問題児と最強のデビルハンターが異世界からやってくるそうですよ?   作:Neverleave

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祝日と言うことで調子に乗った私ががんばりましたよっと(`・ω・´)

もうね、書きたいときってほんとにいつまでも書いていられるよね。
素晴らしいと思います。こんなテンションがずっと続けばいいのに(´・ω・)

前半の戦闘、BGMはぜひこちらをお聞きいただきたい→http://www.youtube.com/watch?v=onwIcZt0-g4


Mission4・② ~白い夜叉からの試練~

「オオオオオオォォォォォォォォ!!」

 

 胸に突き刺さった大鎌を引き抜くと、迫りくる悪魔の軍勢に、余裕の表情で歩み寄っていくダンテ。

 怨嗟の声をあげて、ヘル=プライド達は一斉にダンテ目がけて鎌を振り下ろした。

 だがそれらは軽々と、紙一重のタイミングで避けられていく。

 傍から見れば、ただダンテは歩いているだけに見えた。それほどまでに彼の動きは小さく、そして華麗だったのである。

 そして最後の一匹が大鎌を振りかぶったその瞬間。

 

「ハッハァ!」

 

 ダンテは刃が刺さったままの右腕を振り、その刃でヘル=プライドを真っ二つにする。

 その次に肘鉄を背後の悪魔にくらわせ、怯んだところを左足で蹴り飛ばす。

 右から迫った一匹は大鎌付きの右足の踵落としをくれてやった。刃はヘル=プライドのうなじに深く突き刺さり、そのままダンテが足を思い切り後ろへやると悪魔は上空高く打ち上げられる。

 未だダンテの腕や足に突き刺さったままの大鎌の刃はそのままダンテの武器となり、周囲に群がる悪魔は次々と蹂躙されていった。

 

 負けじと悪魔はありとあらゆる場所から現れ、そして鎌を振り下ろす。

 やがて一匹の大鎌が、ダンテを確実に捉えその肉を抉ろうとした。

 しかし。

 

 

 ギャリギャリギャリィ!! と。

 

「オォ!?」

 

 ダンテが背中から取り出した白銀の大型拳銃、アイボリーによってそれは阻まれる。

 クルクルと手元で回転するそれは刃の腹と擦れ軌道をずらし、ダンテ自身も身体を反らすことで避けられてしまった。

 銃口はやがてヘル=プライドの口に突き付けられ、

 

 ガゥン!

 

 凶悪な発射音とマズルフラッシュが炸裂する。

 巨大な拳銃から放たれた45口径弾は悪魔の頭蓋を木端微塵に吹き飛ばし、後ろに控えていたヘル=プライドの身体をも貫通した。

 伝説の魔剣士である最上級悪魔、スパーダの息子の魔力が込められた弾丸に、最下級悪魔であるこいつらが耐えられるはずもない。

 

 仲間を殺された怒りにかられ、悪魔の攻撃はさらに激化していく。

 出現スピードはさらに加速し、ヘル=プライドに混じって赤い死神の姿をした悪魔、『ヘル=ラスト』もその姿を現してきた。

 ヘル=ラストが背後から低姿勢でダンテに突進し、その鎌を振り上げ股から頭まで真っ二つにしてやろうと迫ったが、

 

「おっと」

 

 背中に目でもついているのか、振り向きもせずにダンテはそいつがやってきた瞬間にジャンプして避ける。大鎌は虚しく空振り、ヘル=ラストは着地してきたダンテに踏まれることとなった。

 

「C’mon!!」

 

 悪魔を足蹴にしたままダンテは周囲の悪魔たちに呼びかけると、地面を強く蹴る。

ヘル=ラストをスケボーのように使って、ダンテは雪原を滑走した。

 

「Wow!! Woohoooo!!」

 

 背中のホルスターに納めていた漆黒の大型拳銃、エボニーを取り出して二丁拳銃のスタイルを取るダンテ。

 悪魔で大地を滑り抜け、二つの鉄の怪物が火を噴いた。

 構えはめちゃくちゃ。どう見ても勘だけで二丁拳銃を振り回しているようにしか見えないそれは、しかし多くの悪魔たちを的確に、素早く射抜いていく。

 銃声とともに悪魔は悲鳴をあげ、砂が飛び散り地面に零れ落ちていった。

 粉塵と粉雪が舞うその中で、ダンテは狂ったように戦場を駆け抜ける。

 

 そのままダンテは前方にいたヘル=プライドの一匹とスケボーと化したヘル=ラストを衝突させ、自身は空高く舞い上がった。

 空中でダンテは頭を大地に向けると、ガトリング砲のように回転しながらエボニー&アイボリーを乱射し、弾丸の雨(レインストーム)を降らせる。

 

「Woohoooo!! Wooooooow!! Yeaaaaaaaaaaah!!」

 

 これに至っては――いったいどう説明すればいいのだろうか。

 高速で回っているにも関わらずダンテの弾丸は一発一発が正確に悪魔の胴体、頭、大鎌を撃ち抜き致命傷を与えている。

 もはや彼の視界はまともに敵を目視することすらできないはずなのに、そんな芸当をダンテは軽々とやってのけたのだ。

 彼のすぐ下に立っていた悪魔たちは悉く絶命し、ただの砂へと返っていく。

 ダンテのすぐ真下にいた一匹のヘル=プライドだけが凶弾から免れていたが――それはダンテのミスではない。

 鉛玉よりももっとえげつない最後を、その一匹は迎えることになったのだから。

 とっさにヘル=プライドは大鎌を掲げてダンテの追撃を防ごうとしたが、そんなものは何の役にも立たない紙の盾と変わりなかった。

 降下してきたダンテは背中に収納している魔剣に手をかけ……

 

