モンスターファーム・キルジョーカー   作:標準的な♂

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二匹目
二匹目


 アルガスを引退させて次のモンスターを育てるべく、またマーケットへ足を運ぶことになりました。

 フェニックスとの戦いの後遺症の度合いから、アルガスはあと一試合が限度だろうと申告されました。高名なお医者様でもあるガルマッゾさんが言うのですから、間違いはないのでしょう。

 アルガスの引退試合については、また後日お話しすることとしましょう。

 アルガスは工房で冬眠させています。

 

 

 

「いらっしゃいませ!」

 ウィオラさんのマーケットには、同じ顔の人が三人並んでいます。どれもアイドルみたいな格好です。

「艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー! よっろしくー!」

「艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー! よっろしくー!」

「艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー! よっろしくー!」

「そこに三匹の那珂ちゃんがおるじゃろ」

「いりません」

 本来ならオールシーズンで在庫があるモッチーやロードランナーさえも駆逐してこの体たらくです。軽巡のくせに駆逐しています。なんということでしょう。

「どうしたんですか。いつもいるモッチーやロードランナーすら居ないじゃないですか」

「実は翔鶴と瑞鶴が欲しくて、再生するときに弾400燃30鋼600ボーキ30をお供えしたのだけど……」

 最近は円盤石に封じられたモンスターを再生するだけでなく、魔導書に書かれた呪文を用いて儀式を行い、モンスターを召喚する方法もあります。ウィオラさんも、最近ではマーケットの在庫をそうやって調達しているようでした。

 円盤石だと無理ですが、魔導書による召喚であれば、何かしらのアイテムを捧げることで、その成果に影響を与えられるとする説があります。モンスター合体における隠し味と、原理的にはよく似ています。上でウィオラさんが言っていたのも、その手法の一種です。

「それ戦艦レシピですよ。ボーキサイトが足りません」

 それでも全て那珂ちゃんとは恐れ入りました。ここまで来たら那珂ちゃん提督を目指していただきたいものです。

「ショウカクとズイカクなら、この前帰省したときに、近所のデスタムーアっていうお爺ちゃんの介護をしてましたよ」

 あまりに可哀想だったので、わたしは近所にいるデスタムーアというおじいちゃんのことをお話しして、彼女の欲しがっているショウカクとズイカクについての情報を提供しました。うまく飼い主に交渉すれば、譲ってもらえるかも知れません。

 

 デスタムーアさんは少し前まで、老いて益々盛んなるべしを体現する人だったのですが、数年前にパンツ一丁の変態に襲われて以来、心に傷を負い、急激に体と頭にガタがきています。もう長くないかもしれません。

「ガロエ村のデスタムーアさんね。早速ネゴシエイターを派遣するわ」

 ウィオラさんはそう言って、指をパチンと鳴らすと、のれんの奥からパンツ一丁の変態が姿を現しました。

「ズイカクとショウカクを連れてくるのだな? たやすいことだ……」

 ウィオラさんの放ったネゴシエーターは、パンツの他には兜とブーツ、それにマントのみを身に着けており、引き締まった肉体を惜しげもなく誇示する変態でした。肌はオレンジではなく灰色です。デスタムーアさんを襲った変態も、きっとこういうゲイっぼい変態だったのでしょう。こんな変態を派遣するあたり、よほど人手が足らないのでしょう。涙が出ます。

 

 このまま那珂ちゃんを育てても良いのですが、選択の余地が無いのは癪です。

「ガルマッゾさん、アルガスが円盤石を拾ってきたよね?」

「そうだったね! 何が生まれるのかな?」

「そういえば、ガルマッゾさんが言ってたけど、何か嫌な予感がするって……この前、ジョイの餌になったムーみたいなのが出るのかな?」

「うーん、再生の儀式抜きで復活しそうだったから、ちょっと危険な感じはしたけど、特に邪悪な感じではなかったかなぁ」

 この円盤石はアルガスの形見です。まあ引退しただけで死んではいませんが。

「この円盤石の再生をお願いします」

 神殿のチェーレさんにお願いして、円盤石からモンスターを再生します。

 さてさて、どんなモンスターが生まれて来るのでしょうか?

 光に包まれる円盤石を、じっと見守ります。無数の光の粒子が徐々に集まり、形を成していきます。一期は強い光を放つと、そこには新たなモンスターが誕生していました。

 

「艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー! よっろしくー!」

「……」

「……」

 これにはガルマッゾさんも苦い顔です。嫌な予感とはこのことだったのでしょう。

「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!」

 チェーレさんも苦い顔です。彼女は名状し難いうなり声を上げました。そしてその後、何か脳から重要なものが抜け落ちたかのように、大型艦建造で資材を溶かした人みたいな顔になって動かなくなりました。いつもは落ち着いた大人の女性なのですが、こうなってはおしまいです。

「これは運命的なものを感じるねえ」

「よろしくね、那珂ちゃん!」

 

 

 


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