アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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一方その頃、123プロダクション。


Episode02 その日、世界が震撼した。 2

 

 

 

 『123プロダクション感謝祭ライブ開催決定』

 

 

 

 とある休日の昼間に発表されたそれは、瞬く間に日本中に……いや、世界中に波紋が広がっていった。その情報は様々なSNSで拡散され、瞬く間に世界のトレンドの一位に。さらに事務所の公式サイトに告知を掲載してしまったため、アクセス過多によりサーバーが落ちてしまった。

 

 もっともこれらの騒動はあらかじめ予想していたことでもあった。問い合わせが殺到することを予想し、事務所の固定電話の電話線を抜いておいたため、事務所の中はいたって静かなものである。和久井さんは『また後日あらためてライブについての問い合わせ窓口を設置しないと……』とため息を吐いていた。

 

 さて、そんな話題の中心となっている俺たち123プロダクションの事務所ではこれからミーティングである。参加するのは、アイドルスタッフ問わず所属する全員。

 

 社長兼プロデューサーの幸太郎さんは勿論、秘書兼プロデューサーの和久井さん。『Jupiter』の俺・北斗・翔太。『Peach Fizz』の所と佐久間。『Cait(ケット) Sith(シー)』の北沢と一ノ瀬。そして三船さんと――。

 

 

 

「ドームライブすーるひーと、こーのゆーびとーまれ!」

 

 

 

 ――事務所を代表するトップアイドル『周藤良太郎』である。

 

 椅子に座りながら右手の人差し指を天井に向ける良太郎に、はぁと思わずため息が漏れる。

 

「緊張感のきの字もねぇ」

 

「今更ドームライブで緊張しねぇっての」

 

 こういうことをサラッと言える辺り、悔しいがかなりの大物である。認めたくないが。

 

「い、いやー流石だなぁ、リョータローさん……アタシとか、話聞いてからずっと緊張しっぱなしで……」

 

「「………………」」

 

 強張った笑みを浮かべる所と、先ほどから俯いたまま一言も喋っていない北沢と三船さん。こちらの三人はしっかりと緊張しているようである。

 

「よくよく考えたら、これだけ規模の大きいライブって765プロの皆さんのバックダンサーとしてアリーナライブに参加させてもらって以来なんですよねー」

 

「ん? そうだったか?」

 

「はい……」

 

 思い返してみると、確かに所と北沢の言う通り、こいつらはまだ大きな箱でのライブ経験がなかったな。しかも以前とは違い、今度はしっかりと歌って踊るメイン側としての参加で、おまけにアリーナをすっとばしてドームだ。

 

 しかしバックダンサーとしてアリーナに立ったことがある所と北沢と佐久間はまだマシで……問題は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()一ノ瀬と三船さんだ。

 

「………………」

 

「……えっと、美優さん、ダイジョーブ?」

 

「お水、持ってきましょうか?」

 

「……だ、だだだ、だいじょぶぶぶぶ」

 

 真っ青な顔で所と北沢(年下の女の子)に気を使われている様子を見て、大丈夫そうだとは到底思えなかった。というか本当に今にも気を失いそうな雰囲気すら醸し出していた。

 

「まぁ、多少ライブ経験があってもドームは緊張するものだからねぇ」

 

「三船さん、人一倍緊張しいだからねー」

 

 北斗と翔太も、そんな三船さんを見てやや苦笑い。

 

「んで? おめーらは随分と余裕そうだな」

 

 その程度は違えど所と北沢と三船さんが緊張している様子を見せる一方で、佐久間と一ノ瀬は全くそんな素振りを見せることもなく良太郎が天井に向けて立てている人差し指に掴まっていた。

 

「ふふん、みくびってもらっては困りますねぇ……今の私にとって、ドームでライブするということよりも()()()()()()()()()()()()()()()()ということの方が重要なのです!」

 

 別にみくびるも何も、大方予想していた答えに呆れてるんだが。

 

