「くそっ!グレアム提督・・・あんたってやつはっ!!」
「山田君・・・だったかね?
噂は聞いているよ。
なるほどその歳で管理局、期待の星と呼ばれるだけはある。よくぞ私の計画を見破ったと誉めてあげよう。」
一方。
山田君がどうしているかと言うと、グレアムに捕まっていた。
グレアムを探っていたのがバレ、逆に罠にはめられていたのだ。
山田君は管理局員としてもはやてに対する覚醒を促すための挑発、もといシグナム達を消し去ることを防ぐためにも裏から動き、裏から止めるべく動いていた。
ところが。
それらの動きが全てグレアム側に漏れていたのである。
当然だ。
長年、管理局員として研鑽を積んできた老獪な人間と、前世分の記憶含め30にも満たない中身平和ボケしたタダの日本人の若造。
余程の傑物でもない限り、どちらに分があるかなど子供でも分かる理屈である。
よくも考えてみても欲しい。
グレアムを手玉に取るという展開はチートオリヌシのお決まり展開と言えるが、彼はなのはと同じく才気溢れ、管理局と言う荒波に何十年以上も乗り続けてきたベテラン中のベテラン。
なのはを越えるとは行かないまでもそれに近い実力と(現時点ではグレアムのほうが勝るが)、優秀な使い魔、そしてデュランダルといった強力な封印処理をしてのけるデバイスを自前で用意できるほどの技術力まである。
多少でも怪しい動きを見せれば察知されて当然というものだ。
早い話、山田君は彼を―――グレアム提督を舐めていたのである。
そんなに軽い相手であるはずが無いのだ。
転生者ゆえの悲劇というべきだろう。
ゆえに山田君は逆に尻尾をつかまれ、その身柄を拘束されるという醜態をさらしていた。
「これが・・・一番良い方法なのだ。若い君には分らないだろうけどね。」
「そんなもん・・・分ってたまるかよ・・・」
山田君の目に紋様が広がる。
いつぞやの魔法。というか、忍術の一種である瞳術。天照を使うつもりだ。
この術。この力の元となった漫画では目の焦点をあわせた場所を発火させ、一度発火させたものを焼き尽くすまで炎が消えることが無いという恐ろしい術だが、山田君の忍術はすべて魔力でもって再現してるだけに過ぎない。ゆえに原作よりは劣化している。
消えないという効果がなくなっているものの、その火力は今、山田君を捉えている結界程度なら簡単に壊すくらいには威力が高い。
だからこそ山田君はその術を使おうとしたわけだが、がくりと膝を付き不発に終わった。
「くっ・・・これは・・・魔力が・・・」
「君のその稀少技能(レアスキル)は素晴らしい。
ありとあらゆる効果を持った魔法を発動させることが出来る。現在の魔法体系のどれにも当てはまらない、まさに魔法のような力だ。
死人アリシアテスタロッサを生き返らせたりなど、技術的、倫理的にも禁断とされる魔法ですら軽く―――とまではいかずとも、容易に実現しうる。まさに神のみわざと言っても良い。」
「・・・魔力を吸い取る結界か・・・」
「だが、それは所詮魔力があってこそのもの。
過信が過ぎたな。山田君。
慢心はよくない。年長者からのアドバイスだ。」
「オマエは分ってるのか?
はやては・・・彼女は何もしてない。何も悪くない。なのにも関わらず・・・殺すのか?」
「・・・世の中は奇麗事で終わらせることの出来ないことがままある。
これはそんな物の内の一つさ。流れる血は彼女で最後だ。君だって人を殺したことは一度や二度では無いだろう?」
「だからなんだってんだっ!!
たった一人の少女を守れなくて―――」
「君は他の子供とは違うと思っていたが・・・所詮は9歳児・・・といったところか。
そんな理想論を吐くだけなら今まさにっ!