「Blast off !!(吹き飛べ!)」

 

 ズガンッ!! と。

 一刀のもとに、悪魔は頭から斬り裂かれることとなった。

 かつてスパーダが振るったといわれる魔剣の一つ、リベリオンの一撃を喰らうことによって。

 最強の魔剣の一つに、ダンテの強大な魔力。

 それらが合わさった兜割り(ヘルムブレイカー)の一撃は、最下級悪魔の道具などものともせずに敵を粉々にする。

 何が起こったのかわからない、とでも言いたげな表情のまま、ヘル=プライドは消滅した。

 

 

 あまりにも一方的な光景だった。

 数で圧倒的に有利なはずのこちらは、なす術もなくただ一方的に虐殺されていく。

 どこから、どうやって襲い掛かってもこの男はすべて紙一重で避けてしまう。

 どんなに構えても、この男から繰り出される攻撃にこちらは一撃も耐えることなく打ち砕かれてしまう。

 

「オ、オォォ……」

 

悪魔達は、ダンテに恐怖心を抱き始めた。

 狂っている。

 あまりにも、強すぎる。

 あまりにも、強靭過ぎる。

 力の差が、お互いにはありすぎた。

 だが、真に恐ろしいのはそんなことではなかった。

 

「What’s up!? C’mon get me!!(どうした!? 来い、捕まえてみろよ!)」

 

 この男は、楽しそうに自分たちを殺していた。

 皮すれすれのところを大鎌で斬り裂かれかけたときも。

 拳銃のトリガーを引くときも。

 凶弾で、悪魔たちを撃ち抜いた時も。

 大剣で、その肉を鎌ごと斬り飛ばした時も。

 この男は、狂ったように笑っていた。

 

「オ、オォォ……!」

 

 このときから。すでに。

 悪魔たちは、ダンテに……自分たちにやってきた、死の恐怖に怯えはじめることとなった。

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

「……なに、あれ……」

 

 飛鳥が思わず、そんな言葉をつぶやいた。

 飛鳥のみならず、十六夜、黒ウサギ、そして感情表現に乏しい耀までもが口を広げてポカンとしていた。

 皆一様にダンテの戦いを目撃して、驚きを隠せずにいる。

 戦っているというよりは、それはまるで舞踏のようだった。

 大袈裟で無駄に見えるすべての動きは、実は細部に至るまで無駄がなく、実に効率がいいものばかりだ。

 芸術と呼んでもいいのかもしれない。洗練され、鍛え抜かれたものであることが、この結果からも如実に現れていた(……スケボーに関しては、ノーコメントとさせてもらうが)。

 それほどまでにダンテの戦いぶりは美しく、ここにいる者の心を魅了したのである。

 

「あれが……ダンテの、力……」

「……すごい……」

 

 飛鳥と耀が、ダンテの舞踏……いや、武闘を見てそう感想を漏らした。

 飛鳥は自分の命令をねじまげたところからその実力の程を伺っていたが、どうやら想像以上だったらしい。

他に、表現する言葉がなかったのである。

豪快、華麗、繊細。

使うとしたらこれらであろうが、こんな言葉では言い表すことなど到底できないほどのものなのだ。

すべてが際立ち、すべてが融合し。

ここにいる誰にも到達できない、その領域に、ダンテはいた。

たった一言。そう、あえて一言でいうのならば、それはまさしく、

 

「……Stylish(かっけぇ)」

 

 十六夜の、この言葉に尽きるだろう。

 

 

「まさか……ダンテさん、『魔の眷属』を相手に、あんな一方的に……もしかして、本当に……?」

 

 と、そのとき。黒ウサギが、何かを知っているかのような口ぶりで言葉をつぶやいた。

 その言葉に反応して、十六夜が黒ウサギに問いただす。

 

「おい黒ウサギ。なんだ、『魔の眷属』って?」

 

 十六夜の疑問に、飛鳥と耀も黒ウサギに注目することとなった。

 黒ウサギはダンテのいる赤い結界空間から目を離すが、どう話を切り出そうかと迷うようにしばらくまごついた。

 やがて、黒ウサギは口を開く。

 

「今、ダンテさんが戦っている魔物は……数千年前から現れ始めた、異世界からやってきた者達……箱庭のルールを悉く破り、災厄の如く多くの命を奪い、この世界を恐怖の底に突き落とした忌まわしき存在……それが『魔の眷属』です」

「箱庭のルール? ってことは、ギフトゲームのルールを完全に無視した、ってことか?」

「……Yes。彼らの世界では、力こそが全て。強き者が弱き者を従える弱肉強食の世界であり、そこからやってきた異端の存在……私はそう聞いております」

 

 黒ウサギの説明は、何とも恐ろしいものだった。

 彼女の説明が正しければ、あの死神のようなヤツらは、異世界から箱庭の世界に喧嘩をふっかけた化け物達ということになる。

 正直、十六夜達もこの世界のトップクラスがどれほどの実力を誇るのかはわからない。

 だが、三人でかかっても勝てないと思った魔王・白夜叉ですら四桁の外門に留まっているのだ。

 これよりも上の者達となれば、もはやどんな怪物たちが存在しているのか想像すらできない。

 そんな連中に宣戦布告をしてきたバカ共……それが『魔の眷属』だというのだ。

 

「でもそんなことすれば、創造主たちが黙ってないんじゃない? どうしてそれがここに……」

 

 至極真っ当な質問を、飛鳥がしてきた。

 ルールを破った者は消される。それは当然の理だろう。

 しかし現に、あの者達はこうして十六夜達の前に姿を現した。

 いったい、なぜか?

