アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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まえがきショート劇場~良太郎&なのは~

「スバルちゃんの中の人が出産してたんだってね。いやぁおめでたい」
「スバルちゃんが誰なのか知らないけど、それをなのはに言う良太郎さんに悪意を感じるの」


Lesson94 良太郎、襲来ス 3

 

 

 

『えええええええええええええ!!!??』

 

 

 

 何やら一年近く前の765プロ事務所のコピペのような叫びに満足する。ただ一年前の彼女たちほどの声量はまだ無いらしく、耳を塞ぐほどではなかった。ここら辺はまだトレーニング不足ってことかな。

 

「ほ、ホンマモンの良太郎さん……!?」

 

「え、え、きょ、恭也君が良太郎さん……!?」

 

「そ、そうだったんですかぁ!?」

 

「お、驚きました……!」

 

「………………」

 

「杏奈ちゃん!? 驚きすぎるのは分かるけど息はちゃんとして!?」

 

 いやぁ、みんな別々のリアクションしてくれてありがたいなぁ(別次元目線)

 

「私たちも一年前はあぁいうリアクションをしてたのよねぇ……」

 

「あの頃はまだ『周藤良太郎』に夢見てた頃だったからなぁ……」

 

 何やら伊織ちゃんと響ちゃんが遠い目をしながら大変失礼なことを宣っていた。一体この一年間で何が彼女たちを変えてしまったというのか……と思ったけど、この二人に関しては割と最初からこんな感じだったような気がした。

 

 バックダンサー組の子たちも、いずれアイドルデビューして一緒に仕事するようになったらこんな感じになっちゃうのかなぁ……いやまぁ、ある意味で自業自得的なところはあるのだが。

 

 ……って、あれ?

 

「……っ!?」

 

 他のバックダンサー組の子たちの例に漏れず、志保ちゃんも酷く驚いた表情をしていた。

 

(……やっぱり前提条件が間違ってたのか)

 

 『俺に向かって鋭い視線を向けている』と『周藤良太郎に対して何らかの感情を抱いている』という二つの事柄から『俺が周藤良太郎であるということがバレている』と考えていたが、彼女の反応から察するに俺の正体に気付いていなかったようだ。

 

 ということは、今まで彼女は俺が『高町恭也』だと信じていたからこそ睨んでいたということになるわけだが……。

 

(つまり恭也の知り合いってことなのか……?)

 

 こんな女の子に睨まれるとか、恭也の奴は一体何処でどんなフラグを立てたんだか。

 

 あいつでもヘイト方面のフラグ立てることもあるんだなぁとよく分からない感心の仕方をするが、しかしそれだと結局志保ちゃんが『周藤良太郎』に対してどういう感情を抱いているのかというのが分からなくなったということに気付いた。

 

 加えて、何故志保ちゃんの顔に見覚えがあるのかという疑問まで残ってしまう。その恭也がフラグを立てた場面に、俺も居合わせていたってことなのか……?

 

「みんなを驚かせようと思って嘘吐いちゃったけど、改めて周藤良太郎としてよろしく」

 

 まぁその内分かるだろうと軽い気持ちで志保ちゃんに向かって握手をしようと手を差し伸ばし――。

 

「っ!」

 

 

 

 パシッ

 

 

 

 ――その手は、志保ちゃんによって払われてしまった。

 

 

 

『!?』

 

 その志保ちゃんの突然の行動にその場にいた全員が驚愕して固まる。そのままその場が沈黙に包まれてしまった。

 

 俺は握手を拒否されたことを気にしていないのだが(とはいえちょっとだけショック)、問題は俺の手を払ってしまった志保ちゃん本人だ。

 

 志保ちゃんは恐らく無意識的に手を払ってしまったのだろう。払った瞬間、サッと彼女の表情から血の気が引いたのが分かった。アイドル候補生が先輩であるトップアイドルの握手を拒んだ上に手を払ってしまったことの意味を理解してしまったのだろう。今の彼女は何の後ろ盾も無く吹けば飛ぶような、ちょっとした大御所が少し声をかければデビューの機会なんて簡単に消し飛んでしまう脆弱な立場なのだ。

 

 勿論俺にそんなことをするつもりはサラサラ無いが、問題があるとすれば今この場の凍り付いたこの空気だろう。

 

(不味いな……)

 

 さてどうするか……。

 

 

 

 

 

