問題児と最強のデビルハンターが異世界からやってくるそうですよ? 作:Neverleave
それはもはやバイトなどという言葉では収まらない。夜六時から深夜三時までの苛烈な労働が私を待ち受け、来る日も来る日も苦痛と疲労を私に与えるのである。
拷問の時間が終わったことを歓喜し帰宅したあと泥のように眠る……しかし朝になれば、新学期を迎える我が大学の大きな行事の準備が来てしまう。それが終われば再び私は拷問の場へと召喚され、終わりのない苦しみがいつまでも付きまとうのだ。
終わりがないのが終わり……それがゴールドエクスペリエンスレクry)
投稿が遅れたことを中二っぽい文章で書いてみた結果がこれだよ(´・ω・)
終わり方も中途半端だし、どうしたものだろう。また何かに負けた気分だ(ノД`)・゜・。
作者のそんなどうでもいい独白はここで終了。以下、続きをどうぞ
挑発の言葉を受けて第一にアルケミーたちが。そしてその次の瞬間に、ダンテ達が動き出す。
「フッ!」
耀は自身が持つ獣の跳躍力を一気に解放し、そこにグリー……白夜叉とのゲームで競い合った友、グリフォンの力を借りて旋風を巻き起こす。
風の力でさらに加速した耀は一頭のアルケ二ーへ急接近。息つく間もなく掌打を巨大蜘蛛の腹へ叩き付けた。
「ギィ!?」
アルケ二ーは勢いのまま他の仲間数匹を巻き添えに吹き飛び、はるか後方へと飛んで行ってしまう。斜線上に立っていた木々は軒並み倒され、それらに複雑に絡みついていたツルはまるで爆竹でも破裂させたような音をたててすべて千切れる。
確実に仕留めたかに思われたその一撃の手ごたえはしかし。
(固ッ……!?)
まるで鉄塊を叩いたかのような衝撃が、掌から耀の全身にかけて走る。会心の一撃を当てたはずの耀の手は電撃を浴びてしまったように痺れ、数秒間はろくに動かすことができそうにない。
チラと木々が吹き飛んでいる方へ目を向けてみれば、はるか彼方で何事もなかったかのように立ち上がる蜘蛛悪魔たちの影があった。
「くっ……!」
悔しげに歯を食いしばり、痺れを切らそうと手を乱暴に振る耀。
アルケ二ーは全身が鎧のような固い皮膚で覆われた蜘蛛の悪魔だ。故に、唯一その硬化皮膚で覆われていない頭部以外に攻撃を仕掛けても効果は薄い。
さらに耐久力だけで言えば奴らはセブンス=ヘルなどよりもかなり高く、威力の低い攻撃をしかけても倒すことはおろか怯ませることもできないのである。
耀の一撃は、確かに威力だけで言えば確かに申し分ない。しかし、如何せん当てどころが悪かったのだ。
「キィキキキ!!」
そんな耀を嘲笑するかのように、異形の樹にぶらさがった巨大な蜘蛛は鳴き声をあげた。
耀がその一匹を見つけた途端、アルケ二ーは八本の足を駆使して木々の上を跳ね回る。
アルケミーはその巨躯と体重に似合わず驚異的な瞬発力を誇り、身軽に跳躍することができるのだ。
立体的な機動力はこの悪魔が持つ最大の脅威であり、これに翻弄されれば敗北は必至。
その足を使ってサルのように木々を飛び交うアルケ二ーを耀は超人的な動体視力で追いかける。並の人間ならばとっくに見失っているであろう速度だが、なんとか彼女はそれについていけた。
そうして蜘蛛の動向を伺っていた耀だが、次の瞬間彼女は目を見開くこととなる。
跳躍していたアルケ二ーが突然耀の視界から姿を消したのだ。
「ッ!?」
いや、彼女の目はしっかりとアルケ二ーが消える瞬間を見ていた。しかし、その動きがあり得なかったのである。
木から木へ飛び移っていた巨大蜘蛛が跳び、次の木へたどり着くかと思ったその時……アルケ二ーは急に後ろへ引っ張られるように戻っていったのである。
いったい何が起こったのかと驚きを隠せない耀だったが、それは空中に浮かぶ幾多もの光る線を発見することで解明された。
(蜘蛛の……糸!?)