 答えは、決まっていた。

 

「……『魔の眷属』達が、あまりにも強かったからです」

 

 喧嘩を吹っ掛けた相手が、とんでもない猛者の集まりだったから。

 これしか、理由は考えられなかった。

 

「ダンテさんが相手しているのは最下級に位置する『魔の眷属』……しかしそれでも、その数は膨大で、下層コミュニティが次々とあの者達に崩壊させられ、虐殺されてきました。彼らにもランクがあり、上級になれば……箱庭の世界に住む、修羅神仏にすら匹敵する力を持っているものもいます」

「しゅ、修羅神仏にも!? それじゃあ、もしかして白夜叉とも対等に戦える者がいたっていうことなの!?」

「はい。当時のことは、白夜叉様からも何度か聞いたことがありました……無法者であるにも関わらず、白夜叉様でさえ手こずったとのことです……しかし、それだけではありません。彼らの世界でも、最上級と呼ばれる者達……彼らは、この箱庭の世界の創造主とも対等に戦えるほどの力を誇っていました」

 

 あまりのことに、十六夜達は開いた口が塞がらなかった。

 あの白夜叉よりも強い修羅神仏。それとタイマンで戦える者が存在する。

 想像なんて、できるはずもない。

 どれほどまでに強大なのかも。どれほどまでに凶暴なのかも。

 

「……最下級とはいえ、そういう奴らを一方的に攻め続けられるダンテはなんだっていうんだ? クソッ、なんだよそれ……」

 

 十六夜は、思わず震えてしまう。

 胸の奥底が、激しく揺さぶられる。

 ぶるりと身体の芯から大きく振動した十六夜は、まだ手足の細かな震えが収まらなかった。

 心臓が早鐘を打ち、汗が額から流れてくる。

 十六夜は、恐怖した。

 箱庭の世界すら震撼させた存在に。

それを踊るようにして皆殺しにしていくダンテに。

 

 そしてそれ以上に。

 

「すっっっっっっげぇ、楽しそうじゃねぇか……!!」

 

 未だかつてないほどに、歓喜した。

 戦いたい。

 自分も、その『魔の眷属』と戦いたい。

 思いっきり、何の遠慮もなく。どちらが強いか競いたい。

 いや、そいつら以上に。

 ダンテと、戦いたい。

 十六夜の心が、一気に歓喜と焦燥に支配されていった。

 

「呆れた……ダンテも自惚れが強いけれど、あなたも大概ね。そんな野蛮な奴らと戦いたいと思うだなんて」

「ああ。自分でもそうは思うさ。でも堪え切れねぇよ、早く会いたいもんだな……特に、〝当時の箱庭を救った最上級の『魔の眷属』〟と、な」

 

 え? とその場にいた全員が振り返って十六夜を見た。

 黒ウサギは驚愕で目を見開いている。

 

「『魔の眷属』の中には、奴らを裏切ってこちらを助けた存在――おそらく最上級のヤツがいる……そうだろ、黒ウサギ?」

「い、十六夜さん……どうして、そのことを?」

「簡単な推理だ。お前のさっきの言葉、どうにも『ダンテが魔の眷属の者』みたいに言ってるような節があったんでね。それに白夜叉は言っていた。『確かめる必要があるから、ダンテを試す』ってな。つまり『魔の眷属』と呼ばれる奴らの中にもこちらに味方をするヤツはいた、だからどちら側の存在かダンテを見極める必要があったわけだ。加えて最上級ともなれば、創造主にすら匹敵する力を持つ……こんなヤツらから箱庭の世界を救うなら、同じく最上級のヤツが味方してくれるしかすべはない……そして、力が全てと謳われる世界から味方として名乗り出てくれるのは、その連中のみ……どうだ、百点満点だろ?」

 

 十六夜の推理は、完全に筋が通っていた。

 つくづくこの少年には驚かされてばかりだ。その能力にしても、その知略にしても。

 黒ウサギは苦笑を浮かべながら、十六夜の問いかけに対して首を縦に振って答える。

 

「Yes、彼らの中にも、私たち箱庭の世界に味方してくれる存在はいました。彼は、たった一振りで千の『魔の眷属』を吹き飛ばすほどの力を持ち……ありとあらゆる魔具、魔剣を使って、箱庭の世界を救ったと言われています」

 

 

 そこで一呼吸を置くと、黒ウサギは続けて言葉を放った。

 

 

「その者の名は、魔剣士スパーダ……今でも伝説として箱庭の世界で語られる、正義の心を持った『魔の眷属』です」

 

 

 

*******

 

 

 

「Break down!!(ぶっ壊れろ!)」

 

 目にも止まらぬ連続突き、ミリオンスタップをもろに喰らったヘル=グラトニーとヘル=スロウスは粉々に砕け散った。

 それでもダンテは止まらず、流れるような剣舞で悪魔たちを斬り崩し、屠っていく。

 もう悪魔たちは自分からダンテに襲い掛かろうなどということはしなかった。

 完全にダンテに対する恐怖が闘争心に勝ってしまい、逆に逃げようとしている始末である。

 中にはやけくそになってダンテに斬りかかるヤツもいたが、それらを全てダンテは避けるか軽くいなして、痛烈なカウンターをお見舞いしてやった。

 それからは、もうダンテに近寄ろうとするヤツすらいなくなってしまった。

 

「Hum……」

 

