問題児と最強のデビルハンターが異世界からやってくるそうですよ? 作:Neverleave
追記
あとなんか修正してる最中で途中の文章消してしまってたみたいです。ごめんなさい
開幕。物事の始まりを意味するその言葉は元来、演劇などで舞台の幕が開くことから由来する。今まで巨大な垂れ幕によってその一切が覆い隠されていた舞台は、その劇の始まりによって開かれ、観る者全員に全く違う世界を映し出す窓となる。
そこから見える異世界は限りがない。時の隔たりを超えて鑑賞される華やかで美しい
時に豪華、時に質素、時に
豪快に立ち回り大技を行う者がいれば観衆は驚嘆し魅了され、悲劇を嘆き涙流すものがいれば見ている者達も瞳から滴を零す。理不尽や非道を目の当たりにし激昂する者がいれば同じく憤怒の情が出で、人々が歓楽し愉快気に笑っていれば破顔一笑してしまう。
真に迫る演技とは、それを見ている者が完全に物語の中へと入りこんでしまい、現実と幻想の境目を見失うほどの魔力を持っているのである。
今見ているこの光景は……そう。『名作』の中でもさらに突出した、『傑作』と呼ばれるものを見ている時のような感覚を、飛鳥達にもたらしていた。
「オラァ!!」
『『Seiya(Souya)!!』』
ガンッッ!! と。
ダンテが右手の魔剣を横一文字に振り、十字に交わった魔の双剣を真っ向から受け止める。相手は両手、一方でこちらは片手で叩き付けたものであるにもかかわらず魔獣の剣は競り負け、ガルドは大きくのけぞるような形になった。ダンテは左手に握られた銀の十字剣で間髪入れず斬りこみ、動作の機転となっている足元を狙う。だがガルドはこれを予測していたように弾かれた反動を巧みに利用し、宙返りをするように跳躍した。破魔の剣はガルドのすぐ傍を空振りし、体毛を数本ほど掠めるだけの結果に終わる。
「ちっ」
『『HA!!』』
不満げに舌打つダンテに、意気揚々と再び迫るガルド。青の魔剣ルドラが標的の左肩を抉るように走り、それを右に斬り上げられた魔剣リベリオンが迎え撃つ。激突した刃が火花を散らす中、一気に両者は肉薄する。ガルドは赤の魔剣アグニを、ダンテは破魔の十字剣を突き出して、二人は相手を串刺しにせんとした。
赤と銀の剣は腹同士を擦らせ合い、切っ先がゆっくりと対象の腹部へ迫る――ダンテとガルドは腰を捻って決死の一撃を躱し、そのまますれ違う。
「らァッ!!」
『『Eat this(喰らえ)!!』』
だが、ここで攻防は終わらない。捻った上体を戻す勢いに乗せ、二人は全く同じタイミングに首目がけて回転切りを繰り出した。
遠心力が込められた
お互いが魔剣から手へ、手から全身へと伝えられてくる激震と痛みを堪えるように苦々しく表情を歪めるが、どちらも剣を手放すことなく最後までこらえ切った。相手より若干早く初動を起こしたダンテは、ルドラを握るガルドの右手を斬り落とそうと銀剣を斬り上げるが、その剣閃を遮るようにアグニが割って入った。
「げっ!?」
慌てたようにダンテは左手に急ブレーキをかける。そこからワンテンポ遅れて銀と青が衝突するが、完全に威力が死んでいるそんな一撃にガルドが怯むはずもない。そのまま滑るように銀剣とガルドの右手の隙間をアグニが走り、ダンテの喉を斬り裂こうとする。咄嗟に上体を後ろへ倒して辛うじてダンテは斬撃を避けた。
が。
『『フンッ!!』』
無茶な動きをしてしまったせいで、拮抗していたリベリオンとルドラの均衡が崩壊してしまう。押し切られたダンテは右手の魔剣に引っ張られるように体勢を崩し、その隙を狙ってルドラが右横から迫る。仕方がないと引っ張られる方向へ逆らうことなくダンテは飛び跳ね攻撃を回避するが、地面から足が完全に離れる結果となってしまった。
「くっ……」
『『オォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』』
無論、炎剣と風剣に操られたガルドに追撃以外の選択はない。
雄叫びとともに双剣は轟炎と疾風を纏う。得物を逆手に握って両の手を上げた魔獣は、地面に転がる獲物を仕留めるべく跳びかかり、全ての膂力を込めて振り下ろした。
