アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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話が進まないのは、別に遅延戦術じゃないよ?(目逸らし)


Episode39 Like a storm!? 3

 

 

 

「まさかミニゲームコーナーが始まるとは思わなかったわ……」

 

 若干呆れたような口調のこのみさんに、私は思わず苦笑してしまう。

 

「あはは……私としては、良太郎さんたちらしいなって思います」

 

「……そうなの?」

 

「はい」

 

 765シアターが完成した頃からお互いに忙しくなってしまったため、123プロとの交流は少々減ってしまったが……それなりに長く付き合いがある私たちにとっては、良太郎さんは悪戯好きのお兄さんというイメージが強かった。

 

 まぁ、今回はさらにそのお兄さんである幸太郎さんにしてやられてしまった形になるみたいだが。普段は表立って行動しないだけで、やはり『周藤良太郎の兄』というのは伊達じゃないようである。

 

 ――さて、それでは早速第一のミニゲームを始めたいと思います。

 

 ――最初の参加者は『Jupiter』のお三方です。

 

 ――三人とも、前へどうぞ。

 

『俺たちか……』

 

 留美さんに名前を呼ばれて前に出るジュピターの三人に、会場から黄色い声が上がる。

 

『一体どんなゲームだろうね』

 

『ここまで来たからには、楽しまないとね!』

 

 嫌そうな表情をする冬馬さんに対し、北斗さんと翔太君はそれなりに楽しそうな表情をしていた。

 

 ――それではミニゲームの紹介をする前に。

 

 ――少々、123プロダクションについての説明をさせていただきます。

 

『なにゆえ!?』

 

 ――私たち123プロダクションは皆さんご存知のように、フリーアイドルとして活動していた『周藤良太郎』が、兄でありプロデューサーでもある『周藤幸太郎』と一緒に立ち上げたアイドル事務所です。

 

 冬馬さんのツッコミと会場の困惑を余所に、留美さんは説明を続ける。

 

 ――他の事務所と比べてしまうと歴史は浅いですが、ファンの皆様のお力添えにより、こうして感謝祭ライブとしてドーム公演をするまでに成長しました。

 

 ――改めて、皆さまありがとうございます。

 

 その留美さんの感謝の言葉に、会場からは拍手が巻き起こった。

 

 確かに123プロダクションの成長速度は他の追随を許さない。まぁ立ち上げた段階で所属アイドルが日本で一番のアイドルなのだから当然と言ってしまえば当然だが……それを抜きに考えたとしても、やはりそこは敏腕プロデューサー兼社長である周藤幸太郎氏の力があってこそなのだろう。

 

 しかし、何故留美さんは突然そんなことを言い出したのだろうか。

 

 ――そして歴史は浅いですが、それでも既に()()()()()()()()()と呼んでも差し支えの無い『レッスン』が存在します。

 

(……ん? ()()()()?)

 

 引っ掛かりを覚える一言だった。このみさんやあずささんは何も感じていなさそうだが、前の席に座る美希と真美、そして可奈ちゃんの肩がピクリと動いたので、どうやらそれを感じたのは私だけではないようだった。

 

 私の脳裏に過ったそれは……私たち765プロのみんなが良太郎さんと出会ったばかりの頃、初めて良太郎さんと一緒にレッスンをしたときの()()

 

 しかし、こんな大きなライブの最中に()()はないだろうと頭を振った私だが……。

 

 

 

 ――その名も『ランニングボイスレッスン』です。

 

 

 

(やっぱりだあああぁぁぁ!!??)

 

 ……留美さんが告げたそれは間違いなく私が思い出してしまったそれで、かつて良太郎さんと一緒にレッスンをさせてもらった際に、765プロのみんなの体力を根こそぎ奪っていった悪夢のようなレッスンである。

 

「ランニング……?」

 

「ボイスレッスン……?」

 

「あわわわわ……!?」

 

 なんのことか分からず首を傾げるあずささんとこのみさんに対して、可奈ちゃんはそれを理解したらしく顔を青褪めて震えていた。

 

「可奈ちゃんも体験済み……?」

 

「は、はい……その、アリーナライブ前に、私のダイエットを兼ねたバックダンサー組のレッスンで……」

 

 数年越しに、あのときの可奈ちゃんから送られてきた『リョウタロウサンノレッスンヤバイ』というメッセージの原因が判明した瞬間だった。彼女のダイエットも目的の一つだったとはいえ、アイドル候補生たちにあれをやらせるとは……いや、あれを体験した頃はまだ私たちも似たようなものだったかな。

 

 そのレッスン内容は単純明快、ただルームランナーの上で走りながら歌を歌うというもの。ダンスをしながら声を出すアイドルである私たちに必要とされる技能を鍛えるレッスンである……と言えば聞こえは良いが、その実態はただただ純粋にキツいのだ。

 

「春香ちゃんたちは知ってるの?」

 

 あずささんが頬に手を当てながら尋ねてくる。そういえば初めて良太郎さんとレッスンしたときは伊織や亜美と一緒に『竜宮小町』の仕事で参加出来なかったんだっけ。懐かしいなぁ……。

 

「は、春香ちゃんが遠い目をしてる……」

 

「とりあえず、彼らにとっては楽しいミニゲームにはなりそうにないということだけは分かったわ」

 

 ――123プロのアイドルの皆さんは当然ご存じでしょうが。

 

 ――これは文字通り、ただひたすら走り続けながら歌を歌うというレッスンです。

 

 ――ジュピターのお三方には、今からこれを行ってもらいます。

 

『ちょっと待てえええぇぇぇ!』

 

