ヤンデレの病弱妹に死ぬほど愛されているお兄ちゃんは蒼星石のマスター!   作:雨あられ

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第4話

「別に、水銀燈の好きに呼べばいいんじゃないか?」

 

というと、水銀燈はにやりと口をゆがめてとっても良い悪そうな笑顔を浮かべている。蒼星石はそんな…!とかなりショックを受けているようで、大げさに少しよろめいた。

 

「うふふふふ、聞いたぁ?蒼星石ぃ?」

 

「…マスターは優しいからね。それに、キミがマスターをどう呼ぼうが興味が無いよ」

 

「ねぇ、お兄さま……抱っこなさぁい?」

 

「っ!!?水銀燈!君ってやつは!」

 

くすくすと蒼星石のほうを見て挑発を続ける水銀燈。たぶん抱っこしろというのも本気で言っているわけではないのだろう。

 

「蒼星石」

 

「え?あ!」

 

蒼星石を抱えると優しく頭を撫でたくる。めぐが暴れたときに使うムツゴロウ作戦だ。

 

「よーしよしよし、蒼星石は良いこだなぁ」

 

「え。ちょっとマスター……も、もう」

 

そして、今度は優しく丁寧になでてやると、蒼星石はむくれていたが次には頭をこちらに預けて目を閉じて枝垂れかかってきた。可愛い。

 

「…ばっかみたぁい」

 

挑発に乗らなかったのが面白くなかったのか、水銀燈はふんと鼻を鳴らして腕を組んで拗ねた。

 

「ほれ、水銀燈も」

 

「え?きゃあ!?」

 

ひょい、っと水銀燈を抱っこすると、綺麗な銀色の髪をゆっくりと撫でる。

 

「水銀燈の髪も綺麗だなぁ。とっても柔らかいし…って、いて、いててておい、馬鹿やめろ!」

 

「うぅぅぅ!気安く触るんじゃないわよ!」

 

と叫ぶと羽が広げて次々と羽を飛ばしてくる水銀燈。ふにゃけた蒼星石を抱っこして部屋中を逃げ回るはめになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅん。人間って、しょーもないものが好きなのね。何にも面白くないわぁ」

 

「確かに、あまり面白いとはいえないね。」

 

「おきまりのネタや業界の人について詳しくないとわからないことも多いからなぁ。それに面白くなくても、コネや人柄でテレビに出れることは多いし。」

 

「そういうものなのねぇ、くだらないわぁ」

 

昼間、今、居間には、俺と蒼星石と水銀燈の3人で机を囲んでテレビを見ている。

あの後、仲直りのしるしに水銀燈には飲むか分からないが乳酸菌飲料を出してみたところ、すごく気に入り。「やるわねぇ、めぐのお兄様ぁ。」とお褒めの言葉をいただいた。そのあと両手で大事そうにヤクルトをちびちびと飲んでいた。足を動かして飲む姿はとても可愛らしい。

 

蒼星石もはじめこそ警戒体制で水銀燈を睨んでいたが、ムツゴロウ後はとても落ち着き、水銀燈に敵意がないと知ると普通に接し始めた。と言ってもまだ言葉には少し棘があるが…

 

トランプをしたり、テレビゲームをしたりするのだが、どっちが勝つにしても大抵二人の仲が悪くなり、喧嘩にもつれ込むのでやめた。なので、普通にテレビを見ていたが、水銀燈はあくびをして退屈そうにしている。蒼星石もあまり興味が無いのか洗濯物をたたんでいる。

 

「あら。今度はなにかしら。」

 

「あぁ、確か、名探偵くんくんとかいう人形劇だったな。チャンネル変えるか」

 

そう言ってリモコンに手を伸ばそうとしたとき蒼星石が凄く真剣なまなざしでテレビを見ている気がした。ふと水銀燈の方をみると、これまたじいっとさっきのお笑いバラエティ番組の百倍真面目にテレビを見ている。これは変えるわけにはいかないと、そう思い。しばらく視聴することにした。

 

『やぁ!みんな!いい子にしてたかな?名探偵くんくん、はじまるよ!』

 

ご機嫌なBGMとともに始まるオープニング。犬の探偵が主役の推理もの人形劇で、結構動きが本格的だ。ん?ふと水銀燈の方を見ると、わずかに首を動かし、リズムに乗っているようだった。蒼星石も、膝にちょこんと置かれた手がとんとんとんと、OPにあわせて動いている。もしかして、二人とも、このテレビが気に入ったのか?番組中、くんくんを見るのも半分に、二人を観察してみることにした。

 

 

 

 

 

番組が始まる、ふうむ、くんくん探偵がパーティで盗まれたラビット婦人のパールリングとやらを取り戻すために、犯人を捜すことになったらしい。ばっと探偵服に身を包むと、きりっと犯人を見つける手がかりを探し始めた。しかし、そこに行き着くまでの間。水銀燈はあいつがあやしぃわぁ、とか、こいつもあやしぃわぁ。などといって、結局ほとんどの登場人物を疑っていた。そして、最後にぜんぜんわからないわぁといった結論に至ったようだ。

犯人探し中も何かあるたびに、後ろよ!とか、ふぅ、良かったわぁ。私の声が聞こえたのねぇなどと言ってすっかりのめりこんでいる。

 

蒼星石はというと、口に手をやり、なにやら真剣に犯人が誰か考えている風だった。だが、声こそ出さないものの、後ろに何かが居たときには口ぱくでなにやら叫んでいた。どうやらテレビを見るのは静かにするのが礼儀と考える派らしい。本当に生真面目なやつだ。はらはらと手を宙で動かしている蒼星石をナデナデしたい衝動に駆られたが。堪えた。