アグニとルドラの魔力が込められた一撃。回避することも姿勢が悪いためこのタイミングではできず、リベリオンで受けようものなら炎剣と風剣による爆炎と爆風をもろに喰らいまともではすまない。
どちらとて選ぶこともできず、またそんな余地すら与えられなかった二者択一の瞬間。
牙を剥き出しにし、最強の
『『ムッ!?』』
両手から剣を放し。ちょうど背中の腰あたりにある、相棒たちをダンテは取り出す。
ガルドに向けられたのは、白銀と漆黒のフォルムに包まれた魔弾の射手。
「Time to go to work, guys!!(仕事だ、相棒!!)」
エボニー&アイボリーの照準をガルドの手元へと合わせるとトリガーをやたらめったら引き、機関銃にも劣らぬ乱射速度で弾丸を発射し始めた。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!! と鉄の怪物はその口から火を噴き、直線状にある全てを抉る凶弾を吐き出す。
もちろん、この弾丸とてギフトにより保護されているガルドに効きはしない。だが、その手に握るアグニとルドラとなれば話は別だ。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!! と。柄、切先、鋒、樋……ありとあらゆる部位に魔弾が直撃した双剣は凄まじい衝撃を受け、ガルドの手に多大なインパクトを与える。
『『ヌゥッ!?』』
ガギィン!! と。数多の魔弾を照射された双剣は主の手元から離れ、吹き飛んだ。
武器を失ったガルドはすでに空中。身動きの自由がきかず、そのまま狩人の眼前へと丸腰のまま飛び込むこととなった。
絶体絶命の危機に陥ったダンテは形勢逆転。千載一遇の好機となって、ダンテは左手に破魔の銀剣を取り直す。
「YEEEEEEEAAAAAAAAAAAAAAAHHHHH!!」
気力に満ちた叫び声をあげ、ダンテは銀剣を構えて突進する。
左腕を後ろへと下げ、瞬発力を最大限にまで発揮したダンテは鋼をも穿つ突き、『スティンガー』を繰り出す。
自らの命を奪う聖剣の切っ先がすぐ目の前にまで迫るガルド。
己を守るものは何もない状況。ここで再戦を果たした両者の雌雄が決せられるかと思われたその瞬間。
魔獣は、己が左手を切先へと自ら突き出した。
「ッ!?」
それは、傍から見れば愚行。自身で自身を死地へと追いやる、愚かしい所作としか見えない。
だが。その自殺行為が。ガルドの命を崖っぷちで救うこととなった。
次の展開は、言うまでもなく。突き出した左手が銀剣で串刺しになるというもの。
ズブリ、という湿った音とともに訪れる鋭い苦痛。魔獣は悲鳴をあげるが、しかし思考は極めて冷静。戦闘から一瞬たりとも集中を欠くことなく、次に取るべき行動へと瞬時に移行した。
そのままガルドの手を貫いた銀剣が、彼の胴体をもまとめて貫通しようかというその瞬間。串刺しになった左手ごと、銀剣を思い切り横へと逸らした。
「ちィ!!」
左手は突き刺した。だが、致命傷には至っていない。
銀剣は根元まで手に深く突き刺さると、ガルドはダンテの左手を握り、拘束する。
『GEEEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaa!!』
絶叫とともに、ガルドは鋭利な牙が並ぶその大口を開き、飛鳥と同じく彼の首を食いちぎろうとする。アグニとルドラに比べれば切れ味こそ劣るが、それは彼を死へと追いやるには十分な一撃になり得るものだった。
血に飢えた虎の牙が、赤い魔人の肉を食い破るべく迫るそのとき。
ガルドの口元に、突如として異物が放り込まれた。
『ギッ!?』
それがなにかもわからないまま、ほぼ反射的にガルドは顎を閉じる。
それと同時に鼻に飛び込んでくる鉄の臭いと、舌に広がる甘美な味わい。それはまさに、彼が長年喰らい続けてきた肉と血の感触。しかし、明らかにそれは人間の首とは違う部類の食感。歯に伝わるこの固い物体は骨に違いないが、しかしこれは二本ある。それに首の骨はこれほど浅い場所には存在しないはずだった。
これは、獲物の首ではない。この、部類は――
「わりぃな――」
