それは、あり得るかもしれない可能性の話。
ピッ、ピッ、ピッ、ポーンッ!
「午後八時を回りました!」
「周藤良太郎アーンド」
「魔王エンジェル、プレゼンツ!」
「『覇王と魔王の独裁ラジオ』っ!」
「略して」
「「「「どくラジ!」」」」
(軽快なBGM)
「最近寒くなってきましたね。炬燵でお鍋派の周藤良太郎です」
「逆に言うとようやく寒くなってきたのよね。炬燵で蜜柑派の東豪寺麗華よ」
「ラジオの前のみんなー? お風呂上りはちゃんと暖かい恰好をしないとダメだよー? 炬燵でアイス派の朝比奈りんでーす!」
「暖房をつけるなら加湿も忘れないように。炬燵で番茶派の三条ともみです」
「あれ、ともみは紅茶派じゃなかったっけ?」
「雰囲気に合わせてみた。流石にそこら辺は弁えてる」
「それより一人だけガッツリ食べてる奴がいるわねぇ……」
「りょーくん、炬燵でお鍋するとカセットコンロの火が近くて熱くない?」
「キッチンで調理済みの鍋だからカセットコンロはフヨウラ!」
「わたしは調理しながら食べるのがやっぱり鍋の醍醐味だと思う」
「どうしてこうも自然に鍋トークになっているのかコレガワカラナイ……」
「という訳で、今回は全員炬燵に入りながらの収録になっております」
「収録ブースに入ったらど真ん中に炬燵が置いてあって思わず唖然としたわ」
「しかも蜜柑とお茶を淹れるためのポット付」
「まさか前回の収録の時に冗談で『炬燵に入りながら収録したいなー』って言ったのが本当に採用されるなんてなー」
「あれはりんが上目遣いでスタッフにお願いしたからだろ。あれは用意せざるを得ない。誰だってそーする。俺もそーする」
「って言いながら自然な動作で蜜柑の皮を剥こうとするんじゃないわよ」
「だってあるからには食べないと」
「お父さん、わたしの分も剥いて」
「パパー! アタシのもー!」
「よーし! 張り切って剥いちゃうぞー!」(バリバリ)
「はいはい、まだやらなきゃいけないことあるんだから一回蜜柑置きなさい」
「だけど母さんや」
「誰が母さんか! いいから、ハイ三人ともコレ持って」
「ん? ……あぁ、そういうことね」
「はいはい」
「……みんな持ったわね? それじゃあ、せーの!」
「「「「どくラジ! 二周年おめでとー!」」」」(クラッカーが鳴る音×4)
(ヒューヒューパチパチとSE)
「正確に言うと今日じゃなくて次の日曜日で丁度二年なんだけどね」
「まぁ放送日が火曜日だし、多少はね?」
「だったら普通二周年の放送するの来週じゃないかなぁ……」
「ホントここのスタッフは何考えてんのか分かんないわ」
「お茶飲む人ー?」
「「はーい」」
「自由か! えぇい、いつまでもグダグダとやってないで、CM入れてオープニングトーク終わらすわよ!」
「麗華はいらないの?」
「いるわよ!」
「ぎゃー!? 台本忘れてきちゃったぞー!?」
「ふふ、お困りのようですね? 響」
「あっ! 貴音! ど、どーしよう!?」
「落ち着きなさい、響。人間は、人生と言う旅路をただひたすら歩き続ける生き物です」
「……え? いきなり何を……?」
「真っ直ぐに前を向いて生きるのも勿論良きこと。ですが……たまには立ち止まって後ろを振り返ることも大切です」
「た、貴音ー……?」
「そこにはきっと、貴方が過去に忘れてきたものがあるはずですから……」
長い人生の旅路の中で、過去を振り返るほんの少しのブレイクタイム。
トドールのカフェオレでほっと一息。
「うわーん!? 結局何も解決してないぞー!?」
『どくラジ!』
「改めましてこんばんわー、周藤良太郎です」(ずずっ)
「東豪寺麗華よ……」
「朝比奈りんでーす」(ずずっ)
「三条ともみです」(ずずっ)
「アンタらお茶啜りながら挨拶すんな!」
「今更だろ麗華」
「そーそー。前にチャーハン作りながら挨拶したことに比べればどうってことないってばー」
「一番酷かった回と比べないでよ……」
「あれ炒める音で何言ってんのか全く分かんなかったんだよな」
「そこで苦情じゃなくて『もっとやれ』メールが沢山届く辺りよく調教されたリスナーたちだよね」
「覇王と魔王の配下だから、それぐらいは当然だね」
「ったく……」
「それで麗華。今回二周年記念と言いつつ、具体的には何やるんだ?」
「………………」
「あれ?」
「麗華が無言で視線を逸らすなんて珍しいね」
「……もしかして」
「……きょ、今日もいつも通り覇王と魔王の配下から寄せられたメールを読んでいくわよー!」
「うわこれ特に何も無いパターンだ」
「別にわたしたちはいいんだけど、本当にこれでいいの?」
「アタシたちは炬燵に入ってスペシャルな感じだからいいんじゃない?」
「王が特別待遇を受けることこそが配下の特別になりえると……なるほどな」
「後付け感がパないね」
「はーい今週も一通目行くわよー!」
「麗華がいつも以上にヤケクソ気味だけど、あえて触れない方向で行こう」
「いつも通り、今日の放送が始まってから届いたメールを読んでいくよ」
「それじゃあ一通目ー」
HN『覇王軍切り込み隊長(自称)』
こんばんわ! 二周年おめでとうございます! 我が敬愛する覇王様並びに魔王の姫様方のラジオが二周年ということで、切り込み隊長を自称している身としては自分のことのように嬉しいです!
