さて、五五〇〇トン級の軽巡洋艦を育てるのは初めてです。調教助手の講習でも、軽巡洋艦タイプのモンスターの育て方についてはレクチャーされませんでした。つまり、今回のモンスターの育成については、何もかも手探りの状況から始まりました。
「那珂ちゃんは何を食べるのかな?」
「とりあえず、生まれたばかりだし、ミルクもどきかな」
「生まれたばかりのモンスターだもんね」
わたしはジョイにミルクもどきを持たせて、那珂ちゃんに与えました。ジョイがモンスターにエサやアイテムを与える攻撃は、心なしか艦上爆撃機の攻撃に似ていました。
「ロケ弁ですね!」
違います。ミルクもどきです。
「いただきまー……敵戦闘機見ゆ!」
また、自分の上を飛ぶジョイの姿に、那珂ちゃんは反射的に機銃を構えました。
那珂ちゃんはあんなキャラクターですが、あれでも軍艦の記憶と魂を受け継いでいるので、自分の上を飛ぶものは全て毛唐の航空戦力に見えるのかもしれません。
機銃の掃射を回避しながら、ジョイは任務を達成しました。
「チュパチュパ……」
那珂ちゃんは哺乳瓶に吸い付いています。アルガスよりはマシな光景に見えるのは、きっと気のせいです。こういう光景を見るに、軍艦とアイドルの兼任は大変だと思いました。
「そういえば、今月の半ばにアルテミス杯があるね」
「ありゃ、もうそんな季節か。すごろく好きの地獄の帝王は育てたことがある(※)けど、五五〇〇トン級軽巡洋艦は初めてなんだ」
「地獄の帝王はあるんだ……」
何食わぬ顔で地獄の帝王を育てたと言ってのけるガルマッゾさんは、流石は元バトルGpの会長職をされていただけのことはあります。
こうして育てることになった那珂ちゃんですが、近々アルテミス杯があるようでしたので、試しに出場させようということになりました。
ちょっと忠誠度に不安がありますが、グレードEの那珂、もとい中では期待のルーキーが集まりがちな大会ですから、これに優勝すれば、那珂ちゃんの才能が確認できることでしょう。
最初の対戦相手はマジン種のモンスターのように見えました。少なくともヒューマノイドタイプのモンスターには違いありません。事前情報によれば、かなりのワルらしいです。
「これから毎日家を……おがっ、おがっ、おががっ」
14cm単装砲の直撃により、悪い人間は殺されました。断末魔の刹那に、一つ目の異形の怪物としての正体を現しました。ジュラル星人、お許しください!
第二試合の対戦相手は、アモンと呼ばれる強大なデーモンに若干似たところのある何かでした。
「滅びろ、デーモン!(棒読み)」
しかし、似ているだけの何かだったので、さほどの警戒は無用のようです。まあ本物のアモンがグレードEなんかに甘んじているはずがないので当然ですね。
「ほあーん!!(棒読み)」
14cm単装砲の直撃により、忌まわしき歴史は滅びました。
そして第三試合。お互いに勝ち星は二勝なので、これが決勝戦です。その対戦相手は……
「アルテミス像はお前にはまだ早……うっぎゃああっ!」
14cm単装砲の直撃により、やわらか銀行社の回し者はミンチになりました。次の犬はきっと上手くやるでしょう。
結論を言うと、那珂ちゃんはかなり強力なモンスターでした。鍛え方の足りないモンスターは、14cm単装砲の直撃を食らうと、究極神拳の如く自動的に挽き肉になるので、グレードCくらいまでなら十分でしょう。基本的に一撃でK.O勝ちです。回避能力や丈夫さもそこそこ高く、命中率を補ってやれば、かなり上のランクを目指せるのではないでしょうか。
「わーっ、那珂ちゃーん!」
「空母レシピで出ないでくれーっ!」
「こっち向いてー!」
「那珂ちゃーん! そんなことよりわたしと夜戦してくれーっ!」
「クルル様ー! イアー! イアー!」
若干名の提督や五五〇〇トン級軽巡洋艦、見当違いのアイドルのファンのインスマス生まれっぽい方等が混じっていますが、アルテミス杯で三試合連続K.O勝ちの快挙を成し遂げたことにより、人気爆発の気配が見え始めています。これは幸先の良いことで結構です。
「ファンのみんなー! いつもありがとー! PS2以降のモンスターファームがつまらなくっても、那珂ちゃんのことは嫌いにならないでください!」
心配しなくても、ウィオラさんみたいにブリーダーと提督を現役で兼任されている方は少ないと思われますので、たとえPS2以降のモンスターファームがつまらなくっても、那珂ちゃんのファンをやめる方はおられないでしょう。
なお、普通の魔法使いみたいにうふうふ言っていたお色気担当のピクシー種が、ブーンブーンと羽音を鳴らす昆虫に成り下がったPS2以降のモンスターファームには、確かに賛否両論あるでしょうが、そもそもの当事者であるわたしからのコメントは控えさせていただきます。
「いやあ、思った以上だったね」
「これでアルガスよりも性格に癖がないと良いんですけどね」
まさかアルガス以上のワルということはないでしょうが、ピクシー種くらいのワガママは覚悟しておいた方が良いのかも知れまん。
※カルマッソ博士は原作の時点でエスタークを配合で作りましたが、面倒が見切れなくなって研究所に封印しています。