――人間の、腕――
「野郎とキスする趣味は、俺にはねぇんだよッ!!」
ゾクリ!! と得体の知れない悪寒がガルドを襲う。
奇しくもガルドと同じく腕を犠牲として逆境を乗り越えたダンテは、魔獣の牙がしっかりと食い込んだ腕を無理やり引っ張って、己が左手の傍へと近寄らせる。左腕に力を込めた
『――ッ!!』
そこで反応できたのは、まさしく獣としての生存本能としか言いようがない。
ガルドはすぐさま牙を肉から離すと大きくのけぞる。左手を骨ごと千切り迫った十字剣の軌道からかろうじて頭部は外れ、事なきを得る。
「ッ!!」
『『HA!!』』
斬撃を避けられたダンテは悔しげに表情を歪め、追撃を行おうとする。だが、双剣は一喝すると合体してガルドの手に飛来した。
両刃剣の如く双剣を組み合わせたガルドはそれを激しく円転させ、アグニとルドラの魔力を解放する。直後として、熱風の嵐が巻き起こった。
『テンペスト』に飲み込まれるより一瞬早くダンテはバックステップし、衝撃を相殺。大きな傷を負うことなく、そのまま後ろへと下がることとなった。
こうして、密着して斬り合いを実行していたダンテとガルドの間に初めて距離ができた。
一瞬にして行われ、二転三転と幾度となく形勢が変わる攻防はひとまずここで終結。ダンテの右腕にはガルドの牙が食い込んだ痛々しい裂傷が見え、一方でガルドの左手は親指と人差し指の間がパックリと裂け折れた骨が露出している。
両者の腕が片方ずつ負傷することとなったが、魔の眷属たる二人は傷が一瞬で消滅することとなった。
詰まる所……振り出しに戻ったわけである。
「……Damn it」
『Hmm……!!』
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ苦言を漏らすダンテと、戦慄するように唸り声をあげるガルド。
開幕からこんな激突が、いったいこれで何度繰り返されたことだろうか。
人間と、魔獣の殺し合い。
言い方としてはかなり悪いものではある。もっとオブラートに包みこんで、正義の味方と悪の魔物の戦い、などというものでもよかったのだろうが……しかしこう表現するしか他になかった。
なぜかと問われれば、それは両者の戦い方が、華やかさとは完全にかけ離れた血なまぐさい獰猛なものだったからに相違ない。
演劇などで見られる華麗で高貴な振る舞いなどと、二人の戦いは完全に無縁。如何にして己の傷を最小に抑え、相手に致命傷を与えるか……それのみを最優先にして行動し、常に一歩先を予測し剣を振うその戦はあまりにも過激で、あまりにも残虐な光景だった。
瞬く間に人間も魔獣もその身を血で汚し、見るに堪えない傷を負っては一瞬でそれが治り、再び激突する。どちらも、どれだけ相手が果敢に攻めたてようと一歩も退かず、ただ剣を以て前進するだけだ。片方に至っては言うまでもないが、対峙している人間ですらもはや人としての理性など欠片もありはしない。二人は、殺し合うことへの恐怖などまるで麻痺しているかのように感じず、本能が命じるままに戦っている。
こんな野蛮としか表現できないこの戦いは……しかし、見た者すべてを釘づけにし、決して目を離させない魔力を持っていた。
「C’mon!!」
ダンテが掛け声をあげると、
真紅と一碧の双剣を手にし、激しく回転するようにそれを掻き払う虎の魔獣。
極大の鉄塊を以て双剣を強かに打ち付け、銀の細線を以てその首を刈り取ろうとする人間。双方の眼は殺意でギラリと危険な光を放ち、その口は内側から込み上げる狂喜で隠しようがないほど横に広がっていた。
剣と剣が衝突するたびにけたたましい轟音が鳴り響き、そこに花火のように美しく儚い火花が散る。
赤と青、二つの銀。これらが描く閃光の軌跡は、互いの命を奪い合う凶悪さがあってしかるべきだというのに、そんなこととは無縁に思えてしまうまでの美麗さを誇っていた。
(……あれが……強者の、世界……)
魔人と魔獣。狩人と捕食者。
醜悪かつ華麗。野蛮で絢爛な二者の戦いを、彼方からジンは恐怖と羨望が入り混じった目で眺めていた。
あれほどの苛烈な戦いを、どちらもどうして行うことができるのだろうか?
