「この前のことなんだが」
クナイで武器を弾きながら、消炭は質問する。
「なんであんとき、俺を逃がしてくれたんだよ。なんで球磨川を背後からぶっ刺してくれたんだよ。まるで俺達仲間みたいだろうが」
「みたいだろうがって、灰ヶ峰君。僕らは仲間みたいなものだろう。仲間でないにしても、同類とも同族とも言えると思うよ。僕があの時球磨川君の邪魔をしたのは、意味なんてないよ。殺人に理由なんていらないだろう? ―――でもまぁ、強いて言えば、僕は君に死んで欲しくなかった」
「なんでだよ。こうして今も俺を殺そうとしてるだろ。それってつまり死んでほしいってことじゃないのか?」
「違うよ、僕の異常性は矛盾しているんだ。僕の異常性は殺人衝動。僕が人を好きであろうと嫌いであろうと、関係なく人を殺したくなってしまう。そして、そんな僕が君とは友達になれそうだと思えたんだ」
「友達、ねぇ。俺は殺しのテクに長けてるし殺されないテクにも長けてるから、お前と殺し合うことならできそうだけど―――宗像。実は俺、お前を殺す必要がないんだよ今」
「へぇ、そうなんだ。つまらないことだね」
宗像は鈍器を持ち出した。
「ところで灰ヶ峰君。さっきから僕の攻撃を防いでばかりだけど、それじゃ殺しがつまらない。君も僕の命を狙ってくれよ」
「なんで?」
「だから殺しに、理由なんていらないんだって」
「それもそうか。そうであるべきだよな、俺は」
鈍器を掴む腕にクナイを振るう。宗像は咄嗟に鈍器を離し、脇差と匕首で応戦する。
「………で、今まであえて聴いていなかったけど、灰ヶ峰君。なんで君がこんなところにいるんだ? 君は確か、ここの生徒じゃないんだろう? あのあと君の侵入を許したプラスシックスが理事長に叱られたんだぜ」
「ご愁傷様としかいえないな。―――実は俺今、能力者を集めてるんだ。3人程集めないといけない」
「へぇ。っということは今、人吉君と同じように、君達もなにか大きな敵に戦いでも挑んでいるわけだ。漫画だったら燃える展開だ」
「残念ながら漫画は読まない。それに戦うわけでもない。確かに今大きな敵、つか……まだ見ぬ敵と戦おうとはしてるけど、能力者を欲しているのはそれと別だ。俺は頼まれてるんだ、能力者を三人程集めろって。それなりに強いスキル持ちを集めてくれって」
「残念。僕はスキルを持っていない。だから君の助けになれないけれど、けれど君を助けることならできる。一応は僕も《十三組の十三人》のひとりだからね。仲間の携帯アドレスくらいなら知ってるんだよ」
「十三組の十三人? なんだそれ」
消炭の質問は、クナイと同様空を切った。
宗像は殺し合いながらも、右手で携帯を耳に押し当てる。
「もしもし、僕だ。うん、まぁ。そっちは? まぁ別にいいけど。大丈夫、殺さないよ。殺せるお前でもないだろう。あぁ、うん。わかった。ありがとう―――よかったね。君は運がいいよ、あの連中が僕の頼みを聞いてくれるだなんて。まぁ、この前しくじってるからな。フロントシックスに対して多少負い目があるんだろう」
「フロントシックス? プラスシックス? よくわからないが、強いのかそいつらは」
「強いっていうよりすごい連中だね。しっちゃかめっちゃかで、僕なんかと比べたら異常度がまるで違うよ。一度団体戦で戦ったことがあるけど、ただ強いだけじゃ倒せなかったな。もしかしたら彼らは、マイナス十三組的な要素も持ち合わせているかもしれない―――そんな彼らと通話してたんだけど、彼らのうちひとりが君に協力してくれるらしい。湯前さんっていう人でね、ちょっと変わった人さ」
「この学校には変わってない人がいるのか? ―――まぁ、ありがとうな」
消炭はクナイで日本刀を叩き飛ばしてから、携帯を突き出した。画面には、9桁ほどの数字列が表示されている。