そう。耀が目で追っていたアルケ二ーの軌道線上には、木々の間にいくつもの蜘蛛の糸が集結し、ネットが張られていたのだ。
それによって蜘蛛は軌道を強制的に変更し、彼女の虚を突いて視界から逃れたのである。
耀はアルケ二ーがネットに弾かれ飛んでいったであろう方向へと目を向ける。しかしすでに巨大蜘蛛は別の場所へと跳躍し、どこかへと姿を眩ませていた。
「キィキキ」
焦燥の念にかられる耀の背後から、不気味な鳴き声が聞こえてくる。
ハッとして耀は振り返り、今度こそヤツらの急所たる頭部へ当てるべく蹴りを放った。
しかし。
ガギンッ!! と。
硬化皮膚ではない、もっと固い何かが彼女の足を阻んだ。
「うッ!?」
いったい何が起こったのか。思わぬ反撃に反応が追い付かず、その場に倒れこんでしまう耀。
そのとき彼女は、二本の爪で頭部を覆い隠す巨大蜘蛛の姿を見る。
おそらく彼女が蹴り飛ばしてしまったものはあの爪だろう。皮膚以上の硬度を持つそれは、耀が全力で放った蹴りすら弾き返してしまったのだ。
すぐに体勢を立て直そうと動くが、それよりも早く敵側は次の行動に移る。
一歩下がったかと思うとアルケ二ーは身体を縮ませ、その瞬間にバネのように弾けて跳躍した。
その巨躯からはとても想像できないほどの凄まじい速度で蜘蛛は迫り、元々かなり近接していた耀との間合いはすぐにゼロになる。
防御も、回避も。間に合わない。
「ッ!」
咄嗟に腕を交差させて顔を覆うが、こんなものがあの爪から自分を守ってくれるとは思えない。紙の盾で大砲を防ぐようなものだ。
激痛と最悪の結末を覚悟して、耀は固く目をつむる。
「
そこに、救済の手が耀に差し伸べられた。
背後から聞こえてきた怒号とともに蜘蛛は停止し、間一髪のタイミングで惨劇は止められた。
ハッとした耀は後ろを振り返り、命令を下した友を見つける。
「春日部さん、大丈夫!?」
赤いドレスに身を包み、凛とした佇まいでそこに立つ一人の少女が、耀の名を呼ぶ。
自分の無事を伝えるため、耀はその声の主に応えた。
「う、うん! ありがとう、飛鳥!」
急ぎ耀は立ち上がって、自分に襲い掛かってきたアルケミーから距離を取った。
飛鳥のギフト〝威光〟によって自由が奪われている状態とはいえ、あと少しのところで自分の命を奪いかねなかった生き物の目の前にいるのはいい気分がしない。
「怪我はないですか!?」
「叩いた手がちょっと痛い。けど問題ない」
ジンが耀に駆け寄って安否を問う。自分が生きているか確かめるように自分の肩に触れながら、耀はその問いかけに応えた。
先ほどは本当に危なかった。瞬きをするほどの時間でも遅れていれば、アルケ二ーの爪は耀を肩から脇腹にかけて真っ二つにしていただろう。確実に彼女は絶命していたに違いない。
そんな情景を思い描いた耀は身震いせずにはいられなかった。
手ごわい。
あらゆる方向への立体的高速移動を可能にする驚異的な瞬発力。
敵の拘束、移動手段として用いることができる強靭な糸。
半端な攻撃はすべて弾き返してしまう堅固な皮膚。
そして何よりも厄介なのは、知性が低いゆえに本能に忠実なその思考。
弱肉強食の世界で生き延びてきたヤツらは〝狩り〟のノウハウを知っている。自らが持つ得物の特性を理解し、それを有効的に活用してくるのである。
初めて魔の眷属と相対する耀たちにとってアルケ二ーの群れは、かなりの難敵であると言っても過言ではなかった。
しかし。それでも彼らにすべてのギフトが通じないわけではない。
「……よくも私の友人を危険な目に遭わせてくれたわね……情けはかけないわ!」
怒りで声を震わせ、飛鳥は蜘蛛の集団を睨みつける。
彼女にとって耀は同じコミュニティに属する同士だけでなく、この世界へとやってきてから初めて出来た友達なのだ。
これからきっと、多くの苦楽を共にするであろうその友人に、ヤツらは手にかけようとした。