 

 パシッ

 

 突然合宿をしている民宿に姿を現したリョータローさんの登場に賑やかになっていた食堂がその乾いた音に一瞬で静まり返った。それはリョータローさんが差し伸ばした右手を志保が払った音だった。

 

 志保がリョータローさんに対してどういう感情を抱いているのかはまだ分からないが、握手を拒んだというところを見るとどうやらあまり良い感情ではないということは分かった。

 

(昨日の話じゃないけど、リョータローさんの握手を拒否る人もいるんだなー……)

 

 などと考えてしまうのは、若干の現実逃避が混ざっていたからである。

 

 冷静に考えてみて、志保がしてしまったことは色々とヤバかった。

 

 リョータローさんの性格からしてこれぐらいのことで目くじらを立てるようなことはしないだろうが、志保(アイドル候補生)リョータローさん(トップアイドル)の手を払ったという状況がヤバい。なんというか、後輩が先輩に失礼を働いてしまった場面の気まずさが食堂に漂っている。

 

 そしてそれ以上にヤバいのが……。

 

「………………」

 

 まゆである。表情が無いのが怖い。何も喋らないのが怖い。瞬きをせず見開いている眼が怖い。一体どんな原理なのかは分からないがユラユラと揺らめいている髪の毛が怖い。冬馬さんや秋月さんの過剰なやり取りは別として、今までリョータローさんにこういう態度を取る人と会ったことがなかっただけに、まゆがこういう時にどういう行動を取るのかが分からないから怖い。

 

「ま、まゆ? ちょっと落ち着――」

 

「恵美ちゃん」

 

「はい」

 

 と、とりあえず流石にいきなり志保に向かって飛びかかったりはしないだろうが、何かが起きたらすぐに止めることが出来るようにまゆの背後にコッソリと移動する。べ、別にまゆの視界に入っているのが怖かったわけではない。

 

 その場にいた全員が凍り付いた空気に動くことが出来ずこう着状態が続く中、真っ先に動き出したのは――。

 

 

 

「えっと『男子大学生が女子中学生に触ろうとする事案が発生』っと……」

 

 

 

 ――スマホを取り出して何処かに連絡を入れようとする冬馬さんだった。

 

「ちょぉぉぉっと待ってぇぇぇ!?」

 

 プレイバックプレイバックと叫びながら冬馬さんの腕を止めるリョータローさん。

 

「ってお前本当に早苗ねーちゃんにメール作成してんじゃねーよ!? ちゃうねん! 本当に握手しようとしただけやねん!」

 

「などと容疑者は供述しており」

 

「くそぅ、俺は女の子の柔らかい手をニギニギすることすら許されないのか……!」

 

「宇宙最高裁判所から判決待たずにデリート許可が下りるレベルだなコイツ……」

 

「りょーたろーさん! ミキの手も柔らかいと思うの!」

 

「マミもマミも! 『真美は合法』ってこの間ファンのにーちゃんねーちゃんが言ってたから大丈夫だよ!」

 

 ガックリと床に膝を着いて項垂れるリョータローさんの周りでキャイキャイと騒ぐ美希ちゃんと真美ちゃんの姿に、場の空気が解れていくのが分かった。

 

 今しかないと感じたアタシは未だに青ざめた表情で固まったままの志保に背後から近寄る。その両肩に両手を置くと、志保は分かりやすくビクリと体を跳ね上がらせた。

 

「っ!」

 

「リョータローさんなら絶対に怒ってないと思うけど、今の内にちゃんと謝っとこ?」

 

「………………」

 

 志保は逡巡した後に頷いた。

 

 アタシが軽く背中を押しながら志保を良太郎さんの方に向かわせる。良太郎さんの周りで騒いでいた美希ちゃんと真美ちゃんは、既に秋月さんが他のみんなと同様に昼食の準備の手伝いをさせていた。

 

「リョータローさん、志保が謝りたいって」

 

「ん?」

 

 「あァァァんまりだァァアァ!」と嘆いていたリョータローさんはアタシの言葉にあっさりと顔を上げた。当然ながら表情はいつもと変わらず、そのまま立ち上がると真っ直ぐと志保の顔を見た。

 

「……あ、あの……」

 

 志保の背中に当てていた手が僅かに押される。リョータローさんを前にして無意識的に後ろに下がろうとしたのだろう。下がらないようにグッと力を込める。

 

