アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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突然ですがなんと豪華四本立て!

※などと言っておりますが、諸事情により次話の制作が遅れておりますので、過去にツイッターにて公開した短編の修正版の再掲になります。ご容赦ください。


番外編63 もし○○と恋仲だったら 特別総集編

 

 

 

 それは、あり得るかもしれない可能性の話。

 

 

 

「お疲れ様でした」

 

「お疲れ様でーす!」

 

「志保ちゃん、今日も良かったよー!」

 

「ありがとうございます」

 

 共演者やスタッフにお礼や挨拶をしながら、私はドラマの撮影現場を後にする。

 

 それも大事なことだとは理解しているが、未だに愛想を良くするということは苦手だ。私なりに精一杯愛想を良くしているつもりだが、他の女優やアイドルのようには出来ない。

 

「あ、志保ちゃん! この後みんなで食事に行こうって話になってるんだけど、君もどう?」

 

 しかしそれでも、私が二十の誕生日を迎えてからこうしたお誘いは目に見えて増えた。

 

 これでもアイドルを経て女優となった私は、自身の容姿は優れているということをしっかりと自覚している。身長もさらに伸び、体つきもより女性らしいものとなった。だから、この男性スタッフのお誘いが下心から来るものだということは分かっていた。

 

 しかし『123プロ』の私にこうして声をかけるのだから余程の剛の者か、もしくは何も考えていないのか。いずれにせよ、私の回答は決まっている。

 

「申し訳ありませんが、遠慮させていただきます」

 

「えー? いいじゃんたまにはさぁ」

 

 しっかりと断ったにも関わらずヘラヘラと笑う男性は、どうやら後者だったようだ。

 

「今日は先約がありますので」

 

「えー? 同じドラマを作っていく仲間として親睦を深めようよー」

 

 会話をしているだけで頭が痛くなってくる。先約だと言っているのに引かず、むしろ距離を縮めようとしてくる。

 

「それで、どんな約束? あ、お友達だったらこっちに呼んでも……」

 

 

 

「へぇ、お招きしてくれるんですか」

 

 

 

「……え゛」

 

 私の背後から現れたその人物に、男性はカエルが潰れたような声を出した。

 

「実は事務所のみんなと一緒にご飯を食べに行く予定だったんですけど、お招きしてくれるというのであれば、今から全員こちらに来るように連絡しますけど?」

 

 文面だけをとればとても友好的に、しかし発せられる雰囲気と口調からはあからさまな敵意を感じさせながら『周藤良太郎』は問いかけた。

 

「あっ……いや……えっと……その……」

 

 突然現れた予想外の超大物に、男性は口をパクパクしながら言葉を詰まらせる。当然だ、何せ相手は今や世界的に有名なトップアイドルで、しかもその事務所のみんなというと『Jupiter』に『Peach Fizz』といったトップアイドルたち。別の意味で場違いな人たち揃いだ。

 

「大丈夫ですよ。先ほどお断りしたところ、ちゃんと分かっていただけましたから」

 

 そうですよね? と男性に問いかけると、彼は勢いよく首を縦に振ってくれた。

 

「それでは、失礼します。行きましょう、良太郎さん」

 

「ん、了解」

 

 わざわざ私を迎えに来てくれた良太郎さんと共にスタジオを後にする。

 

 私を連れ出すために良太郎さんは一つだけ嘘をついてくれた。それはご飯を食べに行くというところではなく、事務所のみんなでというところ。

 

 ……本当は、二人きり。世間一般でいうところの、デート。

 

 

 

 『恋人同士』のデートなのだ。

 

 

 

 

 

 

「全く……俺の恋人に手を出そうたぁふてぇ野郎だ」

 

 いや、世間にはまだ公表していないので知らなかったのは当たり前だが、それでも自分の恋人がナンパ紛いなことをされている場面を目の当たりにして腹を立てない方がおかしい。

 

「もう……折角のデートなんですから、あまりヘソを曲げないでください」

 

 顔に出なくても分かるんですからね、と助手席から手を伸ばし運転中の俺の頬を指で突きながらクスクスと笑う志保ちゃん。初めて俺と会った六年前と比べると、本当に丸くなったというか、柔らかくなったというか……性格も身体つきも。

 