細いロープを渡っていくように、少しでも集中と判断を損なえば呆気なくその一生を終えてしまう極限の死闘。どちらもが平然と自分の命を放り投げているように見えて、そこには死から逃れるための策略がいくつも張り巡らされている。それはいくつもの死線を潜り抜けてきた経験がものを言うのだろう。
――それこそ、自分が、自分と敵の血で何度も真っ赤に染まるまでの、経験が。
だがそうだとしても……そこに全く恐怖を感じぬ者などいはしない。
絶え間なく連続して行われる命のレイズ、終わりの見えてこない死と隣り合わせの逆境。
たとえ繰り返してきたのだとしても、生きることを本能とする全ての生命にとって、死の恐怖は不滅の存在だ。これだけは覆りようがない。
なのに、どうして彼らは笑えるのだろう?
どうして彼らはすぐに立ち向かうことができるのだろう?
自分は向き合っただけで、すぐに心が折れてしまったというのに。どうしてあの魔獣と戦っている
どうして?
(……彼は……僕たちとはやっぱり、違う世界の住人なのだろうか……?)
そんな思考の裏で思い出されるのは、ダンテが彼に問いかけたあの一言。
――ただの人間ってのはホントに弱いか?――
強敵との対決に猛り、自身も獣の如く牙を剥くあの人は、そうジンに問いかけた。
その声には、確信があった。気休めや嘘なんかには決してない、確かな自信があった。
……人間は決して弱くないんだと、そう言い切れるだけの何かを、彼は持っていたんだ。
どちらが本当の彼なのだろう?
狂ったように笑い死地へ身を投じる獣の彼か?
あのとき自分へとあの疑問を投げかけた彼か?
双方を見てきた彼に、答えは出ない。
ただ彼に出来ることは……果てしなく続くこの殺し合いの末を、見守ることだけだった。
*
(……ちっ、どこのどいつだが知らねーが、また厄介なもんを押し付けてくれたもんだ)
四つの剣閃が飛び交う戦場で目の前の敵に集中を切らすことなく、しかしダンテは姿を見せぬ強敵への罵倒を忘れない。
アグニとルドラの力を宿した魔獣、ガルド=ガスパー。
本来ならば、ダンテなどより遥かに貧弱で非力な存在であるはずの虎は、上級悪魔の加護を得ることによって驚異的な進化を遂げていた。
肉体は見るからに凶悪な強化が施され、パワーを基礎としてスタミナ、スピード、耐久度ともに全てが大幅に上昇している。力比べで一度は大負けした耀に競り勝つほどであるからそれは明らかだが……やはりこうして交戦してみると、その度合いは異様の一言だ。ギルガメスを装備していたのでは重くてこちらの防御も攻撃も間に合わない。
そこに、アグニとルドラによる魔力の支援も入っているというのだから嫌になる。アグニの業火、ルドラの旋風による加護はガルドの攻撃と防御をさらに強め、こちらの立ち回りがより厳しいものとなってしまっていた。
さらには悪魔の特性による超回復。これのせいでチマチマとダメージを重ねていったとしても、すぐに傷が癒えてしまうのだから溜まったものではない。このせいでいつまでも戦闘は連続し、終わりが見えてこないのだ。
唯一幸いなのは、やはり無理やりな強化を施したせいか前回よりもアグニとルドラのステータスが落ち気味であることくらいか。確かに恐ろしく強くなったガルドではあるが、所詮はダンテのような強さとは無縁であった虎でしかなく、彼らの操る傀儡人形との差は比べるまでもない。十二分に双剣の力を発揮することはできないらしく、以前よりはまだ相手がしやすいものだった。
が、しかし。この戦闘において不利を被っているのは、相手だけではない。
(……せめてこいつがもうちょい固けりゃなぁ……)
双剣で絶え間なく攻めたててくる魔獣を相手にしながら、ダンテは左手に握られた銀の十字剣をチラと見やる。
このキーアイテムとなる剣、無駄となる装飾がされていないだけまだマシではあるのだが……ダンテが振るうものとしては圧倒的に耐久度が足りないのだ。重さ20kgを誇る魔剣リベリオンより遥かに軽く扱いやすいのではあるが、如何せん相手はその魔剣並の硬度と切れ味を誇る双剣と、それを自在に操る魔獣。どちらか一方とこの銀剣が全力でぶつかれば、こちらが呆気なく崩壊するであろうことは火を見るよりも明らかで、力一杯振うことすらなかなか出来ないでいる。