「どういう意味があるんだい? もしかして赤外線で僕を攻撃してるのか?」
「違う違う、そういうのじゃない。一応お前には何回も借りがあるし、殺し合いが好きなら今度また付き合ってやるっつってんだよ。番号教えろ」
「口下手なんだね」
「うるせぇよ」
✩✩✩
時計台の地下室にて。
通話を終了した湯前音眼に、糸島軍規がなにげに失礼なことを言ってのけた。
「おいお前。お前って友達とかいるのか?」
すると湯前は、変わらぬ表情でさらりと言う。
「仲間ならいるさ」
「暖かいことを言ってくれるヤツだ」
時計台地下―――そこは既に開放され一般生徒に知られた場所となっている。異常者の中の異常者だけが中に入れる時代も過ぎ、開放された今となってはただの校舎の一部となっていた。
解放されてすぐは、興味本位でかなりの生徒が訪れたものだが―――特にこれといった遊具もなく、というかもともとが研究室だったために、すぐに人気はなくなってしまった。まぁ、ここの住人であったパーティーの連中としては、そのほうがよかったのだが。
そして今も尚この施設を利用しているのが、主にプラスシックスであった。彼らがいるのは地下6階の図書館。ここは当初はあまり人気を呼ばなかったが、読書好きな生徒が新たなる本を求めてたまに訪れるので、人気が徐々になくなりつつある他のフロアよりは幾分か人が多いかも知れない。
本に熱中する上峰書子は相変わらず話に入ろうともせずに、軍規はやることがないので音眼とギネスブックでも見て暇を潰していたところだった。フラスコ計画が終わった今は、とにかく彼らは暇なのである。
敵が来ないと、暇なのである。
「で、誰だったんだ電話相手は」
「あの自称殺人鬼だよ。一応彼も私の仲間だからね、一応番号くらいは知ってるんだよ。んでそんなヤツの友達がスキルホルダーを3人くらい集めてるらしい。私は暇だから乗ったってわけ」
「へぇ。そうなのか。私も行こうかな」
「無理でしょ。だってあんたスキル持ってないし、っていうか持ってたとしてもよくわかってないじゃん。スキルってのはこういうのを言うんじゃないの?」
すると音眼は、瞳を瞑ってみせた。
ツー、と。瞳から白い涙がこぼれ始めた。
「『
「壮絶なまでに絶妙なチョイスだな音眼。ってか涙が皮膚と水になって同化するとか、同化だけにどうかしてるぜとしかいえないんだが」
「あははマジウケるー(棒」
「真顔でそんなこと言われても怖いからやめろ。………にしても、スキルホルダーを集めてる、かぁ。なにか大きい敵にでも立ち向かってるのか? だとしたら是非仲間になってみたいところだが」
「あぁ、勘違いしてるよあんた。スキルホルダー集めてるのは宗像じゃない。この前侵入してきたあいつ、えーっとなんつったっけ―――ああ、灰ヶ峰消炭だ。なんか友達っぽいねあいつら」
軍規は大げさに反応する。
「まじかよ! あいつは嫌いだぞ私は! なにせ容赦も迷いもなく私の目に短剣を………はぁ。思い出しただけで目が落ちそうだ」
「ウマズラってやつか」
「トラウマだ」
「まぁー、そういうと思ったよ。どうせだからあんたも誘おうかなって思ったんだけど、無理みたいだね」
「あー無理だ。そんなやつに会いにいってたまるもんか。むざむざ殺されに行くようなもんじゃないか、そんなものは!」
―――そんな時、突然天井から雄叫びが聞こえてきた。
図書館の上の階、5階は駐車場となっており、百町破魔矢のコレクションが並べられている。学生の癖になんて贅沢なコレクションなんだと軍規あたりは思っていたりするのだが―――今はその場所は、日之影空洞が喜界島もがなと阿久根高貴をつれて凶化合宿をしている最中である。かの日之影空洞が特訓しているのだから、多少物音が響くのは仕方のないことなのだが。