 ちなみに志保の『初めて会う人には警戒心MAXな猫のような性格』はどうやら遺伝らしく、母親はともかく弟君は初めて会ったときは随分と警戒というか敵対心をむき出しにされてしまった。まぁこれはどちらかというと『大好きなお姉ちゃんについてきた悪い奴』みたいなニュアンスだった気もするが。

 

「まぁ、あのスタッフの気持ちも分からないでもないよ。デビュー当時からずっと美人だったのに、今ではそれ以上に美人だから」

 

「……そ、そうですか」

 

 そっけなく平然と振る舞おうとしているのに、その反応にはテレが混ざっていた。

 

「……その、良太郎さん」

 

「んー?」

 

 何故かすーはーと二度三度深呼吸をする志保ちゃん。まるで、何か重要なことを言い出そうとしているようで……。

 

 

 

「……きょ、今日は……帰りたくないです」

 

 

 

「………………」

 

 時が止まったかと思った。ハンドル操作をミスって事故らず、ついでに思わず聞き直すこともしなかった自分を褒め讃えたい。

 

 きっと志保ちゃんも意を決して言った言葉なのだろう。しかしどうしてもこれだけは言いたかった。

 

「あのさ、志保ちゃん……その言葉って、どちらかというと帰り際に言うべきじゃ……」

 

 少なくとも、先ほど合流してご飯を食べに行く途中に言う言葉じゃないと思う。

 

「……あ」

 

 自分でもそれに気付いたらしく、耳だけじゃなく顔全体が真っ赤になった。

 

「ち、ちが……!? いや、ち、違わないんですけど……そ、その別に期待しているとか、そういうことでもなくて……!?」

 

 普段のクールな若き名女優の姿は何処へやら。ワタワタと慌てる志保ちゃんの姿が可愛くて、運転の為に前を向くことがここまで苦痛に感じるとは思わなかった。

 

 ……まぁ『期待』をしているのは俺も同じなのだから、どうこう言えた義理は無いのだが。

 

「志保ちゃん」

 

「だ、だから、その……!」

 

「今夜は帰さないよ?」

 

「………………………………ハイ」

 

 頭から湯気を出しながらそれっきり沈黙した志保ちゃんに、果たしてこのままいつも通り食事が出来るのか不安になりつつ、あぁ本当にこの子は可愛いなぁと初めて会ったときから思い続けていることを、今一度噛みしめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 それは、あり得るかもしれない可能性の話。

 

 

 

「フンフフーン!」

 

「ご機嫌だなぁ」

 

 付き合い始めてから五度目になる茄子の誕生日である元旦を迎え、お互いに二十歳となった俺と茄子は初詣にやって来た神社の境内を並んで歩いていた。

 

 今日は茄子が振袖なので軽く腕を絡める程度だが、それでもお互いの暖かさが分かる程度には距離が近い。

 

「だって、見てください! ついに! ついになんですよ!」

 

 そう言いつつ、喜色満面の笑みで茄子が俺の眼前に突き出してきたのは一枚の紙。それは先ほど引いた一枚のおみくじだった。

 

 幸運の女神に愛されるどころか幸運の女神そのものと言っても過言ではない茄子は、これまでの人生の中で大吉以外のおみくじを引かない。故に、今年もそうなのだろうなと思っていたのだが――。

 

 

 

「初めておみくじで『中吉』を引けたんですから!」

 

 

 

 ――そう。そうなのだ。あの茄子がおみくじで中吉を引いたのだ。

 

 これには一緒に初詣に来ていた兄貴たちや友人たちも目を引ん剥いて驚愕していた。かく言う俺も声にならないぐらい驚きまくっていた。寧ろこのおみくじの中に大吉を入れ忘れたのではないかと疑ってしまったぐらいである。

 

 元旦にも関わらず、これが今年一番驚愕した出来事間違いなしと確信できた。

 

「思わず結ばずに持って帰って来ちゃいました……これは記念に飾っておきましょう」

 

 一方で茄子はその中吉のおみくじを心底嬉しそうにニコニコと、まるで宝物を手にした小学生のように楽しそうだった。中吉を引いてここまで喜ぶ人もそうそういないと思う。

 

「……私、ようやく普通の女の子になれたんですね」

 

「既に女の子って言う歳ではないけどな」

 

「……そーいう余計なことしか言えない口はこれですかー?」

 