 戦い始めてまだ数分程度しか経っていないが、もういい加減ダンテも飽きてきた。

 どいつもこいつもトロくさくて、面白くもなんともない。

 最初こそ大暴れする場所ができて歓喜していたが、こんなものではどれほど長く続いてもダンテの渇きを癒すことなどできはしなかった。

 そして、もう悪魔は戦う意思すら持っていない。

 これでどうして燃えることなどできようか。

 もはやめんどくさくて、ダンテは二丁拳銃を振いその場にいた悪魔をすべて撃ち抜いた。

 マシンガンのものと間違えるほどの銃声とマズルフラッシュが焚かれ、それとともに砂が飛び散った。

 もうどこからも怨嗟の声は聞こえない。

 静けさが、結界の中を支配する。

 

「もうちっとガッツのあるヤツはいないのかよ? つまんねぇ……」

 

 誰にとも向かわず、やる気のない声でダンテは小さくつぶやいた。

 

 

 

 ――――ゴーン。

 

「!!」

 

 そして、彼のそのつぶやきに呼応するかのように。

 そいつはやってきた。

 

 ――――ゴーン。

 

 鐘のような音が、白銀の空間で鳴り響く。

 不気味な音色を発するその音は、だんだんと近づいてきているかのように大きくなっていった。

 

 ――――ゴーン。

 

「……ようやくおでましか」

 

 これを待ち望んでいたように、ダンテは口を横に広げて剣を構える。

 もともとヘル系統の悪魔は、七大欲求のどれかを強く持つ人間の魂を狩り、永遠の苦しみを与えるために存在する。

 そして彼らの狩りを遂行させるために、彼らを守る上位個体がいるのだ。

 

 

 ――キャハハハハハハハハハ!!

 

 

 目の前に黒い影が出現し、そこからヤツが現れる。

 姿こそ、それはヘル=プライドに似ていた。

 だがそいつはヘル=プライドよりも巨大で、ボロボロになった漆黒のローブに身を包み、大きな鎌を持った死神のような者だった。

 ヘル=ヴァンガード。

 他のヘル系統の悪魔を守るために存在する、上位悪魔だ。

 

「いいぜ……来いよ、遊んでやる!」

 

 ステップを踏み、手招きをして挑発するダンテ。

 それに煽られてか、ヘル=ヴァンガードは不吉な声をあげて鎌を振り上げる。

 

ヴヴン、と。次の瞬間、巨大な死神は姿を消した。

 ヘル=ヴァンガードは空間移動を行うことができる上位個体。あらゆる場所に空間の裂け目を出現させ、襲い掛かることができる。

 上空、側面、背後、さらには地面からも、だ。

 いつどこからやってきても対応できるよう、ダンテは周囲に感覚を張り巡らせる。

 

「C’mon wimp(来いよノロマ)」

 

 どこかにいるはずのヘル=ヴァンガードに向けて言葉を放つ。

 ほんの少しの、静寂が訪れる。

 たった数秒だけの静けさが、十六夜達にはまるで数時間にも感じられた。

 

 ――――ゴーン。

 

 やがて聞こえてきた鐘の音に、それは打ち砕かれることとなる。

 そのときダンテの背後で空間が裂けた。

 

『キャハハハハハハハハ!』

 

 狂ったような笑い声とともに、大鎌を振り回した死神が現れる。

 振り向いたダンテは間一髪のタイミングで突進をかわし、剣で斬りこんだ。

 しかし浅かったらしく、ヘル=ヴァンガードは勢いのまま再び空間の裂け目へと逃げこんでいく。

 今度は足場から出現し、ダンテはその場から飛び跳ねて回避した。

 それからヘル=ヴァンガードの奇襲が立て続けに起こり、そのすべてをダンテは紙一重で避けていく。

 側面からやってきた突進を横に転がって避け。

 背後からの奇襲を剣で弾き返し。

 地面からの出現を飛び跳ねて避ける。

 

(Hum……これも飽きてきたな。そろそろいいか)

 

 そんなことが数度続いたとき、ダンテはリベリオンを手にして剣を逆手に構える。

 鈍く白い光を放っていたその魔剣は、やがて稲光を発するとともに赤い魔力を纏っていった。

 バチバチバチバチッ! と眩い光が何度も弾け、抑えようのない凶暴な力が暴れ回る。

 

(いいぜ、もっと、もっとだ……とびっきりの一撃をあいつにブチかまさなきゃあなぁ)

 

 凶暴な笑みを浮かべて、ダンテはより多くの魔力を魔剣に収束させていく。

 もっと。もっと。

 あいつの大鎌ごと、小汚いローブごとぶち抜けるような力を!

 そう念じながら、次々と自分の中に眠る力を介抱していった。

 やがて、魔力を溜める作業は終了した。

 あとは、こいつをあのクソッタレの悪魔に思いっきり叩き付けるだけだ。

 準備はできた。いつでも、どこからでもかかってこい……!!

 

 再び静寂が流れ、緊迫した場面を迎える。

 だが、ダンテは汗一つ流しはしない。余裕の表情のまま、ただ決着の瞬間を待ち続ける。

 剣を握る拳を固め、いつでも最高の一撃を放てるように。

 

 

 …………そして。

 

 

 ――――ゴーン。

 

 

 鐘の音とともに、ダンテの真正面にヘル=ヴァンガードが出現した。

 高速で迫りくる死神は、今度こそ目の前の男を仕留めるべく大鎌を振う。

その悪魔に向かって、ダンテはニヤリと笑った。

 

「――楽しかったぜ、じゃあな」

 

 そうつぶやき、剣を思いきり縦に振る。

 

 

 ゴウゥッッッ!!!!

