「それで、どうするんスか?」
「女装経験のある俺でも流石のチャイルドスモックは年齢的に問題があるから、あそこに混ざるのは無理かな」
「いや、問題は絶対に年齢だけじゃないと思うんスけど……ちょっと待ってその女装経験ってところをもう少し詳しく」
「別にメイド服とか着てないよ?」
「着たんスか!?」
「うっすらお化粧もしてカツラも被った状態で接客とかしてないよ?」
「しかも人前に出たんスか!? うわ何それホント詳しく教えてください写真とかあったら見せてくださいお願いします!」
別に恥ずかしがるようなことでもないので、スマホに保存しておいた以前女装した時の記念写真(フィアッセさんとなのはちゃんのスリーショット)を比奈に見せる。
一人「うっひゃーっ!」とテンションが上がっている比奈はさておいて、そろそろみりあちゃんたちのリハーサルが終わりそうだ。というか終わった。
「……あれっ!? りょうお兄ちゃん!?」
ぞろぞろと楽屋に引き上げていく出演者たちの中から、俺の姿を見つけたみりあちゃんがこちらに駆け寄って来た。スッと右手を挙げ、タタッと勢いをつけて飛び上がったみりあちゃんとハイタッチをする。
「や、みりあちゃん。お仕事頑張ってるみたいだね。聞いたよ、レギュラー番組なんだって?」
「うんっ! リハーサルだけど、みりあ頑張ってたよ!」
「見てた見てた。みりあちゃんならもっと頑張れるから、応援してる」
「えへへ……!」
ポンポンと頭を撫でると、みりあちゃんはほにゃりと顔を綻ばせた。
あぁ……最近ツンツン系妹キャラの凛ちゃんとのやり取りが多かったから、みりあちゃんみたいな正統派な妹キャラの反応が五臓六腑に染み渡る……!
「あれ~? 良太郎さんじゃないですかぁ?」
「にょわっ!? りょーたろーさんっ!?」
「なんで良太郎さんが!?」
一方で既に何度も顔を合わせており認識阻害の効果がない愛梨ちゃん、きらりちゃん、莉嘉ちゃんも俺に気付いて驚きの声を上げる。
「え、えっと……?」
「そ、そちらの方は……?」
そんなやり取りを見ていた他の共演者の子たちが、俺のことを訝し気な目で見ていた。一応テレビ局内でも変装状態を維持していることが多いので、これが初対面となる子たちには俺のことが分からなくて当然だろう。
しみじみと「こういうやり取りも久しぶりだなぁ」と感じつつ、帽子と眼鏡を――。
「……すどぉー……りょーたろぉー……?」
「……へ?」
――外そうとした手が、後ろから聞こえてきた声に思わず止まってしまった。
振り返ると、そこには先ほどみりあちゃんたちと一緒に収録に参加していた白髪碧眼の少女が、ジッと俺のことを見上げていた。
「すっごーい! こずえちゃん、りょうお兄ちゃんのこと分かったの!?」
「マジか……!」
アイドルになってもう六年になる俺だが、初対面の人間に身バレしたのはこれが初めてである。普通にショックというか、衝撃が強い。
「ねーねー! どうして分かったの!?」
みりあちゃんに『こずえちゃん』と呼ばれた少女は、その問いかけに対して「んー……?」と首を傾げた。
「……あのねー……こうねー……カタカターってやってる人が……頭の中で教えてくれたー……」
この子、俺のナンチャッテ電波じゃなくてマジモン電波受信できる子だ……!
「うわ、凄いっスね、こずえちゃん……まさか良太郎君の変装を一発で見破るなんて」
俺の認識阻害について知っている比奈も素直に驚き感心していた。
「まさかこの子、妖精とかじゃないよな……?」
「まぁ確かに不思議な雰囲気な子ではありますけど、ちゃんと人の子ですって」
「346の事務所には眼鏡の妖精とかいたし、いてもおかしくないかなって」
「……スンマセン、それも多分ウチのユニットメンバーっス……」
意外なところで意外な正体が判明したところで、他の共演者の子たちもこずえちゃんの言葉の意味を理解し始めたようだった。
「……す、すどうりょうたろうって……!?」
「そ、それって……!?」
今度こそ自分で正体を明かすために、改めて帽子と眼鏡を外すのだった。
「それじゃあ、みんなぁ? 良太郎さんにご挨拶しましょうねぇ?」
『はーいっ!』
一通りいつものやり取りを終えた後、先ほどのリハーサルのときのように先生……というか保母さんよろしく、愛梨ちゃんがそう言うと、これまた生徒役というか園児役のように出演者の子たちが元気よく返事をした。
「はいっ! 仁奈は市原仁奈でごぜーます!」
真っ先に名乗り上げたのは仁奈ちゃんだった。いつも着ぐるみかそれに近い恰好でいることが多い彼女が、こうしてスモックとはいえ普通に服を着ているところを見るのは結構新鮮で、なんというか……このメンバーの中でもトップクラスに似合っていた。
「仁奈ちゃんは、最近シンデレラプロジェクトで会うからお友達だもんねー」
「はいでごぜーます!」
パチンと両手でハイタッチをする。
「
次はちょっとはねた茶髪にカチューシャを付けた少女だった。喋り方が間延びしてぽわぽわしている子で、ちょっと誰かを彷彿とさせた。
「うん、よろしく。……ヒョウくん?」
「はい~。いつもは私の肩に乗ってるんですけど……とっても可愛いコなんですよ~」
へぇ……ペットの犬か猫とか、そういうのかな? 意外なところでオウムとか……。ペットを連れているアイドルなら、響ちゃんとかと話が合いそうだなぁ。
「……
次は少しポツリポツリと声の小さい黒髪の女の子。大人しくて引っ込み思案……というよりは、単純に言葉が少なめな寡黙な子ってところだろう。
一つ気になるのは、頭に乗ってる黒い猫耳である。もしや、みくちゃんのアイデンティティー奪うために送り込まれた、アイドルとしての刺客……!?