「いふぁいいふぁい」

 

 思わず軽口で流してしまったが、つまりそういうことだった。

 

 茄子は産まれてこの方、ずっと幸運の星の下で生きてきた。茄子はどんなときもその幸運に恵まれ、そしてときに過剰なそれは『他人の幸運』を奪ってしまい、彼女を苦しめた。

 

 心優しい彼女にとって、自分の幸運が無くなる以上に、他人の幸運を奪うことが無くなることの方が嬉しいのだろう。

 

「しかしその場合、茄子の幸運は何処に行ったんだろうな」

 

「? そんなの、決まってるじゃないですか」

 

 そう言うと、茄子はそっと俺の胸に手を置いた。

 

「良太郎君のところに行ったんですよ」

 

「……俺、今年のおみくじ、末吉だったんだけど」

 

 一番リアクションに困る結果だった。

 

「つまり、私がいなかったら良太郎君は凶を引いていたということです。是非私に感謝してくださいね?」

 

「はいはい、ありがとうございます女神様」

 

 しかし、確かにここ最近少しだけ運が良くなったような気もするので、あながち間違っていないのかもしれない。

 

「おっ! 良太郎! 茄子ちゃん! あけましておめでとう!」

 

 兄貴たちと別れて境内をブラブラしていると、知り合いのおじさんに声をかけられた。

 

「おめでとうございます」

 

「おめでとうございます。……福引、ですか?」

 

「おうとも! ……あ、本当に申し訳ないんだけど、出来れば茄子ちゃんは……」

 

 特賞はハワイのペアチケットかぁと思って見ていると、そんな情けないおじさんの声。そりゃあ、茄子が引いたら一等間違いなしだ。だから普段の茄子だったら、それが分かっているので引くのを遠慮しているところなのだが。

 

「ご安心を! 今の私は、運が悪いんです!」

 

「へ?」

 

 フンスッ! と意気込む茄子におじさんは首を傾げた。

 

「いや、運が悪いって言ってもあくまでも当社比だろ」

 

「まぁまぁ見ててください! 今の私には、三等以下を引く自信しかありません!」

 

「無駄に低い微妙な自信」

 

 とりゃーっ! と勢いよくガラガラを回す茄子。

 

 そしてコロンと転がり出てきた玉は……四等を示す橙色だった。

 

「……な、なにぃ!? 茄子ちゃんが四等!?」

 

「やりました! やっぱり今の私は、運が悪いんですよ!」

 

「本当に運が悪い方々に謝った方がいいと思うぞ」

 

「……でも、ちょっとだけ残念です」

 

 おじさんから三千円分の割引券を受け取りながら、茄子はポツリと呟いた。

 

「良太郎君とハワイ旅行も、少し行きたかったです」

 

 それは勿論、俺だって行きたかった。普段はゆったりとした服の下に隠されている茄子の我儘ボディをサンサンと輝く太陽の下で拝めたならば、今年一年の無病息災間違いなしだ。

 

「……ならいい方法がある」

 

「え?」

 

「おじさん、俺も回すよ?」

 

「勿論! 良太郎なら、精々ティッシュだろ!」

 

「……大口叩けるのも今の内だぜ?」

 

 右手でガラガラの取っ手を掴むと、左手で茄子の右手を引っ張り俺の右手の上に重ねた。

 

「お前の幸運が俺の所に来てるなら、こうすれば前と同じだろ?」

 

「……はいっ!」

 

 「せーの」の掛け声とともに二人で、ゆっくりとガラガラを回す。

 

 おじさんが「まさか……!?」と青褪めるが、もう遅い。

 

 コロンと転がり出た球は……当然、特賞を示す金色だった。

 

 

 

「でも、私の一番の幸運は……こうして、良太郎君と手を繋いで入られることですよ」

 

「それじゃ、俺たちはこの先ずっと世界で一番幸運な二人だな」

 

 

 

 

 

 

 それは、あり得るかもしれない可能性の話。

 

 

 

「雨ー」

 

「あめー」

 

「止まない雨ー」

 

「やまないあめー」

 

 未だに雨を降らし続ける曇天の空を見上げながら、俺と志希は適当な歌を口ずさむ。フレちゃんばりの適当な歌詞だが、そもそもただの暇つぶしなので何も深くは考えていない。

 