「……す、すみませんでした」

 

 志保は真っ直ぐに頭を下げた。

 

「……うん。咄嗟に手を払っちゃったんだろうけど、これからは気を付けようね?」

 

 良太郎さんは一拍間を置いてからそう頷いた。リョータローさんの性格的に「別に気にしてないからいいよ」みたいなことを言うかとも思ったのだが、今の状況を把握してしっかりとその謝罪の言葉を受け取ってくれた。

 

 志保が頭を上げると良太郎さんが右腕を前に持ち上げ、不自然に目線の高さで停滞した後、ポリポリと自分の後頭部を掻いた。多分志保の頭を撫でようとしたが、先ほど冬馬さんに言われたことを思い出して躊躇ったのだろう。

 

 ならばその代わりにと、アタシは背後から志保の頭を撫でる。

 

「な、何するんですかっ?」

 

「ふふふー、素直に謝る志保が可愛いなーって思ってー」

 

「……変なこと言わないでください」

 

 プイッとそっぽを向き、そのままさっさと志保は離れていってしまった。

 

 過程が少々よろしくなかったものの、ほんのちょっとだけ志保と近づけたような気がした。

 

 

 

 

 

 

「……悪い冬馬、助かった」

 

「別に? 俺はただ本当に通報しようとしてただけだし」

 

「お願いしますやめてください」

 

 ともかく、彼女が俺に対してあまりよろしくない感情を抱いているのは確定したっぽい。

 

 俺が彼女に何かしでかしたのか……あるいは……。

 

「良太郎さん、冬馬さん、昼食の準備が出来ましたよ。女将さんに聞きましたけど、食べて行かれるんですよね?」

 

「あぁ、うん。ありがとう、春香ちゃん」

 

「りょーたろーさんこっちこっち! ミキの隣!」

 

「りょーにぃ! マミの隣空いてるよー!」

 

「良太郎さん、是非まゆの隣に……」

 

「え、まゆ、ここ私が座ってるんやけど……あ、スミマセン退きます」

 

 呼ばれたので、冬馬と共に昼食の席にご一緒させてもらう。

 

 まぁ、結局これは俺個人に関係することみたいだし、今は後回し。

 

 折角彼女たちの合宿に合流できたのだから、彼女たちにとって有意義なものにしないとな。

 

 

 

 

 

 

おまけ『女性の身だしなみ』

 

 

 

「そーいえばまゆちゃん、軽くメイクしてる?」

 

「はい、それはもう。女の子ですから、普段から身だしなみには気を付けてますのでぇ」

 

「え? まゆ、さっきまでほぼノーメイクやったやん……あ痛っ!?」

 

「………………」

 

「りょーたろーさん、ミキたちの顔見てどーしたの?」

 

(眉毛とリップぐらいはほぼノーメイクみたいなものってどっかで聞いたことあるけど……その基準で言うとここにいるほとんどの子はノーメイクなんだよなぁ……)

 

「?」

 

「これが素材の違いか……」

 

「……? あっ! お料理のことですね!」

 

「うん、そうだよ、やよいちゃん」

 

 

 




・コピペ
良い子は「え」と「!」と「?」の数を数え比べてはいけない。いいね?

・「ちょぉぉぉっと待ってぇぇぇ!?」
真っ赤な車ー(紅白ver)

・宇宙最高裁判所から判決待たずにデリート許可
S・P・D! S・P・D!

・真美は合法
でも今年で亜美も13歳になったから……あれ? 十年前のアケ版で12歳で……十年経ったワンフォーオールで年をとって13歳……あれもしかして(以下削除)

・「あァァァんまりだァァアァ!」
(スッキリ)

・おまけ『女性の身だしなみ』
JKなのに学校へコスメ類を持って行っているちーちゃんとか想像できない。



 九死に一生を得た志保ちゃん(何に、とは言わない)

 今更ではありますが皆さま毎回ご感想ありがとうございます。この場を借りてお礼を申し上げます。

 当方、毎度の如く返信が遅れておりますが、次話更新までにはなるだけ返信いたしますので、これからも是非ご意見ご感想よろしくお願いします。



『デレマス二十四話を視聴して思った三つのこと』

・楓さんの星は私が受け取りましょう(ずずい)

・「身分証出して!」伝 統 芸 能

・制服……つまり下は見せパンではなく生パン……!(ゴクリ)

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