モンスターファーム・キルジョーカー   作:標準的な♂

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はじめての大陸対抗戦!(後編)

 ソンナ・バナナとの実戦トレーニングを経て、アルガスも大分完成されてきています。短命なモンスターは、その分初期能力が高い傾向があり、生まれたばかりの状態でもグレードD相当の能力を持っていることがあります。トレーニングには最適の相手でした。

 

 体も暖まったところで、まずはグレードDの予選大会を制覇します。通野心旺盛なブリーダーとモンスターが集う選抜大会ですから、どんな強敵が待ち受けているのかと身構えたのですが……

「きえろ ぶっとばされんうちにな!」

 足元がお留守です。

「二回戦でお前と当たる柘榴だ。そのうち忘れられない名前になるぜ。まずお前を殺す。次にあいつ。最後に俺が残り、魔界は真の闇の世界になるのだ」

 まだグレードDです。

「フフフ、怖いか?」

 怖くない方でした。

 以上、グレードD選抜の対戦相手は、 全員こんな感じでしたから、予選は難なく突破することができました。

 

 予選は順調でしたが、対するFIMBAの顔ぶれはそうそうたる面々でした。

 IMaとFIMBAの有名ブリーダーと、彼らが育てた各グレードのスター選手が、この場に一堂に会しています。

 ガルマッゾさんが居なかったら、とても場違いであったに違いありません。

 否が応にも強敵との戦いを予感させました。

 

「あっ、ホリィさんだ」

 そこに居たのは間違いなくホリィさんでした。

 しかし、どのホリィさんなのかにより、対処法は大きく異なります。ホリィさんには大別して、三種類のホリィさんが居ます。

 まずは基本型である、われわれのよく知る、元調教助手で有名ブリーダーのホリィさんです。明るく元気な調教助手としてのホリィさんのお世話になったブリーダーの方も多いでしょう。

 二番目は、ムーとの戦いに巻き込まれているヒロインのホリィさん。基本型のホリィさんによく似ていますが、よく似た別人で、そもそもブリーダーでも調教助手でもありません。

 そして最後、ボーゴン地方を徘徊する、表情と目のハイライトが消えたホリィさんです。もし、一番最後のホリィさんであったなら、アルガスに勝ち目はありません。一番目のホリィさんが最もオーソドックスですが……

 

「ハートバクバクだぜ!」

「相手のモンスターはすごくゲンキだよ!」

 まさかの二番目のホリィさんでした。これはリベンジの良い機会です。ツノマル船長以下の出番しかなかった雪辱を、今こそ晴らすときです!

 わたしは安心しました。てっきり、三番目のヤバいホリィさんが出てきて、明らかに場違いな白い目玉に為す術なく殺されてしまうかと思いました。

 しかし、油断できません。マサラタウンによくいるこのタイプの子供は、非常に手強いのです。ゴーレムの竜巻アタックにも耐えうるタフネス、ディノの群れをも翻弄する機動力、鍛え抜かれたモンスターにも有効打を与える破壊力――これはむしろ、伝説の白い餅よりも厄介かもしれません。

「ガッツ全開だ!」

 また、こんな風に、突然ガッツが満タンになったりするので、ガッツ回復があまり早くないアルガスには荷が重い相手でした。

「主人公みたいな顔しやがって。絶対に主人公補正なんかに負けたりしない!」

 ゲンキは主人公です。アルガスとは違います。

 アルガスも奮起し、立派な騎士らしい発言をしていますが、それは蹂躙されるフラグのように思えてなりません。

「くっ……殺せ!」

 案の定、ゲンキのローラースケートからなる機動力に翻弄され、豊潤なガッツから繰り出される必殺の頭突きを受け、早速追い詰められています。ますます立派な騎士になっているようで、今は亡きお母様もきっとお喜びでしょう。

 なお、ゲンキは確かに初期能力のディノくらいなら頭突きで殺せそうですが、試合にかこつけた故意の殺人は、モンスターバトルではご法度なので、タオルを投げつけました。

 

 グレードDでの戦いは残念な結果に終わってしまいましたが、これで大陸対抗戦が終わりという訳ではありません。さらに上のグレードの戦いを見ることで、学ぶものも多いでしょう。滅多にない機会ですから、きちんとものにしなければなりません。

 

 グレードC。モンスターの資質を見極めるグレードと言われるランクです。グレードEとグレードDの壁はさほど厚くありません。ヒノトリ等の初期能力の高いモンスターなら、生まれたばかりでも、グレードDはなんとか戦えます。しかし、グレードCはそうはいきません。このことから、グレードDとグレードCを隔てる壁は厚いと言われています。

「ティンべーとローチンの基本戦術!」

「竜巻アタックか!」

 違います。ティンべーとローチンの基本戦術です。亀の甲羅のように丸みのある盾で攻撃を受け流し、短槍で攻撃するアレです。FIMBA側のブルーマウンテンの絶妙なボケは、やはりエンターテイメント性を感じさせます。

 回避に徹してチクチク攻撃するIMaのグレードC代表の戦術は、ゴーレムにとって苦手なもので、ここはIMAの勝利となりました。

 

