朝、学園島の看板裏に二つの影があった・・・大尉と神崎である。
「やあっ!」ヒュン!
「・・・」パシッ!
凄まじいスピードで振り下ろされた刀を大尉が親指と人差し指で掴む。
「・・・よし!完璧よ!もうこれなら実戦でも十分使えるわ!」
・・・昨日の放課後になって急に「明日の朝から特訓よ!」とか言って来たと思ったらこれだ・・・まあ、仕事で忙しい放課後にするよりはマシだが・・・
「これで魔剣がいつ来ても大丈夫だわ、後は奴が来るのを待つだけね。」
その神崎はと言うとチアリーディングをやるらしく、チアの格好で朝練をやっている。朝練+チアの練習のつもりらしい。
・・・そんなに焦らなくてもいいと思うんだがな・・・
数日前、突然親父から連絡があり「イ・ウーの構成員、魔剣が日本へ向かったと情報が入った。目的は不明だがかなりの手練れだ、注意してくれ。」との事だった。
これを聞いた神崎は「ママの冤罪を減らすチャンス!」と意気込んで、さっそく魔剣を捕まえる準備をしはじめた。そしてこの訓練はその一環である。
・・・正直、出来れば戦いたくないんだよな・・・神崎の気持ちもわからんでもないが、出来れば交渉するなり穏便に済ませたいところだ・・・頼みの綱のシュレディンガーはちっとも連絡して来ないし・・・
そんな事を考えながら神崎のチアの練習を見ていると・・・
とぉるるるるるる、とぉるるるるるる、
傍に置いてあった携帯が鳴り出した。表示にはシュレディンガーと出ていた。
・・・やっとか・・・随分遅かったな・・・
ガチャ
『ちわーっす、大尉。聞きたいことがあるんですけど。』
「・・・こっちもだ・・・何の用だ?」
『実はあって欲しい人がいるんです。多分今後の活動に関わると思うんで・・・』
「・・・魔剣か?」
『え?知ってるんですか?』
「・・・親父の極秘情報・・・」
『そうですか・・・とりあえず近いうちに会ってもらいたいんで暇な時間を教えてください。』
「・・・今日の夕方・・・仕事が終わったら連絡する・・・じゃあな」ピッ
そう言うと大尉は電話を切る。
「誰からの電話?」
一瞬神崎に魔剣の事を話さない方がいいと思ったが、やはり話しておいた方が後で揉めないと思い正直に話した。
「・・・シュレディンガーからだ・・・魔剣と接触したそうだ・・・」
その瞬間の神崎の顔ったらない、「大チャンス!」みたいな嬉しそうな顔だ・・・
「場所は!?今すぐ魔剣を逮捕するわよ!」
「・・・いや、神崎は来るな・・・」
・・・こいつは実力行使しすぎる・・・交渉して自首させられる奴も出来なくしてしまう・・・
「!?バカキンジなに言ってんのよ!魔剣をみすみす逃すつもり!?」
「・・・お前は手が早すぎる・・・俺があって司法取引して来るから何もするな・・・」
「そんなこと言って!逃げられたらどうする気よ!後悔しても知らないわよ!」
「・・・何とかなるさ・・・俺を信じろ・・・」
「〜〜〜っつ!わかったわよ!バカキンジなんてどうなっても知らないんだから!」ゲシッ!
そう言うと神崎は怒り心頭と言った様子で大尉の足を踏みつけ、頬を膨らませてどこかへ行ってしまった・・・
・・・まあ、これで話している最中に邪魔されることはないだろう・・・
とりあえず神崎も行ってしまったので大尉は練習をやめて、踏まれた足を引きずりながら教室へと向かうのだった。
放課後・・・
頼まれた仕事を片付け、シュレディンガーと連絡をとり、空き地島に行く事となった。
・・・しかし魔剣か・・・どんな奴かわからんな・・・名前からして剣を使ってそうだが・・・まあ、上手く行けば戦わずに済むかもしれん・・・ここが俺の腕の見せ所だな・・・
そんな事を思いつつ、指定された場所・・・空き地島に到着した。
いつもと変わらず風力発電の風車が回っている・・・その中の一つの下に人影が見えた。
・・・一人はシュレディンガーだな・・・横にいるのが魔剣・・・ん?あれは・・・
「貴様がシュレディンガーの言っていた遠山キンジか?」
現れたのは白い髪をアップで束ねた女だったのだ。
「・・・ああ・・・お前が魔剣か?」
「魔剣と言うのは他人が勝手に付けた名前だ、私の名前はジャンヌ・・・ジャンヌ・ダルク30世だ。」
・・・・・・・・・はあ?