 

 

 すさまじい突風が吹き抜け、魔剣から真紅の衝撃波が放たれる。

 ダンテの剣技・ドライブはヘル=ヴァンガードに正面からぶつかり、大鎌の刃を真っ二つに斬り裂いた。

 

「オォォ!?」

 

 それでも勢いは衰えず、死神の骨だけの身体、ローブすらも飛ぶ斬撃は貫通し、ヘル=ヴァンガードを粉みじんに吹き飛ばした。

 大きく大地が抉られ、雪は弾け土は舞い上がる。

 首から下が木端微塵に砕けた死神は、そのドクロだけを残して消え去った。

 ドクロはクルクルと回りながら空高く放たれる。ダンテは背を向けるとエボニーを引き抜き、銃口を天に向けた。

 

「Sweet dream.(よい夢を)」

 

 ガゥン!! と。

 凶弾が漆黒の拳銃から放たれ、ドクロは吹き飛ぶ。

 有象無象の悪魔で埋め尽くされていた赤い結界の場所に立っているのは、こうしてたった一人だけになった。

 

 

 

*********

 

 

 

「ダンテさ~ん!!」

 

 結界がなくなったその途端、黒ウサギ達はダンテの元へと駆け寄った。

 それを見たダンテは両手を広げると、嬉々とした表情で黒ウサギに話しかける。

 

「ようウサちゃん。俺の踊りはどうだった? 思わず見惚れちまったかい?」

「なにを馬鹿なことを言ってるんですか! ちょっと傷を見せてください、とりあえず応急処置だけでもしますから!!」

 

 ダンテの冗談に一喝すると、黒ウサギは大鎌で貫かれた腕や足を見る。

 あれだけ自在に動き回ったとはいえ、あれらの傷だけはどう見ても重症だ。一刻も早く治さなければと思ったのだが……

 

「え……? あれ、嘘……傷が……?」

 

 ないのである。

 串刺しにされたはずの場所に、傷がどこにもついていなかったのだ。

 血まみれで見えにくかったが、どれもすべて傷口が塞がっていた。

 貫かれたのが、幻だったなどということはない。現に血はあるし、服にも穴が開いているのだから。

 

「おいおい、こんなところで()()()ってのか? 別に俺はいいけどよ、お子様に見せるはちと過激だぜ?」

「ななな、何を言っているんですか!? 私は決して、そういうつもりでは!! ていうかやりませんよ!?」

「そいつは残念だ。じゃあいつやる? 今晩でも俺は全然いいぜ」

「今後もやってたまるもんですか!!」

 

 バチーン!! とハリセンでダンテを叩く黒ウサギ。

 しかしダンテは全く痛そうなそぶりを見せずニヤニヤと笑っている。

 

「Hum……ウサちゃんといいお嬢ちゃんたちといい、どうにもこのコミュニティの女の子は素直じゃないねぇ」

「うう……心配したのに」

「ホント、下劣」

「私たちの気持ち、返して」

「キスで応えようか?」

「「却下」」

 

 飛鳥と耀の二人に冷めた声で言い切られ、ダンテは「Wow」とおどけた反応を見せる。

 そんなダンテに、十六夜は笑いながら声をかけた。

 

「よお兄弟。ひでぇじゃねぇか、そんなに強いのに隠してるなんてよォ」

「悪いな兄弟。隠すつもりはなかったんだけどな、ちょっとお披露目する場がなかっただけだ」

「まったく、戦いたい相手が増えちまったぜ。しかもそれが身内だなんてな、とんだ皮肉だこりゃ」

「奇遇だね。俺もそう思ったところだ」

 

 ヤハハ、とダンテの返答に笑い声をあげる十六夜。

 その後ろから、白夜叉がゆっくりと歩み寄ってきて、ダンテに語り掛ける。

 

「見事じゃったぞダンテ。ギフトゲーム、クリアじゃな」

「ありがとよお嬢ちゃん。しっかし、もうちょい楽しいゲームはなかったのか?」

「すまんな。言ったように、おんしを試す必要があったからのう」

「調べるってのは、やっぱりダンテが味方になり得る『魔の眷属』かどうかってことか?」

 

 白夜叉とダンテの会話に、十六夜が口をはさんできた。

 その問いかけを、白夜叉は肯定する。

 聞きなれない言葉を耳にしたダンテは首をひねった。

 

「『魔の眷属』? あいつら悪魔だろ?」

「ああ、奴らは自分たちのことをそう呼ぶらしいの。じゃが奴らと箱庭の世界にいる悪魔は異なるからのう、区別するためにそう呼んでおるんじゃ」

 

 ようは、呼び方が違うだけらしい。

 そう解釈したダンテはどうでもよさそうに頷いた。

 

「ま、さっきの一戦は魔の眷属と相対して、どんなことをするのか見ておくためにやったものだったんじゃ。あいつらに味方するようなら、この命をかけてもおんしを制裁しなければならんかったんじゃが……まぁ、喜んで攻撃しとったのう」

「あいつらと俺を一緒にすんなよ。確かに半分は血が流れてるけどな」

「確かに。おんしとあいつらはどこか違うとは思っとったし、実際に――――って、おい待て。半分じゃと?」

 

 かなり聞き捨てならないことをさらっと言ってのけたダンテに、思わず白夜叉はストップをかけてしまう。

 

「ああ。親父が悪魔……魔の眷属、だっけ? で、母さんが人間だ」

「待て待て待て、魔の眷属と人間の高位生命(ハイブリッド)じゃと!? そんなものこの数千年で聞いたこともないわ! 第一奴らと人間が交わるなどと……」

「知るかよ。現に俺はこうしているんだからよ。半分はこれでも人間だぜ?」

 