「ねー、やっぱりもう行こうよー。ちょっと濡れるぐらいだったら、あたし気にしないしー」

 

「ダメに決まってるだろ。俺が許しません」

 

「えー? ほら、今日のあたしの服、白だしさー濡れ透けするよー? 下着とが透けて見えちゃうかもよー?」

 

 興味ないのー? と問われたので「大変興味があります!」と答えるが、そういう問題じゃないのだ。

 

 今日は二人のオフが重なったのでデートに来ていたのだが、運悪く雨に降られてしまい、咄嗟に近くのブティックの軒先へと非難することになった。折角なので中に入れればよかったのだが、ここでも運悪くブティックは休業中である。

 

「風邪引いたらどうすんだよ」

 

「ダイジョーブ! ちゃんとオクスリ飲むから!」

 

「そもそも引くなって話をしてるんだよ。ほら」

 

 肌寒いのでグイッと志希の肩を抱いて引き寄せる。

 

「……これなら、もうちょっとこーしてていいかな」

 

 えへへ、と笑いながら、志希はコテンと俺の肩に頭を預けた。

 

 ――にゃー

 

「ん?」

 

 何やら足元から可愛らしい鳴き声が聞こえてきた。見ると、そこには一匹の猫の姿が。首輪をしているので飼い猫らしいが、どうやらコイツも俺たちと同じように雨宿りをしているらしい。

 

「君もあたしたちと同じかー」

 

 志希はその場に屈むと猫に向かって人差し指を差し出した。猫はスンスンと志希の指を嗅いでから、スルリと彼女の足元へとすり寄ってきた。

 

「お、成功~」

 

 飼い猫はやっぱり人に慣れてるなぁと思っていたら、志希の口から何やら不穏な言葉が。

 

「おい、何したよ?」

 

「別にオクスリとかじゃないよ? たまたまポケットに煮干しが入ってただけだから」

 

「どっかで聞いたことあるぞ、その台詞……」

 

 まさかポケットの中に煮干しを忍ばせておくことが流行ってるわけでもないだろう。

 

 ――にゃー

 

「にゃー」

 

 ――にゃーん

 

「にゃーん」

 

 猫に相槌を打つように、自身も猫のように鳴く志希が凄く可愛い。みくちゃんには悪いが、やはり今の猫としてのトレンドは志希だな(暴言)

 

 俺も膝を折って志希の隣にしゃがみ込む。そんな俺の肩に頭を乗せるようにもたれかかりながら、志希は尚も猫の喉を撫でる。

 

「猫ってねー、額や頬からフェロモンを分泌する腺があるんだって。だからそこを撫でると手にその匂いが付いて、自分の匂いがすることで猫も安心するんだってさー」

 

「へぇ」

 

 では俺も試してみよう。

 

「ほれ、ゴロゴロー」

 

「へ? ……ごろにゃーんっ」

 

 手で志希の喉元辺りを軽く撫でると、彼女は一瞬キョトンとしてから、うにゅーっと猫のように目を細めてさらにこちらにすり寄ってきた。

 

 俺が志希を撫でて、志希が猫を撫でる。素晴らしき幸せの連鎖である。

 

「アイタッ!?」

 

 しかし、それは猫が突如として志希の手を叩いたことで終了してしまった。

 

「大丈夫かっ?」

 

「アテテ……うん、傷にはなってない」

 

「そうか……」

 

「リョータローより先に、猫にキズモノにされるところだったよー」

 

「ヤメナサイ」

 

「してくれないの?」

 

「……まぁ……その……いずれ……うん」

 

「それにしても、なんでだろ……撫で方間違えたのかな?」

 

「いや、ただ単に飽きたってだけだろ」

 

 先ほどまで志希に撫でられて気持ちよさそうにしていた猫は、既にこちらに対して興味無さそうに毛づくろいをしていた。

 

「猫の気まぐれだよ。撫でて欲しいときだけ撫でられたい。満足しちゃえばそれで終わり。猫ってのはそういう生き物らしいぜ」

 

 この辺りはすずかちゃんからの受け売りだけど。

 

「……ふーん」

 

 そんな猫を横目で見つつ、志希は何かを言いたそうだった。

 

「どうした?」

 

「……その、あたしは、さ」

 

 先ほどよりも大きくこちらへ身体を預けてくる志希。

 