「・・・お前は何を言ってるんだ。」
ジャンヌ・ダルクってかなり昔に死んだ偉人だったはず・・・確か火刑に処されて死んだんだっけ?
「あれは影武者だ。」
・・・今歴史を覆すことをサラッと言われた・・・
「・・・まあいい・・・で、何の用だ?・・・まさか世間話をしに来たわけではないはずだが?・・・」
「そうだな、では単刀直入に聞こう。イ・ウーに入る気はあるか?」
「・・・」
・・・やはりそう来たか・・・
「シュレディンガーから聞いたがお前もかなりの実力者らしいな?武偵殺し・・・峰理子を倒したのもお前だとか・・・それ程の実力をただの武偵として終わらすのは惜しい。どうだ?」
「・・・そうだな・・・ではジャンヌとやら、司法取引をして欲しい。」
「司法取引?何と何をだ?」
「・・・神崎かなえ・・・と言う人物は知っているな?」
「ああ、プロフェシオンが我々の罪を着せた武偵だな・・・まさか、彼女の冤罪を晴らしたいのか?」
「・・・物のついでだ・・・どうする?取り引きするか?」
「・・・では、条件を飲めば貴様はイ・ウーに入るんだな?」
「・・・俺は入らん・・・だが何か合ったらありったけの支援をすると約束しよう・・・」
・・・事実、イ・ウーには既にシュレディンガーを潜入させている・・・これ以上イ・ウーに送る必要性もなければメリットもない・・・
「むっ・・・」
大尉の反応を見たジャンヌは一瞬、むすっとするが考え直したようで・・・
「・・・仕方ない、では諦めるとしよう。」
「・・・案外、諦めが早いな・・・」
「引き際が早いのは良い策士の秘訣だ。シュレディンガーもわざわざ付き合ってくれてすまなかったな。」
そう言って彼女は夕日の沈みかけた空き地島を後にした・・・
その帰り道・・・大尉とシュレディンガーは並んで学園島の歩道を歩いていた。
「・・・しかし、なんでスーツにしたんだ?」
「イメチェンですよ、なかなかいけてるでしょ?」
シュレディンガーのスーツ姿・・・真っ黒なスーツに白いカッターシャツ、そして前世で付けていたような紺色のネクタイをしめている。顔が元々美男子のためしっかりとした格好をすればここまで見てくれが良くなるのがよくわかった。
「・・・しかし・・・シュレディンガーにも彼女か・・・」
「ボフアッ!?」
突然の大尉の発言にシュレディンガーは飲んでいたコーヒーを盛大に吹いた・・・大尉に向かって。
「うあ・・・コーヒー飛ばすなよ・・・ハンカチ貸せ・・・」
「ゲホッゲホッ!いきなりそんな事言うからですよ・・・僕とジャンヌさんはそんなんじゃあないんですよ」
そう言いながらシュレディンガーは手に持っていたハンカチを大尉の手元に瞬間移動させる。
・・・あーあ、コートがビショビショだ・・・シミになっちまう・・・
「・・・そうか・・・なんだ、つまらないな・・・じゃあ何もしてないのか?」
「そうですね、少なくとも僕からはアプローチしてませんね。」
・・・絶対嘘だ・・・さっきのジャンヌとやらは会話中チラチラとシュレディンガーの事を見ていた・・・だがシュレディンガー本人に気付いている様子はない・・・って事は・・・
「・・・・・・・・・まあいい・・・頑張れよ・・・」
「?」
同時刻 高層ビル屋上
『・・・アリアさん・・・ターゲットを見つけました・・・』
「ありがと、そのまま監視を続けて。」
ビルの屋上から魔剣がホテルに入って行くのを確認して、神崎は微笑んだ、
やっぱりバカキンジの後をレキにつけさせてて正解だったわ!のこのこと魔剣が出てきた、後はこっちの物よ!
奴を必ず捕まて、ママの冤罪をはらしてやる!そんでもってバカキンジには後でたっぷり説教してやるんだから!
ホルスターには2丁のガバメントが光っていた・・・
さあ盛り上がってまいりました・・・さてどうなることやら・・・
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