1・長谷川明子さん、第一子を出産
2・ミリオンライブ、アニメPV完成
3・約一年八か月ぶりの日刊ランキング一位
「この中でどれに触れたらいいと思う?」
「いい意味でも悪い意味でもここで触れるような話題じゃないな」
『……はぁ……』
民宿の広い浴場に、六人のため息が揃って反響した。
三時頃から始まった765プロの皆さんとバックダンサー組の合同レッスンが終わったのは、夏の長い太陽が半分海の彼方に消え去ろうとする夕方だった。
レッスン初日というだけあり、今日は今回のライブで踊るダンスを一通り覚えるというものだったのだが、その運動量が半端じゃなかった。正直リョータローさんや冬馬さんたち本職のアイドルの人に交ざってトレーニングに参加していなかったら、アタシやまゆもついていけなかっただろう。
それで他のバックダンサー組はというと……。
「これでもまだ初日なんやねぇ……」
「想像以上だったね……」
お湯に浸かる奈緒と美奈子が疲れ切った様子でそう呟く。
765プロの皆さんが先に汗を流し終えたので、現在は続いてアタシたちバックダンサー組の入浴タイムである。初日もこうしてみんなで一緒に入ったのだが、和気藹々とした雰囲気だった昨日とは一転、みんな口数少なく俯きがちだった。
「みんな、大丈夫ー?」
体を洗いつつ振り返りながら湯船に浸かる他の子たちに問いかけるも、反応は薄い。
「……私、ついてけないかも……」
「……杏奈も……」
ポツリ。そう湯船で呟いたのは、百合子と杏奈。二人とも、レッスン中はリズム感がいいと褒められていたのだが、想像以上にハードなレッスンで少しネガティブになっていた。
「……何言ってるのよ。これがプロなんでしょ?」
『………………』
そんな二人に私と並んで体を洗っていた志保から少々厳しい言葉が投げかけられ、二人だけじゃなくその場にいた全員が閉口してしまう。
「まぁまぁ。今日はレッスン初日だし、これから頑張っていけばいいって。志保も、そんなにツンツンしちゃダメだぞー?」
ツンッと志保の頬を突こうとしたら無言で避けられてしまった。
「次の日に響かないように、お風呂上りにみんなで柔軟しましょうねぇ?」
「……恵美さんとまゆさんは、辛くないんですか?」
「え? アタシたち?」
ワシャワシャとまゆに頭を洗われていた星梨花(E:シャンプーハット)がそんなことを聞いてきた。
確かに、みんなと比べると余裕があるように見えるのは確かだが、あくまで『見える』だけである。
「そんなことないって。アタシたちも辛いよ?」
「ただウチの事務所の方針として基礎トレーニングに重点を置いてるのよぉ」
周藤良太郎というアイドルは徹底的な基礎トレーニングからなる圧倒的な体力が根幹である、とは社長や冬馬さんの談である。
体力が付けば付くほど長時間のライブにおいても歌やダンスを劣化させずに完遂することが出来、そもそもレッスンに費やす時間を長くすることも出来る。そこで123プロの新人であるアタシとまゆの二人は、必要最低限のダンスレッスンとボイスレッスン以外は基本的に基礎トレーニングで体力を付けている真っ最中なのだ。
余談ではあるが、高町家に赴いている冬馬さんとは別メニューである。……いや、一度見学させてもらったけど、アレは本当にアイドルに必要なトレーニングなのかどうかギリギリ(でアウト)なラインだったし……。
「そもそもアタシだって事務所に所属してレッスン始めるようになったのって四月からなんだから、みんなとそんなに変わらないって」
「だからみーんなレベルは同じ。これから一緒に頑張りましょうねぇ」
「は、はい!」
それまでの空気も一緒に流すように、まゆは星梨花の頭の泡をシャワーで洗い流すのだった。
「プリッと肉厚、かつ新鮮……なんとも……面妖な……」
「……アンタ、シレッと戻ってきてるわね」
「皆と早く合流したいという一心で、早く仕事を終わらせて参りました」
レッスンでかいた汗を流し、全員揃っての夕食。先ほどまでいなかった貴音さんがいつの間にか一緒にテーブルに着いており、全員の気持ちを代弁した伊織の言葉に思わず苦笑してしまった。
テーブルの上には、民宿の旦那さんと女将さんが用意してくれた新鮮な海と山の幸の料理が並べられていた。元々民宿なだけあって料理はどれも素晴らしく、それでいて何処となく素朴な味がして、やよいの「お母さんが作った煮物と同じ味がします!」という言葉に少し共感できた。
「塩味が効いてて美味しいの!」
「運動した後だから、美味しいよね」
「こうしてみんなで食べるのも久しぶりね」
「うん!」
亜美真美とあずささんはまだ到着していないものの、こうして765プロのみんなでテーブルを囲むのは久しぶりだった。