・・・子供でも出来ることだ。しかし大人は理想論を吐くだけでは務まらない。
理想論が無理なら無理で出来ることをする。それが大人だ。
悪いが、仕上げが残っている。
全てのことが終わるまでここに居てもらおう。」
「・・・はっ。だがまだ終わりじゃな―――」
「クロノを頼っていると言うならば、残念だったな。君が探っているのは分っていた。
そこからクロノのことにも気づいたよ。今頃はダミーの情報に踊らされ、てんで見当違いの次元世界にでもいることだろう。」
「・・・なっ!?
そ、それじゃ・・・はやては・・・原作が・・・」
「原作?
なんのことかは分からないが、君はここまでだ。」
そうして去っていくグレアムの背中は少し煤けていたように思えた。
本来ならば彼の使い魔、リーゼアリアとリーゼロッテが変身した勇者王をクロノが取り押さえ、彼女たちがはやてを封印するのを妨害する役割を果たしたのだが。
山田君の件から警戒を強めたグレアムはクロノも自分のことを探っていることに気づき、罠を張った。
一番避けるべきバッドエンドへと物語りは向かっていく。
☆ ☆ ☆
「たく、どこまですっとばせば気が済むんだ、あの勇者王は。」
『まったくね。まさかあんな辺境まで飛ばされるとは・・・私の性能を持ってしても数分もかかる・・・響。』
「ん?何?」
『あれ、黒い柱が立ってるんだけど・・・』
「黒い柱?何を言って―――わお。なにあれ?」
病院屋上で迸る黒い奔流。
そして中心にははやてらしき人間が居た。
「なぜすっぽんぽん?」
『・・・すけべ。一番に気にするところがそこなのね。』
「い、いやっ!
ちょっと待てって。別にそういうわけじゃなくてたまたま・・・はっ?」
徐々に近づいていくごとにはやての姿がはっきりしていく。
そしてちょっと目を離したと思ったらそこには、はやてじゃなくて白髪で黒い羽を生やしたお姉様がいた。
「イリュージョンショー?誰?」
『はやてちゃんがアレみたい。』
「あれってあのボンッキュゥボンッのお姉様が?」
『キモ。』
「もっとオブラートに包んで言え。冗談だ。」
『・・・別にいいけどね。私だってなろうと思えばなれるし。』
「何を張り合ってんだよ。
それよりもシグナムたちは?
シグナムたちに事情を聞いたほうが早そうだ。なんか空気ぴりぴりしてるもん。
これは敵ごと俺を撃墜フラグ!と見たね。」
『・・・悲しいフラグだね。恋愛フラグは一つも立たないのに。』
「やかましいっ!」
『で、どうするの?
シグナムたち、いないみたいだけど。』
「は?」
『私のサーチャーは少なくともこの結果内はアリ一匹ですら察知することができるわけで・・・そのサーチャーによると彼女たち以外にはこっちに向かってるユーノとかいうのとアルフとかいう脇役くらいしかいないよ?あ、他にも2人―――』
「え?
主、放ってどこへ?」
『トイレ?』
「この大事な局面でっ!?緊張感無いなっ!?」
どっちが。と言いたかっただろう。守護騎士達が健在ならば。
「ということは?」
『あのぴりぴりしたところに入っていかなくちゃ事情は分らないってことね。』
「ちょっと楽しそうなのはなにゆえ?」
『面白いでしょ?
敵認定されるかどうかの瀬戸際って。』
「ちっとも面白くない・・・ってのは分かって言ってるんだよな?」
『おふこ~す。』
「死ねばいいのに。」
『私が死んだらどんな時でも頼りになる相棒がいなくなるってことだよ?』
「はっ、そしたら新しい相棒を探すまでよっ!」
『・・・強がり乙。』
「強がりじゃねーしっ!」
『ボッチのくせに・・・』
「ぼ、ぼぼぼ、ぼっちじゃねーしっ!!」
『じゃあ誰か友達いるの?』
「は、はやてとか?」
と恥ずかしそうに言う響。
『いや、はやてちゃん私にあの勘違い男はよ帰ってくれ変かなぁって言ってたよ。
私と話したいだけみたい。』
「・・・ま、まじ?」
『ウ・ソ。』
「てめえぇええええええええっ!!本気で泣きそうになったんだからなぁっ!!」
と響が泣きそうになっていたところで強大な魔力が集まる。
「え?なにあれ?」
『どうもなのはちゃんたちをピチュろうとしてるみたい。助けるの?それとも加勢する?』
「おいおい、何年の付き合いだと思ってんだ?