聞こえてきた絶叫は、明らかに違和感があった。
「マイナスゥゥゥゥゥゥウウウウウ!!!!!」
隣の席でイスに座り目を瞑っている鶴御崎山海が、目を開けて百町破魔矢に声をかけた。
「破魔矢。本を閉じろ破魔矢」
破魔矢は面倒そうに、「はたらく車」の本を閉じる。
「なんですか。瞑想しているかと思えばいきなり」
「瞑想じゃない。頭の中で
「そうなんですか。でも今そこは、凶化合宿? でしたか。そんなものをしているのですから、多少の物音は―――」
天井から響く爆裂音。
「ちょっと見てきます」
「ああ。そのほうがいい」
それから破魔矢が、めちゃくちゃになったコレクションを見て、どんなリアクションを取ったのかというなど―――言うまでもないだろう。
✩✩✩
宗像に指定された場所―――箱庭学園の校門で待っていた
通りすがりの人間を見るような。
興味のないテレビを見ているような―――反応をしないという反応をしてみせた彼女達を見て、驚いたのは消炭のほうだった。
(こいつら、あの時俺を追ってきたヤツらの内の―――もしかして、宗像が言っていたなんとかシックスって、こいつらのことだったのか?)
適当なスキルホルダーを晶器に渡そうと思っていただけに、消炭は予想外のあまり足を止める。目の前のこの3名は、実際に短剣で殺そうとした者だ。いや、殺せなくても突破するために蹴散らそうとしたヤツらだ。いまこの場で、あの頃の借りを返そうと襲われたとて文句は言えない。
一度戦ったからこそ分かる。
彼女達に同時に襲われたら、自分でもタダじゃすまないかもしれない、ということを。
しかし彼女らは。
別段特に、反応しない。
「自己紹介。してないよね」
風船ガムを吸い込んだ湯前音眼が、気だるく言う。
「上峰書庫と申します。仲良くしてね」
「筑前優鳥らしいんだ。仲良くしてね」
「湯前音眼だよ。仲良くしてね。―――何のためにスキルホルダーをよくしてるのかわからないけど、この前の負い目もあるし。暇つぶし程度に同行してあげるよ」
「あ、ああ。………よろしく」
あの時のことを謝っとこうかと思ったが、どうせすぐに晶器に渡すのだし、それまでの関係であるのならば、このままの関係でも別にいいと思うことにした。そして同時に、まだ見ぬ晶器の後輩とやらに心の中で謝罪した。
なにせ彼女達は、どう考えたところで、鍛えるための素材とか、そういうものに収まるような異常度ではないのだから。
プラスシックス3名の女子生徒をつれて、消炭は歩を進めるのであった。
城塞高校があった場所へと。
(それにしても、最近
✩✩✩
「あーあまーだかなズミズミちゃん。最近あんまり合ってないから会いたいわ。あってヨシヨシしたい。さて、そんなズミズミちゃんは久しぶりの再会で、果たしてどんなスキルホルダーを連れてくるのかしら。晶器、あんたはどう思う?」
「オレは見つからなかったに掛ける!」
「なんでだよ。後輩なんだろちょっとは信じてあげなよ。………私的には、城塞高校で緑のあった甲突川掌理と、桜ヶ丘恋とか連れてくると予想するかな。あ、でも資料的には、桜ヶ丘恋のほうは殺し向けじゃないんだっけ。じゃ―――誰だろ。今更だけど、あの子の交友関係不明だわぁ」
「よくわからんガキだもんな。まだ17歳だってのに………一番遊び盛りで好き放題にはしゃげる時期じゃねーか。人生のピーク! ジャンプに例えたら黄金期ってやつだ。輝かしいばかりのこの時期に、あいつは輝けてるもんかねぇ………。―――っと、来たようだぜ佳子。どれどれどんなのを連れてきたのやら」
「どれどれ?」
佳子は双眼鏡を除いて、一雫の冷や汗が流れ落ちた。
「………晶器。あいつ意外、に友達になるのうまいタイプかもしれない。それもとびきり異常なやつらと」
「………」