問題児と最強のデビルハンターが異世界からやってくるそうですよ?   作:Neverleave

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前回出てきたあの青コート……いったい何者なんダァーイ?

新年あけましておめでとうございます。
正月の準備やらなにやらで振り回され、なかなか書くことができない日々の連続でしたがなんとかやり遂げました。
とはいえ、ちょっと終わり方が中途半端な形になってるんだけど。
うーむ、まぁいいか(笑)

ではどうぞ。


Mission5・① ~大切なもの~

 ならず者や荒くれ者たちが集まるスラム街の一角。

 あちこちにそのままゴミが捨てられ、不潔な格好をしている大人たちが生気のない目でうろつくこの場所に、一人の少女が姿を現した。

 その少女はこの場所では場違いと思われるほど顔が整っていた。髪は黒くショートヘアーであり、白いワイシャツと太ももの中間までしかないハーフパンツを着て、赤いロングブーツを履いている。

 印象的なのはその目で、左目は燃えるような赤色をしているのに右目は深い青のオッドアイだった。

 少女は華奢で、しかも見た目は十代半ばといったところ。しかし、そこにいた誰もその少女に近寄ろうとはしない。

 なぜならその少女は、これから戦争でも始めるつもりなのかと思うほどの武装をしていたからだ。

 腰回りはハーフパンツが見えなくなるほどの弾倉入りのホルスター、そして背中に二丁の拳銃を携帯しており、左足にもマシンガンをベルトで固定している。

 何より目立つのはその肩にかけた、彼女の背丈ほどもあるロケットランチャー。

 ここに入るときの護身のためにしてはその装備は多く、そしてどれもが過剰なほどの火力を持った銃ばかりだ。

 周りの人間は皆、彼女を見て避けるように道路の端を歩くが、少女はそんな周囲の目などまるで気にしていないようにスラム街を歩いていく。

 

「……たしか、ここだったかな?」

 

 目的の場所に近づいてきたのか、少女は小さくそうつぶやきながら周りを見渡す。

 やがて少女はある建物を見つけると、そこを目指して歩いた。

 建物の目の前に立った少女は、扉を開け中に入ると、

 

「ダンテ、いる?」

 

 何でも屋、『デビルメイクライ』の店主である男の名を呼びかけた。

 しかし、どこからも返事はかえって来ず、少女は首をかしげる。

 

「……先客でもいたのかしら?」

 

 少女の名前はレディ。

 五か月前に起こったテメンニグルの塔の一件に深くかかわった人間の一人であり、若くしてデビルハンターとして活躍する少女である。

 かつて魔剣士・スパーダと共闘し塔を封印した戦巫女の末裔であり、彼女自身もその実力はずば抜けて高い。

 雑魚であれば何匹集まろうとも一蹴でき、上位悪魔にも引けを取らないその戦闘センスはダンテも評価しており、彼とはその後も何度か交流したことがある仲だ。

 今日も彼女は悪魔狩りの仕事を紹介するためにこうして彼の店を訪れてきたのだが……肝心のそのダンテがどこにも見当たらない。

 トイレやシャワーを浴びている様子もないし、どうやら不在のようだ。

 

「せっかく仕事持ってきたっていうのに、間が悪いわね」

 

 やれやれとため息を吐くレディ。

 こんなことを言ってはいるが実態は自分にやってきためんどくさい仕事を彼に押し付けてきただけである。

 仕事料はレディに流れ込み、そのうちのほんのわずかな金だけがダンテに入るというなんとも厳しいシステムであり、ダンテもこれを最初に受けたときは苦笑しながら「おまえ借金取りに転職すればいいんじゃねぇか?」なんてことを言ってきた。返事は「あんた専属ってことになりそうだけどね」である。

 つくづく彼には女運というものがないらしい。

 

 ――閑話休題。

 

「まぁ、また今度来ればいいかな」

 

 まぁ、普段は暇だ暇だと愚痴りながらピザとストロベリーサンデーを貪る彼でも、一件くらいは仕事がくることもあるだろう。

 たまたまこうして時期がかぶってしまったのかもしれない。

 そう考えた彼女は踵を返して店から退出しようとした。

 しかし。

 

「……あれ?」

 

 そこでふと、彼女は違和感を感じて足を止める。

 振り返って、彼女は店内を見渡した。

 あちこちに視線を移してみたが、レディが探すものは見つからない。

 店の奥にしまっているのかとも思って進み、いろんなところに探りを入れてみたが、やはりなかった。

 訝しげに眉をひそめ、レディは疑問の声を漏らす。

 

