アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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前回とは打って変わり、CPの面々が一切出ない二話目です。


Lesson156 Got it going on! 2

 

 

 

 さて、今日はついに迎えた凛ちゃんたちシンデレラプロジェクトが全員で挑む初の大舞台でもある346プロサマーフェス当日である。

 

 開演時間は午後からなのだが、こうして他のアイドルのライブやフェスに純粋な観客として参加するのは久しぶりなので、本当は午前中に会場に来て物販やフラスタ(フラワースタンド)やパネル展示など色々と見て回りたかった。しかし残念なことに午前中は取材収録録音というフルコンボ。恐ろしく過密なスケジュール、俺じゃなきゃ回せないね(自画自賛)。

 

 今回の同行者である恵美ちゃん・まゆちゃん・冬馬の三人も午前中はそれぞれお仕事があるため、開演時間も含めて都合が良いと言えば都合が良かったのだが。

 

 だが物販には行きたかった。美嘉ちゃんのサイン入りブロマイドとか楓さんのサイン入り日本酒とか、シンデレラプロジェクトメンバーのグッズもあるとのことだったので、何としてもこれらは手に入れたかった。

 

 物販というのは大抵のグッズが開演前に売り切れるというのが常識。このままでは手に入らないので、知り合いの力を借りることにした。

 

「はいリョーさん! 頼まれていたグッズ各種です! お酒だけは未成年だったので購入出来ませんでしたが……」

 

「いやいや、これだけでも十分だよ。ありがとう、亜利沙ちゃん」

 

 以前とある事情により知り合いとなった重度のアイドルオタク、松田(まつだ)亜利沙(ありさ)ちゃんから代理で購入してもらったグッズ各種を代金と引き換えに受け取り、背負っていたリュックに仕舞う。

 

 この子はアイドルのイベントだったら可能な限り何処にでも現れる子なので、今回のサマーフェスのことを尋ねてみたら予想通り参加するという返事が。そこで俺の代わりにグッズの購入を頼んでおいたのだ。

 

「そういえば亜利沙ちゃん、この間のテレビ局の出待ちは上手くいった?」

 

「はい! サングラスと帽子で変装して髪型も変えてましたが、無事に765プロの星井美希ちゃんの姿を確認しました! ……ただ、本命の周藤良太郎さんは見つけられませんでしたが……」

 

「あらら、その日は確か星井美希ちゃんと同じ生放送の収録だったのに、周藤良太郎だけ見つからなかったんだ」

 

「そうなんですよー! アイドルちゃんたちの変装を見破れるこのありさの目を欺くとは……流石キングオブアイドルです!」

 

 悔しがりながら感心するという器用なことをする亜利沙ちゃんの姿を見ながら、相変わらず自分の認識阻害の強さを実感する。あの時のかなり上手くできていた美希ちゃんの変装を見破る亜利沙ちゃんも凄いが、()()()を歩いていた俺に全く気付かないのだから我ながらその精度の高さに驚くばかりである。

 

 寧ろ今回は隣に美希ちゃんがいたことでそちらに意識が行ってしまったため余計に俺の存在に気付けなかった可能性もある。そう考えると以前冬馬や美嘉ちゃんと一緒のときに身バレで大騒ぎになったのは、今まで存在感が無かった人が突然現れたから目を引いたというミスディレクションオーバーフロー的な理由があったのかもしれない。

 

「そうそう、今度は次の日曜日に○○テレビの『ご機嫌如何ですか?』にサプライズゲストとして周藤良太郎が来るかもしれないらしいよ」

 

「本当ですかっ!? いつも情報提供ありがとうございます!」

 

「なんのなんの」

 

 彼女には『自分はテレビ関係の仕事をしている』と説明しているので、たまにこうして自分のスケジュールの一部を教えてあげたりしている。テレビ関係の仕事というのは嘘でないし、他人のものならいざ知らず教えているのは自分のスケジュールなのでそこまで大きな問題ではないだろう。

 

 そこら辺のドルオタならばここまでしないが、可愛い上に控えるべきところは控える淑女の鑑なのでこれぐらいはしてあげてもバチは当たらないはずだ。

 

「それではありさはこれにて! 今日は友人と一緒に来ておりますので!」

 

「うん、今日は目一杯楽しもうね」

 

「はい!」

 

 それではー! と元気よく手を振りながら去っていく亜利沙ちゃんを見送る。

 

 よし、それじゃあ俺も三人が来るのを待って……。

 

「良太郎さぁん、今の女の子は誰ですかぁ?」

 