「多分この先も、どっかに行っちゃうことがあると思う。それは自覚してる」

 

「……そうだろうなー。だからせめて、こうやって雨降ってるときぐらい大人しく――」

 

「でも……リョータローのところに絶対帰ってくるし……飽きたりなんてしないから」

 

「……例え飽きたところで、離してなんかやらないからな」

 

 クイッと顎を指で持ち上げると、志希はポッと頬を赤く染めた。そしてそわそわと周りを見回すその姿が、普段の彼女からは考えられないぐらい可愛らしくて……。

 

「いただきます」

 

「……め、召し上がれ……?」

 

 

 

 

 

 

 それは、あり得るかもしれない可能性の話。

 

 

 

 つい先日の9月5日に誕生日を迎えた加蓮は、17歳になった。

 

 サプライズにプレゼントを……というのいいが、加蓮が喜ぶものをあげたいので直接「誕生日に何が欲しいか」と尋ねてみた。

 

「そうだなー……年齢的にはもう大丈夫だけど、まだお互いにアイドルとして活動を続けていくだろうから……『良太郎君のお嫁さんになる権利』が欲しいな」

 

 「予約、していーい?」と上目遣いにお願いされてしまい、逆に俺がプレゼントをもらってしまうというサプライズにより返り討ちにあってしまったが、そこからさらに「俺はもう『加蓮をお嫁さんにする権利』をもらってるつもりだったんだけどな?」と反撃することに成功した。

 

 ……そんな両者KOの引き分け劇はさておき、再度何が欲しいかを尋ねた結果。

 

「遊園地って久しぶりー!」

 

「俺も、遊びに来たのは久しぶりだな」

 

「? 遊ぶこと以外に遊園地に来る理由ってあるの?」

 

「営業。これでもお兄さん、アイドルとしてのお仕事をしておりまして」

 

「……『周藤良太郎』が営業をしていたという事実が信じがたいんだけど」

 

「光の速さで過ぎ去ったけど、一応下積み時代はあったのよ」

 

 お互いにオフの日を調整して遊園地へデートにやって来た。

 

「でもそれを言うなら、私もヒーローショーのMCのお仕事で来たことあったなー」

 

「加蓮が『良い子のみんなー!』とかやったのか、何それ見たい……ちらっ」

 

「良太郎君は悪い子だからやってあげなーい」

 

 どうやら、この間いたずらでくすぐり倒したことを根に持っているらしい。

 

「さて、どうする?」

 

 夏休みは終わっているとはいえ、休日の遊園地はやっぱり人が多い。お互いに身バレ対策だけはしっかりとしつつ、まずはどこに行きたいかを加蓮に尋ねる。

 

「うんとねー……ポテト食べたい!」

 

 何か乗り物に乗るとかではなく、最初に軽食を要求された。

 

「ほらあそこ! ここトルネードポテト売ってるんだよ」

 

「何そのかっこいいポテト」

 

 風属性が付与されたポテトかと思ったら、螺旋状に切って揚げたフライドポテトらしい。

 

「トレーナーさんにポテトの食べ過ぎるなって言われてなかったか?」

 

「デート中に食べるポテトはゼロカロリーだから大丈夫だよ」

 

 何やらノーベル賞もののトンデモ理論が飛び出したが、そこまでしてポテトが食べたかったのか……アレもしかして今回のデート、それのダシに使われたのでは……?

 

 それ以上考えると悲しくなるから、二人でワゴン販売されていたトルネードポテトを購入する。まだお昼にも早い時間だったので、他に並んでいる人もいなかったのですぐだった。

 

「美味しそー!」

 

 串にささった揚げたてのトルネードポテトに目を輝かせる加蓮。

 

「ちゃんと後でレッスン頑張れよ?」

 

「そーいう良太郎君はどうなのさ」

 

「俺はアイドルになってから大きく体形が変化したことないから、心配ない」

 

「ぜったいにゆるさない」

 

 

 

 行儀が悪いと知りつつも、二人並んで歩きながら早速トルネードポテトを齧る。

 

「んー、美味しっ!」

 

 満足そうに破顔する加蓮。形が変わっただけでただのフライドポテトだよなぁとか思っていたが、加蓮をこんな素晴らしい表情にしてくれるのであれば、それだけで十分に価値があるポテトだった。やるなコイツ。

