アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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この小説の特徴は『オリ主がいる』っていうだけじゃないってことですよ。


Lesson185 The adjective which fits me 4

 

 

 

『良太郎さん、なんか「周藤良太郎が346プロの小さい子たちを泣かせた」っていう旨の話を小耳に挟んだんだけど』

 

「ちゃうねんて」

 

 年少組が突然泣き出すという今までに経験したことがないぐらい混沌とした状況を比奈・きらりちゃん・愛梨ちゃんの三人で何とか治めることに成功したのだが、次の日俺にかかってきたのはとても冷たい声の凛ちゃんからの電話だった。

 

 とりあえずこのままでは俺が『小さい女の子を泣かせて喜ぶオニチク野郎』みたいになってしまうので、事のあらましをザックリと説明する。

 

『……成程、一応事情は分かったよ』

 

「分かってくれて何よりだよ……」

 

 はぁっと溜息を一つ。

 

『確かに、小さい頃に見た良太郎さんの歌とダンスって、ちょっと怖かった気がする』

 

「え、そうなの?」

 

『うん。でも怖いって言っても、ホラー映画とかそういう類の怖さじゃなくて……そうだね、怪獣映画で街がドンドン破壊されていくときの怖さって感じ。圧倒的な存在が目の前にいるっていうことに対する威圧感っていうのかな』

 

「マジか」

 

 そんなゴジラみたいな扱いだったとは……。

 

『それだけの迫力があるってこと。怖くて泣きそうになるけど、それでも目を離せなくなる……そんな魅力があるんだよ』

 

「俺が目指した『目の前で泣いている女の子を笑顔にすることが出来るアイドル』とは……」

 

 これでもそんな目標を掲げてアイドルをやっている身としてはかなり堪える事実だが、一応褒められてると前向きに捉えることにしよう。

 

 ついでに、そんなアレを目の当たりにして無邪気に笑ったなのはちゃんは一体……。

 

「それで、そのときは色々と大変で話せなかったんだけど……莉嘉ちゃんたちの様子はどう?」

 

『莉嘉たち?』

 

「うん。昨日の番組収録のリハに参加した子たち」

 

『んっと……きらりと仁奈はいつも通りだよ。みりあも普通。莉嘉だけ昨日のことをちょっとだけ気にしてるみたい』

 

「……俺のことじゃないよね?」

 

『そっちじゃないから安心して。昨日の番組収録のことについて聞こうとすると「大丈夫」って言いながらちょっとだけ無理してる気がするんだ』

 

「そうか……」

 

 リハを覗いてて思ったのが、自己紹介の挨拶で何度もリテイクを貰ってしまっていた莉嘉ちゃん。多分だけど、あれだけ姉の美嘉ちゃんに憧れてカリスマJKを目指している彼女のことだから、流石にあのスモックは嫌だったんじゃないかなぁと思った。

 

『……また良太郎さん特有のお世話焼き?』

 

「特有ってわけでもないし、その言い方に若干引っかかるものがあるけど……まぁ、気になるしね」

 

 少しお節介かもしれないが……それがきっと()()()()()()()()だろう。

 

 

 

 

 

 

「……はぁ……」

 

 昨日のことを思い出し、事務所に向かう途中でアタシは思わず溜息を吐いてしまった。

 

 それは良太郎さんの歌とダンス……じゃなくて。いや、勿論良太郎さんが怖かったというのは間違いないのだけど。

 

 今までテレビで何度も見てきた良太郎さんのパフォーマンスを目の前で見るとあそこまで迫力があるとは思ってもみなかった。思わず泣いてしまったのが今思い返してみても恥ずかしいし、良太郎さんに対して少し失礼なことをしてしまったと少しだけ後悔している。また会えたら謝らないと……。

 

 しかし、今気になっているのは番組収録の事……そしてお姉ちゃんのことだ。

 

 昨日のアレはアタシが考えていたものとは全く違うものだった。というか、一体誰がスモックを着るなんて想像が出来るのだろうか。子どもっぽいという以前の問題だ。

 

 ハッキリとアタシの思いを口にするならば、あんな衣装着たくない。アタシはもっと大人の女性に見られたい……あんなのじゃ、みんなにガキっぽいと馬鹿にされちゃう。

 

 ……そう、思っていた。

 

 

 

 ――アタシ、お姉ちゃんみたいになりたいんだもん!