「――なんで魔具が全部ないの?」

 

 そう。ダンテがこれまで手にしていた魔具がどこにもなかったのだ。

 リベリオン。

 ケルベロス。

 アグニ&ルドラ。

 ネヴァン。

 ベオウルフ。

 アルテミス。

 そして――魔剣・フォースエッジ。

 

 テメンニグルの一件で手に入れた魔具がすべて、どこかへと消えていたのである。

 もちろんダンテが悪魔退治のために持って行ったという可能性もある。しかし、それでもせいぜい持って行って二つのはずだ。

 一つだけでも雑魚相手ならば事足りるというのに、どれもこれもが強大な魔力を秘めた魔具……それら全てがごっそりと消え失せていたのである。

 

 いったい、どこへ?

 いったい、なぜ?

 

 多くの疑問符がレディの頭の中で浮上するが、答えは一向に見つからない。

 というかそもそも、ダンテは本当に依頼を受けて出張しているのか?

 それならば何かしらのメッセージを残していくのがセオリーだというのに、そんなものは店の扉の前にもどこにもなかった。

 そんなものを残すほどの時間もなかったのか? いや、そんな大事件が起こったのならこちらも情報網から知ることができるはず。

 

(なんなのよ、これ……)

 

 謎は深まるばかり。いよいよ怪しくなってきた。

 突如として消えたダンテ。

 それとともに姿を消したすべての魔具。

 首をかしげるレディはふとダンテの使っている机の上に目をやって、妙なものを見つけた。

 

「……? なにこれ」

 

 それは、乱暴に破り捨てられた封筒と、その中に入っていたと思しき一枚の手紙。

 レディはそれを手に取ると、広げて文面を読み上げた。

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

 その才能《ギフト》を試すことを望むのならば、

 己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、

 我らの箱庭に来られたし』

 

 

 

*******

 

 

 

「「「「「よろしくお願いします!」」」」」

 

 キーン、と耳鳴りがするほどの大声で大勢の子供たちが叫ぶ。

 その声量の大きさと声の高さから、まるで四人は音波攻撃でも受けたかのような感覚を受けた。

 

「ハハ、元気がいいじゃねぇか」

「いいね、やっぱ子供っていうのはこうじゃなきゃな」

「そ、そうね」

(…………。本当にやっていけるかな、私)

 

 本当に笑っているのはダンテと十六夜だけで、他の二人はなんとも言えない複雑な表情を浮かべた。

 それはそうだろう。いくら同じコミュニティメンバーとしてこれから協力していくのだとしても、子供たちから一斉に挨拶をされれば多少怯んでしまうものだ。

 

 

 白夜叉とのゲームから少し時間が流れて、ここはコミュニティ〝ノーネーム〟の本拠。

 あれからダンテを除く十六夜達は白夜叉にギフトゲームで挑み、勝利してからここへとやってきた。

 (他二人は不本意ながら)彼ら三人の代表を名乗り上げた十六夜曰く、「ありゃダンテを試すためにやったギフトゲームだ。俺らをまだあんたは試してねぇだろ、つーか暴れさせろ退屈だ」とのことである。

 前半部分の理屈なんぞぶっちゃけ取ってつけたようなものであり、後半のみが彼らの本音だ。

 白夜叉もそう言われることを予測していたのか、それとも彼らも同様に試すつもりだったのか、その準備を行っていた。

 彼女が十六夜達に設けたギフトゲームは、鷲の上半身と獅子の下半身をもち旋風を操るギフトを保持する幻獣、グリフォンを相手にする試練。

 〝力〟〝知恵〟〝勇気〟のいずれかを示し、彼の背に跨って湖畔を舞うとができれば勝利となるこのギフトゲームを買って出たのは耀だった。

 グリフォンと言葉を交わすことのできる耀は彼と語り合うことで己の勇気を示し、そしてその驚異的な身体能力を駆使することで見事にゲームをクリアして見せたのである。

グリフォンの背中に跨り、湖畔を舞うギフトゲーム。

 ただ聞けば簡単そうに思えるそれは、しかし実際はとても凡人にはクリアできない内容だった。

 空を飛ぶのグリフォンの飛翔スピードは凄まじいの一言であり、生じる衝撃波はそれこそ並の人間なぞ粉々になってしまう。また白夜叉のゲーム盤は冷気が立ち込めており、そんな場所の上空を疾風の如き速さで飛ぼうものなら体感温度はマイナス数十度にもなる。