 本当に、どうでもいいことのようにダンテは言い切った。

 しかし、これは白夜叉や黒ウサギたちにとって大事件でもあったのだ。

 人間と、魔の眷属の間で子が生まれた。

 奴らは人間を自分たちの糧としか見ていない。それこそ性行の相手とみなして行為に及ぶなど、考えたこともなかった。

 だが、ダンテは間違いなく人間でもあり、魔の眷属でもあった。人間にしてはその魔力は禍々しすぎるし、魔の眷属にしては……どうにも清らかというのか、人間臭い。

 信じられないことだが、事実だと認めるしかなかった。

 

「ま、まぁとりあえず……ダンテさんが魔の眷属の手先でなくて、よかったというべきでしょうか……伝説の魔剣士のように、人間の味方であってくれるのならば、これほど心強い者もいませんし」

「……伝説の魔剣士?」

 

 聞き捨てならない言葉を耳にして、ダンテは黒ウサギに問う。

 

「かつてこの地に訪れ、自身も魔の眷属でありながら人間のために戦ってくれた英雄、スパーダのことらしいぜ。ダンテ、何か知ってるのか?」

 

 十六夜が黒ウサギの説明を付け足して、ダンテにそう訊ねかけた。

 ダンテは肩を落とし、ため息を吐く。

 

「……この世界でも有名なのか? スパーダは」

「らしいな。で、そっちはどうなんだ?」

「ま、一人のファンってところかな? そんなもんだ」

「ふーん……」

 

 ファンどころか、父と息子の関係なのだが、ダンテはそれをはぐらかす。

 言ってしまって、自分に対する見方が変わってしまうのが嫌だったからだ。

 英雄の息子、確かにそれはこの世界でももてはやされるのだろうが、父は父。ダンテはダンテだ。

 ハッキリ言ってどうでもいいし、そんなことで自分を畏怖されたり敬遠されるのは好きじゃない。

 十六夜はダンテの返答に訝しげな表情をしたが、納得したのか特に何も言ってはこなかった。

 

「やっぱり、ダンテさんの世界でも語られているのですね。魔剣士スパーダは」

「まぁ、本人が魔の眷属と人間の息子なら、それもそうでしょうけど……」

「といってもお伽噺みたいな扱いだがな……強かったらしいぜ。ここでもそうだったのか?」

「当たり前だ。私ですら勝てなかったのだからな」

 

 と、そこで白夜叉がダンテの問いかけに答える。

 

「し、白夜叉様でも、でございますか!?」

「おう。戦ってみたことがあるのだがな、あの強さはもう反則だ。なにしろ剣を振っただけで大地が砕けて、空間が裂けるのじゃぞ? 星霊でも神でもない、まして神格もないというのに、なぜあそこまで強くなれるものなのか……」

 

 苦々しい表情で言っているのを見る限り、相当なショックを当時受けたらしい。

 東側最強の〝主催者〟たる白夜叉からの評価を聞き、ダンテを除く全員が茫然となった。

 

「うわぁ……ますます戦いてぇ……」

「やめとけ童。おんしが挑んでも軽~く剣を振られてやられるのが落ちじゃ。といっても本人はもうおらんがの」

「え? いないの?」

 

 耀が気になって白夜叉に訊ねる。

 それに対して白い髪の少女は残念そうに首を横に振った。

 

「ああ。魔の眷属どもを追い払ったらどこかへ行ってしまいおったわ、別れも告げずにな……あの阿呆め、全くこちらの気も考えずに……」

 

 俯き、昔を懐かしむような顔をして魔剣士を罵倒する白夜叉。

 その横顔は魔王としての威厳も何もなく、まるで恋をする一人の少女のようだった。

 それを見た黒ウサギは驚いたように口に手をあて、十六夜はニヤニヤと笑う。

 

「へえ。魔剣士のやつ、どうやらとんでもないものを盗んでいったらしいな」

「うるさいわこのたわけ。もう数千年も前のことじゃ、踏ん切りくらいついておるわい」

 

 十六夜のからかいを、白夜叉はフンと鼻をならして受け流す。

 雷妖婦といい星霊といい、親父はモテるみたいだな、なんてことをダンテは心ひそかに思った。

 

 そのとき、飛鳥が何かに気付いたようにハッとなる。

 

「ねえ、どうして魔の眷属がまだここにいるのかしら? 魔剣士が追い払ってくれたんでしょう?」

 

 当然の質問だろう。

 伝説の魔剣士が、すべて追い払ってくれたのならば、なぜまたこうして魔の眷属は現れたのか。

 そう問いかけると、白夜叉は不愉快そうに顔をしかめた。

 

「魔剣士は、この世界とあちらの世界の通じる道を塞いだ……しかし、この世界と魔の眷属の世界のつながりはまだ残っておる。ほんのちょっとした小さい穴だが、そこから下級悪魔がやってくるのじゃ……そして時として、奴らは人間を誘惑し、堕落させ、二つの世界をつなげさせようとしてきおった」

「人間を、誘惑?」

「ああ。人は先天的に、魔を恐れる。しかし中には、その力に魅入られ欲するバカがおるものだ……そういう奴らこそ、自分たちの都合のいいように動かしやすい」

 

 ダンテは白夜叉の説明を聞いて、二人の人物と一つの事件を思い出していた。

 たった五か月前。彼自身も、その事件に巻き込まれた。

 テメンニグルの塔――『恐怖を生み出す土台』とも言われ、かつて魔の存在によって堕落させられた人間が狂気にかられ作り上げた、魔界と人界をつなぐ塔。

 スパーダによって封印されたそれは、一人の人間と、一人の半人半魔によって再び蘇った。

 その者の名は、アーカム。彼もまた、魔に魅入られ己の妻を殺して悪魔の力を手に入れた男だった。

 そして……もう一人は……

 

(…………ここでも悪魔どものやることは変わんねぇ、か)

 