 

 ――だから絶対にイヤ!

 

 ――着るんだったら、今お姉ちゃんがやってる大人っぽいのがいい!

 

 

 

 ――……だったら、やめちゃいな、アイドルなんて。

 

 ――好きな服着たいだけだったら、アイドルでなくてもいいでしょ。

 

 ――遊び半分じゃ、真面目にやってる他の子の迷惑になるから。

 

 

 

「………………」

 

 ……アタシだって、好きな服が着たいからアイドルになったわけじゃない。でも、だからって、お姉ちゃんみたいになりたくてアイドルになったのに、お姉ちゃんみたいになれなくて……それでアイドルやめっちゃったら、やっぱりお姉ちゃんみたいになれなくて……。

 

 そんな風にグルグルと色んなことを考えながら歩いていると、当然前なんて見えてなくて。

 

「きゃっ!?」

 

 前から歩いてきた男の人にぶつかってしまった。

 

「ってーな、何処見てんだよっ!?」

 

「ご、ごめっ……!?」

 

「あぁっ!?」

 

「っ……!?」

 

 謝ろうとした言葉は、男の人の迫力に負けてアタシの喉から出てこなかった。

 

「んだよ謝ることも出来ねーのかっクソガキ!」

 

「………………」

 

 怒鳴ってくる男の人が怖くて、怖くて、声が出なくて、謝ることすら出来なくて……。

 

(……お、お姉ちゃんっ……!)

 

 

 

 

 

 

「……莉嘉?」

 

 自主レッスンの休憩中、事務所の渡り廊下でコーヒーを飲んでいたら、不意に莉嘉の声が聞こえてきたような気がした。

 

「……気のせいか」

 

 昨日少し八つ当たり気味に言いすぎてしまったから、その罪悪感に莉嘉の声を空耳してしまうなんて……。

 

「……はぁ……」

 

 自己嫌悪に思わず溜息を吐いてしまう。

 

『好きな服を着たいだけだったら、アイドルじゃなくてもいい』

 

 莉嘉に対して言ったその言葉は、アタシ自身に対する言葉でもあった。

 

 大人向け化粧品メーカーとのタイアップにより、最近の撮影はそういう落ち着いた雰囲気の衣装とポーズばかり。今までアタシがアイドルとしてやってきたそれらとは全く別のものだった。

 

 それの評価がよろしくないようであれば、また話は変わっていたのかもしれない。しかし世間の評価は悪くなかった。先日街中ですれ違った子たちが言っていたように『ちょっと遠い存在になっちゃった』という声もあったが、莉嘉のように『大人っぽい雰囲気もいい!』という声もあった。

 

 ……でも、それは『アタシが着たい服』じゃなくて『アタシが目指したいアイドル』でもなかった。

 

「………………」

 

 

 

「……どうかしたか、城ヶ崎美嘉」

 

 

 

「っ!?」

 

 ボーッと紙コップのコーヒーの表面を眺めていたところに声をかけられ、思わず身体がビクリと跳ね上がる。

 

「自主練の休憩中といったところか」

 

「じょ、常務……!」

 

 声をかけてきた人物が常務だと気付き、慌てて「おはようございます」と頭を下げる。彼女が今のアタシの悩みの元凶だったとしても、この会社のトップであることには変わりないので、最低限の礼儀は当然だった。

 

「楽にしてくれ。……ところで、ユニットの話は考えてくれたか?」

 

「っ……!」

 

 思わず息を呑んでしまった。

 

 それはつい先日、ウチの部署のプロデューサーたちから聞いた話。常務が立ち上げる新プロジェクトの、中核を成すユニットのメンバーに、アタシが選ばれた。

 

 それは、奈緒や加蓮たちのCDデビューの間接的に奪ってしまったことになり……常務に対抗しようとしている莉嘉たちシンデレラプロジェクトに対しても敵対するということにもなる。

 

 

 

 ――お断りさせていただきます!

 

 ――アタシはアタシのやりたいようにアイドルをさせてもらいます!

