世界は酷く美しい   作:人差指第二関節三回転

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023   集結する豪傑達

 死神族の花。

 

 強靭(ザ スプリングス)―――女原傷名(みょうばるきずな)

 

 死神族の中でも屈指の戦闘力を誇る彼女と、音眼達は向かい合っていた。

 

 

 

「こんにちわ、お嬢ちゃん達。僕は女原傷名っていうんだぁ」

 

 

 

 傷名は優しそうに挨拶をする。

 

 それが逆に、恐怖を煽る。

 

 全身から放たれる強さが、完全に常軌を逸していた。

 

 

 

 

「さっきの戦い見てたよ。すごいね。もしかして君たちが、あのケッシーに連れてこられた餌ってわけ?」

 

「ケッシー? 誰それ彼氏の名前?」

 

「あぁごめん。あだ名じゃ伝わらないか。灰ヶ峰消炭君のことだよ」

 

 

(ケッシーだとかズミズミだとか、あいつちやほやされてんだな)

 

 と音眼は冗談じみたことを思ってみた。横に居る書子はどうかわからないが、優鳥のほうも警戒しているようだ。いつでもスキルを放てるように用意をしている。

 

 音眼はオーバーオールのポケットに手を突っ込んで、余裕を見せつけるように風船紙を膨らませてみた。野球ボール程まで膨らましたまま、音眼は彼女に訪ねてみる。

 

 

「あんた。この場所がなんかの力で閉じ込められてるって、知ってる?」

 

「そうなの?」傷名は知らなかったらしい。それから何かを思い出したように彼女は語る。「そういえば不思議な感覚はあったけど。僕にはなにもなかったかな。もしかしたら晶器の仕業かもしれないね。そして本当にもしかしたらだけど―――垂水佳子の仕業かも?」

 

「それは誰だ?」

 

「ああ、そうだね。そういえば自己紹介とかする暇なかったよね。それじゃああんまり楽しくない。自分たちを死に追い詰めた相手の名前くらい覚えておきたいもんだよね。その後逆襲して葬り去るときのためにさ」

 

 

 女原傷名は、最終的に勝つことを前提として話を進めていた。

 

 

「さっき校内放送でひとりで盛り上がってた男が曲里晶器。そして、あの明るいお姉さんが垂水佳子。―――って、こんな情報、今更だけど教えちゃっててよかったのかな? 普通の人生を歩みたいなら、知らないほうがよかっただろうに」

 

「いいえ。その必要はありません」

 

 

 上峰書子がぴしゃりと言い放った。

 

 

「なぜなら私たちは既に、常軌を逸しているのですから。普通じゃなくて、異常なのですから」

 

「三人で一人をいじめるのはあんまり好きじゃないけど―――でも、そんなことは言ってられないよね」

 

 

 優鳥が書子の後ろに続いた。後に音眼が気だるげに喋る。

 

 

「そーだな。まー、でもごめんね女原さん。どうせこんなバトル物の小説みたいな展開なんだ。ここを出るには、ダンジョンの中のボスを倒さないと出られない仕組みなんでしょ?」

 

「んー。少なくともここを通りたければ、僕と戦って倒してほしい」

 

「じゃー、みんな」

 

 

 オーバーオールに手を突っ込んだまま、彼女は意気込む。

 

 

 

「しまってこーぜ(棒読み」

 

 

 

 殺人の鬼と評された殺し屋と、魔物と評された裏の三名。

 

 常人には想像だにできない空前絶後で荒唐無稽で、奇想天外支離滅裂な滅茶苦茶で無茶苦茶な猟銃琥珀なる戦いが、廃校舎の中で開幕を遂げる。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 元水槽学園生徒会に所属していた四名は、廃校舎に向かっていた。

 

 彼女達はあの夜以来―――甲突川掌理の敗北と桜ヶ丘恋の死体を見た日以来、灰ヶ峰消炭との接点はなくなっていた。彼女達としては目的も目標も同じだし、行動を共にしたいところだったのだが―――なぜかあの日以降、消炭と出会うことはなかった。そもそも携帯番号すら交換していないのだ。こんなことなら番号くらい交換しておくべきだったと後悔する彼女達だが、どうせ聞いても教えてくれなさそうだとも思っていた。それに―――消炭は友達だ。いつか絶対会えると、不思議にも無意識にも思っていた。

 

 それで、今日。

 突如空の一部が瞬間的に一色に染まったのを見て、彼女達は確信した。今どこかで、画図町筆が過負荷をぶっぱなしたのだと―――同時に、消炭がそれを『相殺』したのだろう、と。

