ある日、私たちのもとにパブス先生が訪ねてきました。
パブス先生は知らない人のいない名ブリーダーです。身体に白いペンキを塗った目立ちたがりやのモッチーを相棒に、IMaの頂点を極めた、生ける伝説です。
「グレードDの代表になってみんか?」
パブス先生の用件は簡潔でした。そう、二大大陸対抗戦の予選の案内です。
「アルガス、これは有名になれるチャンスだよ! 活躍すれば、向こうの大陸にも名前が売れる。サダルファス家再興にまた一歩近付くね!」
そう、二大大陸対抗戦で活躍すれば、別の大陸にまでその名を轟かせることになるのです。名誉欲の塊であるアルガスには、もってこいの大会と言えましょう。
「お、オレが、世界的なスターに……」
わたしはいつものようにアルガスを焚き付けます。
「にゃはははは! FIMBAでも有名になれるよ! やったねアルガス!」
ガルマッゾさんも後押ししてくれています。滅多にない珍しいイベントに、ピンク色の芋虫のような身体をくねらせて、喜びを表現しています。
「でもガルマッゾさん、選抜大会まであんまり時間がないよ」
「そうだね。あまり無茶なトレーニングはできないかな」
「そこでなんだけど、この前の公式戦の賞金でお買い物なんかどうかな?」
「良いね!」
そういうわけで、わたしたちは最寄りのアイテム屋さんへ向かいました。
「あら、いらっしゃい!」
この人は、アイテムショップのベルデおばさんです。昔はかなりの美人さんだったと、もっぱらの噂です。
「そっちのブリーダーさん……ああ! 前のバトルGP会長さんにそっくりだわ!」
「にゃははは、ガルマッゾだよ」
「やっぱり! ガルマッゾさんだね!」
やはりモンスターバトル協会の会長さんともなれば、メディアへの露出も多いのでしょう。下手なブリーダーよりも有名なのは間違いないです。ブリーダーとしても有名な人でしたから、尚更です。
「何かオススメの商品はありますか?」
「そうねえ、この前、なんか変な腕輪を仕入れたのだけど」
どう見ても刻命館の契約の証でした。アルデバランが心を入れ換えたという話は本当だったようです。
しかし、今は不要のものです。モンスターを直接強化したり、体調を整えたりするのには役立ちません。そのうち世界征服がしたくなったときにでも買いましょう。
「そこの紫色の星形の石は?」
「これかい? マデュライトっていう石らしいけど……」
「マデュライト?」
ベルデおばさんも、この星形の石については、よく知らないようでした。
それについて、ガルマッゾさんが説明してくれました。
「マデュライトはね、マ素がいっぱい含まれている石だ。マ素はモンスターの力の源なんだ」
「そうなんだ。じゃあ、小屋に置いておくと、モンスターも元気になるかな?」
「是非ともそうしよう! マ素をいっぱい浴びると、ぼくみたいになれるしね」
「じゃあいいです」
ガルマッゾさんはブリーダーとしては尊敬していますが、あんな風になりたいかと言われれば、それはノーです。
チラシの「激安激ヤバ即ゲット」という言葉に偽りはありません。確かに激ヤバです。ガルマッゾさんみたいなのが増えるなんて!
「もっとこう、何かモンスターの育成に役立つアイテムは無いですか?」
「そうそう、そうよね! 今日は新しい商品を入荷したのよ」
「最近流行りのソンナ・バナナだよ」
ソンナ・バナナ。それは寿命が伸びたり縮んだりする不思議なバナナです。究極のモンスターを育てるために、長い寿命を獲得させようと、モンスターにたくさん食べさせる育成が流行っているらしいです。きっと、今年のグレードSの大会は魔境になっていることでしょう。
しかし、ベルデおばさんは何か勘違いしているのか、さし出したのは、バナナっぽい外見のナーガ種のモンスターでした。そんなバナナ!
後でモンスター図鑑を確認してみると、これは本当にソンナ・バナナという、珍しいナーガ系のモンスターのようでした。よって、間違ってはいません。
これはこれで、模擬戦等のトレーニングには、ちょうど良いかもしれません。
初めてのお買い物にソンナ・バナナを持ち帰り、私たちは帰路につきました。