さて、世間一般では日曜日と称される休日もアイドルにとってはあまり関係のないものである。寧ろ学生アイドルは学校が休みで時間的余裕が生まれる分、平日以上に仕事を頑張らなければならない大切な日だ。
というわけで普段は一応大学二年生として日々学業をこなしている俺も、朝早くからアイドルのお仕事が始まった。
「はい、では取材は終わりになります。見本はまた事務所に送らせていただきます」
「はいオッケー! 流石良太郎君、一発オッケー!」
「はい、コラムの原稿確かにお預かりしました」
終わった。
いや、割と他のアイドルよりも仕事をこなすスピードは早い方だと自負していたが、流石にここまで早く終わるのは予想外すぎた。取材もつつがなく終わり、撮影は一発で終了。今日が期限のコラムの原稿は既に書き上げてあったからとはいえ、午前中にお昼の仕事が終わると思っていなかった。
おかげで夕方の収録までだいぶ時間が出来てしまった。出来てしまったのだが……これはこれで好都合だった。
実はシンデレラプロジェクトから新たにデビューしたみりあちゃん・莉嘉ちゃん・きらりちゃんの三人組ユニット『凸レーション』が某有名ブランドとコラボすることになり、今日はそのイベントが開催されるらしいというのを凛ちゃん――ではなく、今回はみりあちゃん本人から聞いた。
――歌は歌わないけど、みりあたち頑張るから見に来てねー!
そんな感じにメールでお誘いを受けたのだが、その時はまさかここまで仕事が早く終わるとは考えていなかったので「少し難しいかもしれない」と返事をしてしまったのだ。「そっかー……」というあからさまにガッカリとした文面に心を痛めたが、これならばサプライズに彼女たちのステージを見に行くことが出来そうである。
てなわけで車を適当な駐車場に停め、徒歩で彼女たちが出演する某有名ブランドこと『PIKA PIKA POP』のイベント会場へとやって来たわけだ。
「ん、そこそこな賑わいだな」
直売店の敷地内に設けられたイベント会場は、マスコットキャラクターのオブジェクトと写真を撮る人や屋外出店スペースでグッズを購入する人、そしてトラックステージの前に集まった人で割と賑わっていた。これならば芸能人やアイドルが紛れ込んでいてもおかしくないだろうし、そうそう気付かれることもないだろう。
「………………」
そう、例えば小悪魔のような小さい角が付いた黒いキャスケットに長いピンク色の髪を収めて赤い伊達眼鏡をかけたカリスマギャルとか。
「や、美嘉ちゃん」
「きゃっ……!?」
後ろから声をかけると、彼女は小さく悲鳴を上げそうになったが咄嗟に自分の口を押えて声を抑えた。
「りょ、良太郎さん?」
「はい、良太郎さんです」
声をかけた人物が俺だと認識すると、美嘉ちゃんはホッと安心した様子で胸をなで下ろした。
「ビックリした~……身バレしちゃったかと思いましたよ」
「まぁ身バレといえば身バレだけどね。変装してても美嘉ちゃん、割と目立つし」
「それはそれで、アイドルとしては嬉しいんですけどね」
色々と複雑なものである。
「それで、美嘉ちゃんは当然莉嘉ちゃんたちのステージを見に来たわけだよね」
「はい、そうです。良太郎さんもですか?」
「うん、みりあちゃんからお誘いを受けてね。本当は今日仕事で来れない予定だったんだけど、予想以上に早く仕事が終わって次の仕事までだいぶ時間が空いたから」
それじゃあ一緒に見ようかという流れになり、三人がステージに登場するまでまだ時間があったので二人で会場の隅に寄って待つことにする。