 冷気、そして衝撃。この二つの難関で大抵の人間は敗北するのだ。

 だが……耀は超人的な身体能力を発揮することによって、見事このギフトゲームをクリアしてみせた。

 しかもそれだけではなく、ゲームクリア直後にグリフォンのギフトまで習得、扱って見せたのである。

 十六夜や飛鳥だけではなく、耀までもが人類最高クラスのギフトを持つ人間。

 現在でも強靭な力を持つ彼女が、この世界でどれほど成長するのか。

 いや、彼女だけではない。この『三人』は、どこまで強くなることができるのか。

 想像するだけでたまらなくなり、ダンテは笑いを必死にこらえなければならなかった。

 

 ――閑話休題。

 

 そんな楽しいゲームを行った後、黒ウサギに連れられてダンテ達はこれから世話になるコミュニティの本拠へと移動した。

 新しくやってきたダンテ達と、このコミュニティにいる子供たちのうちの年長者たちがこうして集い、彼らにあいさつをしているのである。

 その数なんと二十人前後。しかもこれでもたったの一部であり、本当は一二〇人もの子供たちがいるというのだから恐ろしい。

 飛鳥は彼らとの付き合いをどうやっていけばいいのかと戸惑っているし、耀に至っては子供が苦手だ。

 よって女性陣は声に当惑するばかりである。

 一方でダンテと十六夜はというと、こういったことが手馴れているためか全く動じていない。むしろ彼らを歓迎しているようだ。

 

「さて、自己紹介も終わりましたし! それでは水樹を植えましょう! 黒ウサギが台座に根を張らせるので、十六夜さんのギフトカードから出してくれますか?」

「あいよ」

 

 黒ウサギからの言葉を受けて、十六夜は懐からコバルトブルーのカードを取り出す。

 これは白夜叉とのギフトゲームで手に入れた〝ラプラスの紙片〟というギフトカードだ。一見ただのカードに見えるこれは顕現しているギフトを収納することができるというとても高価なものであり、この中に十六夜は水樹を入れていたのである。

 十六夜と黒ウサギは水樹を植える作業を行い、飛鳥と耀はその様子を見守っている。

 一方でダンテはというと、

 

「ねえお兄ちゃん、お兄ちゃんって強いの?」

「黒ウサのねーちゃんはすっごく強いって言ってたよ!」

「背中の剣で戦うの!?」

「うわっ、おっきな銃だ! 二つもあるよ、カッコイイー!!」

「すっごいなー! 見せて見せてー!」

 

 子供たちは皆、ダンテの方へと集まっている。

 十六夜達の中でもその派手な衣装と装備をしているダンテは特に子供たちの好奇心を刺激したらしい。

 瞬く間にダンテは彼らに取り囲まれることになったが、それらに対してもダンテは普段の態度を崩すことなく芝居がかった素振りで対応する。

 

「Hey kids、質問は一回ずつだ。親から教えてもらったろ? よぉし、オマエの質問は?」

「お兄ちゃんって強いの!?」

「ああ強いぜ。最近そのせいで手ごたえのあるヤツがいなくってね、退屈してたとこだ。で、オマエは?」

「他のお兄ちゃんお姉ちゃんたちとお兄ちゃん、どっちが強いの!?」

「圧倒的に俺だね。だけどあちらの方は成長次第でもっと強くなるさ、もちろん俺はそれよりも強くなるけどな」

「背中の剣と銃で戦うの!?」

「ああそうだよ。それもただ剣振って銃ぶっ放すなんて芸のないことはしねぇ。男ならサイコーにクールに、スタイリッシュにやんねぇとな」

「すっごい! お兄ちゃん、カッコイイだけじゃなくて強いの!?」

「そうとも。かっこよくて強い、無敵のヒーローだぜ」

 

 大袈裟な身振り手振りでダンテは子供たちから寄せられる多くの質問に答え、そのたびに喝采を受けている。

 どれもこれもが過大に誇張されているかのようなその回答を聞いた十六夜達は苦笑するしかない。

 

(ヤハハ、確かにあいつはメチャクチャ強いよなぁ……)

(悔しいけど……強さは彼の方が圧倒的ね)