「知り合いだよ。仕事お疲れ様、まゆちゃん、恵美ちゃん」

 

「お疲れ様でーす!」

 

 今日は新曲PRのためのテレビ出演をしていたピーチフィズの二人が会場に到着したようで、振り返るといつも以上にニコニコと笑うまゆちゃんと何故か苦笑気味の恵美ちゃんがいた。

 

「恵美ちゃん、二の腕と胸元が大変眩しいんだけど、ちゃんと日焼け止め塗った?」

 

「勿論ですよー! 流石にそれぐらいはやってますって!」

 

「もう、恵美ちゃんったら……」

 

 ケラケラと笑う恵美ちゃんに、まゆちゃんは呆れたようにため息を吐く。

 

 恵美ちゃんはキャミソールにホットパンツという随分と涼しげでラフな格好。一応上着は持って来ているようだが、腰に巻いてしまっているのでその役目を果たしていなかった。一方のまゆちゃんはピンク色のワンピースに白い長袖の上着を羽織っている。少々暑そうにも見えるが、日焼け止め以上の日焼け対策であることには間違いない。そして日差しが強いので恵美ちゃんはオレンジのキャップを、まゆちゃんは白いハットを被っていた。こうして見ると、本当にいい意味で対照的な二人である。

 

「今日のお仕事はどうだった?」

 

「バッチリでしたよ! リョータローさんみたいに一発オッケー連発ってわけじゃないですけど、これでもアタシたち業界じゃそれなりに優秀で有名なんですよー?」

 

「流石だね」

 

「あは、光栄ですぅ」

 

 まゆちゃんが帽子を外しながらチラチラと期待を込めた目でこちらを見てきたので、ポンポンと髪型が崩れない程度に頭を撫でてあげると、まゆちゃんはうにゅーっと猫のように目を細めた。

 

「そういえば、リョータローさんはどーして今回のフェスに?」

 

「ん? どういうこと?」

 

「アタシとまゆは今回のフェスに出演する友達からチケットを貰いましたけど、リョータローさんはどーしたのかなって思いまして」

 

「あぁ、俺も同じだよ。知り合いが出演するから是非見に来てくれって二枚チケットを貰ったから冬馬を誘ったんだ」

 

「あ、リョータローさんもでしたか」

 

 まぁ基本的にこうやってアイドルやってると、ライブやフェスに参加する理由は大体知り合いがいるからっていうものになりがちだからなぁ。

 

(恵美ちゃんとまゆちゃんの友達っていうと……美嘉ちゃんかな?)

 

(リョータローさんの知り合い……確か高垣さんと仲が良いんだっけ)

 

「わりぃ、遅くなった……何やってんだ良太郎」

 

 最後の一人である冬馬が仕事を終えてようやくやって来たかと思ったら、いきなりサングラスを僅かに下げて訝し気な目線を向けてきた。

 

「何ってなんだよ」

 

「いや……佐久間」

 

 まゆちゃんが一体どうしたのかと思ったが、そういえば先ほどからずっと彼女の頭を撫で続けていたことを思い出した。

 

「ふにゃ~ん……!」

 

 なんかみくちゃんのアイデンティティがクライシスしそうなぐらい猫っぽくなっていた。ただ頭を撫でているだけなのに果たして気持ちいいのだろうかという根本的なことを思いつつ、若干名残惜しいが手を放す。

 

「………………」

 

 すっごい寂しそうな目で見られたので再びそっと手を乗せる。

 

「あはっ、にゃ~ん……!」

 

「……冬馬は今日は雑誌の取材だったか?」

 

「何事もなく続けるのか」

 

 いやこれはもう触れない方がいい気がして……。

 

 しかしこのままでは色々と支障を来すので、心を鬼にしてまゆちゃんの頭ナデナデを終了する。

 

「さて、今回のフェスに参加する前に渡しておくものがある」

 

「渡しておくもの……ですか?」

 

「水分か?」

 

「それも大事だけど……ちなみに全員持って来てるよね?」

 

「勿論ですよ!」

 

 アイドルのライブやフェスに参加する上で水分補給は必要不可欠である。しかも今回は八月の野外なので、熱中症対策及び日射病対策は重要だ。勿論自分のためでもあるのだが、出演者のアイドルたちに迷惑及び心配をかけさせないようにするのもファンとして大切なことである。

 

「って話が逸れた。はいコレ」

 

 鞄から取り出したソレを三人に渡す。

 

「……?」

 

「眼鏡……ですかぁ?」

 

 そう、変装用の伊達眼鏡である。

 