分ってるだろ?」
『・・・傍観・・・?』
「いぐざくとり~。」
『うざ。』
「だからオブラートに包めとっ!!」
『それよりも2人が危ないよ?』
「・・・聞きませんね、あなた。
まぁ、あの2人なら多分大丈夫でしょ?」
『その2人じゃくて、一般人の2人。具体的に言うとすずかちゃんと、ツンデレっぽい金髪少女。確かアリサとか呼ばれてたっけ?』
「寝ぼけた?
一体どこに・・・」
『・・・まったく私の言うことくらい何も考えずに阿呆のように受け取りなさいよ。』
「そうした結果ややこしいことになったという経験談があるんですけどねっ!!」
『今モニターに出すから―――ほい。』
「えーっと確かに2人だが・・・これって結果内?」
『いぐざくとり~』
「真似しないでくれます?」
『これでウザさがわかるかと思って。』
「いらん気遣い、すなっ!!」
『で、どうするの?』
「いやこれはさすがに・・・」
『傍観?』
「せんわっ!!無力な一般人をこの中に放っておくのは人としてどうかと思うだろうっ!」
『そうしてフラグを立てるんですね、分かります。』
「・・・立ったら良いよね。まんま女の子の姿なのに。」
『え?私の美貌なら性別を越えてとりこにするくらい簡単だと思うけど・・・』
「自意識すごいねっ!?」
『・・・ちっ。だまされないか。』
「今ので俺をだまされるって思ってることに腹立つわ。」
とりあえず2人の救出に向かう響。
ところがどっこい。
「は?」
『あれ、ディザスターブレイカーよね?』
覚醒した闇の書―――以下ヤミちゃんと呼称する―――は上空に飛び立ち、さらなる大技。
ディザスターブレイカーを放とうとする。
『響、これはやばいわ。分かってる?』
「ああ、まずい。非常にまずい。」
集まる黒の光。
黒い光りは徐々に徐々に大きく育っていく。
ディザスターブレイカー。
ここでこの魔法の特徴を述べておく。
この魔法の見た目こそはスターライトブレイカーに酷似しているため、なのはが使えばその見た目はスターライトブレイカーと瓜二つだろう。
黒いのは響の魔力光が黒い、というだけなのだ。
だが、中身はまるで違う。
前にも軽く触れたが質が違うのだ。
ディザスターは災難、災厄を意味する言葉。
この魔法は魔力で強くなるのではなく、術者に降りかかる不幸の度合いによって威力が決まる。
いや、魔法は全て魔力で扱うため、正確には魔力を込めた分以外に術者の不幸分を上乗せできるという形である。
ゆえに幸福な物が使ったところで固定の威力のままではディバインバスターに劣る程度の威力しか持たないのだが、そこに災難や災厄。不幸と言われる物が上乗せされると場合によってはスターライトブレイカーすら超える。
すなわち。
自分がなぜこんなに不幸なんだぁっ!という思いを他者に八つ当たりするために作り出した後ろ向きで凡そ仮にも主人公である響の情けない根性丸出しの―――しかし、侮れない創作魔法(オリジナル)なのだ。
ちなみにこの不幸の定義は術者が心の底から不幸だと思うことかどうかで、仮に他人から見た限りで幸福でもその個人が不幸だと思っていれさえすれば良い。
たとえば、無欲を気取るチートオリヌシがハーレムで“実際になってみると辛いだけだぜ”と言っていたらディザスターブレイカーの威力は上がる。
でもその実、内心で嬉しがってた場合は威力は上がらない。
すなわち無欲を気取るチートオリヌシどもにこれを使わせるだけで実際本当に言葉どおりなのかが分かるのである。
某小説主人公『不幸だぁーーーーーっ!』と叫ぶが、なんだかんだで人助けをする彼がこれを使ってもおそらく威力は上がらないのである。
ということはさておき。
闇の書の災難、災厄、不幸とはどれほどのものか。
これは想像を絶する。
今あの魔法を使っているのははやて自身ではなく、ヤミちゃん自身。
ヤミちゃんの製作されてから今に至るまでの災難すべてがあの一撃に込められている。
今回のはやてに関する件も彼女は災難と感じ、心を痛めている。
どうしてこうなるのか?