 冬馬さん全力のツッコミが会場に響く。まるで芸人のようなリアクションをする『天ヶ瀬冬馬』の姿に若干観客たちがざわつくが、そんなことお構いなしに冬馬さんは天井を見上げて姿の見えない留美さんに向かって声を荒げる。

 

『こんだけおっきいライブの最中に、こんなクソ疲れることやれってか!?』

 

『流石にこれは……』

 

『マジで……?』

 

 冬馬さんだけじゃなく、北斗さんと翔太さんも若干引いている様子だった。

 

『いやいや、そこまで大げさに言うこともないだろ』

 

『体力お化けは黙ってろっ!』

 

 無表情も合わせて本当に顔色一つ変えずにこれをこなせるアイドルは貴方だけです、良太郎さん。……アイドル以外なら恭也さんとか、なんなら美由希ちゃんも出来るんだろうなぁ。

 

「その……確かに辛いとは思うんですけど……」

 

「あのジュピターのお三方の嫌がり方は、少し普通じゃないような……?」

 

 後ろからそんな声が聞こえてきた。

 

「……あのね、かな子ちゃん、美波ちゃん……多分二人とも、かるーく流すぐらいのスピードで走りながら歌うことを想像してると思うんだけど」

 

「……ち、違うんですか?」

 

「うん」

 

 あの頃と比べると私も体力が付いたという自信はある。しかしながらもう一度アレを乗り越える自信は未だに持ち合わせていない。

 

 軽いジョグ程度のスピードならば、平常時と同じぐらいの声量で歌うことは出来るだろうが……。

 

「良太郎さん自身も『ジョグ程度のスピードで』って言うんだけど……良太郎さん換算のジョグっていうのは私たちにとってはかなりのハイペースなの」

 

 走るだけならば余裕だが、それに加えて全力で歌うとなるとギリギリでアウトなスピード。ハッキリ言って良太郎さんぐらいしかこなせそうにないそれを「大丈夫みんなも出来る出来る!」といったテンションで要求してくるのだ。

 

 ……でもそれは、無茶ぶりじゃなくて()()。私たちならばきっと辿り着いてくれるという期待なのだと、私は思う。

 

「あと疲れて息も絶え絶えな女の子がセクシーだからっていう理由もあると思いますよー」

 

 元クラスメイトである鷹富士さんの無慈悲な一刀両断は、今は少しだけ聞き流させてもらうことにする。私だってそれは考えないようにしてたのに!

 

『……ほんっと、アタシたちはコッチじゃなくて良かったよ……!』

 

『間一髪でしたねぇ……』

 

『心底ホッとしてます……』

 

『ですね……』

 

『にゃはは、日頃の行いが良かったかなー?』

 

 あからさまに嫌そうな顔をするジュピターの一方で、女性陣はあれをやらなくて済むと胸を撫で下ろしていた。

 

 そんなアイドルたちのリアクションを余所に、ステージの上にランニングマシーンが並べられて着々と準備が進んでいる。

 

 ――普段皆さんはこれをレッスンとしてこなしているわけですが。

 

『正直こなせているかどうかは怪しいけどな』

 

 ――ミニゲームである以上、ルールを設定させていただきます。

 

 ――今回、お三方には『恩 Your Mark』を歌いながら走っていただきます。

 

 ――走るスピードと声量には基準値を設定させていただき、双方が基準値を上回っていた時間を計測します。

 

 ――そして計測した時間が一番短かった方が敗者となります。

 

 気付けばジュピターの三人は先ほどとは別のヘッドセットマイクをスタッフの手により装備させられていた。

 

『まぁ、ルールは簡単なんだけど』

 

『なんだろーね、漫画とか映画でよくあるデスゲームみたいなルールだよね』

 

『和久井さん、これ大丈夫だよな? 基準を下回ったら電流が流れるとかないよな?』

 

 ――企画段階で良太郎君が提案したらしいですが、却下されています。

 

『オイコラ良太郎っ!』

 

『やっほー見切れ席のみんなー。楽しんでるー?』

 

『自分は参加しねぇからってちょっとはこっちに興味もてやぁ!?』

 

 いつの間にかメインステージの脇に移動していた良太郎さんは、ステージの上から身を乗り出して見切れ席を見上げながらブンブンと手を振っていた。見切れ席という直接出演者を見る機会に恵まれない席にいた観客たちは、突然の『周藤良太郎』からのファンサービスに歓喜の声を上げている。

 

 その後『あっ、アタシもアタシもー』『私もご一緒しまぁす』と良太郎さんや志希ちゃんの次ぐらいに自由な恵美ちゃんとまゆちゃんも反対側の見切れ席へとファンサービスに行くなど、準備をしている間は若干自由な時間が流れた。

 

 冬馬さんたち的にはこの時間が長引けばいいと思っているのだろうが……残念ながらタイムスケジュールが存在している以上、それはあり得なかった。

 

 ――それではお三方、準備はよろしいですか?

 

『よろしくないです』

 

 ――準備出来たということで、早速初めて行きましょう。

 

『聞く気ないなら聞かねぇでもらえますか!?』

 

 何度目か分からない冬馬さんのツッコミもむなしく、無情にもそれは始まってしまうのだった。

 

 

 

 ――『ランニングボイスレッスン』スタートです。

 

 

 




・765シアターが完成した頃からお互いに忙しくなってしまった
(まぁ実際にはデレマス編が始まったからなんだけど……)

・『ランニングボイスレッスン』
まさかのLesson26からの再登場である。

・デスゲームみたいなルールだよね
・基準を下回ったら電流
山田悠介感がある。



 冬馬「ミニゲームという名の罰ゲームだった件について」

 高町ブートキャンプ参加者である冬馬が有利に見えるが……?

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