とある時刻、とある家庭にて。
ハイハイをする子供が居た。
もとい物語の主人公、相馬
見た目は銀髪にオッドアイ。
失笑物の外見であるが、それもやむをえまい。
彼の前世の生涯が閉じたのは中学2年。
まさしく厨二病に疾患してピークに当たる時期である。
そんな頃合に死んでしまった彼がそんな見た目になるのは当然のことで、厨二病を脱する頃合の―もとい7歳になる頃にはきっと自分の容姿に悶絶するだろう。「なぜあの時に、こんな奇抜な見た目を選択してしまったのだ!!」と。
多分。きっと。おそらく。
してくれると良いな。
現在の彼は早速発情していた。
「・・・ふふふふ。俺の母親がよもやこんなに美人だとは・・・近親相―――げふんげふん。も、悪くは無い。
何、俺の超絶イケメン具合を持ってすれば・・・」
ドンビキである。
生まれて数年で母親とのチョメチョメを考える人間。
あまりの非常識ぶりに本当に貴様、日本人か?と問いたくもなるのだが、自然界では親と子の交配は至極当然のようにあるし、血統的にも問題が出る可能性はあるもののそれでやめてしまおうと思うほどの大きな問題は無い。
別に良いのでは?という気もしてきたのは、あまりの思考回路ゆえに彼を人間としてではなくその辺の獣と同列視してしまっているということなのだろう。一応反省しておこう。
あれでも彼は人間なのだ。
それはさておき。
「あら?おっぱいが欲しいのかしら?」
母親である相馬
目が血走りながら乳房をしごきつつ吸い付く赤子。
下手なホラーよりも怖い。
「・・・うますぎるっ!!」
と吼えながらも母親の乳房にがっつく響。
全国の赤子や君のような子供を産んでしまった文香に謝ってあげたいほどにその姿は醜かったと言っておく。
これを見ても自然な笑みを絶やさないとは母親は偉大である。
否、文香が偉大なのだろう。絶対。確実に。それしかない。
きっとそう思う。
そもそも彼の毛の色や目の色的にこれを我が子として愛せる彼女はまさに聖母と言えよう。
「・・・くっ・・・いかん、もはや眠くなってきた。」
今更であるが彼の言葉は全て「あー」とか「うー」とかである。赤ん坊なのだから当然のこと。
それを意訳してお茶の間に届けているこの作業。
早くも苦痛と化してきたのだから気が滅入る。
そして彼はそのまま寝た。
寝る子はすくすく育つと言うがこのまま眠るように死んでくれたほうが世のため人のため。
何よりも何の罪も無い母親が救われるような気がする。
「ふふふ・・・凄い旺盛な食欲ね。」
ちゃんと乳を飲んだのを見て安心したのか文香は満面の笑みを浮かべた。母親としては至極真っ当なセリフなのだが、それが向けられた相手が彼となると複雑な気分である。
・・・ここに、ここに聖母がおるきん。眩し過ぎて目が開けられないんじゃぁ・・・
せめて彼女の元で彼が真っ当な道を歩めるよう、祈るしかるまい。
余談ではあるが母子家庭で父親は蒸発済み。
もともとあまり良い人ではない上に、どう考えても両親ともに黒髪の生粋日本人から生まれるはずの無い髪色の子供が生まれたのが決定的になり、すでに離婚。
駄目な旦那と別れる機会を作ったのをほめるべきか、決定的な亀裂を走らせたことに恨みことを言うべきか。
迷うところである。
☆ ☆ ☆
子が育つのは早いと言うが、それを証明するがごとく、あっという間に9歳となった響が居た。
彼が通うこの小学校には可愛いヒロイン達がいる。
言わずもがな、高町なのは、月村すずか、アリサ・バニングスである。
もちろんのこと彼は煙たがられた。
なぜかと言えば単純明快。
変態でキモイからだ。
さらに言えば残念ながら厨二病は治らなかった。
前世と含めて20は超えるのに。
「やぁ、アリサ、すずか、なのは。」
「お、おはよう・・・」
「・・・響君・・・おはよう。」
「いい加減殺したくなってきたわ。」
にこやかな響の挨拶になのは、すずか、アリサはげんなりとして応える。
いや、アリサは応えてなかった。否。これはきっとアリサ流の返答なのだろう。
いいぞ、もっとやれ!!
大丈夫。ちょっとだけだから。ちょっと殺すだけだから。
今なら一万円上げるから。ね、ちょっとそこの人気の無いところに連れてってさ。
こう、サクっとね?