どうして自分を手にするものは等しく不幸になるのか?
また全てを破壊しなくてはならない、それが酷く悲しい。
そういった状況に陥る今現在の状況に強く不幸な気持ちを抱いている。
その災難、災厄が今。
振りかざされた場合、どれほどの威力になるか。
アイシテルが焦るのも無理は無い。
響が焦るのも無理は無い。
下手をすればこの結果内の全ての物が消し炭と化す。
アイシテルは自身の計算能力をフル活用し、この場に居る人間全てを一箇所に集めた。
「なっ!?」
「ここは・・・」
まずはなのは、フェイトが驚きの声をあげ、アルフとユーノも驚いている。
すずかやアリサもいるため、いろんな意味で驚きの声を上げる。
勇者王達もいた。
勇者王達はなまじ腕があるだけ、今の現状に気づいて冷や汗を垂らしている。
「説明してる時間は無い。」
響が言った。
「全力で盾を張れ。」
「えっ・・・えと、」
「とっととしろっ!!死にたいのかっ!?」
「は、はいっ!!」
「そっちの少年と糞犬・・・じゃなくてお姉さんは月村さんと金髪を。高町さんと性悪女は防御後、一緒にあれを叩きのめす。いいね?」
「は、はい・・・えと、貴方は誰・・・
というかもしかして性悪って私のことですか?」
とフェイト。
「糞犬って言ったね?あんた?
後で覚えときなよ。」
とアルフ。
当然響はスルーである。
「それとそっちの勇者王達は現状がどれだけやばいかは分かってるよな?
手伝え。
下手をすればこれだけでここにいる全員が落ちる。たく、俺のリンカーコアを渡すから・・・」
「・・・勇者王?
・・・いや、まぁそれどころではない。分かった。」
響としてもリンカーコアを差し出すなんてことは彼らに分捕られる前から考えていたことなのだ。
しかし今回のようなことを予想していたアイシテルに念のためやめておこうと言われていた。
「アイシテル、これは・・・」
『ええ。私が変わる。』
最後のアイシテルの機能。
それはジュエルシード並みの貯蓄機能。
そこまで魔力制御能力を持たない響にとっては宝の持ち腐れだった。
しかし、ここまで来た以上そんなことは言ってられない。
ユニゾンは前にも言ったとおりデバイスの力が強ければ強いほど術者に大きな影響を与える。
すなわち。
より能力の高いアイシテルに自分の体の制御を任せることも可能なのだ。
「さて・・・初の披露。
活目しなさいよね。」
口調が変わったこと数人が変な顔をしたがそれも構っていられる余裕はない。
響改めアイシテルの体から黒い魔力が噴出していく。
が、それは徐々に収まる。
一般人の2人を除いた面々が驚く。
「なんだこの・・・凄まじい魔力は・・・人間じゃない・・・?」
「変態仮面のあんたには言われたくないわよ。」
「んなっ!?