今日の覇王様たちは炬燵に入りながらの放送ということで、自分もつい先ほど急いで炬燵を押し入れから出してきました。今は覇王様たちと同じように炬燵に入りながらこのラジオを聞いています。残念ながら蜜柑までは用意できませんでしたが(笑)。これからもどうか末永く、このどくラジが続いてくれることを祈っております!
さて今回は炬燵で食べるもの……は既にお話されていたので、先ほどの鍋トークをもう少しお聞かせ願いたいです。
これからも頑張ってください!
PS.覇王様の年末ライブに当選しました! 今年はリアルでも覇王軍の末席に加わらせていただきます!
「はい、切り込み隊長さんありがとうございまーす」
「うーん、相変わらずの早さだったわね」
「何が凄いって、ちゃんとオープニングトークを聞いてから送ってくれてこの早さだからねぇ」
「しかも今回は炬燵まで引っ張り出してきたみたいだし」
「そしてライブ当選おめでとう。我ながら頭おかしい倍率になっちゃったけど、よく当たったね」
「倍率180倍は本当に頭おかしいわね……」
「まぁ今回は俺だけじゃなくてジュピターや恵美ちゃんたちも含めた123プロダクションとしてのライブだから、余計に多くなったんだろうな」
「いいなー切り込み隊長さん……アタシは当たんなかったんだよねー」
「おっとりんが咲いた花も自信を無くして枯れるような素晴らしい笑顔でこちらを見ている」
「直接本人からチケットをせしめようとしている。流石りんあざとい」
「せめてそういうやり取りは裏でやりなさい」
「それで、鍋トークだっけ?」
「ふむ、麗華は鍋奉行と見た」
「あ、やっぱり分かるー? 前に魔王エンジェルの打ち上げをマネージャー入れた四人でやったんだけど、麗華がすっごい煩くてさー」
「わたしたちには自分でよそうご飯しか自由が許されなかった」
「麗華は細かい性格してっからなー」
「ふん、別にいいわよ。それぐらい自覚してるから。……だからさっきアンタの家の鍋が既に調理されているものを食べるって聞いてちょっとイラッてなった」
「まぁそれぞれのお家の食べ方があるってことで勘弁してくれ」
「ところで、みんな鍋と言えば?」
「「「………………」」」
「せーの!」
「すき焼き」「水炊き」「キムチ鍋」「石狩鍋」
「「「……え、すき焼き?」」」
「何だお前ら!? 古くは明治時代の牛鍋の系譜を受け継ぐ日本伝統の鍋料理だぞ!?」
「でも何か……ねぇ?」
「うーん、言われてみればそうなんだけど……ねぇ?」
「『鍋料理』っていうカテゴライズでは無い気がしてならない」
「俺としてはともみの石狩鍋っていうチョイスが意外だったんだが」
「出身地の郷土料理。よくお爺ちゃんの家で食べた」
「へー。……え!? ともみって北海道出身だったの!?」
「あれ? 良太郎アンタ知らなかったの?」
「かれこれお前らと五年以上の付き合いになるけど初耳だよ」
「そもそもわたしの元ネタがアーケード版で北海道からの参戦で――」
「わー!? わー!? と、ともみ蜜柑蜜柑! 口開けて! あーん!」
「あーん」
「こいつ俺ほどではないにしろ無表情でさらっととんでもないこと口走ろうとしやがったな……」
「正直普段のアンタも大概だけどね……」
「放送事故る前に次のメール行くか」
HN『アイドル探偵A』
こんばんわー! どくラジ二周年おめでとうございます! 覇王様と魔王様のラジオを二年間も聞き続けることが出来て感激です!