先の攻防でも、もしこの銀剣がもう少し硬いものであってくれていたならば魔剣が間に挟まれていようとも容赦なく叩き付け、怯んだところを斬り裂いていたというのに忌々しい。この銀剣が、アグニとルドラを相手取るには心許ない代物であることを、相手はしっかりと見抜いているようだ(まぁ用意したのがあちらなので、そんなことは当然といえば当然なのだろうが)。
(これもこれで楽しいもんだが……やれやれ、こっからどうしたもんかね)
悪魔としての破壊本能のまま、魔獣との戦闘に快楽を見出しながらも冷静に状況把握をすることだけは忘れない。
あちらもこちらも、扱うものがものなだけに全力を出し切れない。双方が相手を出し抜こうとしても先を読む能力も速度も同じではどうしようもない。
お互いに決め手に欠け、先日手となったこの局面。こうしてただ刃を交えているだけでは、長期戦は免れないだろう。
だが。そんな安直な考えで、最強の
(……どうする? ここでもう、〝あれ〟をやっちまうか?)
ダンテの脳裏に浮かぶのは、彼の中に潜む悪魔。
母から人間としての在り方を授かったように、生まれた時から偉大な父より頂いた、もう一つのダンテの姿。
彼の背後で戦いの成り行きを見守る者達が、その魔力の余波にやられはしないかと使いはしなかったのだが……こんな状況では、そうも言っていられないかもしれない。
確かに、今この場面ではお互いに勝敗を決することはまだできないだろう。
しかし、アグニとルドラを仕向けてきた謎の敵は、果たしてこのゲームがこのような展開になることを予測していなかったと言えるだろうか?
敵は、紛いなりにもあの双子の魔剣を制した強者。ならばこの戦がどのような進展を迎えるか予知する頭くらいあるだろうし、アグニとルドラからダンテの切り札とも言える〝あれ〟のことは前もって聞いているはずだ。
で、あれば。この膠着を脱する手段を持つダンテを確実に抹殺できる仕掛けをガルドに施して然るべきである。
(……今のところ、そういったもんはまだ見えてねぇ……だが、ゼッテーに何かあるはずだ)
双剣による猛攻を捌き破魔の斬撃をお見舞いする一方で、ダンテはしっかりとガルドを観察していた。ダンテが予想しているような『何か』はまだ見当たらず、アグニとルドラもどうやらそのような仕掛けがある素振りは見せていない。しかし、ゲームの最中に存在したあの落とし穴のことを考えると、あんなことをしてくれた相手が何もしてこないとは思えない。
未だその姿を見せぬ、見えない脅威。
その存在をおぼろげに感じていたダンテは、不気味さを覚えた。
「シッ!!」
『『HA!!』』
唐竹、逆袈裟、胴、左斬り上げ、逆風――上下左右あらゆる方向からやってくる二撃の斬撃、そこに織り交ぜられる突きの猛攻を片手の魔剣だけでいなし、僅かな隙を狙って銀剣のカウンターを繰り出す。
この戦いでもう何度も繰り返された攻防が再開する中で、ダンテはひそかに選択を迫られることとなる。
まだここでは様子を見て、こちらの切り札を温存するべきか。
ここで自身の全力を発揮し、相手がその『何か』を出してくる前に叩きのめすか。
――どちらを、選ぶべきなのか。
銀剣による刺突をガルドは紙一重で回避し、零距離で火炎と旋風の魔剣の斬りこみを仕掛けようとしたところでダンテは突進し、肩から体当たりをくらわす。当然ガルドにダメージはないが、衝突することで魔獣は多少怯んでくれた。
『『ヌウッ!?』』
「うらァ!!」
アグニとルドラが唸り声をあげながら思わず後ろへ下がると、突き出した左手を横に古いさらに追撃。しかし、銀の剣閃がガルドのその胴体を抉ろうというその刹那、ガルドは魔力を溜めていた炎剣と風剣をぶつけた。
『『フッ!!』』
さながらそれは、むき出しの火薬。
轟ッ!! と、ダンテとガルドの眼前で爆風が生じダンテは吹き飛ばされる。本来ならば自爆技となり得るそれは、ギフトに守護されたガルドに何ら傷を与えずダンテだけを吹き飛ばした。