 グレードBは、賞金の高さと、大会が開かれる頻度の高さから、賞金目当てのブリーダーが長くモンスターを留まらせているグレードです。しかし、それ故にライバルも多い、過酷なグレードでもあります。

「レロレロレロレロレロ」

「なんの! ベロビンタや!」

 気持ち悪いハンサム顔のお兄さんが、FIMBA側のスエゾーのベロビンタに打ちのめされています。可哀想に、幸運の女神に見放されたのか、マイク・タイソン以上のラッキーは発揮できませんでした。彼はスエゾーの歯でブヂュブヂュル潰されて、熱烈なキッスで吸い付かれてジャムになりました。

 

 グレードAは特別なグレードです。多くのブリーダーは、グレードAをグレードSの通過点に過ぎないと考えているようですが、ベテランブリーダーは違います。ガルマッゾさん曰く、このグレードはIMaとFIMBAに共通して、協会主催のインビテーションマッチ(特別招待試合)があり、協会の偉い人や一流のブリーダーに顔を覚えてもらえる機会が多いのだそうです。このため、ある意味において、グレードSよりも重要な位置と考える人も居ます。

「馬孟起がお相手致そう!」

 IMa代表はヨイモンの極みみたいな人、もといモンスターでした。派手な鎧は、まさに生まれながらのスターであることを示しています。頭はあまり良くなさそうですが、その分、力と技は比類なきものに違いありません。

「じかに切り刻んでやるわ! ヒャーッハッハッハッハ!!」

 対するFIMBA代表は、全然心を入れ替えていなかったアルデバランでした。こちらはワルモンの代表とも言うべき邪悪なオーラを身にまとっています。刻命館の契約の証には、見覚えのある値札が張ってあり、憐憫の感情を呼び起こします。きっとベルデおばちゃんから買って来たのでしょう。

 もちろん、悪が栄えた例はありません。心を入れ替えてないアルデバランの技が、ロングソードを素人っぽい構えで振り回すくらいしかないことが大きいのでしょう。まあ刻命館で一番弱い敵なので仕方がないですね。

 

 

 そしてグレードS。一切の虚飾が通用しない、モンスターバトルの最高峰。そこに平凡なモンスターは一切なく、ありふれたバトルもありません。グレードSのモンスターといえば、モンスターバトル界のトップスターであり、グレードDとは次元が違います。

「おおっと、試合が始まってしまいました!」

 そう、グレードSの戦いは、この大陸対抗戦を締め括る戦いで、会場に集まった全ての観客が、最も見たかったものです。実況の方の興奮も極まっています。

「ナギッペシペシナギッペシペシハァーンナギッハァーンテンショーヒャクレツナギッカクゴォ ゲキリュウデハカテヌナギッナギッゲキリュウニゲキリュウニミヲマカセドウカナギッカクゴーハァー ンテンショウヒャクレツケンナギッハアアアアキィーンホクトウジョウダンジンケン」

 先手をとったのは、FIMBAの代表でした。

 それはグレードA以下との隔たりを感じさせる、モンスターの中のモンスター同士の戦いでした。流石はグレードS、モンスターバトルの最高峰の名に恥じない、ハイレベルな戦いです。

「ムムッズサーズサーズサーズサーズサーズサーズサーズサーズサーズサーズサー ズサーズサー ホァイムッズサームムッビシィシャンシャンムッシャンズサーズサーシャンムッホァイフォンフォ ン デーンデーンデンデーレーレーデレレデレレデレデレデレデー キシンリュウオウギ!デヤァホァイホァイホァイホァイデヤァホァイデヤァ」

 しかし、IMa代表の反撃は、もっと強烈でした。

 凄すぎて、常人には何が起きたのかわからない戦いです。集まった観客の中に、この戦いの凄まじさを本当に理解している者が、果たしてどれだけ居るでしょう?

「うーん、やっぱりブリーダーのレベルも、ぼくが現役の頃よりも上がってるね。良いことだよ」

 元々ベテランブリーダーのガルマッゾさんでも、こう言うくらいですから、モンスターバトル界も年々魔境になりつつあるのでしょう。

「ヴォー」

 決着はK.O.でした。試合開始からここまでの間は、実に三十秒にも満たない、ごく僅かな時間でした。しかし、これほどまでに中身の濃い三十秒は、そうそうありません。

「凄すぎる! 異次元のプレイ!」

 激しい、そしてレベルの高い戦いでした。対抗戦の予選で出てきた、足元のお留守な彼の気持ちがよくわかる、超スピードの戦い。まさに異次元のプレイです。モンスターとはここまで強く美しくなれるのかと思うと、もはや驚きを通り越して感動さえ覚えます。

 

 グレードS。一切の虚飾が通用しない、モンスターバトルの最高峰。そこに平凡なモンスターは一切なく、ありふれたバトルもありません。そして、わたしたちの目指す高みでもあります。

「にゃははは! アルガスも、いつかはああなるんだよ!」

「あんな風になれるよう、アルガスも頑張らないとね!」

「嫌だ! 母さん助けて!」

 ガルマッゾさんは、駄々をこねるアルガスを引きずって、帰路につくのでした。

 

 


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