へ、変態仮面とはなんだ!!これは由緒正しい―――」
勇者王達が仮面の由緒について語ろうとするがそれは上空の黒い塊によってさえぎられる。
「・・・漆黒の空・・・だな。」
勇者王の1人が上空を見上げ、ついという風に言った。
上空には集まりに集まった魔力が渦巻き、空を覆いつくすほどに肥大化している。
結界からはみ出しそうな勢いだ。
アイシテルは勇者王のセリフを無視し、魔法を練り上げる。
カートリッジが地面に散らばる。
10個の装填(カートリッジロード)に響の持つ自前の魔力、そしてアイシテルの貯蓄された魔力。
それらを持ってしてもおそらく風穴を開けることが出来ればいいほうだろう。
そして此方もディザスターブレイカー・エクセリオンで応戦する。
今現在が災難に見舞われているため、威力は今までとは段違いだ。
響の戦いで感じる絶対的な絶望。それが逆に力となる。
さらにはエクセリオンは魔力による威力強化も可能にした改良型。
が、それでも届かない。
少なくとも千年に渡る災難の足元にも及ばない。
「ディザスターブレイカー。」
淡白なヤミちゃんの声が空に木霊した。
☆ ☆ ☆
空が落ちてくる。
そう形容するしかないほどの巨大な砲撃が“堕ちた”。
「でぃざすたーぶれいかぁあああああっ!!」
遅れてアイシテルもディザスターブレイカーを繰り出す。
漆黒の空と漆黒の柱がぶつかり合う。
『頑張れっ!アイシテルッ!!』
「応援して・・・る、だけ、だと・・・楽、で・・・いい・・・よ、ねぇっ!!」
精神体となった響の応援を聞きながら、せめてもの抵抗とばかりに収束砲を全て一点に集中して、自分達のいるところだけギリギリ風穴が空く様な範囲に絞っている。
力というのは力のかかる面が小さければ小さいほど、少ない力で用を成せると言う物理法則がある。
指を壁に押し込んでも穴は空かない。
しかし、画鋲を使うと穴の大きさはともかくとしても小さな力で穴を空けることが出来る。
それと同じことが魔法に置いても起こり得る。
「く、かた・・・い・・・わ・・・これ・・・」
徐々に飲み込まれるアイシテルのディザスターブレイカー。
全て放ち終わってもいまだ漆黒の空は顕在だ。
空いた空間に周りの闇が流れ込み、補填される。
そのまま堕ちてくる漆黒の壁。
「こんにゃろうっ!!」
瞬時に手をかざし、ラウンドシールドを目の前に6重ほど展開。この一瞬で作り出せるのはこの数が限界である。
さらに勇者王達もアイシテルの前にシールドを張る。
自分達の身を守る分があるため、2枚ほどが限界だがそれでもないよりはマシである。
だが、数秒としないうちに次々と割られいく。
最後の一枚になってアイシテルが踏ん張る。
「こ、このぉおおおおおおおおっ!!」
しかし抵抗あえなく、パリン、となんら抵抗を示さぬままアイシテル達は漆黒に飲まれた。
悲鳴が聞こえた気もするが、それらも掻き消された。
「・・・終わりか?」
「それは終わってないフラグね。」
「っ!?」
アイシテルが血だらけのままブリッツフォーム状態でヤミの背後に回る。
「暗黒的な―――エクス、カリバァアアアアアアアッ!!」
黒い軌跡がヤミに向かって振りかざされた。
そして魔力は爆発。
黒い光に包まれる。
「やるな。」
「ちっ!!
ディザスターシュー・・・」
「フォトンランサー。」
しかし剣は腕に展開したシールドで止められ、バキンと折れる。
ナイフを抜くよりも魔法で応対した方が早いと判し、発動の早い魔法で追撃を行おうとするがそれよりも前にヤミに反撃をされる。
「くぅっ!!ガードの上からでもこの痛みは―――しゃれにならないってばっ!!」
ただのフォトンランサーでもヤミが使えば大量の魔力が込められた必殺級の魔法。
並みの魔導師ならばガードの上から一撃で落とされていただろう。
アイシテルの張ったプロテクションはその大部分の威力を削ぐものの、それでもバリアジャケットを貫くぐらいはした。
肩にフォトンランサーを食い込ませながらアイシテルは、すぐにナイフを抜く。
「ロードカートリッジッ!!