 

 そんな加蓮を横目に俺も自分の分のポテトに舌鼓を打っていると、ズイッと横からトルネードポテトが割り込んできた。

 

「はい、あーん」

 

「……あーん」

 

 同じものを買ったのだから味は同じだろうと思ったが、素直に口を開ける。加蓮は一瞬だけ意外そうな顔をしたが、構わずそのままポテトを齧る。

 

「良太郎君はちゃんと食べてくれるんだね? 奈緒だったら『同じ奴だろ』って言って食べてくれないよ」

 

 奈緒ちゃんだったら言いそうだなぁ。

 

「あの『北条加蓮』からのあーんを断る男はいないって。寧ろお金を払ってその権利を買う」

 

「それを言うなら『周藤良太郎』にあーんする権利にも料金が発生しそうだなぁ」

 

「それはお互いに恋人特権ってことで。……でも奈緒ちゃんにはしてあげてるんだよなー」

 

「良太郎君だって、凛にやってたじゃん」

 

「……え、見てたの?」

 

 この間久しぶりに二人でご飯を食べに行く機会があったのだが、そのときに思わずやってしまったのだが……見られていたのか……。正直ヤッちまった感が半端ないって。いやだってそんなこと出来ひんやん普通……。

 

「まぁ、ここはお互いになかったってことで一つ……」

 

「凛、『良太郎さんってば、未だに私のことを妹扱いするから……ホント困っちゃうよ』って言ってたけど、口元笑ってたからね」

 

 なかったことに出来なかった上に、急にポンポンが痛くなってきた。

 

 弁解ではなく、どうやってこの落とし前をつけるべきかを模索していると、俺の左手に自分の右手を絡めていた加蓮がススッと身を寄せてきた。左の肘辺りに女の子の柔らかさを感じる。

 

「妹扱いする凛にあーんするんだったらー……恋人の私には、何をしてくれるのかな?」

 

 上目遣いでそう尋ねてくる加蓮。

 

「そうだな……俺に出来ることと言ったら」

 

 ポテトの串を持ったまま右手の人差し指で加蓮の顎をクイッと持ち上げる。そして加蓮が「えっ」と一瞬固まっている隙に彼女の唇の端をペロリと舐めた。

 

「こうやって、口の端に付いてた塩を舐めとってあげることぐらいかな」

 

「……あの、不意打ちは流石にまだ照れるんだけど……」

 

 奇遇だね、表情に出てないだけで俺も照れてるよ。

 

 ただその照れっていうのも自分の行動に対してではなくて、真っ赤になって俯いてしまった加蓮の反応が可愛くてこちらが照れてしまった。

 

「あーもう! いつもやられてる良太郎君に今日こそやり返せると思ったのにー!」

 

「何度でもかかってくるといいさ。……これからずっと、そのチャンスはあるんだから」

 

「……もう」

 

 さて、可愛い恋人との遊園地デートは始まったばかりだ。

 

 

 




・恋仲○○志保編
ミリシタ1枚目の志保のSSRお迎え記念に書いた短編です。
良太郎(26)×志保(20)の設定です。

・恋仲○○茄子編
こちらもデレステ1枚目の茄子のSSRお迎え記念に書いた短編です。
番外編08からの続きとなり、二人ともアイドルにはならなかった世界線です。
……このときまだ茄子さん、CV未実装だったんだよなぁ……。

・恋仲○○志希編
志希のデレステフェスSSRお迎え祈願に書いた短編……のはずです(おぼろげ)
基本的にお迎え祈願や記念はそのときのSSRモチーフになっております。

・恋仲○○加蓮編
加蓮の3枚目のSSRお迎え記念に書いた短編です。
しかしモチーフは1枚目のSSRです。



 というわけで恋仲○○特別総集編でした。これら四本は作者のお気に入りの抜粋で、その他にも十五本ほどの恋仲○○短編を公開しておりますので、もしお時間があればそちらもよろしくお願いします。

 ツイッターで見たことあるという方は、少々懐かしさに浸っていただければ幸いです。

 今回、急遽番外編という形を取らせていただきました。少々書こうと思っていたことが上手くまとまらず、若干ストーリーを変更しようと考えていたため、書き上げることが出来ませんでした。

 恐らく次回には本編に戻ると思いますので、よろしくお願いします。

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