そんな大切な者を傷つけようとした悪魔たちに、もはや飛鳥は容赦などしない。
本当ならばこんな使い方などしたくもないが、この外道どもにこれ以上相応しい罰はないだろう。
そう決断した飛鳥は大きく息を吸い、次に蜘蛛の集団へと命令を下す。
「
その瞬間、蜘蛛たちは一人の人間の少女が命じるままに動き出した。
今まで互いに守り合い、共通の獲物を狩るべく動き合っていた悪魔たちは互いに爪と牙を向けた。
「ギィ!? ギギギギギギッ!?」
戸惑いと苦痛による悲鳴がそこかしこからあがり、異形の森に響き渡る。
人間以上もの大きさを誇る蜘蛛の大群が互いにぶつかり合い、糸を放ち斬り合うその光景はまさに阿鼻叫喚と言うに相応しいものだった。
グロテスクな外見の悪魔が耳障りな金切声をあげ、肉を引きちぎり潰し合う。辺り一面に緑色のドロドロとした血が飛び散り、鼻をつくようなツンとした臭いが充満する。
飛鳥のギフトが魔の眷属にも有効であること、そして強力な手段となり得ることが証明された上に仲間の危機を救ったとはいえ……こんなものを見せられてしまえばその喜びも実感することができない。むしろ眼前の惨劇を起こしてしまったという不愉快さで後悔すら覚えるほどだ。
胸の奥がムカムカとする感覚を押さえつけ、飛鳥は先ほどの二の足を踏むまいと目を逸らさずに地獄絵図を見続ける。いくら〝威光〟のギフトを行使して自由を奪ったとはいえ、相手は自分にとって未知の存在なのだ。いったいどのようなことが起こるかわかったものではない。自分が下した命令に、結果的に逆らったことになったダンテという前例がいるため、ますます油断などするわけにはいかなかった。
そんな彼女の意図を察してか、耀とジンもぐっと堪えて目の前で繰り広げられる地獄絵図から目を離さずにいる。
しかし皮肉なことに今回はそれが……飛鳥たちに隙を生じさせることとなった。
「ギギィィィィィィ!!」
それは三人にとって予想だにしないことだった。
一匹のアルケ二ーが同族によって腹を引き裂かれ、おぞましい断末魔をあげたそのとき――新たな脅威が産声をあげて生まれる。
ブチュブチュブチュブチュッ!! と。
「「「!!??」」」
肉の切れ目から、緑色の血の他に小さな何かが這い出てきた。
この蜘蛛たちと比べればそれは本当に小さなものだった……しかし、それは大量に生まれ、そしてその親に似て醜悪な姿をしていた。
蛍のように淡い緑色の光を放つ子蜘蛛――従来の蜘蛛と比べれば、明らかにそれは巨大な部類ではあるが――それが、死骸になり果てたアルケ二ーから生まれ出たのである。
「キィキィ!」
「ギャギャギャ!!」
「ギャギギ!!」
いくつものアルケ二ーの屍から生まれ出る無数の子蜘蛛。
そしてその蜘蛛の集団は地に降り立つと、真っ直ぐに飛鳥達目がけて行進を始めた。
「うっ、と、止まりなさ――」
蜘蛛の生誕と行進に吐き気がこみあげ、なんとかそれを我慢して飛鳥は反逆の許されない命令を下そうとする。
しかし、その数瞬の隙が仇となった。あとほんの少しの時間で命令を言い切ることができたその刹那、無数の光る子蜘蛛は彼女らに跳びかかったのである。
「ギャギャーッ!!」
それはさながら光の津波。その正体すら知らなければ幻想的で美しいとさえ思えたそれはしかし、飛鳥目がけて襲い掛かってくる。
「飛鳥!」
耀が咄嗟に彼女の腕を掴み、後ろへと引っ張る。
おかげで飛鳥は津波に呑みこまれることはなく、光は背後にあった木々へと衝突する。
その瞬間、ブチュブチュブチュブチュッ!! と盛大な破裂音をたてて、子蜘蛛は一斉に爆発した。
一つ起こっただけで木の表面は吹き飛ばされ、幹は深い傷を負う。だが次々と蜘蛛は木の一点に跳びかかっては連続して爆裂し、やがて根元から木を粉砕してしまった。
その威力に、全員が目を見開くこととなる。
もしもあんなものを一撃でも喰らってしまえば、原型をとどめることすらできずに、ゲームどころかこの世からも退場させられるのは確実だ。