ミリオンブレイドッ!!」
「ミリオンブレイド。」
万を越えるような剣閃がヤミに降りかかるが、それらを全て同じ技で叩き落す。
「なんちゃって
虚空にバリアジャケットが変形したロングソードがずらりと出現し、それら全てが飛来する。
が、それを全てシールドで防御するヤミ。
「もういっちょっ!エクセリオンモードでいっくよぉっ!!」
その場から距離を取り、手を上空へ。
体から魔力が吹き荒れ、カートリッジが装填される。
再度出現するロングソードの群れ。
しかし数が先の比ではない。
光をさえぎるほどにびっちりと所狭しと並べ立てられた無骨なロングソードの海。
空が剣で埋め尽くされる。
「
剣がヤミを引き裂こうとその剣先を一斉にぶつけに行く。
剣の海にまみれたヤミ。
地面に向けて撃ったので、着弾点の地面には直径1キロにも及ぶ大きな穴が開いていた。
一つ一つは小さな穴でも、あまりの量に大穴が空いていたのである。
これだけでも魔法の威力が十二分に分かるというもの。
しかし。
「はぁ・・・はぁ・・・これだけやれば・・・」
「・・・その傷でよくやるものだ。」
「・・・はぁ・・・ふう。・・・少しは弱ってくれてると嬉しかったなぁなんて。」
目の前には何の傷も負っていないヤミがいた。
向かいには疲弊し、肩で息をするアイシテル。
先のディザスターブレイカーにより、体のところどころが焼け焦げ、片腕に置いては千切れ飛んでいた。
今は魔法でかりそめの腕を作り、それで戦っている状態だ。
魔力そのもので作っているので遠めだとピッチリとした黒い手袋に見えないことも無い。
満身創痍だが、あれだけの魔法を受けて一番の中心地にいたアイシテルのみがダメージを受け、なおかつこれだけで済んでいること自体が称賛に値する結果である。
「・・・気が済んだなら、もういいだろう?
私の目的は主の目的である、向こうの2人だ。
まとめて殺されるのがお気に召さないと言うならば、範囲攻撃はやめよう。
これでオマエが私にたてつく理由は無くなったはず。
これ以上、邪魔するならば容赦はしない。」
淡々と事務的に言うヤミ。
それならばそれでアイシテルとしては良かったのだが、へたれながらもそういうのを気にしちゃうおバカさんがアイシテルのマスターなワケで。
何よりも、はやてが乗っ取られてる形になっている今、響とアイシテルに撤退の二文字はあっても邪魔しないという選択肢は存在し得ない。
どうせ邪魔するならいつしても同じなわけであるから、今しなくて何時やるのだと言う話だ。
それに一番の問題がある。
アイシテルと響は闇の書と夜天の書については十二分に知識があるのは言うまでも無い。
無限書庫の本で読んでいたためだ。
しかし守護騎士たちまでもが闇の書という正式な名前で呼ばないことからすっかり闇の書と夜天の書は別物だと考えていたわけであるが・・・
今、ヤミを目の前にしてその勘違いは解けた。
「・・・?
どうやら私の体をサーチャーで探っているらしいな。
が、私に弱点など無い。
忌々しいことにな。」
ヤミの言うとおり弱点を探すつもりでサーチャーを使っていたのだが、弱点の変わりに妙なものを見つけた。
チートデバイスであるからこそ戦いの最中でも分かる妙な部分を。
「・・・プログラムに不自然な書き換えがされてる?」
『いててて・・・あれ?
ここは?』
「暢気に寝てないでよね。
それよりも響のおっぱいチートってデバイスにも効く?」
『は?イキナリ何を言って?』
「いいから。」
『・・・おっぱいさえあれば効くと思うよ?
ほら、アイシテルだって見てたでしょ?