ふと、隣のテーブルに視線が移った。今回の合宿に参加した人数が多いので、私たち765プロのメンバーとバックダンサーのメンバーは別のテーブルに着いており、隣のテーブルはそのバックダンサーの子たちが食事をしている。
『………………』
しかし、どうやら隣のテーブルのみんなはあまり食事が進んでいない様子だった。大皿の煮物に箸を伸ばす様子は見られるのだが、そのまま引っ込めてしまう。
「ん~! 牡蠣美味し~!」
「恵美ちゃん、よかったら私の分も食べる?」
「いいの!? ありがとー!」
その一方で恵美ちゃんとまゆちゃんはそんな様子も見せず、美味しそうにご飯を食べていた。123プロに所属しているだけあって、多分あの良太郎さんとのトレーニングを既に経験済みなのだろう。あぁ、思い出される地獄の『ランニングボイスレッスン』……。
……ちょっと、みんなとお話したいなぁ。あ、でも座る席が無いし……。
「………………」
ん? 恵美ちゃんが、箸を咥えたままこっちを見ていた。
「……! 春香さん!」
それから何かを思いついたらしくガタッと席を立った。
「な、何? どうしたの恵美ちゃん」
「恵美ちゃん、お食事中に立ち上がるのはお行儀悪いわよぉ?」
「ごめんごめん。春香さん、お食事中に申し訳ないんですけど、席替えしませんか?」
「え?」
「折角の機会なんだし、765プロの皆さんともっと交流したいなーと思いまして!」
「……そうねぇ。雪歩さん、私もお願いできますか?」
その突然の申し出に私だけでなく他のみんなも呆気に取られる中、ただ一人、まゆちゃんだけがその意図に気付いたらしく、同じように雪歩に頼んでいた。
「……っ! うん、いいよ、恵美ちゃん。席替えしよっか?」
「わ、私もいいよ、まゆちゃん」
そこで私もようやく恵美ちゃんの考えていることに気付くことが出来た。同じように気付いた雪歩も、まゆちゃんの申し出を快諾した。
お行儀が悪いと理解しつつも、私と恵美ちゃん、雪歩とまゆちゃんでそれぞれ席を交換することに。
(……ありがと、恵美ちゃん)
胸中でお礼を言いつつ、私はバックダンサーのみんなと同じテーブルに着くのだった。
「よろしくね? 可奈ちゃん」
「は、春香ちゃ――先輩!」
「……やるじゃない、アンタ」
春香さんと席を交換したため、図らずも765プロの皆さんのテーブルの上座に座ることになってしまった。そんなアタシに、伊織さんが小声でそう話しかけてきた。
「なんのことですか? アタシは、皆さんともっと交流したいと思っただけですって。ね~、まゆ?」
「えぇ、恵美ちゃんの言う通りですぅ」
「……ま、そういうことにしといてあげるわよ」
にひひっと笑う伊織さんには……というか、ほとんどの人にはバレている様子だった。
余計なお世話だったかなぁ……と思いつつ、チラリと先ほどまで自分が座っていたテーブルを見やる。
「皆さんは、いつもあんなに激しい練習されているんでしょうか?」
「今はライブ前だし、私たちも最初は全然出来なかったよね?」
百合子からの質問に、春香さんはそう答えつつ雪歩さんに同意を求めるように視線を向ける。
「うん。……特に私は、みんなの足を引っ張ってばかりで……」
「でも、雪歩さん凄かったですよ!」
美奈子の言葉に雪歩さんは「ありがとう」とはにかんだ。その様子が大変可愛らしく、まゆと似たタイプの美少女だなぁと改めて思った。……内面は……まぁ、うん。
「……努力、ですか?」
「うん。……でも、一人じゃ無理だったかも。みんなと一緒だったから、きっと……」
みんなと一緒に、か。きっとそれが、一年前までほとんど無名だった765プロダクションがここまで人気になった理由の一つなのだろう。
「なんか、萩原先輩って感じだね」
「実に成長しましたね……」
友達の、そして仲間の成長を喜び噛みしめるような真さんと貴音さんの言葉に、雪歩さんの顔は途端に真っ赤になった。
「わ、私なんかが偉そうに……! あ、穴掘って埋まってますぅ~!」
「わわ、雪歩ダメだよ!?」
「ぎゃー!? ストップ、ストップ!」
「い、いつもラジオで聞いとるくだりや!」
「本当に穴を掘るんですね! 凄いです!」
変なところで感心している星梨花は置いておいて。
これで少しはみんなのやる気向上に繋がってくれればいいんだけど。
「いやぁ……ご飯はちゃんと食べたものの……やっぱりしんどいもんはしんどいわぁ……」
食後、各自自由時間となったアタシたちはバックダンサー組の部屋に戻ってきて各々寛いでいた。寛ぐ、といっても奈緒、美奈子、可奈の三人は未だにレッスンの疲れが抜けきれておらず、ぐったりと倒れ伏している状態ではあるが。
