アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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厄払いと温泉で色々落として清々しく更新。


Lesson32 キラキラ 3

 

 

 

 普段と少し違うりんの態度に困惑してしまった周藤良太郎です。いや、腕を組んでくることは前にも何回かあったんだけど、ああして手を握られることはほとんど無かったから驚いちゃって。でもまぁ、腕組むより手をつなぐ方が親密度は高い気がするし(個人的解釈)、りんと仲良くなれてるってことで全然オッケーだな!

 

 てな訳で、クレープを食べ終えた俺達はりんの服を見ていく。たまに俺の意見も求められるので自分の好みに若干誘導しつつ買い物を進める。本当はホットパンツとかでりんの太ももとか拝みたかったのだが、時期が時期だし寒いだろうと思って自重しておいた。寒くなるとヤダね。女の子の肌色の面積が減るから。

 

(いや待てよ、胸元を押し上げる縦セタもなかなか……)

 

(りょーくん、アタシの服を真剣に考えてくれてる……!)

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 購入する服が決まり、さぁ会計へ向かおうとした矢先のことである。何やら店の外が騒がしいというか、野次馬が揃っていた。

 

「何だありゃ」

 

「も、もしかしてアタシ達のことがバレたとか……!?」

 

 りんは若干緊張した面持ちで可愛らしく俺の服の裾を摘んでいるが、多分それは無いと思う。野次馬は店の外にいる誰かを取り囲んでいて、店内を覗いている様子はない。俺達以外の芸能人でもいたのだろうか?

 

 一先ず会計を済ませ、店を出る。ちなみにまたしても俺が金を出した。最近出費が多すぎるのでマジで自重しなければと考えつつも、やはり女の子に出させるのは忍びないというか何と言うか。まぁ二次元の女の子にお金掛けるよりはマシだよね! と不特定多数の人間にケンカを売ってみる。

 

 店の外にいたのはテレビクルー。どうやら誰かの取材をしているようなのだが……。

 

 

 

「もしかして、モデルかアイドル?」

 

「うん。ミキ、アイドルだよ」

 

 

 

 聞き覚えのある声で、そんな一人称が聞こえてきた。

 

「りょーくん、アレって……」

 

「……美希ちゃん、だね」

 

 今朝りっちゃんから練習に来なくなったと話を聞いたばかりの星井美希ちゃん本人が、楽しそうな様子でテレビの取材を受けていた。どうやら街頭インタビューでたまたま美希ちゃんが対象になっただけのようだ。だが運動会でテレビに映っていたはずの美希ちゃんを知らないって。あのリポーター、モグリなんじゃなかろうか。

 

 しかしなるほど、これが野次馬の原因か。すれ違えば九割近くが振り返るであろう金髪美少女がテレビの取材を受けてれば、そりゃあ野次馬の十人や二十人簡単に集まるだろう。男女比が6対4を軽く超えて33対4みたいな訳のわからない比率になっているのも頷ける。

 

 さてさて、どうしたものか。りっちゃんには見かけたら声をかけて連絡を入れるとは言ったものの、今この状況の美希ちゃんの声をかけたらあのテレビカメラ他大勢の野次馬までこちらを向いてしまってマズイ。第一、女の子とのデート中に別の女の子に声をかけるってのもどうなのだろうか。

 

「りょーくん、女の子とのデート中に他の子のことを考えるのはマナー違反だよ」

 

 案の定、りんからお咎めを受けてしまった。

 

「ごめん、ちょっと美希ちゃんを見かけたら連絡してくれってりっちゃんに言われてて」

 

「りっちゃんに?」

 

「うん。てなわけでちょっと待ってて」

 

 携帯電話を取り出して着信履歴からりっちゃんの番号を選択する。そのまま通話ボタンを押そうとして……美希ちゃんがこっちに向かって手を振っているのが見えてしまった。

 

 気付かれたー!? このタイミングで!?