「がッ!?」
容赦なく叩き付けられる風の爆裂によって無意識に口から空気を漏らし、ダンテは強制的に後退させられる。受け身を取り体勢を立て直したとき、わずかに斬りつけていたガルドの胴体はすでに再生し、無傷となっていた。
万全となり、双剣を力強く構える悪魔をダンテは忌々しげに一瞥する。
(……こりゃもう悩むまでもねぇか)
ダンテは自らに問いかけた疑問を一蹴した。
もう迷っている暇はない。このまま延々と斬り合っていたって、きりがないのだ。
それに元よりこちらの切り札など相手にはすでに露呈しているし、速攻戦をやろうが相手が先に仕掛けようが、〝あれ〟を使うことに変わりはない。隠していようともこちらにメリットはないし、こうも激闘が長続きしようものならいざというときに使い物にならなくなるかもしれない。
むしろこちらから先に攻めた方が有効なのではないか?
この無限ループにも思えてきた死合を有利に持ち込めるのならよし。得体の知れぬ『何か』を相手が使用する前に倒すことができるのならば文句はない。
後手に回るより先手を取る方が、得られる見返りは大きいだろう。
それに――
(――俺は、何事も先にやってやる方が好きなんでね――!!)
――すでに武装の関係上機先を制されてしまっているというのに、またそこで後れを取るような展開になることなど、ダンテの好むところではない。
意思を固めたダンテは己の中に潜む闇に呼びかける。
人間である誇り高い彼とともに、確かにそこに存在する、破壊の化身。
光の世界と完全に相反した混沌の闇の世界を生きる獣はゆっくりと鎌首をもたげ、徐々にその姿を現し始めた。
『『ムッ――!!』』
アグニとルドラは、彼の中で生じた変化に気付く。
昂る彼の感情のように、ダンテの魔力はより深い赤へと染まり、彼の四肢から漏れ出るようになる。海のように深く青い瞳であったはずのダンテの双眼は悪魔が持つ真紅の魔眼へと変化し、彼の存在は人間から魔の眷属へと緩やかに置き換えられていった。
脈打つ心臓のように拍動する真紅の魔力はやがてダンテの全身を覆い、赤い雷を絶え間なく何度も放つ。その様はさながら雷雲のよう。やがて彼の周囲は蜃気楼のように風景が歪み、彼の周りにあるもの全てが歪曲して見えた。
『――来るか。魔人よ』
『待っていたぞ、この瞬間を』
さらに禍々しさを増すダンテの魔力に、魔の双剣は興奮を隠せない。
宿敵が……永き生涯の中で初めて彼らを屈服させた最強の
生粋の
心の奥底からこみあげてくる歓喜と興奮の渦を抑えることなく、アグニとルドラは本能が命じるままに叫ぶ。
『さぁ、見せてくれ!!』
『すべてを壊すその真紅の姿を!!』
『『我らにその力をぶつけて見せよォォォォ!!』』
この森ごと一帯が吹き飛んでしまうのではないかと思うほどの魔力が、ガルドから噴出される。点火したジェットエンジンのように噴き出る濃密な瘴気を叩きつけられながらも、ダンテはその脅威に臆することはない。
鎧が如き真紅のオーラに身を包む魔人は、立ちふさがるその魔獣を真っ向から睨みつけ、うっすらと口を横に広げて、
『Let’s go……It’s crazy show time!!(おっぱじめんぞ……楽しい楽しいショータイムの時間だ!!)』
ディストーションのエフェクターがかかったギターサウンドのように、ダンテの声が歪む。
魔人は声高に。全てを見下ろして、魔獣へと死の宣告を下した。
ドンッッッ!!!! と。
その瞬間、ダンテの目の前で爆発が発生する。
「がッッ!!??」
それは、全く予想もしていなかった不意打ちだった。
アグニの獄炎も、ルドラの烈風もない。その空間に何も存在せず、そして爆裂が生じる要因となるような事象もなかったはずの場所でそれは起きた。
突如として出現したイレギュラーにダンテも対応することができず、纏っていた真紅のオーラは霧散しダンテはたまらず吹き飛ばされる。小さな規模で生じたその現象は、その範囲の小ささとは裏腹にとてつもない威力を誇り、彼の首から上に深い損傷を与えていた。
(なんッ――!?)