「最近はどう? すっかり美嘉ちゃんも立派なアイドルになったみたいだけど」
「アハハ、ありがとうございます。読モやってた時も楽しかったんですけど、最近はアイドルとして歌ったり踊ったりするのもだいぶ楽しくなってきました」
「それは何よりだよ」
美嘉ちゃんと初めて会ったのは、まだ雑誌専属の読モから346プロに所属してアイドルになったばかりの頃だったっけ。それが今ではカリスマJKモデル兼346を代表するアイドルの一人なんだから、時の流れの速さを感じる……え、まだ一年も経ってない? ウッソだー。
「俺も、美嘉ちゃんの下着と見紛うばかりに露出の多い衣装を毎回楽しみにさせてもらってるよ」
「……そ、そういう衣装が多いことは自覚してますし気にしたこと無かったんですけど、面と向かって言われると恥ずかしいというか何というか……」
人差し指を合わせながら顔を赤らめて恥ずかしがる美嘉ちゃん。世間的にはカリスマギャルとしてのイメージが強いんだろうけど、やっぱり俺としてはこっちが美嘉ちゃんなんだよなぁ。なんというかこう……弄りたくなるというかいぢめたくなる。
というかステージ衣装もそうなのだが、基本的に美嘉ちゃん他こういう系統の子は見せている肌の面積が多い。『ギャルの命は肌見せ』『オフショルダーは基本中の基本』『トップスはギリギリまで胸元開けて』『ボトムスはギリギリまで短くする』『見せることを恥ずかしがらない』とは他ならぬ美嘉ちゃんが雑誌のインタビューで答えていたことである。
――美嘉ってば、割と初心な癖にこーいうことは一丁前なんですよねー、いやまーカリスマギャルってことは否定しませんけど。……ん? アタシですか? 初心かどうかは分かりませんけど、アタシも肌見せぐらいで恥ずかしがったりしませんよー。
等と言いながら「ほれほれー」とブカブカのTシャツの胸元を更に広げようとした恵美ちゃんの後ろからニッコリと笑みを携えたまゆちゃんが接近してきて以下省略。
まぁ要するに、ギャルにも色々いるってことだな(強引)
「そ、それよりも、アタシも良太郎さんに言いたいことがあるんでした」
パタパタと熱くなった顔を手で扇ぎながら、美嘉ちゃんは話題を変えてきた。
顔が赤らんだままの美少女から「言いたいことがある」と言われ、無いとは分かっていても『そういうこと』を期待してしまうのは男の
「えっと、良太郎さん――」
はにかむように、しかしそれでいて『これを伝えよう』という意思がはっきりとした口調で美嘉ちゃんは顔を上げた。
「――この間のマッスルキャッスルの罰ゲーム、とっても面白かったです!」
「やめておもいださせないで」
つい先日の話になる。346プロの346プロによる346プロのアイドルのための『筋肉でドン! Muscle Castle!!』という二チームによる対戦形式のアクションバラエティーに特別ゲストとして出演させてもらったのだが、その時の対戦の結果が引き分けで両チーム共に罰ゲームとしてバンジージャンプをすることになったのだ。その際幸子ちゃんがバラドルもかくやというリアクションを見せてくれたのだが、今は置いておこう。
そんな罰ゲームの収録に「そいつぁ面白そうだ!」と完全に一人だけアトラクション感覚で意気揚々と俺も参加させてもらった。実はバンジージャンプは前世も含めて初めての体験なので割と楽しみにしていたのだ。
智絵理ちゃん、かな子ちゃん、杏ちゃん、幸子ちゃん、紗枝ちゃん、そして姫川が次々に飛んでいく中、最後に俺もおまけとして飛ばせてもらうことが出来た。
……何故か俺だけ男性スタッフ(ガチムチ)とタンデムだったけどなっ!