幻獣からリンカーコアを奪った後で、乳房を持つ哺乳類に似た動物にはおっぱいチートでのケアをしてたのを。
幻獣に通用するんだから、デバイスにも通用する―――と思う。』
そう、はやての体はどうにもできない。
しかし闇の書をどうにかすることはできる。
だが闇の書にはおっぱいが無かった。
しかしわざわざこうしておっぱいのある人型になってくれたのである。
ならば。
やることは決まった。
「ふうん。
まぁこれに賭けてみてもいいかな。」
『何の話?』
「となると私には使えない・・・まぁいいか。もう貯蓄された魔力も8割がた使ったし。
私が表に出る理由も少ない、と。」
『だから1人で何を納得して―――うおっ!?』
『はい。というわけで交代ね。私も疲れたし。今度は私が応援側で。』
「いきなり何をっ!?ていうか腕がイタいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!はよ治さねば・・・」
『だーめ。魔力がもったいないでしょ。ただでさえヤリクリが厳しいんだから。どうせおっぱいチートを使うなら彼女に使って上げなさい。』
「・・・話が見えないのだが?
ていうかほんと腕イタイ。涙出てきちゃった。」
『もうっ!鈍いなっ!!
あのデバイスは狂ってるみたいだからそこをおっぱいチートで治せっ!!って言ってるの!!』
「は?」
『分かったら、とっとと動く。ほら、向こうも痺れを切らして2人とドンパチ始めちゃったよ?』
「え?」
要は、である。
現在、闇の書―――いや、夜天の書は悪意ある誰かの手により改造が施されており、一度覚醒すると溜められた魔力エネルギーが使い切られるまで暴れまわると言う特徴を持つ。
今は主の願いを叶えようと動いてるが、それが終わり次第暴走を始めるとのこと。
勇者王達が何の思惑か。
なのはとフェイトに変装して八神はやての前でヴィータたちを殺したため、はやては憎しみのあまりなのはとフェイトを殺そうとしている。
しかし既に変装は解いており、その憎しみの矛先が向かうのは偽者のなのはフェイトコンビではなく、本物の2人。
根本を辿ると勇者王達が責任とれっ!って話なのだが、矛先が無かった場合は覚醒と同時に暴走したため、これはこれで仕方の無い判断ともいえる。
2人に注意を引いてもらってる間に宿主のはやてごと封印処理をする準備をするつもりだったのだ。
しかし、いまや先ほどのディザスターブレイカーの防御に際して魔力のほとんどを使い切ってしまったため、最早それも叶わない願いとなった。
「待て、アイシテル。おっぱいチートで治せ?
何を言ってるの?
高町さんとフェイトを同時に相手取って手玉に取る相手に?
ほら見ろよ?
バグキャラ達がゴミのようだ。
・・・まったく、何を言ってるのやら。
元気一杯過ぎるでしょ?
ドウ考えても俺のほうが病人な件。」
『ああもうっ!!七面倒なっ!!
とにかくおっぱいを揉んで治してこいっ!!』
「いやいやっ!?
見て分かるでしょ!?
あれレベルの相手におっぱい揉んでこいとかっ!!
色々ツッコミどころ満載だけど、とりあえず俺に死ねと申すかっ!?
いやんエッチ的な恥ずかしがりがてらのドツキで死に兼ねないレベルの相手ですよ!?
正直触りたくないですっ!!いや、触りたいけどもっ!!」
『・・・スケベ、あほ、ばかちん、まぬけ。おっぱいばかりが女の子の魅力じゃないでしょっ!!』
「いや、だからそうじゃなくて・・・」
『・・・ふん。別に揉ませてくださいって頼めば良いじゃない。』
「それで揉ませてくれた事例を俺は知らない。」
『ニコってしながら言えば?
ニコポできるかもよ?』
「まじかっ!?早速やってくるっ!ってバカ!!
俺にはすでにアイシテルがいるっ!!」
『え?あ、うん・・・えと・・・ごめんなさい。あなたにはもっといい人が見つかると思うの。』
「それ、断るときの常套文句っ!?
ていうかそれどどころじゃないっ!!」
『1人ノリツッコミ?』
「・・・まぁ物は試しだ。
おっぱい・・・揉ませてもらえるか頼んでみようか。」
『・・・。』
自分で言っておいてなんだが、マジでかっ!と戦慄したアイシテルだった。