「ゆえに! 例えアリーナであろうとドームであろうと全世界一斉生放送であろうと、緊張感とは別に昂った私は何人(なんぴと)たりとも止めることは――」

 

「でも緊張してた方が良太郎に構ってもらえそーじゃない?」

 

「――良太郎さぁん……まゆ、すっごい緊張しててぇ……」

 

「うげっ……」

 

 それまでの自信満々な様子から一変、しなを作りながら「よよよ……」と良太郎にすがり付く佐久間。本当にドラマ出演経験があるのか疑問に思わざるを得ないわざとらしい演技である。

 

「よしよし、大丈夫だよーまゆちゃん。俺が一緒なんだから、なんの心配もいらないよ」

 

「良太郎さぁん……!」

 

 そしてその演技に乗っかる良太郎、うっとりする佐久間。なんだこの茶番。

 

「んで、お前は緊張してねーのかよ」

 

「ん? あたし? してるに決まってるじゃーん」

 

 ケラケラと笑う一ノ瀬。してないように見えるから聞いてんだが。

 

「今から美優さんみたいにガタガタしててもどーしよーもないからね。研究だって、発表のことを考えながら始めないよ」

 

「……まぁ、言いたいことは分かった」

 

「それにあたしは、今の自分に何を求められてるのかがちゃんと分かってるから」

 

 そう言ってニッと笑う一ノ瀬。

 

 ……どうやらこいつは、俺の想像以上に成長してたみてーだな。

 

 

 

「絶対に本番までには間に合わせるから……みんなの緊張を消し去るオクスリ」

 

「ヤメロォ!」

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、そろそろ始めるぞ」

 

 兄貴の一声により、ようやく全員が落ち着いて席に座った。基本的に上座に兄貴、その両脇に俺と留美さんが座り、それ以外は各々ユニットで固まって着席する。

 

「みんなには前もって知らせてあった感謝祭ライブだが、今日正式に告知を出した」

 

「いやぁ、反響凄かったなぁ」

 

「そんな簡単な一言で済ませていい状況じゃなかったですけどね」

 

「お昼からスマホが鳴りっぱなしで……」

 

 ややげんなりした様子の志保ちゃんや美優さんの言うとおり、それはもう世間は大騒ぎだった。俺のスマホも知り合いから「どういうことだ!?」「詳細は!?」みたいなメッセージがひっきりなしに届いていたのですぐに電源を切った。多分あれ、放っておいたら通信量があっという間にオーバーしていたことだろう。

 

「詳細を明かす前にこれだけ話題になってるんだから、もうこれ以上宣伝しないでもいいんじゃないかな」

 

「基本的に良太郎さんも、必要以上の告知をされないですからねぇ」

 

 恵美ちゃんの言葉に頷くまゆちゃん。

 

 ありがたいことにわざわざ番組に出演して告知をしなくても、俺の新曲やライブの情報はSNSであっという間に拡散されるのだ。しかもその拡散源というのがりんや美希ちゃんといったトップアイドルなのだから、拡散速度は更に加速する。

 

 加えて今回は俺だけでなく、ジュピターやピーチフィズのファンたちも積極的に拡散してくれているようなので、宇宙が一周して新世界に到達するレベルのスピードである。

 

「感謝祭ライブのタイトル『メイドインヘヴン』とかどうかな?」

 

「それで今後の予定についてだ」

 

 無視された。

 

「開催は半年後だ。それまでにもそれぞれステージや仕事が当然あるから、感謝祭ライブだけに集中するわけにはいかない。それでも()()()()()()()()()()()()()初めてのライブだ。……全世界に、この事務所の力を見せつけようじゃないか」

 

「はいっ!」

 

「頑張りまぁす!」

 

「……全力で、いきます」

 

「にゃはは~」

 

「う、うぅ……」

 

「ついに、ここまで来たって感じだね」

 

「りょーたろーくんに便乗してる感は否めないけどね」

 

「けっ。んなもん、今回だけだ」

 

