まだ何も言ってねーんすけど」

 

 なんで北斗さんまでノリノリなんだ。

 

「まぁお前のあの魔境校だったらアイドル出来る人材の一人や二人、余裕で転がってんじゃねーの」

 

「お前もかよ」

 

 まさか冬馬までこの話に乗ってくるとは思わなかった。そしてジュピターの全員が『俺が魔王エンジェルに対抗してスクールアイドルのプロデュースをしようとしている』と決めてかかっていた。

 

「今の俺はそれどころじゃないっての。まだIEの余波が残ってて自分のこと以外を考えてる余裕なんて……」

 

「りょーたろーくん、昨日のお昼休憩のときに何処行ってたって言ってたっけ?」

 

「同じ撮影所を使ってた346のシンデレラプロジェクト二期生の子たちの撮影してたから、ちょっと様子を見に……」

 

「そういうところだよ」

 

 イヤだって気になるじゃん。あのりあむちゃんがちゃんとやれてるのかって気になるじゃん。しかも見に行ったらりあむちゃんに引けを取らないぐらいの濃いメンツが揃ってるんだからさらに気になるじゃん。こう言っちゃ武内さんに失礼かもしれないけど凛ちゃんたち一期生以上に心配になるメンツなんだから仕方がないじゃん。

 

「結局良太郎君の本質は()()()()()()だからね。一度気になるとその子たちが何処に辿り着くのかを見届けなきゃ気が済まない」

 

「それ僕たちも当てはまるよね~」

 

「余計なお世話だったけどな」

 

 まぁ冬馬の言う通り、俺や兄貴が手を差し伸ばさなかったとしてもこの三人なら何処でもやっていけただろう。それこそ、今流行りの男性アイドル専門事務所として名高い315プロ辺りなら諸手を挙げて受け入れただろうに。

 

「……ん?」

 

 さてそろそろ雑談を止めて本腰入れてサイン書き作業に戻ろうかと姿勢を正した矢先にスマホが鳴った。どうやらメッセージらしいが、噂をすればのパターンを考えるともしかしてニコちゃんかりあむちゃん辺りだったりするかな?

 

「ってなんだ兄貴か」

 

 そこは空気を読んで欲しいと思いつつ、一応仕事の内容かもしれないので無視せずにメッセージに目を通す。

 

 

 

「っ!!!???」

 

 

 

 心臓飛び出るかと思った。

 

「中止! 中止中止! 作業中止! お前ら集まれぃ!」

 

「は?」

 

「え、いきなりどーしたの?」

 

「何かあったのかい?」

 

 

 

()()()()って!」

 

 

 

「「「っ!?」」」」

 

 ガタンバタンと椅子をなぎ倒す勢いで立ち上がった三人が俺の後ろに回り込んでくると、ちょうどそんなタイミングでビデオ通話がかかって来た。

 

 通話に出ると、映し出されたのは()()にいる兄貴の姿だった。

 

『おっ、映ったな。四人ともお疲れ。ちゃんとサインは書けてるか?』

 

「そんなこたぁどうでもいいんだよ!」

 

「もっと重要なことあるだろ!」

 

「社長どいて見えない!」

 

『お前らさぁ……』

 

 俺と冬馬と翔太の言葉に従い体を退ける兄貴の向こう側に見えるのは()()()()()()()()()()()早苗ねーちゃんの姿。

 

 

 

 そんな彼女の腕の中で『赤ちゃん』が眠っていた。

 

 

 

「……お疲れ様、早苗ねーちゃん」

 

『ホンット疲れたわ。話には聞いてたけど、ここまでとはね』

 

 そう言って笑う早苗ねーちゃんには確かに疲労が目に見えていたが、それ以上に生き生きとしているようにも見えた。

 

 性別とか色々と聞きたいことも言いたいことも沢山ある。

 

 けれど、今はまずは――。

 

 

 

「おめでとう、兄貴、早苗ねーちゃん」

 

 

 

 ――生涯の宝を授かった兄と義姉への祝福の言葉を口にした。

 

 

 

 

 

 

 雨上がりの空を見上げる。

 

 冷たい雨を乗り越えたものを祝福するように虹がかかる。

 

 

 

 けれど忘れないでほしい。

 

 虹が見えるような雨上がりは――。

 

 

 

「……はい社長、なんですか? ……静香に話がある?」

 

 

 

 ――足元がぬかるんでいるということを。

 

 

 




・悪い、やっぱ辛ぇわ
・言えたじゃねぇか
産まれてこの方一度もFFという作品をやったことが無い奴がここに。
(KHとチョコボの不思議なダンジョンぐらい)

・CP二期生邂逅済み
その辺りの補間エピソードはまた後日。

・『赤ちゃん』
兄貴と早苗ねーちゃんに第一子誕生!



 本当はもうちょっと色々と書きたかったけど、少々リアルの事情で心にダメージを負ってこれ以上書けないからご勘弁を……。

 次回は本編でありつつ番外編のような短編集。名付けて『ほんのりシアターデイズ 』。これまで微妙に登場が薄かったシアター組を登場させていきます。マジック得意そうな子とかおっぱいおっきい子とか。

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