「……普通の伊達眼鏡だよな?」

 

 一つ手に取り日にかざしたりしながらマジマジと観察する冬馬だが、生憎()()()伊達眼鏡ではない。

 

「これだけ人が大勢いるところに参加するわけだから、いつも以上に身バレ対策は必要なわけだ」

 

「そりゃあな」

 

 しかも今日は『アイドルちゃんの変装を見破るのが特技です!』と豪語する亜利沙ちゃんも会場にいるので、その分身バレの可能性が跳ね上がっているのだ。いくら彼女がアイドルを見つけても騒ぎ立てるような子ではないとはいえ、ある程度のリスクは抑えておきたい。

 

「てなわけで、346プロの茄子(しりあい)とたまたま近くにいた神様っぽい雰囲気の女の子に『でしてー』って一つ一つ願掛けしてもらった。これかけてりゃ身バレの心配は無いぞ」

 

「胡散クセェ……」

 

「まぁ騙されたと思ってかけてみろって。試しに春香ちゃんにかけてもらったらリボンを外さなくても身バレしなかったんだから」

 

「マジかよすげぇな」

 

「春香さんのお墨付きですか!」

 

「それは安心ですねぇ」

 

 冬馬が速攻で手のひらを返すレベルで信頼される実績である。もっともその実験をした後で春香ちゃんに思いっきり耳を引っ張られたけど。

 

 そんなわけで冬馬と恵美ちゃんとまゆちゃんの三人も伊達眼鏡姿となり、眼鏡四人組となった俺達である。

 

「よし、それじゃあ行くぞ三人とも……サイリウムとペンライトの貯蔵は十分か?」

 

UO(ウルトラオレンジ)の準備もバッチリですよ!」

 

「ペンライトのボタン電池もちゃんと入れ替えてきましたよぉ」

 

「………………」

 

「「「………………」」」

 

「……ちゃんと買ってきたからそんな目で見るな」

 

 

 

 

 

 

おまけ『その眼鏡は何処から?』

 

 

 

「というか、わざわざこの為に伊達眼鏡買ってきたのか」

 

「いや、俺も初めはお守りにするつもりだったんだけど、346プロの事務所歩いてたら『ラッキー眼鏡です。この子たちが貴方のところに行きたがっていました』とか言っていきなり伊達眼鏡を三つ押し付けられたから、ちょうどいいかと思って」

 

「……346には眼鏡の妖精か何かがいるのか?」

 

「いても不思議ではないと思ってる」

 

 

 




・恐ろしく過密なスケジュール、俺じゃなきゃ回せないね。
(実は例のゴンさん騒ぎがあるまで連載が続いていたことを知らなかった作者)

・楓さんのサイン入り日本酒
サイン入りというか本当に楓さんグッズとして日本酒があったらしい。その頃の作者はまだ高垣Pじゃなかったのだ……(血涙)

・松田亜利沙
『アイドルマスターミリオンライブ』の登場キャラ。Vocal。デレマス的に言えば多分キュート。
アイドルでありながら自らも重度のアイドルオタクというハイブリッドな16歳。
実はほんの少し登場したことがあったりもしますが、番外編なので一応初登場ということで。

・ミスディレクションオーバーフロー
ちょうど今映画がやっているようなので。
本当は黄瀬辺り出してみようかなーっと思っていたけどお蔵入り。

・『ご機嫌如何ですか?』
元ネタは今は亡き某お昼のライオン番組。おはようからおやすみまで(ラブデス並感)

・みくちゃんのアイデンティティがクライシス
こいつのアイデンティティ、いっつもクライシスしてんな。

・水分補給は必要不可欠
割とコレ。ただ実際は飲む暇が無いというか飲むことを忘れるというか。

・神様っぽい雰囲気の女の子
・『でしてー』
正直この神秘的な雰囲気を描写できる自信がない。

・おまけ『その眼鏡は何処から?』
一体何条何菜なんだ……!?

・『ラッキー眼鏡です。この子たちが貴方のところに行きたがっていました』
もっと頭に眼鏡をかけるとかSA!



 章の終わりのライブシーンをカットせずに書くのって第一章ぶりだということに気付く。

 CP目線も勿論書きますが、基本的には観客席側の視線から見たアニメ十三話を書いていきたいと思います。

 あと前回の良太郎が美波に宛ててメッセージについては次回になります。



『どうでもいい小話』

 デレステにてシンデレラフェス開催決定来ましたね。本日の22時からだそうなので、作者はジュエルとお迎え祈願短編のネタを用意しておきたいと思います。

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