今回は二周年ということでいつものアイドルちゃん目撃情報の中でもとっておきのものをお披露目したいと思いますよ~? 先週の日曜日、都内某所のランジェリーショップで麗華ちゃんを目撃しました! 数点胸の下着を手に取った後、自らの胸に手を置いてこっそりとため息を吐く姿がとっても哀愁が漂っていました……。
続いてりんちゃんとともみちゃんはお二人揃って都内某有名喫茶店にて美味しそうにシュークリームを食されているのを発見! 他事務所のアイドルちゃんも頻繁に訪れている喫茶店だけあって、お二人共常連さんの雰囲気でしたね~!
そして良太郎君は……やはり出待ちをしても見付けることが出来ませんでした……。アイドルの変装を見破ることが得意な私の目を誤魔化せるとは一体どんな変装をしてるんですか!? ぐぬぬ、いずれ絶対、ぜぇ~ったいに、良太郎君のプライベートな姿を目撃してみせます!
それまでどうか! 末永くこのラジオを続けてください! 応援しています!
「………………」
「……アイドル探偵Aさんもすっかり常連さんだな」
「そ、そうだね! いやぁ、まさかともみと一緒にシュークリームを食べに行ったの見られてたんだぁ」
「あそこのシュークリームは世界一」
「同感。あそこに勝るシュークリームは無いと断言できる。惜しむべきは、向こうのお店の都合と俺たちの都合により店名を公に言えないところかな」
「正直何人かは察してそうだけどね」
「………………」
「そ、それにしてもりょーくんの変装って本当にバレないよね」
「別に特別なことをしてるわけじゃないんだけどなぁ。帽子被ったりサングラスかけたりしてるだけなんだが、何故かバレないんだよ」
「個人的には週刊誌にすっぱ抜かれる良太郎も見てみたい」
「別にすっぱ抜かれるようなことをしている認識も無いけど……」
「りょーくんだったら自動販売機でジュースを買ってるところでも十分記事になりそう」
「え、それだけのことも俺は許されないの?」
「いや、それだけプライベートの光景が珍しい的な意味で」
「………………」
(……どーする? 触れる?)
(触れるしかないっしょ。いくら他の三人が喋ってるからって、MCの一人が黙り続けてるとか放送事故だって)
(リョウ、よろ)
「……どうした麗華、さっきから俯きながらプルプル震えて」
「……もっと……かの……たのか……」
「え?」
「もっとぉ! 他のぉ! 目撃情報は無かったのかぁあああ!?」
「きゃぁ!?」
「れ、麗華様がご乱心じゃあ!?」
「咄嗟に麗華のマイクのボリューム下げたスタッフぐっじょぶ」
「その日だったらその後ペットショップの仔犬と戯れてる場面があったでしょうがぁ! そっち言えよ! よりによって何でそっちチョイスしたぁ!?」
「普通アイドルとランジェリーショップの組み合わせだったらテンション上がるはずなのに、何かこう罪悪感的なものでテンション上がらねぇなぁ……」
「うーん、そんなところにいたってことは、このアイドル探偵Aさんも女の人ってことかなぁ?」
「とりあえず、麗華がヒートアップしすぎてるから一回CM入れよう」
「私たち346プロダクションのアイドルが、リズムゲームになっちゃいました!」
「貴方のお気に入りのアイドルでユニットを編成して、LIVEを楽しんで欲しいな」
「ゲームの中でも頑張ろう! しまむー! しぶりん!」
「きらりたちと一緒に、もーっとハピハピするにぃ!」
『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ』!
ダウンロード無料で好評配信中!
「無料って、杏の印税はどうなっちゃうのさ~!?」
『どくラジ』!
「お願いー……シンデレラー……」
「スタミナが勿体ないとか言ってゲーム始めた馬鹿は放っておいて進めるわよ」
「りょーくんもすっかりハマっちゃってる……」
「なんかイベント中らしくて、達成ポイントが全然足りてないんだって」
「仕事やってる奴の宿命なんだよ……よし、終わりっと」
「それじゃあ、次のメール行くわよー」
HN『TDN』
良太郎君の好みを教えてください。オネシャス! センセンシャル!
