アルガスが無事にDランクに昇格した、翌週のことでした。
「チュパチュパ……」
恒例のミルクもどきの哺乳瓶に吸いつくアルガスを、生温かく見守りながら、グレードC以降も戦い抜くための育成計画を練っていました。
「そろそろ修行なんかどうかな?」
「うーん、ちょっとお金のことを考えると厳しいけど、新しい技はほしいところだよね」
「すみませーん、モンスターの修行の件で来たんですけど」
この横ロールのおじさんは、修行地管理事務所のエロゥさんです。相手ブリーダーの社会的地位に応じて態度を変えることで有名です。
「な、おま……ぎぎ……のブリーダーさ……ぎぎ……は人間じゃ……ぎぎ」
エロゥさんは反応に困っています。ガルマッゾさんはブリーダーランクこそ初段ですが、同時にモンスターバトル協会の元会長でもあります。
ただ単にガルマッゾさんの姿を見たことによる正気度ロールに失敗して、1D20の正気度を失ったのかもしれません。
「ああ、そうそう。今、修行地は危険なノラモンがいるからからね。その名も……三獣神」
結局、プラスマイナス0と判断されたのか、四段くらいと判断されました。
それは良いとして、聞き捨てならないことを聞きました。
「三獣神!?」
三獣神といえば、かつてモンスターを司ると言われたカオスドラゴン、カオスリッパー、カオスデュラハンの三体のことです。いずれも神のごとき力を持つとされています。
「まあ、主にカウレア火山で被害報告が出とるから、そこを避けれ良いんじゃないか?」
「わかりました。どのみち今はカウレア火山に行けないですからね」
カウレア火山は過酷な修行地で、グレードB以上のモンスターにしか解放されていません。その過酷さのために、超必殺技を編み出すのに最適な修行地でもあります。
「じゃあ、修行地を選んで」
「ガルマッゾさん、何処にする?」
「パレパレジャングルかな。アルガスはゴーレムとかが苦手そうだから」
ガッツダウン技を覚える、パレパレジャングルでの修行を選びました。
パレパレジャングルは、古代に栄えた王国の遺跡があり、マンゴーで有名なカララギと比肩する大密林です。パレパレ記念という大会もあります。
そして一ヶ月後のことでした。
「アルガスは新しい技を覚えてきたみたい!」
一回りたくましくなって帰ってきたアルガスに、ガルマッゾさんもたいそうお喜びのようでした。
「死ぬも生きるも剣持つ定め……地獄で悟れ! 暗の剣!」
「うわぁ……」
アルガスは恥ずかしい決め台詞と共に剣を降り下ろしました。紫色の光を放つ刃が、相手のガッツを奪う技のようです。
「なかなかキツそうな技だね……」
それはワル技会場のヒールに相応しい技でした。デスナイトの暗黒剣なので、ヒールの技なのはしょうがないでしょう。
「にゃはははは! これでギャラリーの視線の釘付けだね!」
こうしてアルガス初めての修行成功に終わりました。