 恵美ちゃん、まゆちゃん、志保ちゃん、志希、美優さん、北斗さん、翔太、冬馬がそれぞれの想いを口にする。緊張していたり、意気込んでいたり、様々な反応ではあるが……それでも、誰一人として()()()()()アイドルはいなかった。

 

「さしあたっては……今回のライブに向けて、初となる()()()を用意することになった」

 

「全体曲!?」

 

「ホントですかぁ!?」

 

 兄貴の言葉に恵美ちゃんとまゆちゃんが立ち上がりながら驚く。

 

 前もって聞いた俺も、これには少々驚いた……というか、ちょっとテンションが上がった。何せ今までずっと一人でライブをしてきたのだ。冬馬たちとコラボして一緒にステージに立ったこともあるが、あれはお互いの曲を歌っただけだ。本音を言うと、春香ちゃんたちや凛ちゃんたちのように事務所のメンバーみんなで歌うステージというのに憧れていたのだ。

 

 ……今まで一人でステージに立ってきた『トップアイドル』の、ささやかな夢だ。

 

「全体曲だけじゃなく、他にもいくつかの新曲や新ユニットを用意する予定だ」

 

「うわ、豪勢なライブ」

 

「そうでもしないと、期待以上のライブは出来ないってことだろうね」

 

 素直な感想を口にする翔太の横で考察する北斗さんの言うとおり、今回のライブは正直に言って()()()()()()()()()のが現状だ。それは感謝祭ライブ開催決定の告知をしただけでこれだけ騒ぎになっていることからも分かるだろう。

 

 期待という名のハードルを、いかにして超えていくか。それがアイドルのライブに必要なものである。

 

「ただでさえ『周藤良太郎』のライブというだけで高いハードルが、ジュピターやピーチフィズも参加することでさらに跳ね上がり……今回の騒動を経て、さらにそのハードルは上がっているでしょうね」

 

 留美さんが言っている騒動というのは、サーバーが落ちたり世界のトレンドの一位になったりしたことだろう。経験則的にこれは夕方のニュースで取り上げられると思う。

 

「いやぁ期待されすぎて困っちゃうな」

 

「……随分と楽しそうだな?」

 

「そう見えるか?」

 

「ムカつくぐらいな」

 

 表情が変わらないのにも関わらずに内心がバレるぐらい、どうやら俺は昂っているらしい。

 

 

 

 ――『次のステージをみんなと一緒に楽しみたい』って、こう考えるだけでいいんだ。

 

 

 

 それは、かつて俺が春香ちゃんに向けて放った言葉だ。

 

 偉そうに言っていたものの、そのときの俺は『みんなと一緒』のステージなんて経験したことがなかった。

 

(……楽しみだなぁ)

 

 『輝きの向こう側に至った』と称されてなお、未だ見たことのない景色が待っているのだから……本当に、アイドルというのは面白い。

 

「初の感謝祭ライブ、初の全体曲、そして大きな期待……となると、あとは俺たちがすべきことは何か……分かるよな?」

 

「え?」

 

 

 

「……合宿に行くぞっ!!」

 

 

 

「行けるわけないだろ。自分の忙しさ考えろ」

 

「あっれぇ!?」

 

 そういう展開じゃないの!?

 

 

 




・『Cait Sith』
懐かない黒猫こと志保と気まぐれシャム猫こと志希によるユニット。みくにゃんが戦慄したとかしないとか。
二人はユニットを組ませないとかどこかで言ったような気がするけど……番外編だし、多少はね?

・アリーナレベルの人前に立ったことがない一ノ瀬と三船さん
初ライブがドームとか……鬼かな?

・みんなの緊張を消し去るオクスリ
これがあんな騒動の幕開けになるとは……(予定)

・宇宙が一周して新世界に到達するレベルのスピード
・『メイドインヘヴン』
良太郎なら加速した時の中でライブを完遂出来ると思う。

・全体曲
やはりこれがないと。

・合宿
ないです(無慈悲)



 進展のない所謂繋ぎ回。

 次回はチケットについてのお話と、未だに触れられていない『彼女たち』のお話。

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