 

 故に彼女達はその場に急ぐ。

 

 

「早くいかなきゃ……!」

 

 

 一度消炭と筆の戦いに直面したことがあるからこそ、彼女たちにはわかる。

 消炭のあのスキルには、打てる回数が決まっているということが。

 最初に消炭と出会った時、消炭はとても苦しそうな表情をしていた。罪悪感に苛まれて精神が犯されているような、そんな顔。対する筆は精神を病んでいるようではあったが、苦しそうでも疲れているようでも見えなかった。消炭のスキルは相手を絶対的に相殺しキャンセルできるという恐るべきスキルだが、それは永遠の拮抗を招くことを意味していて、回数制限のある消炭は常に不利な立場なのだ。じりひんで勝利を掴むことが出来ない。いかにも過負荷らしい性質を持ち合わせている過負荷と言えよう。過負荷だからこそ理解できた彼女は、消炭を助けるためにその場に向かう。

 

 そして、どうにか過負荷の勘を頼りに、とある廃校舎へとたどり着いた。

 前回は消炭に殺して貰うまでスーパーにたどり着けなかった彼女達だが、今回はその限りではないようだ。過負荷には、過負荷特有の感覚がある。普通の人吉善吉はそれを気持ち悪さと評しているが―――その感覚は過負荷だからこそ共有できたのだろう。前回たどり着けなかった理由はそこかもしれない。

 

 ―――それで。

 

 たどり着いたのはいいのだが―――問題はそこからだった。

 

 

                  入れない。

 

 

 校内に、入れない。

 

 正門は、来るものを拒むくらいには鍵が掛かっている。けれどその防犯性に意味はあまりなく、高さが2メートルもないので小学生でもよじ登ることができそうだ。塀も低く、完全な防犯性能を持ち合わせているとは思いにくい。だからこの中に侵入するのは、それこそそこらへんの小学生でも簡単そうだったのだが―――異常の彼女達には、普通にできるそんなことができなかった。

 

 なぜだろう。

 

 彼女達は校門を前に足止めを食らう。

 

 

「いったいどうすればいいんだっ」

 

 

 桃が地団駄を踏む。憂もこの状況をいらただしく思っている。替は原因を思考し、癒は打破する方法を考えていた。

 

 なにかしたいのになにもできない。

 

 八方塞がりな、そんな時。

 

 彼女達は後方より異常なる者達と遭遇した。

 

 

 

「どーした、そんなとこでなにをやっているお前ら」

 

「………あんたたちは何者?」

 

 

 

 桃が振り返って最初に出た言葉は、そんなものだった。

 

 異常。普通ではない。まず格好からして普通ではない。白い奇抜な和服を着用した男と顔面に線が刻まれている男、そして白衣にマフラーをかけあわせた弓を持つ男。

 

 斬新なファッションに身を包む彼らを見て、高校生だと認識できたのは奇跡に近い確率だろう。実際、憂が()に気がつかなければ、異常者達と過負荷達は互いにずっと年齢を把握しきれなかったことは確実である。憂は和服の男を指差し叫ぶ。

 

 

「あっ! あんたは!」

 

「男児三日会わざれば刮目して見よ! と言うが、それはどうやら本当に男に限るらしい。般若寺憂! 小学校からほとんど変わらないなお前は」

 

「そういうあんたも変わってないけど?」

 

 

 糸島軍規と般若寺憂の会話から、彼らはだいたい年の近い者だと周囲は理解した。この二人には過去になにかエピソードがありそうなのだが、今はそんなことを悠長に話していられる暇はない。

 

 鶴見先山海はいちはやくこの場を整理する。

 

 

普通(カス)だったら駆除するところだが、お前らはそうではなさそうだ。お前ら、この中に用があるのか? だとしたらなぜこんなところで立ち止まっている」

 

 

 言いながら校門を殴り飛ばす。

 

 瞬間、明らかに拳で殴った時の音ではない轟音が響き、鋼鉄の校門が大げさにひしゃげてしまった。彼女達はそれを見て彼の異常さを認知する。

 

 

「助けたければさっさと助けにいくことだ。あいつらがいなくなれば、ボーリングに付き合う仲間がいなくなってしまうからな」

 

「義を見てせざるは勇無きなり。助けに行く理由に迷うなら助言をしよう。助けに理由など必要ない」

 

 

 何事もなく、何も起こらずに破壊された校門から当然のように侵入してしまった鶴見先山海と糸島軍規は、一歩校内に踏み込んだのを堺に姿を確認しずらくなった。まるでそこだけ、とても濃い霧が漂っているように。