「……ペロの……付けた……」
「へぇ、ペロっていう名前の黒猫を飼ってて、その子みたいな猫耳が小道具にあったから付けてみたんだね」
「なんスかその行間を読み取る能力は!?」
何やら比奈が驚愕していたが気にしない。
「……
次は先ほどの不思議な少女だった。真っ白でふわふわした髪に、眠そうに半分閉じられた碧眼。
「………………ふわぁ~」
数秒ほどジッと俺の目を見つめ続けた後、唐突にフラフラっと何処かへ行ってしまい、慌ててきらりちゃんが「何処行くの~!?」と追いかけていった。本当に行動と考えが読めない……雪美ちゃんでは出来たそれが出来そうになかった。……やはり妖精か何かでは……。
「はーい! あたしは
次は明るい茶髪をツインテールにした少女。第一印象は星梨花ちゃんをもっと幼く天真爛漫にしたようなイメージである。
「あたし、ニチアサの魔法少女が好きなんだけど、それと一緒にたまに覆面ライダーも見てたの!」
「おっ、そうなの? じゃあもしかして」
「うんっ! あたしの中ではりょうたろうさんは、覆面ライダーの人! えへへ、光ちゃんに自慢しちゃおーっと!」
多分年齢的に考えると、彼女にとって一番最初の覆面ライダーが俺の初出演作となる『覆面ライダー竜』なのだろう。こうして周藤良太郎=アイドルとして知られている中で、あえて周藤良太郎=覆面ライダーという認識をされるのは結構嬉しい。
「御機嫌よう、良太郎さん。わたくしは
次はふわふわした金髪のボブカットの少女。口調といい仕草といい、多分いいところのお嬢様。口調に関しては月村という例外がいるため一概にはそうと言えないかもしれないが、少なくとも千鶴のようにナンチャッテセレブとはわけが違うだろう。
「これはご丁寧に」
「お噂はかねがね、伊織さんから伺っておりますわ」
「あ、伊織ちゃんと知り合いなんだ」
多分企業とか財閥とかのパーティーで知り合ったとか、そういう感じだろう。
「はい。……その……とても愉快な方と」
若干言葉を濁した辺り、多分俺に対して辛辣な内容しか聞いてないんだろうなぁ……ただまぁ、逆に話題に挙げてくれるぐらいには意識されているとポジティブに考えよう。
「さ、佐々木千枝です……」
次は黒髪のショートカットで、少し恥ずかしそうにモジモジとしている大人しそうな子だった……というか、そうかこの子か。
「さっき話した私のユニットメンバーっスよー」
「は、はい、比奈さんとは一緒にお仕事をさせてもらってます」
それを聞いたときから一つだけ不安だったことがあるんだけど。
「大丈夫? 比奈から何か変なこと教えられてない?」
「へ、変なことですか?」
「ちょっと!? それは良太郎君にだけは言われたくないっスよ!?」
「攻めとか受けとか教わってない?」
「う、受けが何かはよく分からないですけど、『攻めの反対は?』って聞かれたら『守り』って答えないとダメだとは教わりました!」
「………………」
「……け、健全な知識っスよ?」
不健全であることが前提の知識だけどな。
「はい!