「キィキィ!」
「キィァァァァアアアアアアアア!」
前方から聞こえてきた鳴き声に、全員がハッとして振り返る。
蜘蛛の行進はまだ終わっていない。飛鳥の命令によって互いを斬り殺し合ったアルケ二ーの死骸からは無数の子蜘蛛が出現し、それらがすべて飛鳥たちへと直進していた。
子蜘蛛は一気に三人が立つ場所へと飛び跳ね、巨大な光の津波をつくる。
防御は不可能。回避も〝威光〟も間に合わない。
「――ッ!!」
絶体絶命の危機に陥った飛鳥たちにできることは、何もなかった。
全員が今度こそダメかと目をつむる。迫りくる死の光はやがて三人を眩く照らし、二度と覚めることのない眠りへと誘う。
そして――
「おいおい、もうギブアップか?」
その光の行進を、真紅の影が阻んだ。
「「「ダンテ(さん)!?」」」
飛鳥達が驚愕の声を上げる中、ダンテは左手を背にあて、右手を正面に突き出して掌を光の津波に向ける。
その瞬間、黄金色に輝く魔法陣がダンテの右手を中心に展開された。
子蜘蛛の大群は三人の前へ出たダンテへと襲い掛かることとなり、黄金色の魔法陣と衝突する。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!! と。
自らの命すら厭わぬ爆撃が始まり、轟音と緑の閃光が森を駆け巡る。
飛鳥達はたまらず目をつむり耳を塞ぐ。だが、いつまで経ってもこちらに衝撃はやって来ない。
「…………?」
不思議に感じた三人はゆっくりと目を開けて前を見る。
そして眼前に広がる光景を目の当たりにして、表情が驚嘆のそれに変わった。
ダンテはアルケ二ーの子蜘蛛の襲撃を平然とした顔で眺めていた。爆発は今のこの瞬間も連続して起こり、四人を飲みこもうとしている。
しかし、その全てが黄金の魔法陣によって防がれてしまっているのだ。
爆撃が起こるたびに魔法陣は振動して衝撃を吸収し、飛鳥達とそのすぐ後ろに立つダンテにすら一切の傷を負わせない。
子蜘蛛が魔法陣に飛び込み、そして勝手に自爆することが繰り返されているだけだった。
しばらく続いたその光景はやがて時間とともに激しさをなくし、閃光と爆音は衰えていった。
やがて全ての子蜘蛛がいなくなり、ダンテが右手をそっと下ろすと黄金色の魔法陣も消えてなくなった。
「……〝アルティメット〟も壊せねぇようじゃダメだな。ガッツ足りねぇよ蜘蛛野郎ども」
ボソリと、つぶやいた本人にしか聞こえないような小さな声で愚痴をこぼしながらダンテは真紅のコートを翻して振り返る。
そこにはいつも通りのにやけた顔があり、そしてまたいつも通りのおどけた調子で飛鳥達に語り掛けた。
「よぉお嬢ちゃんにお坊ちゃん方。怪我はねぇか?」
「……え、ええ」
「……はい……大丈夫、です」
いつもならば皮肉と冗談を込めて返答する飛鳥と耀だが、一瞬前まで死の淵に立たされていたことと、涼しい顔で彼女らを救うダンテを目撃したこととで茫然としてしまう。
立て続けに起こる急展開に頭がついていけず、やっと状況の整理が出来たところで飛鳥とジンは返事をするが、その疲弊の色が混じった声に不満を抱いたのかダンテは眉をひそめた。
「……ま、あいつらが初っ端から出てきたんじゃ疲れるもんかね。そいつはわかるんだが、それでもそんな風にへばってたんじゃ先が思いやられるな」
「……今少し驚いたりして、疲れてるだけ……まだ、やれる」
「少し驚いて、少し疲れて、んで死にかけたなァ? これが毎回あるってのか? いつの間に俺はお前らガキのお守りを任されるようになっちまったのやらねぇ」
相手を煽るような文句をつけてくるダンテに耀は強がりを言ってみせるが、しかしダンテはその言葉にまた挑発の発言を返す。それはいつも仲間うちで放っているような明るい冗談などではなく、相手の痛いところを狙って傷つける、嘲りの言葉だった。