 

 

 

 そう、言い切ることが出来たらどれほど楽だっただろうか。

 

「……もう少し、考えさせてもらいないでしょうか……」

 

 今のアタシには、そう返すことが精一杯だった。

 

「……いいだろう。いい返事を聞かせてもらえることを待っているよ」

 

 そう言い残して、常務は去っていった。

 

 後に残されたのは、既に冷めたコーヒーを片手にその場に立ち尽くすアタシ一人。

 

「………………」

 

 前に進むのか。後に下がるのか。

 

 

 

 立ち止まっていられる時間は、残されていない。

 

 

 

 

 

 

「おいアンタ」

 

 

 

「――え?」

 

 俯いていた顔を上げる。

 

 そこには、マスケット帽を被りサングラスをかけた男の人が立っていた。

 

「そんな小さな女の子捕まえて怒鳴り散らして、恥ずかしくねーのかよ」

 

「あん? んだてめぇ、正義の味方気取り――」

 

 ビュッ!

 

「――か……!?」

 

 それは、瞬きをしている間に起こった一瞬の出来事。いつの間にか近付いてきていたサングラスの男の人の足の裏が、アタシに怒鳴っていた男の人の鼻先で止まっていた。その足を振り上げた姿がとてもカッコよくて思わず見とれてしまい、それが蹴りだったということに気付くのが遅れてしまった。

 

「……次は当てる」

 

「……は、はひぃ!?」

 

 サングラスの男の人がそう言うと、アタシを怒鳴っていた男の人はそんな情けない声を上げながら走って行ってしまった。

 

「ったく……大丈夫か?」

 

「……あ、は、はい……」

 

「災難だったな。でも、前はちゃんと見て歩けよ?」

 

「は、はい! 助けてくれてありがとうございました!」

 

 先ほどはどれだけ頑張っても喉から出てこなかった声が、ようやく出てきてくれた。

 

「……って、あれ? もしかして……えっと、城ヶ崎莉嘉ちゃん……かな?」

 

「えっ!? アタシのこと知ってるの!?」

 

 驚くと同時に、しまったと思った。あんまり街中では身バレしないようにプロデューサー君やお姉ちゃんに散々言われていたのに、思わずそんな反応をしてしまった。

 

 しかし、どうしようかと悩む暇も無く、男の人は笑った。

 

「一応、これでも()()()だからね」

 

「……え?」

 

 同業者は、えっと、同じ職業に就いている人っていう意味だから……この人もアイドル!?

 

「っていうか、やっぱり気付かれないか。……()()()()()()()()()()()演技した甲斐があったよ、へへっ」

 

「え? えっ?」

 

 先ほどまでの低かった声が先ほどよりも高くなっている。いや、それでも少しハスキーっぽいけど、男の人とというよりは、女の子に近い声で……。

 

「他の人も少ないし……ちょっとぐらいならいいかな」

 

 そう言って、男の人はサングラスと帽子を外した。真っ黒で綺麗な瞳が露わになり……そして、ファサリと肩口まで伸びる黒髪が……。

 

「……あぁっ!?」

 

 思わず叫びそうになった自分の口を自分で抑える。

 

 アタシはその男の人に……否、()()()に見覚えがあった。

 

 いや違う、見覚えどころの話じゃない。何せ、その人は、アタシたちシンデレラプロジェクトなんか比べ物にならないぐらいの、正真正銘のトップアイドル――。

 

 

 

「へへっ、気付いてくれた?」

 

 

 

 ――765プロダクションの、菊地真さんだった。

 

 

 




・ゴジラみたいな扱い
ところでシンゴジラじゃない方の新作まだですかね。

・無邪気に笑ったなのはちゃんは一体……。
父と兄と姉がもっとアレなアレだから……。

・お節介
・周藤良太郎らしさ
そうですね(ニッコリ)



 まっこまっこりーん! 実は誕生日の関係上既に二十歳になっている上に髪が少し伸びてセミロングになった真チャンのエントリーだ!

 アニメでは描かれなかった他事務所アイドルとのクロスオーバーが、オリ主以上にこの小説の特徴だと考えております。

 というわけで、次回今年最後の更新で凸レ回&美嘉ねぇ回という名の城ヶ崎姉妹回終了です。……色々とすまんかった(みりあP&きらりPに対する謝罪)

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