すぐに傷は修復されたものの、何の前触れもなく攻撃されたその事実にダンテは驚愕を隠せない。すぐにガルドへとその視線をダンテは戻すが、魔獣とその手に握られた双剣も何が起こったのかわからないというように目を見開いている。
いったいいつ相手は攻撃をしてきた? いや、そもそもこれは本当にあいつらの攻撃だったのか?
五か月前に対峙したそのとき、アグニとルドラはこんな攻撃を仕掛けてくることはなかった。第一奴らは真正面から斬撃と火炎、突風による攻めを行うことを好む戦闘狂であり、こんな卑怯とも取れるような行動はしない。それは実際に戦い彼らを使役してきた彼だからこそ理解できることだった。
なら、いったいあれはなんだったんだ?
様々な推測がダンテの脳内で駆け巡る中、彼の双眼は奇妙な物体を発見する。
「……?」
それは激しく動き回るわけでも、ダンテ目がけて襲い掛かってくるわけでもなく、ただ空中にふわりと浮かぶ球体だった。ところどころに隙間のある突起のついた殻に覆われた球体は淡い緑色に光り、不気味に空間を漂っている。
何もせずそこにあるだけの物体……なのに見る者が感じるのは、言いようのない危機感。
例えるならばそれは……そう。水中に配置された、機雷だ。
『バカな……』
『なぜ、こんなものが……』
アグニとルドラは、呆気に取られたようにその球体を見つめる。
それは、亡者の魂が放つ『驚愕』のエネルギーが集結した物体。普段は無害な存在でありながら、刺激を受けた途端、周りにある全てを吹き飛ばす危険物へと変貌する、浮遊する脅威。
爆弾『スピセーレ』が、ダンテを囲むように無数に出現した。
( ´,_ゝ`)クックック・・・( ´∀`)フハハハハ・・・( ゚∀゚)ハァーハッハッハッハ!!
聞いてくれたまえよ読者の諸君……
ついに……ついに……私は! 私は成し遂げたのだ!!
デビルメイクライ3、難易度DMDをノーアイテムノーコンティニューでクリアするという、偉業!!をな!!
どうだ素晴らしいだろ羨ましいだろう褒めてくれたまえ崇めたってかまわないよ羨望の眼差しで見ないでくれたまえよまぁ私が実力を出せばこんなものさ本気を出してしまえばあんな雑魚とボスたちなんて目ではないというのだよしかし兄貴パネェマジパn(以下略)
テンション異常上昇しておりますサーセン。
まあしけた功績ではありますが、やっぱりこうして実際にゲームをクリアすると感動してしまうものがありますのよ。何十回とリスタートした最終決戦ですが、最後の最後に崖っぷちで倒せたときは感激しましたね……そしてあのラストの切なさが何倍にもなって、思わず涙を流してしまいました……お兄ちゃん……
どうでもいいあとがきでした。アゲアゲテンションで続きもすぐ書き上げますのでお待ちくだされ(´・ω・)
あと戦闘描写について何か思ったところがありましたらご指摘や感想など書いていただけるとありがたいです。ではではノシ