「無表情なのは変わらなかったですけど『あぁ良太郎さん今絶望してるんだな』っていう雰囲気は画面越しに伝わってきましたよ」
「確かに人の嫌がることをするのが罰ゲームだから、あれは間違いなく俺にとっての罰ゲームではあったね」
おうスタッフ分かっとるやないかい。褒めたるで、バラエティー的にはすごく美味しかったからな。
ただし爆笑してたスタッフ共、お前らマジで覚えとけよ。
『お待たせしました! 続いて『凸レーション』の皆さんでーす!』
そんな感じに美嘉ちゃんとお喋りをしていると、どうやらみりあちゃんたちの出番がやって来たようだ。
ステージの上のお姉さんがそう呼びかけると、脇の階段からステージに上がって来た少女たち。成程名前の通り凸凹な感じの組み合わせだと納得してしまう身長差の、莉嘉ちゃん・きらりちゃん・みりあちゃんの三人である。
「良太郎さん、前行きましょ」
「そうだね」
ここからでもステージの上は見えるが、出来るだけいいところから見ようと場所を移動する。
『ヤッホー! 莉嘉だよー!』
『こんにちはー! 赤城みりあです!』
『にゃっほー! きらりだよぉ!』
『『『せーの! 『凸レーション』でーす!』』』
彼女たちの元気の良い挨拶に、集まった観客が歓声を上げた。
『わぁ、ありがとうございます!』
『いーっぱい集まってくれて、すっごく嬉しい!』
『うんうん! きらりたちと一緒に、楽しい時間にしよぉねぇ!』
そんな感じに始まる三人のトークショー。そこそこの人が集まっているので普通ならば割と緊張しそうな雰囲気であるものの、性格的なものもあり三人は緊張なんて何処吹く風。司会のお姉さんとも絡みつつ、軽快にトークを進めていく。
比べるわけではないのだが、これがCIの三人だったらと考えてしまう。多分、智絵理ちゃんとかな子ちゃんは緊張してしまい、杏ちゃんは……多分、全力で怠けるか全力で猫を被るかのどちらかだろう。
『それでは早速聞いていきたいんですが、凸レーションの凸って、そのまま凸凹っていう意味なんですか?』
司会のお姉さんからの質問に莉嘉ちゃんが『そうだよー』と肯定した。
『三人並ぶと凸凹してるでしょー?』
『年も私が十一歳で、莉嘉ちゃんが十二歳で、きらりちゃんが十七歳』
『それでは、きらりちゃんがお二人を引っ張っている形ですか?』
『うんっ!』
『頼りにしてるんだから!』
『にょっわー! 嬉しぃ!』
「ふむ……」
凸凹か。
「? 良太郎さん、どうかしましたか?」
「いや、別に」
それを言ったらジュピターの三人も年齢・身長・性格・趣味・髪色とありとあらゆる点で共通しているところがないなぁと思っただけである。
「そういえばアタシはこれが終わったら行くつもりなんですけど、良太郎さんはどうしますか?」
トークショーもしばらく続き、そろそろ終わりそうかなぁという段階で美嘉ちゃんがそんなことを尋ねてきた。
「行くって?」
「そりゃ勿論――」
――あの子たちの楽屋ですよ!
・「そっかー……」
顔文字的にはこんな感じ → (´・ω・`)
・え、まだ一年も経ってない?
アニメではこの時は七月頭辺りらしいので、実はまだ第三章冒頭から一年経っていないという事実。
・『ギャルの命は肌見せ』
劇場770話参照。同話の莉嘉曰く、家だともっと凄い恰好になっているらしい……(ゴクリ)
・恵美(E:ブカブカのTシャツ)
ゲーム的に言えば『[無防備な誘惑]所恵美』辺り。
・男性スタッフ(ガチムチ)とタンデム
最近色々と自重してこなかった良太郎にちょっとした罰ゲーム(真)
今回は割とマジで美嘉回になりそうですが、その代わり二期の美嘉回を凸レ回に当てる予定(やるとは言っていない)
『どうでもいい小話』
スマホを新調したから、これでスターオーシャン始めれるぜ!
よし、マリア引いた! ネル引いた! ピックアップでクレアも引いた!
……全員シューターで被っとるやないかあああぁぁぁいっ!?
(以上、アシュトンとアルベル実装を心待ちにする作者の叫び)
『どうでもよくないけど小話』
某リハビリ系短編集にて楓さんオリ主の名前を募集していたので自分の名前で応募してみたところ見事採用されて喜びが隠せない作者だった。