ちなみに杏奈は早々にテレビの前に陣取りチャンネルを回し、百合子は窓際に座り文庫本を開いており、志保は相変わらず部屋の片隅でスマホを弄っていた。星梨花は家に電話をかけてくると言って今は不在。アタシはお菓子をポリポリとつまみながら持ってきていたファッション雑誌を、まゆも持ってきていたリョータローさんの写真集を眺めていた。
「腕も~、足も~、動かない~……上腕三頭筋が~……大腿四頭筋が~……」
「可奈、その歌止めてくれへん……? 余計しんどなるわ……」
「ここ一人部屋じゃないのよ」
歌うことが好きらしく、度々可奈は自作の歌を歌う。ただその歌詞は少し独特で……ほんのちょっと音がズレていた。
「はぁ……765プロっていいなぁ。なんか信頼で結ばれてるっていうか……」
うつ伏せに倒れたまま、ウットリとした表情で可奈がポツリと呟く。
「別にそういうの関係なくない? プロの人ってもっとドライなのかと思ってた」
「………………」
志保のバッサリとした物言いに、可奈は沈黙してしまった。
「……恵美さん、まゆさん。123プロの皆さんはどうなんですか?」
「え?」
ムクリと起き上がった可奈が、そんなことを尋ねてくる。
「うーん……そうだね。方向性はちょっと違うけど、みんな仲がいいっていう点では同じかな」
765プロの皆さんは信頼する仲間、といった感じだが、123プロのリョータローさんとジュピターの三人はどちらかというと競い合うライバル、もしくは兄弟という印象だ。
「あ」
チャンネルを変えていた杏奈が、テレビから流れてくる軽快な音楽に手を止めた。それはアタシたちにも聞き覚えがある声で、全員がテレビに注目する。
そこには、華やかな衣装を身に纏い、スポットライトを浴びながらステージに立つアイドル――春香さんと響さんの姿が映っていた。
「わぁ! やっぱりアイドルなんだぁ!」
「この人らが今、上におる思うたら変な感じやな」
どうやら番組は総集編みたいなものだったらしく、春香さんたちの曲が終わると別のアイドルの曲が流れ始めた。
「っ! このイントロはっ!」
「うわっ!? ビックリした!」
イントロがほんの少し流れただけにも関わらず、それまでウットリと良太郎さんの写真集を眺めていたまゆが顔を上げた。これだけまゆが早く反応するということは……。
「わぁ! 良太郎さんだ!」
予想通り、テレビに映っていたのはリョータローさん。曲は、デビュー曲にして代表曲の『Re:birthday』だった。
テレビの中のリョータローさんはいつもと変わらぬ無表情でダンスを踊る。普段の明るい様子が鳴りを潜め、表情から感情を読み取れぬ故にミステリアスな雰囲気を醸し出していた。
「相変らずすっごいなぁ……」
「カッコいいなぁ~!」
「はぁ……良太郎さん……!」
全員がテレビに釘づけになる中。
「………………」
ただ一人、志保だけがスマホを弄る手を止めなかった。
しかし、明らかに意識はリョータローさんに向けられており、チラチラと視線を動かしてテレビを見ているようだった。
その様子はまるで、リョータローさんに興味を持っているにも関わらず、意図的に意識しないようにしているようで……。
(……あ、もしかして……)
・お風呂シーン
漫画の特装版の三巻に付録していた0+のシーンより抜粋引用。
もうちょっと下まで描いてくれれば志保ちゃんのお尻が……!
・「……なんとも、面妖な……」
ここBD見てても聞き取りづらかったので、まぁ貴音ならこれだろと高を括った。
口にものを含んで喋っちゃいけません!
・『ランニングボイスレッスン』
Lesson26参照。
・ほんのちょっと音がズレていた。
何っ!? 音痴は春香さんだk……おっと誰か来たようd(ヴァイッ!
主人公(二話連続不在)。じ、次回はちゃんと出番あるし、多少はね?
というわけでほんのちょっとずつ変化がある合宿です。ただその変化を出すためにBDを見返す作業が少々手m(ry
さて、前書きでも少し触れましたが、星井美希の中の人こと声優の長谷川明子さんが第一子を無事出産されたそうです。
決して本人の目に届かないであろうこのような場所ではありますが、祝福の言葉を述べさせていただきたいと思います。
おめでとアッキー! 11thでは元気な姿はまだちょっと無理かもしれないけど、帰ってきてくれる日を待ってるよ!
以下、他の話題が無かったらやろうと思っていた前書きネタ↓
良「美希ちゃん出産おめでとう! 765プロでは小鳥さん、真ちゃん、りっちゃんに続く四人目のママだ!」
恭「色々と誤解を招く言い方はヤメロ」
『デレマス二十話を視聴して思った三つのこと』
・フミフミ、唯ちゃん、声付き出演おめ!
・流れていた「ガチャのP、フリトレの常務」のコメに思わず感心
・さ、三人の会話で胃が…!