「今日も可愛いね。」
「あ、ありがとう。」
「そ、そうでもないよ」
「・・・そんなことどうでもいいからとっととどっか行ってくれない?」
なぜここまで彼が嫌われているかと言うとそれは彼の日ごろの目線である。
簡潔に言うとエロっぽい。
将来、この子達を相手にハーレムを築くことになるのかと思うとついつい視線がエロっぽくなってしまう響。
人間というのは鈍く見えても意外と敏感で、たとえば今目の前で起こっているように相手が下心を持って近づいてくればもちろんのこと分かる。
目線で、もろバレなのだ。
じろじろと撫で回すような視線。
変態じゃない彼女達にとってそれは酷く不快感を与えるものだった。
そうした下心を隠せる巧妙な男もいるが、こちらほど性質が悪くないのが唯一の救いである。
「ていうか、あんたどうしていつもいつも私たちのところに来るのよ。毎回言ってるでしょ!寄ってくるなって!!」
「ふっ、野に咲く可憐な花を見に来てしまうのは、美しき蝶の宿命さ。」
「はぁ?」
いわずもがな次の問題がコレである。
これまた簡潔に言うならば意味が分からないことを言ってるということだ。
思い出して欲しい。
彼女達は9歳児である。
比較的ほかの子供よりも大人っぽい彼女達であるが、前世の知識を持つ響とは違い、そこには当然限界がある。
そんな気障な話をされたところで彼女達の脳内では「野に咲く花に蝶が寄ってくるのは当然のことだよね」というそのままの字面で受けとっている。
すなわち。
「この話の流れでいきなり蝶の話されても意味が分からないんだけど?」
「おや?わからなかったのかい?
ふふふ、初心な子羊ちゃん達だ。」
「ああ゛?
アンタバカにしてんの?」
人間様を羊のような畜生呼ばわりたぁ、ふてぇ野郎だっ!と言わんばかりのアリサの眼光。
しかし響には効果がいまひとつだったようだ。
「あ、いや、そうではなくてだ。これは野に咲く可憐な花を君たちに例えてーーーぶるはっ!?」
「あ、アリサちゃん。さすがに殴るのは・・・」
「いいからいいから、ほら、とっとと行きましょ。」
「ぐふっ・・・ツンデレか。現実のツンデレとはかくもシンドイものなのだな。」
こうして彼の勘違いは増えていくのだった。
というか、もっとやってくれないだろうか?
もっと熱くなれよ!!
どうしてそこで去っちゃうんだ!!
あとちょっとで殺せるんだぞ!!
もっともっともっと熱くなれよ!!
あ、良い忘れたが彼の口調にも問題はある。
何よりも致命的なのが彼のその勘違いスキルにあった。
彼が煙たがられているにも関わらず接触を持とうとするのは、別に嫌われていることに興奮する性質を持っているわけではなく。
ただたんに恥ずかしがっている、素直になれていないだけと考えているからである。
すなわち。
嫌われているのにも関わらずしつこく空気の読めてない人間がこれまたしつこく話しかけてくる。
非常に嫌な出来事と言えよう。
そして、そんな彼の行動はとある結果をもたらした。
「てめぇ、いい加減にしろよ!なのは達が嫌がってるだろっ!?」
「何を言う?
君こそ彼女たちを開放したまえ。きっと君が脅しているのだろ?」
「はぁ、はぁああっ!?」
そう、新たな転生者による苦情である。
彼は原作非介入派であまり下心を持たず、なんやかんやでなのは達に気に入られた転生オリ主。
なのは達に日々無自覚な嫌がらせをしつづける響に対して文句を言いに来たのだ。
なのは達がなんだかんだで響を退け切れないのは彼が生理的に嫌いでも悪人では無いということに起因する。
相手に悪気が無く、なんだかんだで直接的で決定的な害が無いために特別お人よしな彼女たちとしては彼を退け切ることは出来なかったのだ。
そんな中立ち上がったのが、チートオリ主の彼、山田君(仮称)だ。
個人情報保護法のため、この場では仮名を使っている。
彼はいたって普通の両親の元に生まれ、原作怖いとか良いつつもご都合展開によってなぜかなのは達と近しい展開になったという背景を持つ。正直此方のほうが我らがバカな主人公よりも腹ただしい気がする。
原作介入したくないとか言っておいて、どうせがっつり介入するんでしょ?
フェイトの母親に「なんでフェイトを娘と見てやらないんだ!!」みたいな熱血な説教するんでしょ?