くんくんと一緒になって推理をしている姿は可愛らしいことこの上ない。

 

…まぁ犯人は正直、一発で分かった。泥棒イシカバゴエモンが来るという予告があって、登場人物にカバは医者のヒッポ先生しかいないんだから、まぁこいつだろう。

 

『犯人はあなただ!ヒッポ先生!!』

 

「う、嘘でしょぉ?あの親友の猫警部を手当てしてくれた先生が?」

 

「まさか」

 

そう高らかにくんくんが宣言すると、水銀燈は息を呑み、くっしょんを強く抱きしめおろおろしている。蒼星石のほうは、目を見開いて驚いている。外れたのか?蒼星石。

 

次々とヒッポ先生が犯人である理由を列挙していく探偵くんくん。それにしても、彼は探偵服を着る前は裸でパーティーに出席していたことになるのだろうか。他の人物は常に何らかの衣服をまとっているのに、不思議だ。

 

水銀燈はくんくんの言葉一つ一つをうんうんとうなずいて聞いているし。目、目が、何か目が輝いている…蒼星石も膝に手を置いて真剣に聞いている。そして

 

『てぃやんでぇ!ばれちゃぁしょうがねぇ!』

 

ヒッポ先生が、泥棒イシカバゴエモンだとわかったとたん。

 

「す、すごいわぁ。くんくんは天才なのぉ?」

 

「彼のアリバイを見抜く洞察力。只者ではないね。」

 

クッションを持って立ち上がる水銀燈。なお真顔でテレビを見続ける蒼星石。その後、イシカバは煙幕を使って逃げ出して、くんくんが。

 

『次こそ、捕まえて見せる!イシカバゴエモン!』

 

と言い放つと幕が落ちて番組は終了した。

 

クッションを抱いたまま、ぼーっとテレビを見つめる水銀燈と、うんうんと満足している風な蒼星石。

エンディングで皆が踊るシーンになると。あ!まだ終わってなかったのねぇ!と水銀燈が身を乗り出した。

 

エンディングの音楽に、蒼星石はわずかに首を横や縦ににふり。水銀燈にいたっては体を大きく動かしてリズムに乗っている。そして、音楽が終わるとふううっと二人とも息をついた。

 

「…面白かったな。」

 

二人が。という台詞は飲み込んでおく。

 

「!えぇ、そうねぇ、まぁ、まだ、ましってかんじかしらねぇ。でも、やっぱり面白くなんかないわぁ」

 

「ボクは楽しめたよ。マスター。犯人の見当はついていたけど、まさか、本当に先生が裏切るとは思えなかったんだ。でも、彼にも彼なりの事情があったのかも知れないね」

 

それぞれ、ばらばらの意見が返ってくるが、蒼星石は普通に満足して。水銀燈は大変気に入ったという所だろう。喋るときのポーズが、くんくん探偵の推理をしているときのそれになっている。

 

「来週もこの時間にやるらしいから、覚えておかないとな。」

 

「!!ら、来週もやるのぉ?ほんとに!?」

 

「ああ。」

 

「うふふふふ」

 

「次はちゃんと犯人を当てて見せるよ。」

 

とんでもなく良い笑みを浮かべる水銀燈と、次の推理に闘志をもやす蒼星石。

どっちもなんだか可愛いなぁ。

 

「その前に、DVDで今までの話を見ておくか?」

 

「DVD?なぁにそれぇ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ!危ないわぁ!くんくん!くんくん避けるのよぉ!」

 

「…」

 

声を張り上げてテレビの中のくんくんに危険を知らせる水銀燈と、真剣にくんくんを見ている蒼星石。まさか、ここまでいれこむとは。あれから一週間、ほとんど毎日のように水銀燈は遊びに来た。そう。俺がくんくんのDVDを借りてきて、1日1話放送すると言ったら。口ではなんだかんだ言い訳しながらも毎日家に来た。というか、もう最近はめぐと居ない限りずっと家に居る。

 

「そう、それでいいのよ。私の声が届いたのね。流石はくんくんよぉ」

 

「…」

 

そして、日曜に、この名探偵くんくんが上映される日には、水銀燈はとんでもなくはやく来てそわそわとし始める。しかし、決してくんくんが見たいとか、面白いとか、そういったことは言わない。ただ、そわそわとテレビと時計をちらちらと見比べているのだ。

毎日流すDVDの方も、全部一度に見ないで流す時間を決めたところ、その放送時間をかかれた紙の切れ端も大事に大事に持っている。

 

蒼星石も最近家事をしてくれるのだが、放送時間が近づくと、同じように時計をちらちらとうかがっており、どこか落ち着かない。そして、テレビが始まる十分前になると、急いで家事を終わらせて、ソファに行きちょんと俺の隣に腰掛けるのだ。

 

ちなみに、くんくんを見ているときの二人は凄く仲が良い。一緒に驚いたり、喜んだりしているところをみると、やっぱり姉妹なんだろうなぁ、と思う。

 

「すごいわぁ。まさか、ハリモグラ男爵が犯人だったなんて。」

 

「くんくんは……天才だね」

 

「当然よぉ。うふふふふふ。」

 

ほんと、こうしてずっと仲が良かったら良いのだけれどなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、大学も終わり、くんくんのDVDを借りて自宅に帰ると、なにやらわいのわいのと騒々しい。また蒼星石と水銀燈のやつが喧嘩でもしてるのかと思って。ドアを開けると。

 

「あら。お帰りなさい。お兄様?」

 

そこには、点滴を持って暗黒微笑を浮かべる般若が居た。

 


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