 呆れたようにため息を吐くダンテ。

 陰鬱な気分になった彼の一方で、白夜叉の説明は続いていく。

 

「そういう企ては全部パーにしてやったがの。それでも絶えず、奴らはこちらへ訪れ、この地を支配しようとしおる。こうして私も時々制裁してやっておるがな」

「なるほどね。そりゃ俺みたいなのがいりゃあ警戒もするわな」

 

 今までありとあらゆる手を尽して侵攻を防いできたというところで、目の前にいきなりとんでもなく強い魔の眷属が現れたのだ。

 それは確かに、警戒せざるを得ないだろう。

 納得したようにダンテは笑った。

 

「そういうわけだ。悪かったの、あんなゲームをやらせてしまって」

「別に。クソッタレ共をぶっ倒すのが俺の仕事だったんだ。構わないさ……で、ちょっと話を変えるが……」

「ん?」

 

 唐突にダンテが話を切り出してきたことに、白夜叉と黒ウサギ達は首をかしげた。

 

 

 

「俺との決闘……やるか?」

 

 

 

 ダンテの言葉に黒ウサギは息を呑み、白夜叉はその顔から笑みを消す。

 両者はどちらも真剣な顔で互いを見つめた。

 

「おお、そうだったのう。こんな私でよければ相手になるが……どうする?」

「ちょ、ちょっと御二方! 本気でやるつもりなのですか!?」

 

 黒ウサギが言葉を挟んでくるが、それを白夜叉は撥ね退ける。

 

「言葉を慎め黒ウサギ。私は確かにこのゲームをクリアすれば挑戦権を与えると言ったのだ。それを訂正するほど私は落ちぶれておらぬ。権利はダンテの手に渡った。あとは、こやつの意思次第だ」

 

 ぐっ、と黒ウサギは言葉を詰まらせてしまう。

 もう何も言うことはできなかった。すべて、白夜叉の言う通りなのだから。

 白夜叉はゲームを提示し、そしてダンテはそれに応えた。

 言い出したこちら側がまさか『やっぱりさっきの話はなかったことに』なんて言えるわけがないのだ。

 

 ダンテと、白夜叉が互いに睨みあう。

 先ほどの一戦など比べ物にならないほどの緊張感が走った。

 両者以外の全員が冷汗を流し、固唾を呑んで二人の動向を見守る。

 ――そして。

 

 

 

「フフ……フフフフ……」

「クク……クックック……」

 

 

 

 どちらともなく、堪え切れなくなったように笑い出し。

 

 

 

「アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」

「フフ、フハハハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 少女と大男の豪快な笑い声が、雪原の世界で響いた。

 

「いや、冗談だ。悪かったな、許してくれ、ククク」

「いやいや、別にいいとも。悪くないぞ、こういうのもな。フフ、フフフフフ」

「え、え? え、え、え???」

 

 二人が何を言っているのかわからず、黒ウサギは互いの顔を交互に見やる。

 他の者達を置き去りにして爆笑しだした星霊と半人半魔は、やがて一通り笑い終えると黒ウサギの方を見た。

 

「今日はやんねぇよ。気分じゃねぇしな」

「そういうことだ。案ぜずともよいぞ黒ウサギ。おんしのコスチュームはこれからも増え、進化を遂げるのだからな」

「な、なぁんだ、おどかさないでくださ……って待ってください! 服のことを心配したわけではありませんよ!?」

「あれ、違うのか」

「違います! 果てしなく違います!」

「ぬうっ、素直じゃないウサギだのう。ウサギは嘘をついてはいかんのだぞ、コラ」

「嘘など言っておりません! 断じて! ええ誓って!」

「しょうがない。お仕置きとして今度の服はもっと露出度をあげて過激なものにしようかの」

「いいね、そういうのは嫌いじゃない! もっとクレイジーな一品をよろしく頼むぜ!!」

「うわぁあああああああああああん!!」

 

 安堵したのもつかの間、黒ウサギは一転して泣き崩れてしまった。

 問題児とは、どこまで行っても問題児である。

 緊迫した場がおさまり、和やかな場へと変わろうとしたところで、

 

「おい、でも褒美はもらうぞ」

 

 ダンテが白夜叉に釘を刺してきた。

 

「……ぬ、おんしは私の拾ったジュークボックスを壊したではないか」

「知るか。もともとありゃ俺のもんだ、それに壊してねぇよ、動いたじゃねぇか」

「……おんしというやつは」

 

 白夜叉はゲームの前に、こうも言っていたのである。

 クリアすれば挑戦権を与え、そして褒美も与える、と。

 こういうところがなかなかがめついものだと白夜叉は呆れた。さすがは日々赤字を生み出す借金王、褒美と聞けば抜け目ないものである。

 

 白夜叉は着物の裾から一枚のカードを取り出すと、またそれをダンテに向けてかざす。

 するとカードから光が出現し、ダンテとぶつかり激しく輝いた。

 

「きゃっ!」

 

 あまりのまぶしさに、声をあげる飛鳥。他の者達も皆目を覆う。

 やがて光は徐々に弱まり、収まったところで全員がダンテに注目する。

 

「……え?」

「なに、それ?」

「……鎧?」

 

 そこに立っていたダンテは、先ほどとは姿が違った。

 手足には不思議な輝きを放つ装甲が備わり、口元は鎧のようなマスクで覆われている。

 手を軽く動かしてみるダンテ。

するとジャコン、と腕の装甲から鋭い針のようなものがとび出た。

 しげしげと自身の姿を眺めていたダンテは、目線を白夜叉に移すと問いかける。

 

