アルガスを連れてファームへとやってきたわたしたちは、まず今月のアルガスのエサを決めることにしました。
「アルガスは何が好きなのかな?」
ガルマッゾさんの質問に、わたしはモンスター図鑑を参照しながら答えました。
「アルガスの好きなものはニクもどきだね。嫌いなものはじゃがもどき」
「じゃがもどきは動物用のエサだからねえ。モンスターは動物扱いされるのが嫌いだし、アルガスはプライドだは人一倍高そうだから、なるべく避けたいなあ」
「でも、ニクもどきはごちそうだよ。お金がないときにはやめた方がいいね」
「じゃあ、ここはミルクもどきかな」
ミルクもどきは、生まれたばかりのモンスターに最適な栄養食です。安価なので重宝しますが、ある程度年をとったモンスターは嫌うみたいです。
ジョイにミルクもどきを預け、アルガスに与えました。
「チュパチュパ……」
良い年こいた青年が哺乳瓶に吸い付く様は、なかなかクるものがあります。ちょっと近づきたくないモンスターだね、というホリィさんの言葉が思い起こされます。
「さ、エサの時間が終わったらトレーニングだよ」
「そうだね。アルガスは丈夫さが低いみたいだから、今日は丸太受けにしよう」
丸太受けは、太い丸太で殴打して丈夫さを鍛えるトレーニングです。研修時代に一度見ましたが、どう見ても虐待でした。
「か…… かあ……さん…… た……たすけ……て ……」
ものすごく嫌そうです。死ぬほど嫌そうです。無理もありません。駆け足やドミノ倒し等とは違い、命に関わるトレーニングです。
「クエーッ、クエーッ!」
わたしの相棒のジョイ(トレーニングの監督もできるゴッドバード)が、無慈悲にもトレーニング開始を宣告します。
迫りくる丸太が、アルガスに襲いかかります。ゲル種やモノリス種のような丈夫なモンスターや、ドラゴン種やゴーレム種のような体格の良いモンスターには良いかもしれませんが、逆にピクシー種やハム種のようなモンスターには、下手をすれば死ぬんじゃないかと思いました。
「ヒイッ!」
アルガスは丸太を華麗に避けました。回避が鍛えられたように見えますが、気のせいでした。
「アルガスったらトレーニング中にズルしたよ!」
「まあ、最初は恐いよね、丸太受けなんて」
しかし、それから一週間後になっても、丸太受けは頑なに嫌がります。
「アルガスったらまたトレーニング中にズルしたよ!」
「ドルマドン!」
「ぎゃああーっ!」
ガルマッゾさんが呪文を唱えると、黒い雷がアルガスを打ちました。アルガスは焦げてアフロになりました。
「最初とはいえ、トレーニングをサボりがちだったからねぇ。来月はじゃがもどきだね」
ガルマッゾさんもお怒りのようでした。
「家畜に……神は……」
「アルガスは反省したみたいだね」
丸太受けばかり強要して、その度にガルマッゾさんのお仕置きを受けていたアルガスは、勇気を打ち砕かれ、翌月の頭には途中でニワトリになる奇病にかかってしまいました。しかし、肝心のトレーニン一向に上がる気配がありません。
「うーん、どうやったらやる気になってくれるのかなぁ」
「図鑑をもうちょっと読み込んでみるね。何かないかな……あっ」
わたしは図鑑に気になる記述を見つけました。
生まれたばかりのモンスターにも過去の経歴があります。例えばマジン種のアルデバランというモンスターは、悪いことばかりしていたけど心を入れ換えたという話ですし、ピクシー種のジャンヌは過去の戦いの記憶持っていると言われています。
アルガスも例に漏れず、亡霊騎士になる前は、御家再興をを目指していたそうです。
「アルガス、大会で人気を集めて名声を集めれば、サダルファス家の再興も夢じゃないよ」
「なんだって! それを早く言ってくれよ!」
アルガスはニワトリから元の姿に戻りました。わかやすい奴です。ウィオラさんか言っていたことを思い出しました。
「ガルマッゾ! オレを大会に出してくれ!」
「おっ、やる気が入ったようで嬉しいよ! 今月末には公式戦があるね。まずは腕試しに参加してみたらどうかな?」
アルガスを上手いこと丸め込んだわたしたちは、月末の公式戦に向けて、気持ちを新たに頑張ります。