 

 当然周りの人間の視線もこちらを向くため、咄嗟にりんを自分の背後に隠すように半歩前に出る。りんも俺の意図が分かってくれたようで、さっと背後を向いて俺に背中を預けるように姿を隠す。伊達眼鏡と帽子を装着中の俺よりもりんの方が身バレの可能性が高いため正しい判断だ。

 

 とりあえず何の反応も返さないのは逆に不自然なので一応手を振り返しておく。

 

「ミキちゃんの知り合い?」

 

「うん」

 

 ――アイドルの知り合いってことは、もしかして芸能人かな?

 

 ――そんな、帽子に眼鏡だからって変装してるわけじゃあるまいし。

 

 こ れ は マ ズ イ !

 

 素早くりんの手を取ると反対方向へと早足で離脱する。りんはやや踵が高いため歩きづらそうであるが、何とか頑張ってもらう。

 

「あ、りょーたろーさん!」

 

(だから名前で呼ばないで!)

 

 心の中で悲鳴を上げながら、俺達はその場を離れるのだった。

 

 

 

 

 

 

「……危機一髪……」

 

「……だね……」

 

 テレビカメラや野次馬から逃げて来たアタシとりょーくんは適当な喫茶店に入って一息つくことになった。荷物こそりょーくんが持ってくれたものの、ヒールでの小走りは流石に疲れた。りょーくんも走ったこと自体は苦になっていないだろうが、精神疲労的な意味で疲れた様子だった。

 

 全く、普通あそこでこっちに手を振るだろうか。明らかにプライベートなりょーくんにテレビカメラが向くことの可能性を考えなかったのか。変装のせいで隣のアタシに気付かなかったのだろうけど、だからといって普通女の子と二人で歩いていたらそこは見て見ぬフリをするものだ。

 

 ……気付いてたからこそ邪魔したとか……?

 

(だとしたらマジで今度シメてやろうかしら……!)

 

「りん、怖い怖い。笑顔はいつも通りとってもキュートだけど、雰囲気が怖い。なんか黒いオーラが出て髪が蠢いてるような気がするんだけど」

 

「気のせいだよー?」

 

 りょーくんってば、こんなに可愛い女の子からそんな暗黒瘴気がにじみ出る訳ないのに、ねぇ?

 

「あの、ご注文は……?」

 

「ホットコーヒー。りんは?」

 

「メロンソーダで」

 

 注文を済ませ、改めて一息つくアタシとりょーくん。

 

「いやー、アイドルってのはこんな風に身バレの危機と戦ってるんだな」

 

「トップアイドル代表格のセリフじゃないよ、それ」

 

 ある意味りょーくん以上にアイドルとしての意識が低いアイドルもいない気がする。昔から伊達眼鏡と帽子さえ身に着けていれば決して身バレしたことが無いりょーくんだからこそ言えるセリフである。

 

「それで? りっちゃんに連絡するんじゃなかったの?」

 

「おっとそうだった」

 

 いいか? と携帯電話を取り出したりょーくんにどーぞと手で促す。デート中なんだけどなーと少し嫌な気分になってしまうが、まぁ向こうも向こうで何やら事情があるようだし我慢する。

 

「………………」

 

 しかし、りょーくんは携帯電話を取り出したまま動きが止まっていた。表情は変わらないものの、何やら頭が痛そうに目を閉じてこめかみを人差し指で押さえていた。

 

「どうしたの?」

 

「……窓の外」

 

「? 窓の外?」

 

 店内中央付近の席なので少し首を伸ばさないと窓は見えない。アタシは背後の席との衝立から顔を覗かせるようにして窓の外、店の外の通りを見た。

 

 するとそこには、星井美希と三人の男がいた。迷惑そうな表情の星井美希は街路樹に背を預けるようにして立っており、その周りを男達が取り囲んでいる。恐らく、というか十中八九ナンパだろう。どう見ても星井美希は拒絶の反応をしているのだが、男達が引く様子もない。見た目的には高校生でも通用する容姿なので分からないのだろうが、知っているアタシからしてみれば中学生をナンパしているトンだロリコン集団だ。