次に手を上げたのは、仁奈ちゃんよりも少し濃い茶髪のショートカットの少女。少々ボーイッシュな感じで、ひまわりを彷彿とさせる明るさを感じた。
「ねぇねぇ! 良太郎さんって凄いアイドルなんだよね! 何か凄いこと見せてー!」
おっと子供特有の無邪気な無茶ぶりが飛んできたぞ。
「か、薫ちゃん! いきなりそれは……あっ!? ご、ごめんなさい、え、えっと、
ペコリと頭を下げたのは、ウェーブがかった黒髪をポニーテールにした少女。元気がよさそうな雰囲気を醸し出す年少組の出演者の中でも、しっかりとしている子という印象だ。
「いいよいいよ、別に。……んー凄いことか……」
こういうのでいいのかなーっと思いつつ、帽子と眼鏡を比奈に預ける。
「……すぅ」
軽く息を吸ってから、
もはや俺のアイドル人生の代名詞と言っても過言ではないこの曲は、既に数えきれないぐらい披露してきた故に、いつ如何なるときでも全力で披露できるぐらいには身体に馴染んでいる。
それは以前楽屋で仮眠していたところに忍び込んできた双海姉妹がイタズラで「周藤さん、本番どうぞ!」と言われた途端、思わず飛び起きて寝起きの状態で全力の『Re:birthday』を披露することが出来たことで、図らずも証明されてしまった。ちなみに双海姉妹はその後りっちゃんに頼んでコッテリ絞ってもらった。
「……どうかな、こんなもんで」
ワンフレーズを披露し終え、みんなの反応を窺う。やっぱりこう「わーすごーい!」「良太郎さんは歌とダンスが得意なフレンズなんだねー!」みたいな反応をしてくれるとお兄さん凄く喜ぶんだけど。
『………………』
「あら?」
何故か反応がない。いや、きらりちゃん、愛梨ちゃん、比奈の三人はパチパチと拍手をしてくれているのだが、反応がない他の子たちに対して俺と同じように訝しんでいる。
何だろうか、何か失敗でも……と少し不安に思ったその時である。
『……っ!』
全員、一斉に泣き出してしまった。
「「「「……えっ!?」」」」
声を上げて泣く子。ボロボロと涙を流す子。程度の差はあれど、みんながみんな大粒の涙を流していた。唯一こずえちゃんだけが変わらずにぽーっとしていた。
「な、何事っ!?」
「にょわぁ!? りょーたろーさん何したのぉー!?」
「み、みんな、どうしたのぉ~!?」
「た、多分この年頃の子たちは感受性が豊かっスから、良太郎君の全力のパフォーマンスを生で見たせいで当てられちゃったんじゃないっスかね!?」
「何ソレ俺も初耳なんだけどっ!?」
まさか自分の歌とダンスにそんな効果があるなんて露程も思っていなかった。
この後、全員を宥めるために非常に苦労したということだけ書き残しておこう。
・女装経験
Lesson39参照。そろそろもう一回やらせてもいいかもしれない。
・良太郎初身バレ
相手は妖精だからね、仕方ないね。
・古賀小春
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。キュート。
イグアナのヒョウくんとセットで数えられることが多い12歳。
結構ぽわぽわ系天然キャラだったりするのだが、如何せんヒョウくんの存在が強すぎる。ただU149だと今のところヒョウくんがいないらしいが……?
・佐城雪美
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。クール。
三点リーダー多様系猫属性寡黙少女な10歳。
こちらは千枝ちゃんとはまた別ベクトルな正統派クールキャラ。
……だから橘さんは(ry
・遊佐こずえ
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。キュート。
妖精型人外疑惑系不思議少女な11歳。正直これでこのメンバーでも年上の方っていうのがちょっと信じられない……。
ついに良太郎の変装を見破ってしまった彼女。まぁ妖精だからね、仕方ないね。
・横山千佳
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。キュート。
デレマス最年少9歳組の魔法少女系キュート娘。
本当は魔法少女関係に話を膨らませたかったけど、今回は割愛。
全く関係ないが『魔法
・光ちゃん
もうしばらく先になりそうですが『黄色の短編集その2』に登場予定。
・櫻井桃華
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。キュート。
超正統派お嬢様(年少枠)な12歳。シャアはこない。
全く余談だが作者的に年下組最推しがちゃま。年少組で恋仲○○を書くとしたら、間違いなく一番手は彼女(流石に成長させるけど)
・『攻めの反対は?』
ただ、別に受けでも問題はないとも聞いた。結局受け取る側の問題なんやなって。
・龍崎薫
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。パッション。
デレマス最年少9歳組の超元気パッション娘。
実は料理が趣味という割と意外な面を持っているということに気付き作者驚愕。
・福山舞
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。キュート。
年少組キュート組の優等生枠な10歳。
名前が名前なので、一時期では彼女の過去の姿なのではとか言われたとかなんとか。
……これがああなったとしたら、それはもう絶望でしかないですけど……。
・いつ如何なるときでも全力で披露
多分寝起きドッキリとかされても、一瞬で覚醒して対応できる。
そうでなきゃ、高町家主催の山籠もりに耐えられないという……。
・「わーすごーい!」
・「良太郎さんは歌とダンスが得意なフレンズなんだねー!」
二期が始まったことで逆に衰退するなんてことにならないことを祈ろう。
・一同号泣
とりあえず理由としては比奈が言った通り。
あれこれ考察したりせずにただ純粋に見たまま聞いたままのものに影響されるため、トップアイドルオーラ全開の良太郎に圧倒されて泣いてしまった。
泣ーかしたー泣ーかしたー(小並感)
良太郎のパフォーマンスの意外な特性が明らかになりましたが、今後活かされるかどうかは未定。ノリと勢いって怖い……。
年少組の自己紹介だけで終わってしまいましたが、開き直って五話まで続けるのでモーマンタイ。そうすれば年明け一発目を番外編に出来るしね!
というわけで、次話はちゃんと話が進みます。