 

 思い違いをしたまま侵入した二人に続いて足を一歩踏み出した百町破魔矢は、そこで一度足を止め、肩ごしに彼女達に声を描けた。

 

 

「……私は百町破魔矢なるものです、ついでに私も助言しましょう。あなた達がここで立ち止まっているのは、別に助ける理由に困っているとかそういうのではないとわかっています。あの二人は考えるのが苦手ですから、気にしないでください。さて―――通れる場所がなぜだか通ることができないときは、それは真っ先に術者を疑いましょう。アブノーマルかそれ以外のなにかか、それを発動している者が絶対にいます。その者を結界使いと仮定すれば、やることがすぐにわかるはずです。獣を檻に閉じ込めた人間がどこにいるのか、想像くらいはつくでしょう」

 

「っ!!」

 

 

 姿を消した弓使い。

 

 四人の過負荷は、すぐさま二手に分かれて学校敷地周辺を駆け出した。

 

 檻に閉じ込める力の使い手なら、閉じ込める人間は絶対に外にいる。

 

 それも檻が見える位置に―――助言を得た四人はその場所から姿を消し、それを確認した破魔矢は、結界の向こう側で外の木の影に潜む人影を睨んでいた。

 

 

「全く、とんだお人好しもいたところです。それを助けた私もお人好しなんでしょうけど」

 

 

 

 

 

 

「それもそうだな……っと」

 

 

 木の影に潜む少年は、破魔矢が消えたのを確認して姿を現す。

 

 外見は普通の少年である、蛮勇者こと甲突川掌理。

 

 絶対に勝つ異常性:『這い上がる蛮勇者(ラストスマイル)』の持ち主。

 

 誰もいなくなった校門前で、掌理は世界に呟いた。

 

 

「いるんだろ? でてこいよ」

 

 

 その言葉は、独り言では終わらない。

 

 掌理の言葉が世界に響いて数秒後、それに従うように違う木の上から人間がすらりと姿を現した。

 

 死神。

 

 その者は全身をぼろぼろの黒コートに身を包んだ死神のような異常者だった。フードで顔が見えない。纏う雰囲気は異常の概念そのものだ。

 

 彼の名は皇后崎死鏡(こうがさき しきょう)

 

 死神族(デス)の頂点に君臨する殺しの神。

 

 彼は殺し屋達から狂神(ザ マーダーアーミー)と呼ばれ恐れられている。

 

 先ほどの彼女達四人を暇潰しに殺戮しようと企んでいた死鏡は、このただの高校生である甲突川掌理によって今の今まで牽制状態に持ち込まれていた。

 

 それが今、解放される。

 

 死鏡は掌理に指を向けた。

 

 

「時間に指図される我ではない。だから我が時間を逆指名しすこし遅れてやってきたはいいが………この我を牽制するとは、なかなか面白いやつが現れた。高校生、貴公の名前は何という」

 

「聞いてどうする」

 

「何処かに墓でも作ってやるのだ」

 

 

 勇者は神との戦闘に入る。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 高校近くの廃ビルの中腹。

 

 そこには四人の中学生が潜んでいた。

 

 生真面目そうな男子中学生は望遠鏡から目を話し、窓に持たれて希望を述べる。

 

 

「予想よりも早く勘付かれた。俺はこの術を発動している間は戦いたくない。故に皆、できる限り時間を稼いでくれ」

 

「相手が男ならあたいに任せな」

 

 

 罪悪感を司る彼女は自身ありげに言葉を返した。

 

 

「私は誰でもかまわないけど?」

 

 

 木刀を所持した少女が喋り、

 

 

「俺に従えば負けることなどありえない」

 

 

 指揮を担当する男が余裕を見せた。

 

 

 曽於消希。

 

 荒生田くるみ。

 

 羽衣唯無。

 

 鴨池多々狼。

 

 彼ら四人は、中学生の中でも名を馳せるスキルの持ち主達である―――。




―――曽於消希。

在籍校:結界中学
所 属:悪平等
スキル:閉じ込め系《クロスクローズド》


―――荒生田くるみ

在籍校:檻舎第二中学
所 属:悪平等
スキル:罪悪漢《ビカレスク》


―――羽衣唯無

在籍校:厩庫中学
所 属:悪平等
スキル:極才色剣美《ザ・ソード》


―――鴨池多々狼

在籍校:酒甕中学
所 属:悪平等
スキル:群集軍隊《チームピープル》



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