「何故選んだし。何 故 選 ん だ し!」
「え? 短いだけで普通のメールじゃない」
「麗華は純情。ハッキリわかんだね」
「くっそぉ、最近こっち系のメール来てなかったからすっかり油断してた……」
「そ、それで? りょーくんの好みってどんななのかな?」
「とりあえず女の子。そして女の子。一番重要なのが 女 の 子」
「何でアンタはそんな根本的な部分で必死なのよ……」
「後はそうだなー……おっぱいが大きくてー、巨乳でー、豊満なバストでー」
「そこも別に今更だから省略で」
「ラジオと言う公共の電波に乗せてる上にアンタ以外女しかいないこの場でその発言を堂々と出来るその無駄な胆力は一体何なのよ」
「それ以外となると……同年代の子、かなぁ?」
(……!)
「一応私たちも同年代よね」
「あと芸能界で言うなら……765の四条貴音?」
「346で言うなら鷹富士茄子とか姫川友紀とかな。あの二人はリアルで同級生だったし」
「えっ!? そうなのっ!?」
「そーそー。クラス一緒で、割と仲良かったんだぜ?」
「……むー……」
「そーいうお前らは好みとかどーなのよ。ついでだし、聞いてみたいリスナーも多いと思うぜ?」
「私はー! ファンの皆さんの恋人でーす!」
「あ、そういうのいいんで」
「うーん、好み……好みねぇ」
「あんまりそういうの考えたことなかったかな」
「花の女子大生が随分と枯れてるなぁ……」
「りょ、りょーくん! えっと、ア、アタシの好みなんだけど!」
(コンコンという窓ガラスを叩く音)
「っと、スタッフさん何?」
「………………」
「何か、窓の外のスタッフさんが『特別ゲストが来ています』っていうカンペを出してるんだけど」
「何だ、二周年記念の特別なこと用意してあるんじゃねーか」
「それじゃあゲストの方にも入ってきてもらいましょうか」
「……ソーダネ」
「どうしたのりん、急に片言になって」
「それじゃあゲストの方、どうぞー!」
(BGM:帝国のマーチ)
「えっ、何このTプロデューサーが入室してきそうなBGMは」
「そこは普通にダース・ベイダーって言っときなさいよ」
「こんな物々しいBGMで、一体誰が……」
(ガチャっという扉が開く音)
「ヤッホー! 若造共! この日高舞様が遊びに来てあげたわよー!」
「「「「ぎゃあぁあああぁぁぁ!!?」」」」
「何よー、その幽霊でも見たようなリアクションは」
「除霊という対処手段が思いつく幽霊の方が数倍マシだよ!」
「鬼! 悪魔! 日高舞!」
「スタッフCM入れてCM! 早く!」
※次回に続く
・『覇王と魔王の独裁ラジオ』
ネーミングセンスが無いのはいつものこと。
・フヨウラ!
・コレガワカラナイ……
「ワガナハ、カール・アウグスト・ナイトハルト、イクゾー!」デッデッデデデデ(カーン)
・「誰だってそーする。俺もそーする」
「億泰……行き先を決めるのは、お前だ」
・トドール
個人的にはドトールよりスタバ派。
・倍率180倍
嵐のコンサートが最大123倍だったらしいので。やり過ぎかと思ったけど、まぁ多少はね?
・鍋と言えば?
実は四人とも牛・鶏・豚・鮭でバラバラになっているというどうでもいい注釈。
・「そもそもわたしの元ネタが」
ちなみにりんは岩手。麗華は調べられなかった。
・HN『アイドル探偵A』
一体何田何利沙なんだ……?
・HN『TDN』
野球選手とか関係無い、いいね?
・Tプロデューサー
あぁ、またナスビが連れていかれてしまう……(空見)
という訳で前から書いてみたかったラジオ回です。
こういう場合台本形式にするべきだったんだろうけど、名前を書いたら負けなような気がしたので読み易さより雰囲気を重視した。一応一人称や他人称、口調などで判別出来るようになってるはず。
本当は実際に読者の皆さんからお便りをリアルで募集するつもりだったけど、ネタ思いついたのが割とギリギリで実際に集まるのかどうかも分かんなかったからオリジナルネタになってしまった。
……次回に続くからネタ振ってくれてもいいんじゃよ?(チラッチラッ)