(認めたくないけど……戦いぶりはクールでスタイリッシュ、かな)

(Yes、あれはまさに無敵のヒーローでした)

 

 決してそれが、事実無根の大嘘だからではなく。

 否定することができない本当のことだったからこそ、彼らはもう苦笑いするしかなかったのだ。

 しかしそれはある意味、嘘よりもタチが悪いのだが。

 

「お兄ちゃんカッコイイ! 将来お兄ちゃんみたいになりたいな!」

「今までどんなことしてきたの!?」

「悪いヤツをやっつけてた!?」

 

 ますますダンテに群がる子供たちは目を輝かせ、彼を尊敬の眼差しで見つめる。

 ……彼の私生活の実態を見て失望する者が、どれだけ出ることになるだろうか。

 そしてそれを真似しようとする愚か者がどれだけ輩出されることになるだろうか。

 歓声を聞きながらそんなことを考えると頭が痛くなってくる黒ウサギであった。

 

「HAHA、お子様たちにはまだそんな話は早いっての。あと、剣と銃だっけ? こいつらは大事なもんだからダメだ」

「「「「「ええー」」」」」」

 

 落胆を隠せず声を漏らす子供たち。

 一方で黒ウサギはそんな物騒なものを簡単に手渡さないでくれたことにホッとしていた。

 

「それにこいつら重いぞ? 剣どころか銃一丁だって大人でも片手で持てないんだからな」

 

 ホルスターからエボニー&アイボリーを抜き取り、クルクルと回転させながら子供たちに二丁拳銃を見せるダンテ。

 ただ銃を取り出す仕草だけでもそれがかっこよくて子供たちはワッと歓声をあげる。

 

(え? 大人でも持てない?)

 

 その言葉をウサ耳に挟み、不意に疑問を感じた。

確かに言われてみれば、ダンテの剣は鉱石から大きく抉り取ったような肉厚の鋼であるし、銃にしても大型のほうだ。しかもそれをまた重厚にしたような仕組みのようである。

戦っている最中にダンテはそれらを軽々と扱っていたが、実際はかなり重そうに見える。

 しかし、いくらなんでも大人が片手で持てないということがあるだろうか?

黒ウサギは作業をしながらダンテに訊ねてみた。

 

「そういえばダンテさん、その銃と剣ってどれくらいの重さがあるんですか?」

 

 質問されたダンテは銃を弄びながら首を傾げる。

 頭の奥底に沈んでいる記憶を掘り起こそうとしているようだ。

 

「いつだっけな? 知り合いがこいつら手にしたとき、やたら重たがっててよ、そんでそいつがはかりにかけたんだっけ……そんときは……」

 

 やがてゆっくりと思い出してきたようにダンテは言葉を選んで口から言葉を紡いでいく。

 

「たっしっかぁ……前に測ったときは……これ一丁が15,6ポンド、だっけ?」

「「「え」」」

 

 ダンテがそうつぶやいた瞬間、黒ウサギだけでなく会話の外にいた飛鳥と耀までもが驚愕することになった。

 皆、ハトが豆鉄砲でも喰らったような顔をして思わずダンテを見る。

 

「……えっと、16ポンドって……確か」

「……約、7㎏?」

 

 あまりに出鱈目な重量だ。

 デザインとしてかなり似通っている拳銃、コルトガバメントでもその重量は約1㎏。同経口であるマグナム、デザートイーグルが1,5~7㎏。50口径であっても2㎏だ。

 いや、そんなものではない。ロケットランチャーとして有名なRPG-7、あの発射台が7㎏なのだ。

 単純に考えれば、ロケットランチャーと同じ重さの拳銃ということになってしまう。

 そしてそれが二丁。

 両手で約14㎏の重量だ。一つだけでもそうだが、もうこれは二丁拳銃の重さじゃない。

 

「え、あの、その……そ、そうだ、剣はどうなんですか!?」

「リベリオンのか? えっとな……あ~そうだ思い出した。44ポンドだ」

「よ、44ポンドぉ!?」

 

 思わず黒ウサギは振り返って叫んでしまった。

 彼女に頼まれて水門を開けていた十六夜はそれを見て咎めるように声を上げる。

 

「おい黒ウサギ、さっきからうるせぇぞ」

「え、あ、すすいません! でも、あの! ダンテさんの銃が、剣が!」

「ああ、あれか。俺も持たせてもらったけどな、滅茶重てぇんだよなーあれ。いったいどうなってんだ?」

「重たいってもんじゃないでしょうこれは!?」

 