 

 何と言うか、もう色々とアレだ。偶然だとは思うのだが、星井美希は何処までアタシ達のデートを邪魔すれば気が済むのだろうか。怒りを通り越して呆れてくる。

 

「……このまま見て見ぬフリするわけにもいかないし、ちょっと行ってくる」

 

 りんはここで待っててくれ、とりょーくんは席を立って店を出ていった。

 

 ……何事も無ければいいけど。

 

 

 

 

 

 

 店の外に出ると、予想通りのやり取りが聞こえて来た。

 

「だから、ミキはキョーミないの」

 

「そんなこと言わずにさー?」

 

「ほら、何でも奢っちゃうからさ?」

 

「美味しいものでも食べにいこーよー?」

 

 完全に誘拐犯のやり方である。今時食べ物で釣られる子がいるとでも思っているんだろうか。

 

「悪いんだけど、その子俺の知り合いなんだ。嫌がってるのに無理矢理に連れていくのは勘弁してもらいたいね」

 

 とっとと事を済まそうと声をかけると、全員の視線がこちらを向く。……ん? この男達、何処かで見覚えが……?

 

「りょーたろーさん!」

 

 こちらに気付いて笑顔になった美希ちゃんが俺の背後に隠れる。

 

「あぁん? 何だテメー、野郎は引っ込んで……って、あぁ!?」

 

「テメーは!?」

 

 あ、あれ? 俺のこの変装状態で見覚えがあるの? やっぱり何処かで……?

 

 

 

「テメー、この間『幸薄そうな女顔』や『トゲトゲ頭』と一緒にいた奴だろ!」

 

 

 

(……あ、綾崎と上条のことかー!?)

 

 って、あぁ!? 思い出した! この間、合同レッスンの日に綾崎や上条と一緒にハプニングに巻き込まれた原因になった三人組じゃないか! いらないから! そんな伏線回収いらないから! もっと回収すべき伏線あるだろ!? どうしてここ拾っちゃうんだよ!

 

 神様は一体何を考えているんだと嘆きつつ、この場の収拾方法に頭を悩ませるのだった。

 

 

 

 

 

 

おまけ『ともみさんが行く! とりぷる!』

 

 

 

「いやぁ、うちの娘達がお騒がせして申し訳ないね」

 

「いえ、大丈夫です。ある程度は慣れてますから」

 

「良太郎君からの紹介って言ってたけど、仲がいいんだね?」

 

「はい。所属は違いますが、リョウはわたし達『魔王エンジェル』の恩人で、目指すべき目標です」

 

「はは、そうか。はい、ご注文のコーヒーとシュークリームだ」

 

「ありがとうございます」

 

「……もしよかったら、同じアイドルから見た良太郎君の話を聞かせてもらえないかな?」

 

「? 別にいいですけど」

 

「うちに来てくれている良太郎君はあくまでも周藤良太郎で、アイドルとしての彼はやっぱりテレビの中の存在でね。一度第三者からの話を聞いてみたかったんだ」

 

「わたしの主観の話でよかったら、いくらでも」

 

「ありがとう、三条さん」

 

「……リョウのこと、随分と気にかけていらっしゃるんですね」

 

「当然さ。彼は自分のもう一人の息子みたいなものなんだからね」

 

「……ふふ」

 

 まだつづく……?

 

 

 




・(縦セタもなかなか……)
趣味丸出しである。

・不特定多数の人間にケンカを売ってみる。
作者にもブーメランだった。

・33対4
な阪関無

・(だとしたらマジで今度シメてやろうかしら……!)
暗黒りんちゃん。

・そんな伏線回収いらないから!
不良に絡まれる女の子を助けるのもデートイベントの必須イベントかと思いまして……。

・おまけ『ともみさんが行く! とりぷる!』
起承転結構成で次回はオチになる予定です。



 ネタや内容は薄めの薄味構成。次回が説教回になるため時間をかけて取り組みたいと思います。

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