どの口で原作に介入しないとか言うのか。
いや、それこそが主人公体質と呼べるものなのかもしれない。
残念ながら響にはそれが無いようである。
そしてなぜか「名前で・・・なのはって呼んで!」みたいなフラグを立てつつも現在、響にとっては程遠いチートハーレムの下地を形成しつつある山田君。
今回の案件も彼の好感度はうなぎ登りで、響の好感度は格段に下がることとなるだろう。
山田君はきっと「かませ犬ありがてぇ」などと思っているに違いない。
と言ったら彼は怒ってこういうだろう。
「ただあいつらの笑顔が曇るのが見過ごせないだけだ!!」
はいはい。主人公やってますねぇ。
無欲アピールとか要らないです。
「は、話が通じねぇ。」
「まぁ君の気持ちも分かる。
だがね。彼女たちが迷惑してるのは歴然たる事実であってーーー」
「いや、だからオマエの行動が・・・」
その後、結局平行線のまま話は終わった。
そんなある日のこと。
☆ ☆ ☆
彼の勘違いが解ける日がようやく来たのである。
発端は放課後。
彼のチートの一つにおっぱいチートと呼ばれるものがある。
彼が求めたチートで恐らく未来永劫誰も望まないであろうチートだ。
そのチート内容とはおっぱいを自由自在に操ることにある。
色々語りたいのは山々であるが、それは後の機会に譲るとして、話を進める。
そう。
あろうことか彼はなのはのーーー幼女の胸を揉みしだいたのだった。
そこに至るまでの経緯はあまりに見っともなく、しょうもなく見ていられなかったので省くが年頃―――とまでは行かないが女の子が胸をイキナリーーーそれも嫌いな男に揉まれたらどうだろうか?
もちろん怒る。
下手をすれば精神的な傷。もといトラウマも与えかねない。
彼はそんな致命的かつ最低なミスを犯してしまったのである。
もちろん彼は無理やり揉むなどと言う外道ではない。
勘違い野朗ではあるものの、よくも悪くも日本人なのである。
悪役じみてはいても悪人ではないし、そんなことを考えたことも無く、むしろ女性関係に関しては初心なくらいである。
歯の浮いたセリフを吐けるのも、彼女たちがまだ小さく、幼女だからであり、忘れているかもしれないが記憶を持ったまま転生した彼にとっては娘のような――歳の離れた妹のようなもの。
なんだかんだで別に欲情していたわけではない。
というか当然のことである。
しかしーーーいや、それがゆえに悲劇が起こった。
彼の認識ではあくまでも好かれていると思っている。
なおかつ、自分よりもはるかに年下のーーーもとい今はまだ子供としてしか見てない、なのは。
彼は善意で将来的に胸が大きくなるようにチートを発動させておこうと思ったのだが、それが良くなかったのである。
とても身勝手で自己中心的な善意。
すなわちありがた迷惑は無常な現実として彼の身に迫った。
大問題となったのである。
まだ二次成長も迎えてないとはいえ女の子の胸をがっつり揉みしだいたことで親御さんにも伝わり、もちろん彼の母親の文香にも伝わった。
なのははなのはで号泣。
先生にも伝わったし、すずかやアリサは完全に軽蔑する眼差しをむけるようになり、彼の一切合切を無視。
なのははなのはでしばらくの休校の後、復帰。
彼を避けるようにはなったものの、なんとか立ち直ったようである。
もちろんクラスのほかの子にも伝わり、あらゆる場面へと彼の行動の結果が伝播した。
虐めを心配した文香が転校を薦め、響も転校を望んだ。
そう。
彼の勘違いは1人の女の子をガッツリ泣かせてようやく解けるほどに重症だったのである。
もちろんのこと、彼は嘆いた。
泣きながらに謝った。
許してもらおうだとかそんなことは微塵も考えず、ただただ申し訳なさで一杯でひたすらに謝った。
もちろんなのはの父親や他家族は子供のやることとして許した。
叱るという行為は子供にそれは悪いことをしたということを教えるための行為で、叱ること自体は目的ではない。
ゆえにできた人しかいない高町家族は特に気負うものなど無く許したという。
しかし、響としては殴るくらいはして欲しいくらいの行為だったわけで・・・
とにかくも、そうしたけじめを付け。
彼はなのは達が通う学校を後にした。
ちなみに小学校くらいだとよくあるであろう、転校する際にお別れ会をする―などという行事は一切無かった。
嫌われていたからだ。
彼の後姿はまるで別人のようだったという。