 思い返して十六夜はそんなことを淡々と告げるが、冗談ではない。

 それもそうだろう。44ポンドといえば、20㎏にも及ぶとてつもない重さだ。

 普通のロングソードが1,5~8㎏、人の身の丈ほどの長さであるツーハンデッドソードであっても3㎏がせいぜい。

クレイモアの中でも大きなものですら4,5㎏でしかない。

いや、これらはもう剣の中でもかなり重量がでかいほうにあたる。むしろ20㎏というのが異常すぎるのだ。

それを、この銀髪の男は平時装備し続けたまま歩き回り、戦う時はそれぞれ片手で、あそこまで自由自在に操ってしまうのである。

 

(((へ、変態……)))

 

 心の中で女性陣の声が見事にハモることになったが、そんなことは言った本人たちも言われた本人も知らぬこと。

 

「な、なんでそんなに重くしてあるんですか?」

「別に重くしてるわけじゃねぇよ。(こいつ)はなにでできてんのかわかんねぇがもとからこの重さだし、銃は俺がどんだけ乱暴に扱っても壊れないようにいろいろ付け足していったらこうなっちまったらしい」

 

 剣については謎のままだが、銃に関しては十六夜達は納得したように頷いた。

 戦いの中で見たが、ダンテの拳銃はもはや片手拳銃と呼んでいいものではない。

 あの連射速度ではもはやマシンガンだ。

 それにもともと銃口も大きいとなれば、普通のカスタマイズなどしたところで耐えられるわけがない。

 結果、本来の七倍というとてつもない怪物銃ができあがってしまったということだ。

 

「なるほど……って、あれ? その、『らしい』とは? ダンテさんの自作ではないのですか? なら、いったいどなたが……」

 

 ふと気になって、黒ウサギは疑問を口にしてみた。

 よくよく考えてみれば、ダンテのあの豪快な使い方をしても耐えられるようなカスタマイズというのは並の技術では決してできはしない。

 しかもダンテの世界は悪魔が出現するとはいえ、十六夜達のようにファンタジーなものなど何もない世界である。

 この箱庭の世界にある鉱石などからならまだしも、ただの鋼の組み合わせというだけでそれだけの耐久力を誇るものなどなかなか作れない。

 相当名の知れ渡った技工士につくってもらったのではないか。

 そう思うとちょっとワクワクして、黒ウサギはダンテに訊ねてみることにしたのである。

 ダンテは黒ウサギの問いかけを聞くと、昔を懐かむように苦笑いしながらそれに応えた。

 

「口うるさいお節介やきの婆さんのお手製だ。この世に二つとないカスタムメイドだっつってたよ」

「でしたらその方はとても優れた技術を持っているのでございましょうね。今もどこかで銃をつくっていらっしゃるのでしょうか?」

「……いや。もう作ってない」

「そうですか。それはもったいのうございますねぇ……」

 

 技術を持ちながら職から手を引いたその人材を惜しんでそうつぶやく黒ウサギ。

 ……とはいえ、仕方のないことだ。もう彼女は、銃を作ることができない。

 〝45口径の芸術家〟は、ダンテに最後の作品を託して、この世を去ったのだから。

 

「…………」

「お兄ちゃん、どうしたの?」

 

 ほんの少しだけダンテは悲しそうに俯く。それを見た子供たちは、不安げに彼を見つめた。

 だが、すぐにダンテは笑顔を取り戻して顔をあげる。

 

「なんでもねぇよ……ほら、水が流れるぜ? ちゃんと見ときな。きっと感動するからよ」

「うん!」

 

 子供たちに呼びかけて、彼もまた水樹が植えられる瞬間を見るべくその傍に近寄っていった。

 

「ふふっ……あ、そうだダンテさん。そのコートですけど、穴だらけじゃないですか。明日までになんとか修繕しますので、あとで渡していただけますか?」

「おっと、そんなに遠回しな言い方しなくてもいいんだが。俺に脱いでほしけりゃいつでもそう言ってくれりゃあ」

「言いません」

 

 今までにないほどの冷淡な口調で、ダンテは黒ウサギにバッサリとそう言葉を吐き捨てられることとなった。

 




え? 今回の話は前半以外別にいらないんじゃあないかだって?
いやその、あの、伏線と言うものがあってですねぇ(震え声)

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