飛鳥と耀は彼の態度に憤りと、そしていつもと随分と雰囲気が異なる仲間の様子に心の片隅で戸惑いを覚えながらダンテを睨む。自分たちの失態だったとはいえ、ここまで言われれば誰でもカチンときてしまうものである。ここで黙ったまま彼の罵詈雑言を聞き流せるほど、まだ飛鳥と耀は大人ではなかったのだ。
「いつまでもこんな醜態を晒すわけじゃないわ、次はこうはいかないわよ。あんな気味の悪い蜘蛛に殺されるだなんて真っ平ごめんだわ」
「……同じく」
そうして彼の挑発に対して負け惜しみのような発言をとってしまう飛鳥と耀の二人。初見の相手にしては手強く、またこちらを翻弄する手段を多く持った敵ではあったが、タネがわかってしまえばいくらでも対抗策は講じられる。元々応用する手段が豊富にある二人のギフトをもってすれば、ヤツらの攻撃手段を封じてこちらが一方的に攻めることだってできるのだ。
数多くの動物の能力を吸収し我が物とできる耀の身体能力と五感、そしてあらゆる物に命令を下し、自らの駒あるいは道具として他を利用することができる飛鳥の言葉にはそれだけの力がある。アルケ二ー一体だけでなく集団、そして発生する子蜘蛛も完封する、なんてことも本来ならば簡単にできてしまうことなのだ。
二の足を踏むなんてことは、絶対にしない……そう考えての、二人の発言だったが。
「……ああ、まずそこからかよ」
それを聞いたダンテはといえば、呆れきったような、どうしようもないものを見てしまったような空虚な目をしていた。
「……おかしなことを口走ったかしら? 至極当然のことをこちらは言ってみただけなのだけれど」
「……いや、さすがお嬢様といったとこかな、と。耀はわかってたのかと思ってたけどよ、おめぇもかと思うと少し残念だな。いや、ホント残念だよおめぇら」
難題にぶち当たって悩むようにダンテは頭を掻き、不機嫌さを紛らわすようにため息を吐く。
目の前の大男のこの反応に、少女二人は憤慨と困惑が胸の中で渦巻いて混乱するしかなかった。いったい自分たちが言ったことの何がここまで彼をイライラさせているのか、さっぱりわからない。いくら首をひねっても見当もつかず、こちらも苛立ちが募るばかりだ。
こんなことをするのも癪だが、だが実力はともかくこうした場数を多く踏んでいる彼の発言に深い意味がないとは思えない。悔しげに表情をしかめながら、飛鳥はダンテに問いかけた。
「いったいどういうことなのか、説明をしてもらおうかしら? 私たちの何がいけないのか、それをハッキリ教えて頂戴」
「簡単なこった。すっげぇ簡単で誰にでもわかるような、な」
そうしてダンテは彼女の言葉を受けて、大袈裟に腕を振りながら飛鳥の要望通り説明を始めた――かと思うと。
「ま、わかりやすくするとだな」
背中のホルスターに納めていた白銀の大型拳銃を取り出し。右手の中指から小指にかけての三本で、しっかりとグリップを握る。
「要するに――」
そこで彼は言葉を切り。
飛鳥の首を左手で掴み、勢いのまま地面に押し倒す。
「がッ!?」
抵抗などする暇すら与えられず、飛鳥は銀髪の大男の手一本で、大地に拘束された。
己を縛る大きな手に、自分の両の手で引き剥がそうとする飛鳥だが、ギフトを除けばたかが一人の少女でしかない彼女に魔人の力を超えることなど出来はしない。
ミチミチと首の骨が音を立てて軋み、あらゆる動物にとって最も重要な器官である場所への血流が完全にシャットアウトされる。
モノクロテレビのように白黒に反転し、すべての輪郭がぼやけだした視界の中で、飛鳥は白銀色の鉄の怪物を見つけた。
そして次に、ろくにもう音を聞くこともできぬ耳が……いやにハッキリと聞こえる、憎たらしい声を拾う。
「――こういうこった」
最後に。彼女の視界の中で白い光が炸裂し。乾いた炸裂音が響いた。
最後の描写……ダンテさんの巨大拳銃(意味深)が飛鳥に向かって放たれたわけですねフフフフ【バァン!】