「なんだこれ?」

「魔剣士が置いていったものの一つじゃ。どうやら生物と同化して、体の一部を鋼と化す金属らしい。仕組みはわからんが、まあ何かの役に立つじゃろうて」

「ま、ままま魔剣士の残した武器ですか!?」

 

 白夜叉の言葉を聞いて仰天する黒ウサギ。

 褒美を寄越すといっても、まさかそんなものをくれるとは夢にも思っていなかったのだろう。

 その価値は、聞くまでもない。こんなゲームの景品としては不釣合いすぎるくらいだ。

 

「いい、いいのですか!? 白夜叉様」

「よいよい。どうせまともに扱える者もおらんし、それならこうして使える者に託した方が武器もいいじゃろうて。それに、こやつのことが気に入ったしな」

「そいつは嬉しいね。ありがたく受け取っておくよ」

「ダ、ダンテさん、でもそんな……」

「あ、ところでお嬢ちゃん。こいつを試せるものってないか?」

「あの鉄くずになったジュークボックスにでもやっておけ。どうせもうあれは商品にならん」

「……もういいですよぅ……」

 

 まともに話を聞いてくれないことにしょげる黒ウサギ。

 そんな彼女をよそに、ダンテは壊れてしまったジュークボックスに歩み寄っていった。

 白夜叉の言う通り、こいつはもうまともに動かなくなってしまっている。音楽は流れず、もうスイッチを押しても反応しないだろう。修理にしたって、やるだけ無駄かもしれない。

 ここで一つ、華々しく散らしてやるのも、元持ち主の務めだろう。

 

「……フゥゥ」

 

 流れるようになめらかに動き、構えるダンテ。

 腰を落とし、拳を握ると、ゆっくりと息を吸う。

 その姿勢のまま、ダンテは一ミリも動かないまま止まっていた。

 ……やがて。

 

「オラァ!」

 

 カッ!! と目を見開くと、拳に力を込めて前に突き出し、アッパーカットを繰り出した。

 半人半魔の一撃に何の変哲もない鉄くずが耐えられるはずもなく、バラバラになったそれははるか上空に吹き飛ぶ。

 ダンテは真上に飛び跳ね、足を空に向けて突き出すと、落下してくる部品を次々に蹴ってさらに破壊していく。

 粉々になった鉄塊は、重力に引っ張られるまま白銀の大地に吸い込まれた。

 ぶち壊した本人はといえば……自身も落下していく最中に体勢を直すと、拳を振り上げて地面と衝突する瞬間に、

 

「Go to hell !!(地獄に行きなァ!)」

 

 ゴゥッ!! と。

 渾身の一撃を叩きつけ、鉄塊を塵も残さず粉砕した。

 あとに残るのは、巨大なクレーターのみ。

 その中心に立つダンテは、己の手足を見て一言。

 

 

 

「Too easy(イカすぜ)」

 

 

 

********

 

 

 

「…………」

 

 〝フォレス・ガロ〟のリーダー、ガルド=ガスパーの屋敷。

 そこに、一人の男が訪れていた。

 顔こそ包帯に包まれ全く表情が伺えないものの、そこからはチラチラと銀髪がはみ出ていた。

 その隙間から見える眼光は鋭く、そして氷のように凍てついていて、見入られたものは皆恐怖してしまうような迫力がある。

 ガスパーほどでなくともかなり大きなその男は、青のコートで全身を包んでおり夜の闇に紛れている。

 男はガスパーの屋敷にそのまま入っていった。

 堂々と、窓から直接、執務室のところへと。

 

 

「グルルルルル、グルルルルルルルルルル……」

 

 

 そして彼は、ガルド=ガスパーと遭遇した。

 いや、そう『だった』ものと、と言う方が正しいかもしれない。

 ダンテ達と出会った時の『人間』はもう存在せず、そこにいるのは血に飢えたただの獣のみ。

 

「……鬼種、か……吸血鬼に血を吸われたらしいな」

 

 ボソリ、と。包帯の男はガスパーを見据えてつぶやく。

 やがて獣はその男を見つけると、叫び声をあげて跳びかかった。

 

「GEEEYAAAAAaaaaaaa!!!!」

 

 しかし、男は全く動じなかった。

 その目は冷たく凍てついたままで、襲い掛かってくるガスパーをまるでゴミでも見るような目で眺めている。

 目の前にまでガスパーがやってきたところで、男が動く。

 目にも見えぬ速度で男の右拳が振り上げられ、ガスパーの顎に直撃した。

 

「GYA!!??」

 

 まさか反撃を喰らうとは思っていなかったのか、驚愕で顔をゆがめてガスパーは吹き飛んでいく。

 壁と思い切り衝突したガスパーはそのまま気絶し、何度も痙攣を繰り返していた。

 

「……力を求め、人間を捨てたか。賢明な判断だ、おまえは間違っていない」

 

 もはや言葉など届いていないはずなのに、男はガスパーに向かって語り掛ける。

 

「力が欲しいのなら、くれてやろう。俺もおまえの対戦相手に用がある」

 

 そうして男は懐から、カードを一枚取り出してガスパーに投げつける。

 カードは突然光りだし、『何か』がガスパーの身体の中へと入っていった。

 

「……さあ。足掻いてみせろ、止めたくば止めてみるがいい、五か月前のようにな……」

 

 誰にとも向かうわけでもなく男はそう吐き捨てて、そのまま屋敷をあとにした。

 




・衝撃鋼ギルガメス

 生命体と合体し、その身体の一部を鋼に変える魔界の金属。
 数千年前に魔界からの軍勢が押し寄せてきたとき、敵が使っていたものをスパーダが奪ったもの。
 その鋼は強力な衝撃を発生させ、驚異的なパワーを生み出す。

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